質問スキルを使い分けてピープルマネジメントを成功に導く
これまで、オープンクエスチョンやクローズドクエスチョンといった具体的な質問スキルを中心に解説してきましたが、優れたマネージャーは、こうした個別のテクニックをより大きな枠組みの中で捉え、状況に応じて使い分けています。
ピープルマネジメント、すなわち人のマネジメントを成功に導くためには、対話における3つの異なるスキルを理解し、自在に組み合わせることが求められます。
ポジウィルコーチングスクール事業責任者・マネージャーの笹内俊佑氏は、対人支援のスキルを「カウンセリング」「コーチング」「コンサルティング(ティーチング)」の3つに分類しています。これらを意識的に使い分けることが、マネジメントをうまく機能させるカギとなるのです。
1つ目の「カウンセリング」は、相手との信頼関係(ラポール)を築くためのスキルです。傾聴や共感を通じて、相手が「この人になら本音を話せる」と感じるような、話しやすい雰囲気を作ることが目的です。これがすべてのコミュニケーションの土台となります。
2つ目の「コーチング」が、これまで述べてきた質問のスキルに該当します。問いを立てることで、相手の中にある答えや、本人もまだ気づいていない本音や可能性を引き出します。一方的に答えを与えるのではなく、相手の自走力を育むための関わり方です。
3つ目の「コンサルティング(ティーチング)」は、その名のとおり、相手に知識やスキルを教えたり、課題を指摘したり、具体的なフィードバックを与えたりする関わり方です。限られた時間の中で業務を前に進めるためには、このスキルもまた不可欠です。
重要なのは、これらのスキルのどれか1つに偏るのではなく、部下の習熟度や状況、対話の目的に応じて、柔軟に使い分けることです。
例えば、新入社員で業務知識が不足している相手に対して、コーチングばかりで「どうすればいいと思う?」と問い続けても、適切な答えは出てきません。まずはティーチングで基本的な知識を教える必要があります。
一方で、経験豊富なメンバーに対してティーチングばかりを行っていては、その自律性や創造性を削いでしまうでしょう。
やってしまいがちなマネージャーの方やリーダーの方がけっこういるんじゃないかなと思いますが、教えること、相手の課題を伝える、フィードバックすること自体は悪いわけではありません。
ですが、一方的に相手に対してコンサルティング・ティーチング中心に関わってしまうと、ずっとメンバーに答えを教えている状態になるので、なかなか自走力が育まれなかったりします。
ただ、限られた時間の中で仕事を前に進めるためには、教えていくことも非常に重要です。そういう中では、コーチングを使いながらコンサルティングしたりなど、相手のメンバーの自走度や理解力、習熟度によってこのスキルを使い分けることが、非常に重要かなと思います。
引用:「教えるだけ」では部下は育たない ピープルマネジメントを成功に導く、3つの対話スキル(ログミーBusiness)
まずは、自分自身のコミュニケーションの癖を客観的に把握することから始めるのがおすすめです。「自分は教えるのは得意だが、人の話をじっくり聞くのは苦手かもしれない」「つい質問で相手を詰めてしまう傾向がある」といった、得意・不得意に気づくことが、スキルを使い分けるための第1歩となります。
これらの3つのスキルを土台として、1on1などの面談を「合意形成」「気づきの創出」「解決策の提示」といった型に沿って進めることで、対話の質は飛躍的に向上するはずです。
すべてのテクニックの前提にある信頼関係
これまでさまざまな質問のテクニックについて述べてきましたが、それらがいかに精巧なものであっても、その効果を最大限に発揮するためには、絶対に欠かせない土台が存在します。それが、相手との信頼関係です。
相手が「この人になら本音を話しても大丈夫だ」「この人の話なら聞いてみよう」と感じてくれて初めて、あらゆる質問スキルが意味を持つのです。
信頼関係を築くためには、前述した「カウンセリング」のスキル、つまり相手の話を深く聴く姿勢が基本となります。特に、上司と部下といった力関係が存在する間柄では、意識的に話しやすい雰囲気を作ることがマネージャーの重要な役割となります。
あべき光司氏は、信頼関係を築くための具体的な行動として「ずっと笑顔でいる」「言い訳しない」「被害者意識でいない(ヴィクティムでいない)」「当事者意識を持つ(アカウンタブルでいる)」といった点を挙げています。このようなリーダーの姿勢が、部下の安心感につながるのです。
近年注目されているハイブリッドワークの時代においては、この信頼関係の重要性がさらに増しています。物理的に離れているからこそ、業務連絡のような情報共有だけでは不十分であり、お互いの状況や感情を共有する「感情共有」が不可欠となります。感情共有ができる関係性があって初めて、円滑な情報共有が可能になるのです。
株式会社NOKIOO 取締役/経営学修士・小田木朝子氏は、下記のように話しています。
今まで、この「助けを求める」とか「周囲に自己開示する」というのは、わりと“タイプ論”で語られてきたと思います。今、私たちが進める中では「助けを求める」だとか「オープンに開示する」というのは、タイプとか性格というレベルの話ではなくて「知識として体系だってきちんと教えれば、誰でも実践して上達させることのできるビジネススキルである」という定義がスタートになるように思います。
そして「困っている誰かが助けを求める」という発想ではなくて、今日、特にテーマにしたいのは「チームで成果を出すために欠かせない」という観点で、このヘルプシーキング行動をどのように見ていくのか? ここを、みなさんと一緒に考えられたらいいなと思っています。
引用:「周囲に援助を求める行動=立派なビジネススキル」という発想 互いの助け合いが「結果を出せるチーム」への成長を促すワケ(ログミーBusiness)
この「ヘルプシーキング行動」は、個人の弱さではなく、チームで成果を出すために不可欠なビジネススキルです。誰かが1人で問題を抱え込むことを防ぎ、リスクを低減させ、業務改善を促進します。
オープンクエスチョン・クローズドクエスチョンをはじめとする質問スキルは、この信頼という土壌の上に花開く技術であることを、決して忘れてはなりません。