【3行要約】
・フィードバックは部下の成長を促す重要な対話ですが、伝え方を誤れば逆効果になることもあります。
・効果的なフィードバックには「SBI(I)モデル」や「サンドイッチ型」などのフレームワークを活用するのがおすすめです。
・マネージャーは「なぜ責め」を避け、相手の自己決定感を尊重する対話を通じて、信頼関係に基づく成長支援を実践しましょう。
フィードバックの目的
ビジネスにおけるフィードバックとは、部下やメンバーが行った業務上の行動やその結果に対して、評価や改善点を伝えるコミュニケーションのことを指します。この対話は、単なる評価の伝達に留まらず、相手の現状を正しく理解させ、課題解決や成長を促すことを主な目的としています。
企業組織においてフィードバックが実践される場面は多岐にわたり、日常的な業務指導やOJT、定期的に行われる人事評価面談、そして近年重要視されている1on1ミーティングなどが挙げられます。
基本的には上司から部下へと行われることが多いですが、チームリーダーからメンバーへ、あるいは同僚同士で行われることもあり、その方向性は一様ではありません。
現代のビジネス環境において、フィードバックの重要性はますます高まっています。その背景には、雇用形態や従業員の価値観の多様化があります。
年功序列や終身雇用といった従来の日本型雇用が変化し、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が共に働く中で、組織としての一体感を醸成し、共通の目標に向かうためには、丁寧なコミュニケーションが不可欠です。
また、管理職層の業務範囲が拡大し、一人ひとりの部下と向き合う時間が物理的に減少しがちな現代において、1on1のような形式で意図的に対話の機会を設けることは、相互理解を深める上で極めて重要です。
フィードバックは、このようなコミュニケーション不足を補い、個々の価値観を尊重しながら目標達成に向けた行動を促すための有効な手段となります。
適切なフィードバックにより得られる効果
適切なフィードバックを継続的に行うことで、組織は多くの効果を期待できます。まず、個々の従業員のパフォーマンス向上に直結します。客観的な視点からの指摘によって、従業員は自身の課題や改善点を明確に認識し、正しい方向へ努力を軌道修正することができます。これにより、業務の質や効率が向上し、目標達成へと近づきます。
さらに、フィードバックは従業員のモチベーション向上にも大きく貢献します。自身の働きぶりを上司がきちんと見てくれているという認識は安心感を生み、特に良い点を具体的に認められるポジティブフィードバックは、自己肯定感を高め、業務への意欲を引き出します。
そして、フィードバックを重ねることで上司と部下の対話が活発化し、相互理解が深まることで、強固な信頼関係が構築されます。
この信頼関係は、チーム全体の心理的安全性を高め、よりオープンなコミュニケーションが生まれる土壌となり、組織全体の活性化へとつながっていくのです。
2種類のフィードバックを使い分ける技術
先ほど「ポジティブフィードバック」という単語を出しましたが、フィードバックは、その内容や伝え方によって大きく「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」の2つに大別されます。
これらはそれぞれ異なる目的と効果を持ち、状況や相手に応じて適切に使い分けることが、効果的な人材育成の鍵となります。
ポジティブフィードバックは、前向きな言葉を用いて相手の行動や成果を肯定的に評価するアプローチです。仕事における優れた点や成長した部分に焦点を当て、「会議での積極的な発言がチーム全体に良い刺激を与えている」といったように、具体的な行動とその好ましい影響を伝えます。
この種のフィードバックは、受け手の承認欲求を満たし、自己肯定感や自己効力感を高める効果があります。自分の仕事が認められていると感じることで、従業員は自信を持って業務に取り組むようになり、仕事へのモチベーションが向上します。その結果、より積極的で自発的な行動が促され、個人の成長だけでなく、チーム全体の生産性向上にも寄与することが期待できます。
ただし、単に褒めるだけでなく、その行動を今後も継続してほしいという期待を込めて伝えることが重要です。例えば、プロセスの確認や改善といった「自己調整」の側面を褒めることは、目標達成に向けた持続的な努力を促す上で特に効果的であるとされています。
一方、ネガティブフィードバックは、業務上の問題点や改善すべき課題を指摘し、行動の修正を促すものです。「会議での発言が長すぎて要点が掴みにくい」といったように、改善が必要な点を具体的に伝えます。このフィードバックは、本人が気づいていない課題を客観的に示すことで、パフォーマンス向上のきっかけを与える重要な役割を果たします。
しかし、その伝え方には細心の注意が必要です。否定的な内容を含むため、受け手にストレスを与えたり、モチベーションを低下させたりするリスクが伴います。重要なのは、相手の人格や価値観を否定するのではなく、あくまで「特定の行動」とその「結果」に焦点を当てることです。
また、一方的に指摘するだけでなく、なぜその問題が起きたのか、どうすれば改善できるのかを本人に考えさせ、主体的な気づきを促す対話が求められます。
