構造を図解する基本は「スライドを切り分ける」こと
問いと答えが階層箇条書きで整理できたら、いよいよその内容をパワーポイントのスライドに落とし込んでいく工程に入ります。多くの人は、スライドを真っ白なキャンバスのように捉え、そこにテキストボックスや図形を自由に配置していくイメージを持っているかもしれません。
しかし、わかりやすい図解を作成するための本質的な考え方はむしろその逆で、
「要素を載せる」ものではなく、「切り分ける」ものだと捉えるべきだと豊間根青地氏は語ります。四角いスライドを縦や横の直線で切り分けていくと、そこには複数の小さな四角形が生まれます。この整然と並んだ四角形によって「意味のある構造」を作り出すことこそが、図解の本質です。情報同士の関係性を視覚的に表現することで、聴き手は瞬時に内容を理解することができます。
構造的な図解を作成する際には、いきなり複雑な図形(ベン図、ピラミッド図、フローチャートなど)に飛びつくのではなく、まず「表(マトリクス)」を作成することを意識するのが最も確実で効果的です。わかりやすい図解は、以下の4つのステップで作成できます。
1. 要素を一列に並べるスライドで伝えたい中心的な要素(例:プランA、プランB)を縦または横1列に並べます。これが表の基本となる軸です。
2. 行または列を増やす並べた要素を説明するための比較項目(例:対象者、価格、機能)を行または列として追加していきます。これにより、基本的な表が完成します。
3. 関係性を示す要素間に存在する関係(例:包含、因果、フロー)を矢印や記号、あるいは図形の分割・結合によって視覚的に示します。例えば「基本料金+追加料金=合計金額」といった計算関係を「+」や「=」で示すことで、理解が深まります。
4. 説明を書きこむ構造だけでは伝わらない補足情報や、図解全体から導き出されるメッセージ(例:「こちらのプランがおすすめです」)をテキストで書き加えます。
このステップで重要なのは、常に縦と横の軸を意識し、情報を整然と配置することです。例えば、プロセスの流れを左から右に示す軸を作ったのであれば、各プロセスの詳細情報は、その真下(縦軸)に揃えて配置します。
「この高さには主語を書く」「この高さにはメリットを書く」といったルールを自分の中で設けることで、情報が整理され、非常に見やすいスライドが完成します。複雑な図解パターンを覚える前に、まずこのマトリクス思考を徹底することが、伝わるスライド作りの基礎となります。
文字のメリハリは新聞に学ぶ
パワーポイント資料のスライドデザインを考える際、多くの人は色や画像といった視覚的要素に意識が向きがちです。しかしビジネス資料のスライドにおいて、情報の大部分を占めるのは依然として「文字」です。したがって、文字情報の見せ方を工夫することが、スライド全体のわかりやすさを劇的に向上させる上で極めて重要になります。
文字を効果的に見せるための最高のお手本は、実は非常に身近な場所にあります。それは「紙の新聞」です。私たちは新聞を読む時、無意識のうちに最も大きく太い「大見出し」から読み始め、その日のニュースの全体像を把握します。
次に関心を持った記事の「小見出し」に目を移し、そして初めて最も細かく小さい「本文」を読み進めます。
新聞がこれほどまでに読みやすいのは、文字の「太さ」と「大きさ」によって、情報に明確な優先順位がつけられているからです。作り手は、読者がまず全体像を掴み、次に関心に応じて詳細を読み進められるように、情報の階層構造をデザインしているのです。
もし新聞のすべての文字が同じサイズ、同じ太さであったなら、どこから読んでいいかわからず、非常に読みにくいものになるでしょう。
この原則は、パワーポイントのスライド作成にも当てはまります。スライド内の文字に一切メリハリがないと、それは「最悪の新聞」と同じ状態になり、聴き手はどこが重要なのかを判断できず、読む意欲を失ってしまいます。
我々はついつい、パワポの文字をすぐに赤枠で囲んだり赤字にすることで強調した気持ちになりがちですが、新聞はモノクロ印刷でもあれだけ文字の強調ができているわけです。我々のパワポも、色なんか使わなくても文字の強調はできるはずです。
そのために必要なのが「太さ」と「大きさ」です。
引用:文章が3行以上続くパワポ資料は読まれない まず全体像が伝わる、拾い読みできる提案資料の作り方(ログミーBusiness)
文字を強調しようとして、安易に赤字にしたり、囲み線をつけたりするのは避けるべきです。色や余計な図形に頼らずとも、太さと大きさのコントロールだけで、十分に強力なメリハリを生み出すことができます。
このテクニックを実践するためには、フォント選びが重要です。フォントには、太字設定にした際に文字の輪郭を太らせるだけのものと、もともと太いデザインの文字(ウェイト)に切り替わるものがあります。後者のフォント(例:Yu Gothic UI, Meiryo UI)を使用することで、文字が潰れることなく、美しくクリアな強調が可能になります。
さらに、長い文章をスライドに載せる際は、その文章の要点、いわば「大トロ」の部分を抽出し、見出しとして大きく太く表示することも有効です。本文は細く小さく残しつつ、要約した見出しを添えることで、聴き手は拾い読みで内容を把握できるようになり、格段に親切な資料になります。
色は「どこに使うか」が重要
