【3行要約】
・マルチタスクと思っている作業は実は「タスクスイッチング」であり、集中力低下やストレス増加などの悪影響を及ぼしています。
・「マルチタスクが得意」と見えている人の能力は、「瞬発力」「切り替え力」「思考体力」の3つに分解できます。
・マルチタスクによる思考の混乱から抜け出すには、1日を2つのフェーズに分け、意識的に集中するための時間を作り出すことが効果的です。
マルチタスクの本質
現代のビジネス環境において、「マルチタスク」という言葉は日常的に使われていますが、その本質を正確に理解している人は少ないかもしれません。
特に、働き方改革の浸透やコロナ禍を経て労働環境が大きく変化した現在、多くのビジネスパーソンが複数の業務を同時にこなす能力を求められています。しかし、そもそも人間は脳の構造上、厳密な意味で複数の思考を同時に並行して進めることはできないと言われています。
私たちが「マルチタスクを行っている」と感じている時、脳内では実際には1つの作業から別の作業へと、極めて短い時間で注意を切り替える「タスクスイッチング」という現象が起きているのです。
マルチタスクのデメリット
マルチタスクが多くの場面で非効率であるとされる最大の理由が、「タスクスイッチング」時に発生する「スイッチング・コスト」によるものです。「タスクスイッチング」はたとえ数秒であっても時間と認知的なエネルギーを要します。
例えば、資料作成に集中している最中にメールの通知が来て、内容を確認して返信し、再び資料作成に戻るとします。この時、「どこまで進んでいたか」「次に何をするべきだったか」を思い出すのに、少なからず時間と労力がかかります。一度切れた集中力を完全に取り戻すには、さらに長い時間が必要になることもあります。
このような小さなタイムロスや集中力の低下が、1日のうちに何度も繰り返されることで、結果的に大きな生産性の低下につながるのです。
SNSを中心にライフハックや仕事術などを発信しているF太氏は、自身の経験から、24時間の行動を分単位で記録し続けたことがあると語っています。その記録によって、自分が仕事をしているつもりでも、メールチェックから関連動画の閲覧へと、無意識のうちに脱線していることが可視化されたそうです。
しかし、興味深いのは、行動を記録して脱線を防げるようになったからといって、必ずしも人生の満足度が上がったわけではなかったという点です。これは、単に作業効率を把握するだけでは解決しない、より根源的な問題があることを示唆しています。
生産性の低下は、単なる時間のロスだけでなく、精神的な疲労も引き起こします。常に複数のタスクに追われているという焦燥感は、脳に強いストレスを与え、判断力や創造性の低下を招きます。結果として、仕事の質が下がり、さらに多くの時間が必要になるという悪循環に陥ってしまうのです。
したがって、生産性を高めるためには、マルチタスクの弊害を正しく理解し、意識的にシングルタスクに集中できる環境を整えることが不可欠となります。
「仕事ができる人」のマルチタスク能力
では、一般的に「マルチタスクが得意な人」や「仕事ができる人」と評価される人々は、どのような能力を備えているのでしょうか。彼らは決して特殊な脳の構造を持っているわけではありません。
その能力は、主に3つの力に分解して考えることができます。それは「瞬発力」「切り替え力」、そして「思考体力」です。
瞬発力とは、ある事象に対して「あの情報が必要だ」と瞬間的に判断し、必要な知識やデータを思い出す力です。切り替え力はその名の通り、1つの思考から別の思考へと脳内のスイッチを素早く切り替える能力を指します。そして思考体力は、この切り替えを繰り返しながらも、集中力を維持し、複数のタスクを管理し続けるための精神的なスタミナです。
これらの能力は個別に存在するのではなく、相互に関連し合っています。特にこれらの力の根底を支えているのが「フォルダ分けインプット力」と呼ばれる能力だとグロービス経営大学院の加藤想氏は語ります。これは、日々の業務で得た情報や経験を、自分の中で体系的に整理し、いつでも瞬時に取り出せるように脳内にデータベースを構築する力です。
フォルダ分けインプット力は、何か過去にあった事例を自分なりにちゃんとフォルダを整理して、すぐに取り出せる状態にしておく力と考えています。例えば過去のメールを瞬時に検索できる方は、そのメールを見た時に、どう記憶するのかがしっかり自分の中で整理されていると言えます。
個人的に大事になってくるのは、何か連絡がきた際に、誰からきたメールなのか。キーワードは何なのか。それはどのメーリスで、Slackでいうとどのチャンネルで共有されたものなのか。この3つを意識しながら、その内容も記憶することによって、何かあった際にすぐに取り出すことができる。瞬発力や切り替え力に通じてくるんじゃないかなと思います。
引用:マルチタスクが得意な人は何が違うのか? 同時進行でタスクを回すための「3つの力」の鍛え方(ログミーBusiness)
このように、情報をインプットする段階で意識的に整理しておくことで、必要な時に素早くアウトプットすることが可能になります。そして、このような小さなアウトプットの経験を繰り返すことによって、瞬発力、切り替え力、思考体力は徐々に鍛えられていくのです。
つまりマルチタスク能力とは、日々の意識的な情報整理と実践の積み重ねによって後天的に高めることができるスキルと言えるでしょう。