【3行要約】
・質問には「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」の2種類があり、ビジネスでは状況に応じた使い分けが重要です。
・オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの使い分けや「核心質問」で相手の本音を引き出せます。
・マネージャーは「カウンセリング」「コーチング」「ティーチング」の3つの対話スキルを使い分け、部下の自走力を育む質問を心がけましょう。
オープンクエスチョン・クローズドクエスチョンとは?
ビジネスにおけるコミュニケーションの質は、投げかける「質問」によって大きく左右されます。特に相手から情報を引き出したり、議論を深めたり、意思決定を促したりする場面では、質問の仕方が成果を決定づけると言っても過言ではありません。
この重要な質問には、大きく分けて2つの種類が存在します。それが「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」です。
オープンクエスチョンとは、「いつ」「どこで」「誰が」「なぜ」「どうやって」といった、いわゆる5W2Hを用いて、相手が自由に答えられるようにする質問のことです。回答の範囲に制約を設けないため、相手の中にある考えや感情、気づいていない本音などを深く引き出すのに適しています。
例えば、「このプロジェクトについて、どう思いますか?」と問いかけることで、相手は多角的な視点から自分の意見を述べることができます。
一方でクローズドクエスチョンとは、相手が「はい」か「いいえ」で答えられる質問や、いくつかの選択肢の中から選んで答える形式の質問を指します。回答範囲が限定されているため、相手の意思を明確に確認したい場合や、会話を特定の方向に進めたい場合に有効です。
例えば、「この提案に賛成ですか?」と聞けば、相手の賛否をはっきりとさせることができます。
ここで重要なのは、どちらの質問方法が優れているかという二元論で捉えることではありません。
ポジウィルコーチングスクール事業責任者・マネージャーの笹内俊佑氏が指摘するように、質問の仕方で相手から引き出せる情報はまったく変わってきます。上記のとおりオープンクエスチョンは答えが発散しやすく、クローズドクエスチョンは限定的な答えを引き出します。どちらが良い悪いではなく、状況や目的に応じてこの2つの質問を戦略的に使い分けることが、効果的なコミュニケーションのカギとなるのです。
具体的な業務で考えてみましょう。例えば、部下との1on1ミーティングの冒頭で、いきなり「何か課題はありますか?」というオープンクエスチョンを投げかけても、相手は何から話せばいいか戸惑ってしまうかもしれません。まずは「先週のタスクは順調に進みましたか?」といったクローズドクエスチョンで会話の糸口を掴み、そこから「特にどの部分で難しさを感じましたか?」といったオープンクエスチョンにつなげていくことで、よりスムーズに深い対話へと移行できるでしょう。
このように、2つの質問の特性を理解した上で、適宜組み合わせていくことが、あらゆるビジネスシーンで求められる高度なコミュニケーションスキルなのです。
相手から本音を引き出す「核心質問」の技術
特に営業の現場において、初対面の顧客から真の課題や期待、いわゆる「本音」を引き出すことは、商談の成否を分ける極めて重要なプロセスです。しかし多くの営業担当者は、この初期段階でのヒアリングに苦戦します。
なぜなら顧客は本能的に「売り込まれたくない」という防御反応を持っており、ストレートに「何に困っていますか?」と尋ねても、なかなか心を開いてはくれないからです。
このような状況を打開するために、営業のプロである高橋浩一氏が提唱するのが「核心質問」というテクニックです。これはあえて逆の聞き方をすることで、相手が本音を話しやすい状況を作り出す変化球のアプローチです。顧客が悩みをストレートに話しづらい心理を逆手に取り、課題の深掘りを可能にします。
例えば、事前にホームページなどでリサーチした情報を元に、「ホームページなどを拝見しましたが、御社はすでにこのあたりをしっかりと対策されて、もうあまり困っていないように見えるのですが」と問いかけます。
このように聞かれると、顧客は「いやいや、そんなことはないですよ。うちは課題だらけですよ」と、謙遜や事実を述べやすくなります。
そこで変化球としては、あえて逆の聞き方をします。「ホームページなどを事前に拝見しましたが、御社はすでにこのあたりをしっかりと対策されて、もうあまり困っていないように見えるんです」と、暗に「本当に困っていることは何なんですか?」と聞いているんですよ。この聞き方をすると、お客さまとしてはなんと答えやすいでしょうかね。
「いやいや、そんなことないですよ。うちなんか課題だらけですよ」と、言いますよね。「今の、もう少し詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」と聞いたら、いきなり課題の深堀りができるわけです。初対面からわずか3分でこれができます。
引用:初対面の相手から本音を引き出す「核心質問」のやり方 営業のプロが教える、商談成功のカギを握る質問力アップのコツ(ログミーBusiness)
