【3行要約】
・仕事のスケジュール管理は生産性向上の鍵ですが、「何をすべきか」が曖昧なまま計画を立てようとして失敗するビジネスパーソンも少なくありません。
・米国の経営コンサルタント、デビッド・アレン氏は、まず頭の中のタスクをすべて書き出し、次に具体的行動に分解する手法を提唱しています。
・完璧な24時間を求めるのではなく、今井孝氏が説く「1日に2時間の好きな時間」を確保することで、持続可能で充実した毎日を実現できます。
なぜ仕事においてスケジュール管理が重要なのか
仕事におけるスケジュール管理は、単に予定を忘れないように記録するための作業ではありません。それは、効率的なタスク遂行とストレスの軽減に不可欠な取り組みであり、個人の生産性、さらには組織全体の業務効率を向上させるための根幹をなす活動です。
スケジュールを適切に管理することで、与えられた時間の中で処理すべきタスクの全体像を正確に把握することができます。そして、それぞれのタスクに取り組む順番と時間配分を計画的に決定することで、時間あたりの生産性を飛躍的に高めることが可能になります。
時間を計画的に使う習慣が身につけば、1つのタスクに必要以上の時間を費やしてしまったり、逆に期限が迫る中で品質を妥協せざるを得なくなったりといった事態を避けられます。結果として、1つひとつの業務の質が向上し、より高いレベルの成果を生み出すことにつながるのです。
個人のスケジュール管理は、組織の業務効率化にも直接的に貢献します。なぜなら個人が抱える仕事は組織全体の業務の一部であり、他のメンバーとの協力関係の中で初めて大きな成果に結びつくからです。
チームメンバーそれぞれが自身のスケジュールを持っているため、互いの予定をすり合わせ、連携を密にすることで、組織全体の業務を円滑に進めることができます。
このように、個人のスケジュール管理は、組織全体のパフォーマンスを最大化するための基礎的な要素と言えるのです。
スケジュールを組み立てる前の「タスク解像度」向上術
効果的なスケジュール管理を行うためには、まず自分が抱えている「やること」をすべて正確に把握することが不可欠です。多くの人がスケジュール管理に失敗する原因は、計画の立て方そのものよりも、計画を立てる前の準備段階、つまり「何をすべきか」が曖昧なままであることに起因します。
この課題を解決するために非常に役立つのが、米国の経営コンサルタント、デビッド・アレン氏によって提唱された「GTD(Getting Things Done)」という生産性向上メソッドです。
GTDは、頭の中にある気になることやタスクをすべて書き出し、外部の信頼できるシステムに預けることで、精神的な負荷を取り除き、目の前のタスクに100%集中できる状態を作り出すことを目的としています。
GTDのワークフローは5つのプロセスで構成されますが、その出発点となるのが「①Capture(把握)」です。これは、頭の中にあるタスクやアイデア、やるべきこと、気になっていることなどを、大小問わずすべて紙やデジタルツールに書き出すプロセスです。
この段階では、内容を整理したり優先順位をつけたりする必要は一切ありません。仕事のタスクはもちろん、プライベートな用事、ふとした思いつき、ルーチンワークまで、あらゆる要素を可視化することが重要です。
この「すべてを書き出す」という行為によって、漠然とした不安や「何か忘れているのではないか」というプレッシャーから解放され、思考がクリアになります。
次に重要となるのが、書き出した要素を具体的にし、仕事の「解像度」を高める作業です。例えば、営業担当者にとっての大きな仕事が「契約を1件受注する」ことだったとしても、これだけでは具体的な行動計画は立てられません。
この仕事を要素分解すると「1. 営業先リストの作成」「2. 顧客へのアプローチ」「3. 提案書の作成」「4. 面談(交渉)」「5. 見積書の作成」「6. クロージング」といった、一つひとつの具体的なタスクに分解することができます。
このように、大きな仕事を個別のタスクに細分化することで、「今、何をしなければならないか」が明確になり、行動への迷いがなくなります。
これはGTDにおける「②Clarify(明確化・見極め)」のプロセスに相当し、目の前の行動が具体的になることで、一つひとつのタスクに集中して取り組むことができるようになるのです。
新規事業開発のような不確実性の高いプロジェクトにおいても、この考え方は極めて重要です。プロジェクトが始まったら、たとえ暫定的な情報や仮説であっても、まずはリリースまでに必要と思われるタスクを漏れなく洗い出し、スケジュールに落とし込むことが推奨されます。
これにより、進捗の遅れやリスクを早期に検知し、具体的な対策を講じることが可能になります。
時間管理マトリクスを活用したタスクの優先順位付け
頭の中にあるタスクをすべて洗い出し、具体的な行動レベルまで細分化できたら、次に行うべきは、それらのタスクに優先順位をつけることです。すべてのタスクを同じように扱っていては、本当に重要な仕事が後回しになり、結果的にスケジュールが破綻してしまう可能性があります。
数あるタスクマネジメント手法の中でも、特に効果的で広く知られているのが、米国の第34代大統領ドワイト・D・アイゼンハワーが用いたとされる「アイゼンハワー・マトリクス」です。この手法は、タスクを「重要度」と「緊急度」という2つの軸で評価し、4つの領域に分類することで、取り組むべき順番を明確にします。
この4つの領域は、時間管理マトリクスとして以下のように定義されます。
1. 第1領域:重要度(高)× 緊急度(高)成果に直結し、かつ期限も迫っているタスクが分類されます。例えばクレーム対応、期日が迫ったレポートの提出、トラブルの解決などが該当します。これらのタスクは、言うまでもなく最優先で取り組む必要があります。この領域の仕事に追われる日々はストレスが多く、受動的な働き方になりがちです。
2. 第2領域:重要度(高)× 緊急度(低)緊急ではないものの、将来の成果や自己成長に直結する重要なタスクが分類されます。例えば新しいスキルの習得、人間関係の構築、長期的な計画の立案、健康維持のための運動などが該当します。
この領域のタスクは緊急性がないために後回しにされがちですが、ここにどれだけ時間とリソースを投入できるかが、長期的な成功を大きく左右します。意識的に時間を確保し、完成度を高めるべき領域です。
3. 第3領域:重要度(低)× 緊急度(高)さほど重要ではないものの、急いで対応する必要があるタスクが分類されます。例えば多くの電話やメールへの対応、突然の来客、一部の会議などが該当します。
これらのタスクは、あたかも重要であるかのように見えますが、実際には他人の期待に応えるためのものが多く、自分の目標達成にはあまり貢献しません。可能な限り短時間で処理するか、他の人に任せるなどの工夫が求められます。
4. 第4領域:重要度(低)× 緊急度(低)重要でも緊急でもない、いわば「無駄な」活動が分類されます。例えば、だらだらとインターネットを見る、過度な息抜き、目的のない雑談などが該当します。
この領域の活動は、意識的に削減すべきです。まずは他の領域の仕事を優先的に行い、もし時間が空いたとしても、安易にこの領域に時間を費やすのではなく、第2領域の活動に充てることを考えるべきです。
効率的なスケジュール管理とは、第1領域のタスクを適切に処理しつつ、いかにして第2領域の活動時間を確保するか、というゲームであるとも言えます。
日々のタスクをこのマトリクスに当てはめて考える習慣をつけることで、私たちは場当たり的な対応から脱却し、より戦略的で計画的な時間の使い方を実践できるようになるのです。