マイクロマネジメントから「適度な管理」を実現するための2つの視点
上司は部下のパフォーマンスを最大化する責任を負う一方で、その関与が過干渉と受け取られれば逆効果となり、かといって関与を控えれば放任と見なされかねません。このアンバランスな状態を解消し、上司と部下の双方にとって健全な関係を築くためには、「適度な管理」のバランスを見つけることが不可欠です。
では、どうすれば「適度な管理」を実現できるのでしょうか。
ここでは、上司が実践できる具体的な方針として、黒住氏は2つの視点からアプローチを話しています。1つ目は「管理の『質』」を見直すこと、もう1つは「管理の『量』」を調整することです。この2つの側面からマネジメントを改善していくことで、マイクロマネジメントでも放任でもない、最適な関わり方が見えてきます。
まず「管理の『質』」についてです。ここでの重要なポイントは、「細かすぎる管理を和らげていく」ことです。部下がマイクロマネジメントと感じる大きな要因は、仕事の進め方や条件が細かく指定されすぎることです。
したがって、上司は業務のすべてを逐一管理するのではなく、部下に仕事に対する一定の裁量権を持たせることが、管理の質を高める第1歩となります。部下が自分で考え、判断し、行動する余地を与えることで、主体性や責任感が育まれ、仕事へのエンゲージメントも向上します。
もちろん、裁量を与えるといっても、すべてを丸投げするわけではありません。後述するように、信頼関係に基づき、段階的に権限を委譲していくプロセスが重要になります。この裁量権の付与こそが、管理の質を転換させるカギとなるのです。
部下への段階的な仕事の任せ方
「適度な管理」を実現するための1つ目の視点である「管理の『質』」を高める上で、中心的な役割を果たすのが「部下に裁量を持たせること」、すなわち「仕事を委譲すること」です。
タスクの具体的な進め方や、複数の選択肢の中からどれを選ぶかといった意思決定をある程度部下に委ねることが、質の高いマネジメントにつながります。これにより、部下は単なる作業者ではなく、主体的に仕事に関わる当事者としての意識を持つようになります。
しかし「仕事を委譲する」と言っても、具体的にどうすればよいか戸惑う管理職の方も多いでしょう。ここで重要になるのが、「段階的に任せていく」という考え方です。
いきなりすべての責任を部下に押し付ける「丸投げ」は、放任と同じく部下を混乱させ、不安に陥れるだけです。そうではなく、仕事を上司と部下の「共同作業」と捉えなおすことが効果的です。株式会社ビジネスリサーチラボの黒住嶺氏は、仕事を段階的に任せることの重要性を次のように述べています。
ただ、「どう委譲するのか」については、突然言われても、難しいかなと思います。そこで提案としては「『段階的』に任せていく」。仕事を上司の方から部下に任せることがおすすめです。
これは、仕事を「共同作業」と捉えなおすのが良いだろうということです。上司の方から部下に「これを全部やって」と丸投げするのではなくて、お願いをするというところです。「どのような進め方をしていくのがいいのか」の認識の共有が非常に大事になってきます。逆に、その認識の共有をだんだん進めていければ、信頼して任せることができます。
引用:細かく指示出し、何度も確認…部下に悪影響をもたらすマネジメント 過干渉にならない「適度な管理」と任せるコツ(ログミーBusiness)
この「共同作業」という視点に立つと、上司の役割は命令者から支援者へと変わります。まずは仕事の目的やゴールについて、「どのような進め方が良いか」を部下と共に考え、認識を共有することから始めます。
この対話を通じて、上司は部下の理解度やスキルレベルを把握でき、部下は仕事の全体像をつかむことができます。そして、最初は小さな範囲から意思決定を任せ、成功体験を積ませながら、徐々にその範囲を広げていくのです。
このプロセスを繰り返すことで、上司と部下の間には「信頼」が醸成されます。上司は「この部下なら任せられる」という確信を得られ、部下は「上司は自分を信頼してくれている」という安心感を得ることができます。この信頼関係こそが、管理の質を飛躍的に高める土台となるのです。
管理の「量」を減らすためのアプローチ
「適度な管理」を実現するためのもう1つの視点は、「管理の『量』」、すなわち「上司から部下に確認する頻度を減らすこと」です。部下がマイクロマネジメントだと感じてしまう原因は、指示が細かすぎるだけでなく、上司から何度も進捗確認を受けることにもあります。
頻繁な確認は、部下の集中を妨げるだけでなく、「信頼されていない」というメッセージとして受け取られ、モチベーションを低下させます。したがって、目指すべきは上司が何度も確認しなくても部下が自律的に仕事を進め、成果を高め、成長していける状態を作ることです。
では、どうすれば確認の頻度を減らすことができるのでしょうか。そのカギは、逆説的ですが前述した「管理の『質』を高めること」にあります。質の高いマネジメントを通じて、上司が部下に対して抱く「何度も確認しなければならない」という懸念やリスクを低減させることが可能なのです。