このテクニックは、他社と取引がある顧客に対しても有効です。ストレートに「今の取引先に満足していますか?」と聞けば、売り込みを警戒されてしまいます。そこで、「他の会社さんからも良いご提案を受けられていることと思います。その中で、なぜ本日、私どもにお時間をいただけたのでしょうか?」と尋ねるのです。
こうすることで、顧客は既存の取引先に対する不満や、まだ満たされていない期待を素直に話しやすくなります。
いきなり変化球を投げることに抵抗がある場合は、「僭越ながら」「失礼を承知でお伺いしますが」といった枕詞を添えることで、質問の刺激を和らげることができます。
核心質問は、単なる質問テクニックではなく、顧客の心理的障壁を取り除き、信頼関係を構築するための第1歩となる、戦略的なコミュニケーション術なのです。
会話の主導権を握るためのクエスチョン
商談の序盤で「核心質問」によって突破口を開いた後、次に重要になるのが、会話の主導権を握りながら顧客のニーズをより深く理解していくプロセスだと高橋氏は言います。多くの若手営業担当者が陥りがちなのが、不安から一方的に自社の商品やサービスについて話し過ぎてしまうという失敗です。しかし本当に重要なのは、顧客自身に話してもらうことです。そのために不可欠なのが「深掘り」と「特定質問」のスキルです。
顧客が「思うことはいろいろありますが…」といった、含みのある1言を発した時がチャンスです。ここで自らの話を展開するのではなく、「その『思うこと』について、もう少し詳しくお伺いできますか?」と問いかけ、相手の言葉の裏側にある背景や事情、個人的な思いや感情を引き出すことに集中します。
この「深掘り」こそが、顧客自身も気づいていなかった潜在的なニーズを掘り起こすカギとなります。
このプロセスでは、3つの「きく」を意識的に使い分けることが有効です。1つ目は、ただ聞こえてくる「Hear」。2つ目は意図を持って耳を傾ける「Listen to」。そして3つ目が、確かめたい点を尋ねる「Ask」です。
会話の流れの中で、なんとなく聞こえてきたキーワードに意識を集中して傾聴し、最終的には具体的なポイントを特定するために尋ねるという、段階的なアプローチが求められます。
しかし、深掘りに集中するあまり、話があちこちに飛んでしまい、後から「すみません、話が戻ってしまうのですが…」と強引に軌道修正するようでは、会話が噛み合っていない印象を与えてしまいます。これでは、営業担当者の都合で話を進めていると受け取られかねません。
そこで推奨されるのが、相手の発言に寄り添うかたちで話を展開する言い回しです。「今おっしゃった〇〇のことについて、さらに理解を深めたいのでお伺いしますが…」というように、枕詞をつけることで、深掘りすること自体が相手への配慮であるという印象を与えることができます。これにより、親切な印象を保ちながら、自分が聞きたい「特定質問」へと自然に会話を展開し、商談の主導権を握ることが可能になるのです。
中盤においては、自分が話すことよりも、深掘りと特定質問を駆使して、顧客の頭の中を整理する手伝いをするというスタンスが極めて重要になります。
相手を萎縮させる「やってはいけない」クエスチョン
効果的な質問が相手の能力を引き出し、関係性を深める一方で、不適切な問いかけや態度は、相手を萎縮させ、コミュニケーションを断絶させてしまう危険性をはらんでいます。特に上司と部下の関係においては、マネージャーの言動が部下のパフォーマンスに深刻な影響を与えるため、自らの振る舞いを常に省みる必要があります。
絶対に避けるべきなのは、感情的になることです。部下が期待通りの成果を出せなかったり、ミスをしたりした際に、怒鳴ったり、ネチネチと叱責したりしても、根本的な解決にはつながりません。相手は恐怖心から萎縮するだけで、なぜ失敗したのか、次にどうすればいいのかを冷静に考えることができなくなります。
部下が言い訳をする時、その裏には「失敗するのが怖い」「自分には無理だ」といった不安や甘えが隠れていることを理解する必要があると株式会社明治クッカーの西原亮氏は言います。感情でぶつかるのではなく、「君がこの業務をやらなかったことで、チームにこういう影響が出た」という事実と結果を、淡々と伝えるべきだと言うのです。
また、「昔、君はこうだったじゃないか」のように、過去の話を持ち出して相手を責めるのも厳禁です。これはフェアなコミュニケーションではなく、相手を一方的に断罪しているに過ぎません。対話の焦点を「今、ここにある課題」と「未来の解決策」に絞ることが重要です。
部下との間に信頼関係が築けているかどうかを測る、1つのわかりやすいバロメーターがあります。それは「相手のほうから雑談をしに寄ってきてくれるかどうか」です。もし部下が業務連絡以外で話しかけてくることがないのであれば、関係性が良好とは言えないかもしれません。
特に注意が必要なのが、場を和ませるつもりの「いじり」です。上司から部下へのいじりは、たとえ悪気がなくても、受け手にとっては心理的な苦痛となり、パワハラと受け取られても仕方がありません。本人が内心傷ついていても、力関係から笑ってごまかすしかないケースがほとんどです。
さらに、職場でどうしても苦手だと感じる人がいる場合、無理に付き合おうとして自分の心をすり減らす必要はありません。他人の価値観や性格を変えることは不可能に近いと割り切り、仕事上必要なコミュニケーションだけを取り、あとは意識的に距離を置くことも、自分を守るための大切なスキルです。
相手をコントロールしようとするのではなく、変えられる自分自身の行動や心の持ちように焦点を当てることが、健全な職場環境を維持する上で不可欠なのです。