【3行要約】
・不適切な特徴を持つ人はリーダーに向いておらず、責任転嫁や諦めの姿勢でチーム全体のパフォーマンスを低下させます。
・現代の理想的リーダー像は「ビジョン型」であり、顧客や社会(They)のために行動する視点から情熱的に語れる人物が求められています。
・優秀なプレイヤーが必ずしも良いリーダーになるとは限らず、チーム全体の生産性向上を考え、文脈を読み取る能力を持つ人材をリーダーに選ぶことが組織強化の鍵です。
リーダーに向いていない人の特徴
組織の成果は、リーダーの質に大きく左右されます。特に、チームに対してマイナスの影響を与えるリーダーが存在すると、メンバーのモチベーション低下や生産性の悪化を招き、組織全体の成長を阻害する要因となりかねません。そのようなリーダーには、いくつかの共通した特徴が見られます。
まず挙げられるのが、問題に直面した際に「すぐに諦める」姿勢です。困難な課題が与えられた時、リーダーが早々に見切りをつけてしまうと、チームメンバーもそれに倣い、挑戦する意欲を失ってしまいます。リーダーが諦めることは、他のメンバーに「もう努力しなくても良い」という免罪符を与えることになり、結果としてチーム全体のパフォーマンスが著しく低下します。
このような状況では、リーダーが存在しないほうがむしろ良い結果を生むことさえあり得ます。
次に「できない言い訳をする」「成果が出ない理由を外部要因にする」というリーダーの特徴も、チームに悪影響を及ぼします。自身の力不足や判断の誤りを認めず、環境や他者のせいにするリーダーの下では、建設的な問題解決は望めません。メンバーはリーダーの姿勢を見て、自らも責任を回避するようになり、組織として学習し成長する機会が失われます。
また「危機感がない」リーダーも問題です。市場の変化や競合の動向に鈍感で、常に楽観的な見通ししか示さないリーダーは、組織を危険に晒す可能性があります。危機感を共有し、チーム一丸となって対策を講じるべき場面で、リーダーがその重要性を認識していなければ、手遅れになることも少なくありません。
さらに以下のような行動も、リーダーとして不適切な特徴として挙げられます。
・やるべきことを「自分がやらなくていい理由」を見つけてやらない
・ミスをしても謝らない、またはバレないようにごまかす
・人が見ていないところでサボる
・うそをついてごまかす
・トラブルから逃げる
これらの特徴を持つ人物をリーダーに据えることは、チームの士気を下げ、優秀な人材の流出を招くなど、組織にとって計り知れない損失をもたらします。リーダーを選定する際には、個人の業績やスキルだけでなく、他者へ与える影響を最優先に考慮することが極めて重要です。
理想の上司像に学ぶ、リーダーに向いている人の特徴
現代において、メンバーが自発的についていきたいと感じるリーダー像は、過去のものとは大きく変化しています。かつては「ついて来い!」と力強く先導する「先導型」や、トップダウンで指示を出す「強制型」のリーダーシップが一定の効果を発揮した時代もありました。
しかし、
エン・ジャパンが2024年に行った調査によれば、このようなタイプのリーダーを理想とする声はごく少数であり、現代の働き手が求めるリーダー像とは乖離があることが明らかになっています。
この調査で第1位に輝いたのは、「ビジョン型」のリーダーでした。これはリーダー自身の夢や目指す方向性をチームの共通目標として掲げ、その達成方法は部下の主体性に任せるというスタイルです。
単に目標数値を達成することや、他社との競争に勝つことだけを掲げるのではなく、その先にある「我々が何を成し遂げたいのか」というビジョンを語れるかどうかが、現代のリーダーに求められる最も重要な資質と言えるでしょう。
では、人を惹きつけ本気にさせるビジョンは、どのように語られるべきなのでしょうか。そこには、一流のリーダーたちに共通するメッセージの構造が存在します。
それは、「誰のためにやるのか」という問いから始まります。会社のため、上司のため、あるいは自分たち(We)のためといった社内の論理だけでは、メンバーの心に火をつけることは困難です。真に人の心を動かすのは、社外の存在、すなわち顧客や社会といった「彼ら(They)」のために行動するという視点です。
この構造は、「Before」と「After」というフレームワークで整理することができると株式会社らしさラボ 代表取締役の伊庭正康氏は語ります。
「They」が抱える現状の課題や不満(Before)を「放っておけない」という強い問題意識を持ち、「我々の力でこのようなすばらしい状態(After)を一緒に作りたい」と情熱を持って語ること。このメッセージこそが、メンバーの共感を呼び、日々の業務に意味と誇りを与えるのです。
私は求人広告の営業の課長をやっていたことがあるのですが、その時にこんなこと言ってましたね。
