【3行要約】
・ビジネスパーソンの業務時間の3〜4割はファイル管理を怠ったことによる「探し物」に費やされ、集中力を著しく削ぎ、生産性を低下させる原因となっています。
・澤円氏は「ファイル管理は単なる整理整頓ではなく、AI時代に必要なメタ認知能力を鍛える実践的トレーニングである」と新たな視点を提示します。
・効果的なファイル管理のためには、命名規則の統一や階層構造の簡素化を徹底することが重要です。
ファイル管理が行われていないことによる損失
多くのビジネスパーソンが、日々の業務時間のかなりの部分を本質的ではない活動に費やしています。その代表格が、必要なファイルや情報を探す「探し物」の時間です。
株式会社圓窓代表の澤円氏は、ビジネスパーソンの仕事をつぶさに観察すると、およそ3割から4割もの時間が、ひたすら探し物をすることに費やされていると指摘しています。これは決して大げさな話ではありません。例えば、パソコンを使用している時間を分析すると、その約1割は特定のファイルを探してエクスプローラー(ファイルの管理画面)をさまよっている時間だと言います。
私たちは「あれ、あの資料はどこへやっただろうか」「最新の見積書はどれだっけ?」といった問いを頭の中で繰り返しながら、貴重な業務時間を消費してしまっているのです。
この「探し物」の時間は、単にアウトプットを生み出さない無駄な時間であるというだけにとどまりません。より深刻なのは、それが私たちの集中力を著しく削いでしまうという点です。
何か創造的な作業に取り組んでいる最中に、必要なデータを探すために思考を中断せざるを得ない状況を想像してみてください。一度途切れた集中力を取り戻すには、相当な時間と精神的なエネルギーが必要となります。このような細かな中断が積み重なることで、業務全体の生産性は大きく低下してしまうのです。
さらに、ファイルがすぐに見つからない、あるいはデスクトップが整理されていないファイルで埋もれてしまっているといった状況は、自覚している以上に精神的なストレスを生み出します。
常にどこか雑然とした環境で仕事をすることは、思考の整理を妨げ、心理的な負担を増大させます。これは個人の問題だけでなく、チームで共有しているフォルダが整理されていない場合には、組織全体の課題へと発展します。他の人が作成したファイルのありかがわからず、コミュニケーションコストが増大し、チーム全体の業務スピードが鈍化する原因となるのです。
したがって、ファイル管理を徹底することは、単なる整理整頓の域を超えた、極めて重要な業務改善活動であると言えます。
その目的は、1つ目に「時間的な無駄を徹底的に削減すること」、そして2つ目に「精神的な負担を軽減し、快適な業務環境を構築すること」にあります。この2つの目的を達成することで、私たちは探し物という非生産的な活動から解放され、より本質的で創造的な仕事に集中できるようになるのです。
ファイル管理における思考の転換
ファイル管理と聞くと、多くの人は単にファイルをフォルダに「しまいこむ」行為を想像するかもしれません。しかし、効果的なファイル管理の本質は、その考え方そのものを転換するところから始まります。
物理的な空間の整理収納において、「収納は『しまいこむ』のではなく、『スタンバイ』させること」という重要な考え方にあると、「片付けパパ」の大村信夫氏は語ります。これは、デジタルデータの管理においても全く同様に適用できる原則です。
「しまいこむ」という意識は、ファイルをどこか見えない場所に格納し、一時的に目の前から消すことに主眼が置かれています。その結果、保存した場所を忘れてしまったり、いざ必要になった時にすぐに見つけ出せなかったりという事態に陥りがちです。
一方で「スタンバイ」させるという意識は、次に行う作業や、将来そのファイルを使用する場面を想定し、最も取り出しやすく、使いやすい状態で準備しておくことを意味します。この思考の転換こそが、受動的なファイル保存から、能動的で戦略的なファイル管理へと移行するための第1歩となるのです。
この「スタンバイ」の意識を持つことで、ファイル名の付け方やフォルダの分類方法といった具体的な行動が大きく変わってきます。
例えばファイルに名前を付ける際も、単に内容がわかるだけでなく、「後で検索する時にどのようなキーワードで探すか」「他のファイルと並んだ時にどう見えるか」といった視点が加わります。フォルダを作成する際も、自分の業務フローやチームの共同作業のプロセスを考慮し、最も効率的にアクセスできる構造を設計しようと考えるようになるはずです。
ファイル管理は、未来の自分やチームメンバーの仕事を助けるための、積極的な準備活動なのです。この点を理解することが、あらゆるテクニックを実践する上での強固な土台となります。
ファイル管理の重要性について、ビジネススクール「グロービス経営大学院」のVoicyチャンネルでは次のように語られています。 まず1つ目ですが、ファイルを探す時間は何も生み出していないからです。これも当たり前のことなんですけれども、何か探している時間は特にアウトプットはできません。なので、言ってしまえば無駄な時間だと言えます。
仕事の生産性をぐっと高めようと思うと極力減らしたい時間ではないでしょうか。ちなみに私が前職の時に徹底的に叩き込まれた考え方が、「とにかく探す時間をなくそう」ということです。
おそらく忙しいビジネスパーソンのみなさんにとっては、ファイル管理をうまくして、無駄な時間を極力減らせるといいと思っているのではないでしょうか。そして、2つ目の理由ですけれども、毎日の小さなストレスが減るからです。ファイルがすぐに見つからないとか、デスクトップがファイルで埋もれてしまっている状態は、自覚がなかったとしてもけっこうストレスになっているはずです。
引用:探しているファイルが見つからない…地味なストレスをなくすコツ 無駄な時間を減らすファイル管理の極意(ログミーBusiness)