質の高い管理、例えば適切なアドバイスやフィードバックは、上司と部下の関係性を良好にします。上司が部下の状況を的確に把握し、質の高いアドバイスを提供すると、部下は上司に対して「能力が高い」「自分のためになることを言ってくれている」という善意や誠実さを感じやすくなります。
このようなポジティブな認識は、両者の信頼関係を強固にし、円滑なコミュニケーションを促進します。信頼関係が築かれれば、上司は「何かあれば部下の方から報告・相談してくれるだろう」と安心して見守ることができ、不必要な確認を減らすことができるのです。
さらに、管理の質を高めることは、部下の着実な成長とタスクの成果にも直結します。例えば、業務の目的や背景、期待する成果レベルについて最初に質の高い情報共有を行えば、部下は手戻りの少ない効率的な仕事の進め方ができます。また、適切なタイミングでの的確なフィードバックは、部下のスキルアップを加速させます。
このように、部下が自律的に質の高い仕事を進められるようになれば、上司が細かく進捗を監視する必要性は自然と低下します。つまり、「管理の質」を高めることは、部下の成長を促し、結果として上司が抱く不安を解消させ、「管理の量」を適切に減らすための最も効果的なアプローチなのです。
マイクロマネジメントから脱却するための具体的な3つのステップ
マイクロマネジメントから脱却し、部下を信頼して仕事を任せる文化を醸成するためには、具体的なステップを踏んでマネジメントスタイルを変革していく必要があります。
多くの管理職は、悪気なく「任せたつもり」で終わってしまいがちですが、それは部下の判断を過度に制限し、結果として3年後、5年後の次世代リーダー育成に深刻な問題を引き起こす可能性があります。真に部下の成長を促し、組織のパフォーマンスを高めるためには、以下の3つのポイントを意識的に実践することが重要です。
1つ目のステップは、「目的と期待の明確化」です。仕事を任せる際には、単に「これをやっておいて」という曖昧な指示ではなく、その業務がなぜ必要なのか(目的・背景)、いつまでにどのような状態を目指すのか(期限・理想のライン)、そして守るべき制約条件は何かを具体的に伝える必要があります。
部下が適切な判断を下せるよう、過去の失敗事例や参考となる情報といった背景情報も共有することが有効です。さらに、「どのような時に相談してほしいか」という相談のタイミングと基準をあらかじめ設定しておくことで、部下は安心して業務に取り組め、上司は不要な進捗確認から解放されます。
2つ目のステップは、「段階的に業務を任せていく」ことです。部下のスキルや経験レベルに応じて、任せる業務の範囲や権限のレベルを調整します。例えば、最初は「情報収集」、次に「提案作成」、そして「限定的な決定権の付与」というように、徐々に裁量の範囲を広げていくのです。
このプロセスを円滑に進めるためには、企業として等級や階層ごとにどこまでの権限を委譲するのかという基準を設けることが望ましいでしょう。これにより、マネジメントの属人化を防ぎ、組織全体で一貫した育成方針を持つことができます。
3つ目のステップは、「成長を促す声かけと振り返り」です。マイクロマネジメントでは「この方法で進めて」という一方的な指示になりがちですが、部下が自ら考える体質を作るためには、上司の関わり方を変える必要があります。
株式会社PDCAの学校の宮地尚貴氏は、明日から実践できる具体的なアプローチを次のように提言しています。
(脱・マイクロマネジメントのためには)目的、期待、判断権限を明確化するとか、部下への接し方を改善する。やはり高圧的な場合が多いので、質問から始めるコミュニケーションの仕方や指示の出し方をするとか、このあたりは具体的にトークスクリプトベースぐらいで検討されるのがおすすめかなと思っています。
あとは、任せた業務について部下からフィードバックをもらう。成功パターンを他業務に応用していく。徐々に任せる範囲を広めていくなど、こういったステップがスタンダードとしてはございますので、詳細に悩まれる企業さまがいらっしゃいましたらぜひ個別にご相談もいただければなと思っています。
引用:部下育成をしたのに“結果的に生産性が下がる”NGパターン 脱・マイクロマネジメントを目指すための3ステップ(ログミーBusiness)
「今、どんな選択肢を検討している?」といった質問から入ることで、部下の思考を促します。また、成果物を受け取る際には、まず本人に工夫した点や課題点を振り返らせ、その上で建設的なフィードバックを行うことが重要です。失敗に対しても、単に原因を追及するのではなく、「今回の経験から何を学んだか」を問いかけ、次につながる学びを促す姿勢が求められます。
これらのステップを着実に踏むことで、マイクロマネジメントから、部下の自律的な成長を支援する真のマネジメントへと移行することができるでしょう。