この2つのフィードバックは、どちらか一方に偏るのではなく、バランスが重要です。特にネガティブな指摘を行う際には、日常的な関わりの中でポジティブなコミュニケーションを積み重ね、信頼関係を築いておくことが不可欠です。
難波:ちなみに「ネガティブフィードバック」と言っていますが、100パーセントネガティブだったら、人間関係なんて簡単に破綻します。(中略)
難波:実は「ゴットマン率」という数字があって。研究者が、ポジティブ・ネガティブ、どのくらいの比率だったら人間関係が壊れないのかを調査したんですけど、職場の人間関係は、だいたい4対1です。ポジティブ4、ネガティブ1です。それを超えちゃうと、「いつもうるさいことを言っている。この人の言うことを聞いていても無駄だ」とか、「自分は何をやってもいつも怒られる」みたいなかたちになります。
学習性無力感という、「私はダメだ。いつも怒られる」みたいな状態になって、逆にどんどんやる気をなくしていきます。なので、やっぱり4くらいはポジティブなコミュニケーションで、1がネガティブです。
引用:部下へのフィードバックが「いちゃもん」に聞こえる上司の特徴 メンバーに「言いにくいこと」を伝える5つのスキル(ログミーBusiness)
この比率が示すように、日頃から相手の良い点に目を向け認める姿勢を持つことが、厳しい指摘をも成長の糧として受け入れてもらうための土台となるのです。
明日から使えるフィードバックのフレームワーク
効果的なフィードバックを行うためには、その場の思いつきで話すのではなく、構造化されたフレームワークを活用することが非常に有効です。フレームワークを用いることで、伝えるべき情報が整理され、相手にとっても理解しやすく、納得感の高い対話が実現できます。
ここでは、ビジネスシーンで広く活用されている、代表的なフレームワークをいくつか紹介します。
最も基本的かつ強力な手法の1つが「SBI(I)モデル」です。これは「Situation(状況)」「Behavior(行動)」「Impact(影響)」の3つの要素に、場合によっては「Improvement(改善)」を加えたモデルです。
まず「Situation」で「昨日のクライアント向け報告書の件だけど」というように、いつ、どこでの出来事なのか、具体的な状況を特定します。
次に「Behavior」で「こちらから催促するまで何の連絡もなかったね」というように、相手が取った具体的な行動を、主観を交えずに事実として伝えます。
そして「Impact」で「その結果、クライアントへの報告が遅れ、社内でのチェック時間もなくなってしまった。これはチームにとって大きな問題だ」と、その行動が周囲に与えた影響を客観的に説明します。
この3ステップにより、なぜその行動が問題なのかが明確になり、相手は指摘を受け入れやすくなります。
さらに「Improvement」として、「次回から絶対に期限を守るためには、どうすればいいと思う?」と問いかけることで、一方的な叱責で終わらせず、次につながる行動改善の議論へと発展させることができます。
このモデルは、客観的な事実に基づいて対話を進めるため、ハラスメントのリスクを低減しながら厳しい指導を行うことが可能です。
次によく用いられるのが「サンドイッチ型」です。これはネガティブな指摘(改善点)を、ポジティブなフィードバック(称賛)で挟み込む手法です。まず「プレゼンで取り上げた事例が非常にわかりやすく、先方からも高く評価されていたよ」と良い点を伝えます。
次に、「ただ、少し声が小さく、相手の反応を見ずに話を進めていた点が惜しかったね」と改善点を指摘します。
そして最後に、「内容そのものは本当に素晴らしかったから、今後は伝え方も工夫すれば、さらに良くなるはずだ」と再びポジティブな言葉で締めくくり、期待を伝えます。
この手法のメリットは、最初に褒めることで相手が話を聞く態勢になりやすく、最後に再び褒めることでモチベーションの低下を防ぎ、前向きな気持ちで改善に取り組めるように促せる点にあります。
ただし、伝え方によっては肝心の改善点が印象に残りにくくなる可能性もあるため、指摘する部分は明確かつ簡潔に伝える工夫が必要です。
さらに、部下の主体性を引き出すのに有効なのが「ペンドルトン型(ペンドルトンルール)」です。これは上司が一方的に評価を伝えるのではなく、対話を通じて部下自身に振り返りを促し、改善策を考えさせる手法です。
まず「今日のプレゼンテーションについて振り返ってみようか」とテーマを確認します。次に上司から「グラフを効果的に使っていて、非常にわかりやすかったよ」と良かった点を伝えます。その上で、「今回、自分自身で改善できる点があるとすれば、どんなところだと思う?」と問いかけ、部下自身に反省点を言語化させます。
部下が「少し早口になってしまったかもしれません」と答えたら、「そうだね。では、次回それを改善するためには、どうすればいいと思う?」と、具体的な行動計画まで考えさせます。このプロセスを通じて、部下は自ら課題を発見し、解決策を導き出す力を養うことができ、自律的な成長が促進されます。
これらのフレームワークを状況や相手の特性に合わせて使い分けることで、フィードバックの質を格段に高めることができるでしょう。