文字のメリハリと並んで、スライドデザインの印象を大きく左右するのが「色」の使い方です。しかし、多くの資料では色が効果的に使われているとは言えず、むしろ多色使いによって情報が煩雑になり、どこが重要なのかわかりにくくなっているケースが散見されます。
伝わる資料における色の役割は、装飾ではなく、情報の優先順位を視覚的に示すことにあります。
色を効果的に使うための大原則は、「むやみに使わない」ことです。まず、スライド全体を白・黒・グレーの無彩色で作成し、その上で本当に強調したい部分、聴き手に最も注目してほしい箇所にだけ、テーマとなる「1色」を与えるようにします。
人間は無彩色よりも有彩色に自然と目が向く性質があるため、色数を絞ることで、その色が持つ強調効果を最大限に引き出すことができます。
これは「何かを強調するためには、それ以外のものを強調しないことが最も重要である」という考え方に基づいています。重要なのは「何色を使うか」ではなく、「どこに色を使うか」なのです。
色そのものよりも意識すべきなのが、「塗りつぶし」と「色の濃淡」です。一般的に、人間の目は以下の性質を持っています。
・枠線よりも、塗りつぶされた図形に注目する。・薄い色よりも、濃い色に注目する。この視覚的な特性を利用することで、スライド内の情報に序列をつけることができます。
例えば、複数のプランを比較する表を作成する場合、すべての項目を同じように塗りつぶしてしまうと、どこから見ていいかわからず、非常に見づらいスライドになります。
一方で、プラン名や最終的な価格といった、聴き手にまず把握してほしい「大枠」や「主役」の情報だけを濃い色で塗りつぶし、詳細な項目は枠線や薄い色で表現することで、視線が自然と重要な情報に誘導され、全体像が理解しやすくなります。
色を足すことによるデザインではなく、色を引くことによるデザインを心がけることが、伝わる資料への近道です。
ビジュアルはあくまで「文字にイメージを足す」脇役
文字と色によって情報の骨格がデザインされたスライドに、さらなるわかりやすさを加えるのが、アイコンや写真といったビジュアル要素です。しかし、これらの要素も使い方を誤ると、かえって情報をノイズにし、資料全体の質を低下させてしまう危険性があります。
ビジュアル要素を扱う上での基本姿勢は、それらが主役ではないという認識を持つことです。
スライドの主役は、あくまで文字によって表現されたメッセージと、図解によって示された論理構造です。アイコンや写真は、その文字と構造だけでは伝えきれないイメージや雰囲気を補完し、内容の理解を助けるための「脇役」として機能します。
例えばプロセスを示す図解において、各ステップを表す四角形の中にアイコンを一つ添えるだけで、「これは農業に関する話だ」「これは工場に関する話だ」といった内容が、文字を読む前に直感的に伝わります。これは理解の速度を上げる上で非常に効果的です。
ただし、アイコンはあくまで抽象的な絵記号であり、多くの情報を持っているわけではありません。そのため、アイコンを大きく、濃い色で目立たせてしまうと、主役であるべき文字情報よりも主張が強くなり、バランスの悪いスライドになります。
アイコンは派手すぎない色のものを選び、さりげなく配置する程度が適切です。
写真の扱いについてはさらに注意が必要です。プレゼン資料で使われる写真は、大きく「具体的な写真」と「抽象的な写真」の2種類に分けられ、それぞれでアプローチが異なります。
・具体的な写真アプリのスクリーンショットや、イベントで講演している様子の写真、お客様の声に添えられた本人の顔写真などがこれにあたります。これらは「そのものでなければならない」写真であり、具体的なイメージを伝え、説得力を高める上で非常に強力な効果を持ちます。具体的な写真があるのであれば、積極的に使用すべきです。
・抽象的な写真いわゆる「イメージ写真」です。資料のコンセプトや雰囲気を伝えるために使われますが、その写真自体に具体的な意味はありません。例えば「信頼」という言葉の横に、握手しているフリー素材の写真を置くような使い方です。
一方で、抽象的な写真は使っちゃダメじゃないんですけど、使いすぎに注意です。こういう「信頼があります」とか「人材がすごいです」みたいな、「『人材 フリー素材 写真』で検索しただろ」という感じのプレゼン資料がたまにあるんですけど、こういうのって何も意味がないんですよね。(中略)
無意味なシーンはノイズになる。意味がないですし、安っぽくなりやすいので、「写真を使わなくてもいいんじゃない? アイコンでよくない?」とか、あるいは「そもそも文字だけにするか」というふうに、むやみに使わないことが大事です。フリー素材の写真を入れすぎると、プレゼン資料って絶対に安っぽくなります。使うとしても、ここぞという瞬間だけにしたほうがいいです。
引用:いかにもなフリー素材の使いすぎが資料を安っぽくする プロが教える、プレゼン資料で使うビジュアル選定のポイント(ログミーBusiness)
ビジネスシーンの資料では、イラストの使用は原則として避けたほうが賢明です。特に特徴的な世界観を持つイラストは、1つでも使うと資料全体の雰囲気を支配してしまい、真摯なメッセージを伝えたい場面には不向きです。
ポップな雰囲気が求められる特殊なケースを除き、基本的にはアイコンや写真で代替することを検討しましょう。