【3行要約】
・チームビルディングの重要性は認識されていますが、多くの組織が「チーム」ではなく「グループ」の状態に留まっています。
・タックマンモデルによれば、チームは形成期から機能期まで成長しますが、その過程では相互理解の促進などの工夫が必要になります。
・リーダーは心理的安全性を土台に、健全な対立を促進し、メンバーが自律的に機能する真の「チーム」への変革を主導すべきです。
チームビルディングの前に知っておきたい「グループ」と「チーム」の違い
組織における人の集まりを指す言葉として、「グループ」と「チーム」はしばしば混同されがちですが、両者には本質的な違いが存在します。この違いを理解することは、成果を生み出すためのチームビルディングの第1歩となります。
組織開発ファシリテーターの長尾彰氏は、「グループ」は与えられたもので機能する集団、「チーム」は自分たちで作り出したもので機能する集団のことを指すと語ります。「グループ」では、例えば会社組織において、役割は役職として与えられ、ルールは就業規則として定められ、目標は売上目標として上から与えられます。メンバーは、これらの外部から与えられた枠組みの中で、それぞれのタスクをこなすことが求められます。
これは班別作業のようなイメージに近く、効率的に定型業務を遂行する上では有効な形態です。多くの会社組織は、全体として見ればこの「グループ」の状態に近いと言えるでしょう。
一方で「チーム」では、メンバーは誰かから与えられた役割やルール、目標にただ従うのではありません。組織全体の理念やビジョンを共有した上で、「自分たちの部署ではどのような目標を掲げるべきか」「その目標を達成するために、どのような役割分担やルールが必要か」といったことを、メンバー間の同意や合意に基づいて主体的に意思決定していきます。
つまり、チームは内部から生まれた目的意識によって駆動する、より能動的で有機的な集団なのです。
現代のビジネス環境が複雑化し、変化のスピードが加速する中で、単に指示されたことをこなすだけの「グループ」では対応が難しくなっています。未知の課題に対して試行錯誤し、新たな価値を創造するためには、メンバーそれぞれが主体性を持ち、自律的に機能する「チーム」であることが不可欠です。
したがって、チームビルディングとは、単なる人の集まりである「グループ」を、共通の目的に向かって協働できる「チーム」へと意図的に成長させていくための取り組みであると言えます。
チームの成長段階「タックマンモデル」を理解する
チームビルディングを効果的に進めるためには、チームがどのような段階を経て成長していくのかを理解することがおすすめです。そのための有力なフレームワークとして、心理学者のブルース・タックマンが提唱した「タックマンモデル」があります。
このモデルは、チームの成長を5つの段階に分類し、それぞれのステージでチームが直面する課題と必要なアプローチを示唆してくれます。
第1ステージは「形成期(Forming)」です。チームが結成されたばかりの初期段階であり、メンバーはお互いのことをよく知らず、遠慮し合っている状態です。まだ共通の目標も明確になっておらず、緊張感の中で互いに探り合いながら意見を出しています。
この時期に最も重要なのは、心理的安全性を確保し、コミュニケーションの「量」を増やすことです。リーダーはチーム結成の目的や目標を共有し、懇親会やゲームなどを通じてメンバー間の相互理解を促進する必要があります。
第2ステージは「混乱期(Storming)」です。コミュニケーション量が増え、相互理解が進むにつれて、それぞれの価値観や考え方の違いが明確になり、意見の対立や衝突が生まれる段階です。嵐が来るように、ごちゃごちゃ、ワチャワチャする時期であり、チームのモチベーションが低下しやすい危険な時期でもあります。
しかし、この対立はチームが成長するために不可欠なプロセスです。ここで求められるのは、コミュニケーションの「質」を高め、本音で話し合う機会を設けることです。リーダーは対立を恐れず、メンバー同士が納得いくまで議論し、課題解決ができるよう導くことが重要です。
第3ステージは「統一期(Norming)」です。混乱期における対立を乗り越えることで、チームには一体感が生まれ、安定した協力関係が築かれます。メンバーは共通の目標を意識し、自分たちで役割分担やルールを作り始めます。
この段階で、集団は「グループ」から「チーム」へと変化を遂げます。この時期には、与えられたものではなく、自分たちで作り出した「規律と秩序」が重要になります。リーダーはメンバーの自主性を尊重し、それぞれの個性やスキルが活かせる役割を与えることが求められます。
第4ステージは「機能期(Performing / Transforming)」です。チームは完全に機能し、リーダーの指示がなくともメンバーが自律的に行動し、高いパフォーマンスを発揮できる段階です。メンバー間には強い結束力が生まれ、相互にサポートし合う体制が整っています。
この段階では、高いパフォーマンスを維持するための取り組みが求められます。周りから見れば圧倒的な成果を出していても、本人たちにとってはそれが当たり前になっているため、自分たちの成果をきちんと祝福し、成功の要因を振り返って語り継ぐ(伝承する)ことが重要になります。
最後の第5ステージは「散会期(Adjourning)」です。プロジェクトの終了などにより、チームはその役割を終え、解散する段階です。この経験はメンバーにとって大きな糧となり、次の活動へと活かされます。チームビルディングが成功したかどうかは、この解散時にメンバーが「このチームで良かった」と感じられるかどうかに表れます。
このモデルを理解することで、リーダーは自チームが今どの段階にあるのかを客観的に把握し、次へ進むために何をすべきかを的確に判断できるようになるのです。
多くのチームが乗り越えられない「混乱期」という壁
タックマンモデルの中でも、多くのチームが停滞し、時には崩壊の危機に瀕するのが第2ステージの「混乱期(Storming)」です。
この段階は、メンバー間の意見の対立や価値観の衝突が激化し、チームの雰囲気が悪化しやすい時期ですが、この混乱期を乗り越えることこそが、単なる「仲良し集団」から成果を出せる「強いチーム」へと脱皮するために不可欠なプロセスだと、株式会社らしさラボ 代表取締役 伊庭正康氏は語ります。混乱期で起こる「衝突と分裂」は、一見するとネガティブな現象に思えます。しかし、これはメンバーがお互いのことを理解し始め、本音をぶつけ合えるようになった証拠でもあります。
表面的な調和を保つために意見の対立を避け、当たり障りのないコミュニケーションに終始する組織は、いつまでも形成期の段階から抜け出すことができません。そのような「仲良し集団」では、真の課題解決やイノベーションは生まれないのです。
強い組織を作るためには、この対立のプロセスを避けてはなりません。むしろリーダーは、意図的に健全な対立を生み出すことさえ求められます。
例えば、現状維持を良しとせず、挑戦的な目標や方針変更を打ち出すことで、メンバー間に「なぜそれをやるのか」「もっと良い方法があるのではないか」といった議論を喚起するのです。このプロセスを通じて、チームはこれまで見過ごされてきた問題点に気づき、より高いレベルでの合意形成を目指すことができるでしょう。
混乱期を突破するためのカギは、コミュニケーションの「量」から「質」への転換です。ただ雑談を増やすだけでは不十分で、本音で意見を交換し、互いの考えを深く理解しようとする対話が必要になります。
リーダーは、メンバーが安心して本音を語れる心理的な安全性を確保しつつ、議論が単なる感情的な対立で終わらないよう、ファシリテーターとしての役割を果たさなければなりません。
この困難な壁を乗り越えた時、チームは初めて互いを受容し、共通の目標に向かって一丸となる「統一期」へと移行することができるのです。混乱は、成長の痛みであり、強いチームになるための避けられない試練なのです。