この指摘の通り、ファイル管理は無駄な時間をなくし、ストレスを減らすための直接的な手段です。その目的を達成するためには、単にファイルを保存するのではなく、常に「スタンバイ」させるという能動的な意識を持つことが不可欠なのです。
ファイル名とフォルダ名に一貫性を持たせる方法
効果的なファイル管理を実現するための核心は、一貫性のあるルールを定め、それを徹底して遵守することにあります。個々のテクニックも重要ですが、その土台となるルールがなければ、管理はすぐに形骸化してしまいます。
特に、ファイル名とフォルダ名の付け方に関するルールは、管理の成否を分ける最も重要な要素と言えるでしょう。
まずファイル名の付け方です。最も効果的ですぐに実践できるルールは、「ファイル名の先頭に年月日を付ける」ことです。例えば2025年9月25日に作成した会議の議事録であれば、「250925_〇〇会議議事録」のように、「西暦下2桁+月2桁+日2桁」の6桁の数字を接頭辞として加えます。
このルールを徹底するだけで、ファイル管理は劇的に改善されます。その理由は主に2つあります。
1つ目に、多くのOSではファイル名が数字やアルファベット順にソートされるため、この命名規則に従うだけで、フォルダ内のファイルが自動的に作成日順(時系列)に並びます。これにより、どれが最新のファイルかがわかるようになり、「最終」「最新版」といった混乱を招く言葉をファイル名に含める必要がなくなります。
2つ目に、検索性が飛躍的に向上します。「去年の秋頃のあの資料」といった曖昧な記憶しかなくても、「2410」といったキーワードで検索すれば、候補を大幅に絞り込むことが可能です。
次にフォルダ名の付け方です。こちらも同様に、名前の先頭に数字を付けることが推奨されます。例えば「01_社内資料」「02_社外資料」といった形です。数字を付けることで、文字だけのフォルダ名よりも視覚的に探しやすくなります。
ここでのポイントは、フォルダを追加する可能性を考慮し、通し番号を「01, 02, 03...」のような連番にするのではなく、「10, 20, 30...」のように10番単位で付けることです。こうすることで、後から「10_XX社」と「20_△△会議」の間に新しいフォルダを追加したくなった場合に、「15_新規プロジェクト」のように間の番号を使えるため、既存のフォルダ名をすべて変更するという手間を避けることができます。
これらのルールは、まず個人で実践してみるだけでも大きな効果を実感できるはずです。しかし、その真価はチームや部署全体で共有し、徹底することで発揮されます。ルールが組織に浸透すれば、誰が作成したファイルであっても、どこに保存されているかを容易に推測できるようになります。
これにより、情報共有のスピードと正確性が格段に向上し、組織全体の生産性を底上げすることができるのです。ルールを浸透させるためには、簡単なマニュアルを作成したり、チーム内にファイル管理の推進リーダーを任命したりといった工夫も有効です。
誰もが迷わないファイル管理構造の作り方
ファイル名のルール化と並行して取り組むべき重要な要素が、フォルダ構造の設計です。多くの組織で見られるファイル管理の失敗例として、「フォルダの階層が深くなりすぎている」という問題があります。
クライアント別、案件別、年度別など、細かく分類しようとするあまり、1つのファイルにたどり着くまでに何度もフォルダをクリックしなければならない、迷路のような構造が出来上がってしまうのです。
このような深い階層構造は、一見すると整理されているように見えますが、実際には多くのデメリットをもたらします。
まず、目的のファイルへのアクセス性が著しく低下します。クリック回数が増えるだけでなく、自分が今どの階層にいるのかを見失いやすくなります。また、ファイルのパス(保存場所を示す文字列)が長くなりすぎることで、システムによってはエラーの原因となることもあります。
そして最も大きな問題は、構造が複雑になりすぎることで、作った本人でさえどこに何を保存したのかを把握できなくなってしまう点です。これでは、チームで情報を共有する際に、大きな混乱を招くことは避けられません。
この問題を解決するためのシンプルかつ強力な指針が、「フォルダの階層は原則として3階層までにする」というルールです。
業務内容によっては4階層や5階層が必要になる場合もありますが、まずは3階層を基本として構造を設計することを意識すべきです。この3階層は、一般的に「大分類」「中分類」「小分類」として考えるとわかりやすいでしょう。
・第1階層(大分類)最も大きな括りです。例えば、「01_社内資料」「02_社外資料」や、「10_進行中案件」「20_完了案件」といった分け方が考えられます。
・第2階層(中分類)大分類をさらに細分化します。「02_社外資料」の下であれば、クライアント名やプロジェクト名がここに来ます。「10_A社」「20_B社」といった形です。
・第3階層(小分類)具体的な業務内容で分類します。「10_A社」の下であれば、「10_提案資料」「20_議事録」「30_請求関連」などが該当します。
この3階層の構造の中に、先述のルールに従って命名された個別のファイル(例:「250925_定例会議事録.pptx」)が保存されるというイメージです。
重要なのは、この構造がチームの誰もが直感的に理解できるシンプルさを保っていることです。「A社の請求書を探したい」と思った時に、誰もが「02_社外資料」→「10_A社」→「30_請求関連」という道筋を自然に思い描けるような、論理的でわかりやすい構造を目指す必要があります。
ファイル管理の目的は、細かく分類すること自体ではなく、誰もが必要な情報に素早くアクセスできるようにすることです。その目的を達成するためには、過度な複雑さを排し、シンプルさを追求する姿勢が不可欠なのです。