【3行要約】
・「35歳を過ぎると転職が難しくなる」という話はよく言われますが、実際には年齢よりも経験やスキルが重要です。
・プロティアン・キャリア協会代表の有山氏や「退職学®︎」研究家の佐野氏は、30代はキャリアが「ブレブレ」になる時期だが、それは新たな可能性の芽でもあると説明しています。
・転職成功の鍵は「表玄関」だけでなく、「裏玄関」からのアプローチや「ナチュラルジョブ」の発見など、新たな視点を持つことにあります。
「35歳転職限界説」は本当か?
かつて転職市場では「35歳転職限界説」、特にエンジニアについては「エンジニア35歳定年説」という言葉が語られていました。これは、35歳を過ぎると新しい技術・スキルや環境への適応が難しくなり、採用されにくくなるという考え方です。
しかし、レアゾン・ホールディングスでCTO兼CHROを務める丹羽隆之氏は、「エンジニア35歳定年説」は「真っ赤な嘘」であると語ります。丹羽氏自身のキャリアがその証明です。彼は35歳で一度起業に失敗し、37歳で再度アメリカに渡りエンジニアとして復帰、さらに40歳でレイオフを経験するなど、波乱に満ちたキャリアを歩んできました。それでもなお、46歳で現在の会社に転職し、活躍し続けていると言います。
彼の経験は、35歳という年齢がキャリアの終わりを意味するのではなく、むしろそれまでの多様な経験が統合され、新たな価値を生み出す転換点になりうることを示唆しています。
実際に、アメリカのITベンチャーやユニコーン企業では、平均勤続年数が3年以下であることも珍しくないと丹羽氏は言います。これは、1つの会社に長く留まることよりも、スキルや経験を軸にキャリアを流動的に形成していく働き方が一般的であることを示しています。
日本の労働市場も終身雇用が前提だった時代から大きく変化しており、勤続年数の長さが必ずしもポジティブな評価につながるとは限らなくなりました。
ただし、年齢がまったく関係ないわけではありません。年齢が上がるにつれて、マネジメント職や事業部長といった、もともとポストの数が限られているポジションでの採用が中心になるため、転職の難易度が上がる側面は確かに存在します。また、企業側が「35歳を超えると組織に馴染みにくくなる」といったバイアスを持っている可能性も否定できません。
重要なのは、年齢という数字そのものではなく、その年齢までに何を経験し、どのようなスキルを身につけてきたかです。つまり、35歳を過ぎてからのキャリアは、それまでの経験の積み重ねによって、その価値が大きく左右されると言えるでしょう。
30代以降のキャリアを開拓する「裏玄関」という選択肢
一般的な転職活動は、転職サイトに登録したり、転職エージェントに相談したりといった、いわば「表玄関」からのアプローチが主流です。経歴に一貫性があり、ネームバリューのある企業で成果を出してきた方であれば、この正攻法で十分に次のステップへ進むことができるでしょう。
しかし、誰もがそのようなキャリアを歩んでいるわけではありません。早期退職を繰り返したり、キャリアに一貫性がなかったりするキャリアを持つ人も少なくありません。そうした人々が履歴書と職務経歴書だけで勝負しようとしても、書類選考の段階で弾かれてしまうことが多いのが現実です。
そこで注目したいのが、「裏玄関」からキャリアを攻めるという発想です。これは既存の求人に応募するのではなく、自ら求人を「開拓する」という主体的なアプローチを指します。友人に自身の経歴書を託して求人を紹介してもらう、あるいは自己応募で企業の門を叩くなど、その方法はさまざまです。
この「裏玄関」アプローチを成功させるための強力な武器となるのが、「退職学®︎」研究家の佐野創太氏が提唱する「ナチュラルジョブ」という考え方です。「ナチュラルジョブ」とは、これまでのキャリアや学生時代の活動において、上司や周囲から「やれ」とは言われていないのに、なぜか「勝手にやっていたこと」を指します。例えば、チームのスケジュールを自主的に整理していた、会議で誰も発言しないのでファシリテーター役を自然と担っていた、後輩の相談に乗ることが多かったといった行動です。
これらは、本人が意識せずとも自然に行っているため、自分では「強み」とは認識していないことが多いのですが、実はその人の本質的な価値観や得意なことが凝縮されています。
環境が変わっても繰り返し同じような行動を取っている場合、それは再現性の高い、確固たる「強み」やキャリアの「軸」となり得るのです。
この「ナチュラルジョブ」を見つける上で重要なのが、自己評価に固執せず、「他者評価」に目を向けることです。キャリアで重要なのは、自分がどう思うかよりも、他者からどう評価されているかです。同僚や顧客から言われた「〇〇さんは、ゆるいけど信頼できる」「いつも部署間の調整役をありがとう」といった定性的な評価の言葉は、自分では気づかなかった強みを教えてくれる貴重なフィードバックとなります。