途中でこれが通用しないなと思いました。それで、考えに考えました。その時のTheyというのは、この事業にとってのThey、人不足で困っている会社さまもそうですし、仕事を見つけたいけれども、なかなか見つからないという求職者の方々もいらっしゃるわけですよね。どちらもTheyなんですよ。この方々のためにがんばっている。例えば人不足で困ってる企業さまを、やはり放置できないんです。
でもBeforeは、いい人が入らなくて、本当に困っていらっしゃる会社さまもいらっしゃいます。その状態を何とかしたいんですよね。なのでメンバーさんには、こう言っていました。「我々は人不足で困っている企業さまのために、まだまだやることがある。(中略)それが今我々が掲げてる営業目標なんだよ」という話を、何度も何度もしておりました。
引用:「理想の上司像」ランキングに学ぶ、リーダーの絶対条件 世界の一流がやっている、部下を本気にさせる伝え方(ログミーBusiness)
このように、単なる役割として目標を語るのではなく、1人の人間として「They」の課題を自分事として捉え、その解決への強い意志を示すこと。これが、現代におけるリーダーの絶対条件であり、この意志を示せる人がリーダーに向いている人と言えるでしょう。
プレイヤー適性とマネージャー適性は違う
いざリーダーを選出しようとした際に、多くの組織で陥りがちな過ちがあります。それは、プレイヤーとして最も優れた成果を上げている人材を、そのままマネージャー職に昇進させてしまうことです。
しかし、CTOや経験豊富なEM(エンジニアリングマネージャー)たちは、「プレイヤーとしての適性と、EMとしての適性は絶対に違う」と指摘します。この違いを理解することは、健全な組織を構築する上で極めて重要です。
プレイヤーとして優秀な人は、個人のスキルや専門性を駆使して高いパフォーマンスを発揮します。彼らをマネージャーに据えたくなるのは、その成果によってチームメンバーからの信頼が厚いからです。技術的な相談ができ、尊敬を集めている人物がリーダーになれば、反対意見も出にくく、スムーズに事が運ぶように見えます。
しかし、これは短期的な視点に過ぎません。その優秀なプレイヤーがマネジメント業務に時間を取られることで、本来発揮できたはずのプレイヤーとしてのパフォーマンスが失われ、結果的にチーム全体の成果が低下してしまう可能性があります。
では、EM、すなわちマネージャーに向いている人材とはどのような人物なのでしょうか。それは、個人の成果を最大化することではなく、「チームの生産性を上げ、成果を最大化するために、何がボトルネックになっているか」を、個々のメンバーよりも高い視座で常に考えられる人物です。
彼らは、泥臭い仕事も厭いません。「本当にこれを自分がやるのか」と感じるような細々とした課題の中にこそ、組織の問題が隠れていることを理解しています。
そして、最も重要な能力の1つが「文脈を読み取る能力」です。膨大な情報の中から、1つひとつの問題がどのような背景で生まれ、それを解決することが組織全体にどのような影響を及ぼすのかを把握する力です。
そのためには、Slackのログやドキュメントを読み込み、EMであれば時にはソースコードを読んでメンバーの思考の過程を理解し、1on1を通じて対話の中から情報を引き出すといった多角的な情報収集が求められます。
Tori:プレイヤーとしてすごく成果を出している人は、プレイヤーとして仕事をしたほうがいいと僕は思っています。ICやプレイヤーとして優れた動きができている、成果を出せている人をマネージャー職に据えたくなるのは、その成果によってチームメンバーから信頼されているからだと思います。
信頼はすごく大事です。技術であってもプライベートであっても、何かあった時に相談できる相手。(中略)
でも本当は、そのプレイヤーの人はプレイヤーのまま動いてもらったほうがチームとしての成果は高かったかもしれない。EMの役割や責務は全組織で同じでなければいけないとは別に思っていなくて、あるチームでは技術的にリードする素養があるEMがいたり、あるチームでは本当にプロのピープルマネジメントのような人がいたり。
引用:「プレイヤー適性とEM適性は絶対に違う」 3社のCTOとEMが考える“マネージャーに向いている人”(ログミーBusiness)
この言葉が示すように、リーダーの理想像は1つではありません。EMに関していえば、技術的なリードが得意なEMもいれば、ピープルマネジメントのプロフェッショナルと言えるEMもいます。
重要なのは、プレイヤーとしてのパフォーマンスとはまったく別の評価軸で、マネジメントの適性を見極めることです。マネージャーになる前から、自然とプロジェクトやチーム全体を俯瞰し、リーダーシップを発揮している人物。そうした人材を見出し、マネジメント、つまりリーダーのキャリアについて対話を重ねていくことが、強い組織を作るための第1歩となるのです。