KPI設定・運用におけるリーダーの役割
KPIは、単に業績を管理するための無機質な指標ではありません。正しく運用すればメンバーの行動を促し、モチベーションを高め、組織全体を活性化させるための強力なコミュニケーションツールとなり得ます。その鍵を握るのが、リーダーの存在です。リーダーがKPIをどのように活用し、メンバーと関わるかによって、その効果はプラスにもマイナスにも大きく振れます。
リーダーの最も重要な役割の1つは、KPIを用いてそれぞれのメンバーに合わせた適切なマネジメントを行うことです。メンバーの状況は、行動の「量」と「質」という2つの軸で4つのタイプに分類できるとTORiX株式会社 代表取締役の高橋浩一氏は語ります。
例えば、量も質も低いメンバーに対しては、一度に多くのことを求めるのではなく、「まずはこれだけやってみよう」とタスクを絞り込み、小さな成功体験を積ませることが重要です。一方で、量は多いものの質に課題があるメンバーには、がむしゃらに行動するだけでなく、成功・失敗事例のデータを分析させ、何が有効なアクションなのかを一緒に考え、質を高めるための支援が必要です。
このように、画一的な指示ではなく、個々の課題に合わせた介入を行うことで、メンバーの成長を促し、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができます。
また、リーダーはKPIの進捗だけを見るのではなく、その背景にあるメンバーの行動や努力に目を向け、適切なフィードバックを行う必要があります。ただし、注意すべきは「がんばっているアピール」を助長しないことです。
プロセスKPIや商談報告だけを見ていると、メンバーは結果よりも「どれだけがんばったか」をアピールするようになりがちです。そうではなく、データに基づいた客観的な視点から、「どの商談が停滞しているか(アラート)」「次にアプローチすべき顧客はどこか(ターゲティング)」といった具体的な指示を与えることで、行動の優先順位を明確にし、成果に直結する活動へと導くことができます。
KPIのマネジメントにおいてリーダーが果たす影響は絶大です。チームが困難な課題に直面した時、もしリーダーが諦めてしまえば、他のメンバーも「諦めていい」という免罪符を与えられたことになり、問題解決への取り組みが止まってしまいます。リーダー1人の姿勢が、チーム全体のポテンシャルを最大限に引き出すこともあれば、逆に無力化させてしまうこともあるのです。
プレイヤーとしては個人の強みを伸ばすことが重要ですが、リーダーや管理職は、自身の弱みがチーム全体に与えるマイナスの影響を自覚し、それを克服することが最優先課題となります。
リーダーはプラスの効果もありますけども、マイナスの効果もあります。なので、こういう場合は、もうリーダーがいないほうがよかったってパターンなんですね。なので、リーダーを選ぶ時は、他者への影響を一番に考えることがすごく重要だと思っています。(中略)
プレイヤーとしてはいいところを伸ばして悪いところに目をつぶるのが大事なんですけども、管理職やリーダーは、悪いところを潰すのが最優先になってきます。
引用:チームにマイナスの効果をもたらすリーダーの特徴 木下勝寿氏が明かす、絶対にリーダーにしてはいけない人10ヶ条(ログミーBusiness)
KPIを形骸化させないために
KPIを導入したものの、いつの間にか形骸化し、ただの報告義務になってしまうケースは少なくありません。そうした事態を防ぎ、KPIを組織に根付かせるためには、単なる数値管理に留まらない工夫が必要です。その鍵となるのが「共通言語」の創出と「ゲーム性」の導入です。
組織内で「共通言語」を持つことは、チームの認識を統一し、コミュニケーションの効率を飛躍的に高める上で非常に重要です。特に職人的なスキルや暗黙知が求められる業務において、その概念を一言で共有できる言葉を定義することは、チーム全体のレベルアップに直結します。
例えば、株式会社北の達人コーポレーションでは、広告からランディングページを経て購入に至るまで、ユーザーの感情が途切れることなくスムーズに流れていく状態を「エモーションリレー」という造語で定義しました。
この言葉が生まれる前は「導線が崩れている」と指摘しても、人によって解釈が異なり、「リンクは正常につながっています」といった的外れな返答が返ってくることもあったと、株式会社北の達人コーポレーション 代表取締役社長の木下勝寿氏は語ります。
しかし、「エモーションリレーが途切れている」という共通言語ができたことで、新人でも広告と遷移先のページ内容の連続性を意識してクリエイティブを作成できるようになり、チーム全体のスキルが劇的に向上したのです。
KPIに関連する重要な概念を独自の言葉で定義し、浸透させることは、KPIを形骸化させないための有効な手段です。
また、「ゲーム性」を取り入れることも、メンバーの主体的な参加と挑戦意欲を引き出す上で効果的だと株式会社北の達人コーポレーションの高橋一雄氏は言います。
例えば、クリエイティブチームのKPIを、制作物経由の購入件数に応じたポイント制にしたとします。当初は作成が容易な広告ばかりを作るメンバーが増えるかもしれません。
しかし、ルールを工夫し、難易度の高いランディングページを作成したほうが結果的に多くのポイントを獲得できる仕組みにすれば、メンバーは自ずとスキルアップに挑戦するようになります。
さらに、過去の成功事例を真似して作った場合は、元の制作者にもポイントが入るようにすれば、ベテランは新人にノウハウを共有するようになり、新人は成功パターンを学びながら成長できるという好循環も生まれるでしょう。
このようなゲーム性を設計する際には、事前に「このルールだと、どんなズルができそうか?」とメンバー自身に問いかけることが有効です。メンバーからは「こんな抜け道があると思います」といった率直な意見が出てくるため、それを基にルールをブラッシュアップすることで、より公平で実効性の高いKPIを設計できます。
KPIを単なるノルマではなく、攻略すべき「ゲーム」として捉え、メンバーがワクワクしながら取り組めるような仕掛けを考えることが、持続的な成果を生み出す組織文化を育むのです。