さらに、30代以降のキャリアで特に評価されるのが、「どれだけの人を巻き込んだか」という経験です。自分の業務範囲を超え、上司や同僚、他部署のメンバーを巻き込んで何かを成し遂げた経験は、個人のスキル以上に価値があると見なされます。なぜなら、それは自分の仕事の主語を「私(I)」から「私たち(We)」へと転換し、チームや組織全体への貢献を考えられる視点を持っていることの証明になるからです。
これらに注目してキャリアの棚卸しを行い、自己PRなどに落とし込むことで、表面上のスペックだけでは見えてこない、あなた自身の本質的な価値をアピールすることが可能になるのです。
また、「本気で副業をする」ことも、キャリアを開拓する上で非常に有効です。副業サイトやスキルシェアマーケットなどを活用し、「自分の経験の中で、お金に換えられる仕事は何か?」を試してみるのです。実際に自分のスキルが社外でも通用するとわかれば、それは大きな自信につながります。
そして、その経験を軸に新たなスキルを学んだり、キャリアの方向性を見直したりと、主体的にキャリアをデザインしていく感覚を養うことができます。
転職活動は、与えられた選択肢の中から選ぶだけの受け身の活動ではありません。「裏玄関」という視点を持ち、自ら機会を創り出していく攻めの姿勢こそが、30代以降のキャリアを切り拓くカギとなるのです。
入社後のミスマッチを防ぐ「大人のインターン」
せっかく転職をしても、入社後のミスマッチが大きく、早期退職をしてしまった経験がある方もいることでしょう。
実は35歳から49歳で転職した人のうち、約4割が早期退職を経験しているというデータがあり、これは中途採用におけるミスマッチ問題の深刻さを物語っています。企業は即戦力を期待して高いコストをかけて採用しますが、入社後に「思っていたのと違った」というギャップが生じ、期待どおりのパフォーマンスが発揮されないまま、退職に至ってしまうケースが少なくありません。この問題は、転職者本人にとっても、企業にとっても大きな損失です。
こうした入社後のミスマッチを減らすための有効な手法として、株式会社みらいワークスの岩田央子氏は「実務を通じたすり合わせ型」のアプローチを挙げています。これは、選考段階から実際の業務に近しいかたちで関わり、企業文化や上長との相性、求められる役割などを転職希望者が体感する方法です。
ハイスキル人材の場合、単にスキルセットが合致しているか以上に、「そのスキルを適切に活かせる環境があるか」「周囲と円滑なコミュニケーションを取れるか」が、入社後の活躍を左右する重要なポイントとなります。
この「実務を通じたすり合わせ」を具体的にサービス化したのが、同社が提供する「大人のインターン」だと言います。これは、正式な雇用契約を結ぶ前に業務委託契約で3ヶ月以上のお試し期間を設け、実務に関わってもらうという仕組みです。
この期間を通じて、企業側は候補者の価値観や仕事への姿勢をじっくりと見極めることができ、さらに候補者側も上長が何を求めているのか、どのような裁量で仕事を進めるのかを具体的にすり合わせられることで、入社後のギャップを最小限に抑えることが可能になります。
実際にこのサービスを活用した事例として、次のようなケースが紹介されています。
そこで、弊社からお試し期間を経て入社となる「大人のインターン」サービスをご提案し、具体的な候補として、人材業務分析からキャリアをスタートし、テスト・リリース・導入定着化など、IT PMOにスキルを広げてきたコンサルタントをご提案いたしました。具体的な業務内容は「事業戦略に合わせた戦略の改善」「業務の可視化と問題点の洗い出し」で、週5日・3ヶ月をまずは業務委託で参画いただきました。
結果、企業側も候補者側も双方がお互いに信頼し合え、正式に正社員として入社に至られました。ここでポイントとなったのは、スキルや風土とマッチするかという点だけではなく「正社員登用時に求められるものが何か」「どういう期待・役割があるか」を弊社が入り毎月打ち合わせを行い、すり合わせていきました。その結果、3ヶ月後の入社時点では即戦力としてのスタートダッシュを切られました。
引用:35~49歳で転職した人の「約4割が早期退職する」という事実 採用難度も入社後マッチ難度も高い、ハイスキル人材確保問題(ログミーBusiness)
この事例が示すように、「大人のインターン」のような方法は単なるスキルチェックの場ではなく、双方の期待値を調整し、信頼関係を醸成するための重要なプロセスとして機能します。
採用面接という限られた時間だけでは見極めるのが難しい「人」と「組織」のマッチング精度を、実務を通じて高めていくこの手法は、転職における後悔を減らし、個人と企業双方にとっての成功確率を高める、新しい時代の採用のかたちと言えるでしょう。