部下の自発性を引き出す対話型フィードバック
フィードバックは、上司から部下へ一方的に伝えるだけのものではありません。対話を通じて、部下自身の気づきや内省を促すアプローチが、自律的な成長を支援する上で非常に効果的です。
株式会社スキルベース代表の高松康平氏は、若手社員が「これで合っていますか?」と質問してくる背景には、「失敗したくない」という心理があると指摘します。彼らは結果が出た後のフィードバックではなく、失敗を未然に防ぐための事前のフィードバックを求めているのです。この問いに対して、上司は抽象的なアドバイスではなく、「どうやったらうまくいくか」という評価基準を具体的に示す必要があります。
また、株式会社ゆめみの栄前田勝太郎氏は、アドバイスをする際に答えを直接言わず、「問いかけ」にすることを心がけていると言います。「自分はどうしたいか」を考えさせる機会を提供するためです。もちろん、具体的なティーチングが有効な場面もありますが、問いによって考える習慣を促すことは、長期的な成長にとって不可欠です。
だからどんなフィードバックが来てもまず感謝が来て、それから「そっかぁ、そういうふうに見えてるんだね」と思っています。「そっかぁ、どうしよっかなぁ」という(客観的な)感覚ですね。もちろん揺さぶられる時もあるんですけど、「自分はそれを受けてどうしたい?」と確かめるようにしていますね。(中略)
やはり来たものは受け止めつつ、結局「自分はどうしたいか」を確かめにいかないと、フィードバックが糧にならないと思います。自分がどうしたいかとすり合わせながら、そのフィードバックをどうするかを考えますね。
引用:フィードバックを「成長の糧」にするか「足かせ」にするか 受け取る時に考えたい「自分はどうしたい?」の視点(ログミーBusiness)
自己評価が高い部下へのフィードバックとマネージャーの役割
マネージャーが直面する難しい課題の1つに、「自己評価が高すぎる部下」へのフィードバックがあります。
株式会社メルカリの岸井隆一郎氏によると、このようなケースでは、その自己評価が高い背景を理解することが重要ですが、基本的には「ストレートにその差分をフィードバックしていく」という方針をとっていると言います。多くの場合、自己評価の高さは、求められている期待値との目線が合っていないことに起因します。そのため、マネージャーは評価の目線合わせの場で議論された内容を踏まえ、なぜその自己評価と会社の評価に差分があるのかを具体的に説明する必要があります。
このプロセスはマネージャーにとって精神的な負担が大きい場面でもありますが、岸井氏は「マネージャーがしっかりフィードバックできるようになりましょう」というスタンスを強調しています。フィードバックはマネージャーの重要な役割であり、そこから逃げるべきではないという、根底にある考えのためです。
ただし、マネージャー1人に抱え込ませるわけではありません。株式会社メルカリでは、フィードバックの内容が重いケースであれば、HRが同席して補足説明を行ったり、上長やHRと一緒に何を伝えるべきかを事前に整理したりするサポート体制が整っていると言います。しかし、マネージャー以外が行うのはあくまでサポートであり、メインの役割はマネージャーが担うという原則は変わりません。
このような文化を醸成することで、マネージャーは自身の役割を果たすために、ストレートに事実を伝えることにコミットできるようになります。
組織全体でフィードバックの文化を醸成する方法
個々のマネージャーがフィードバックのスキルを磨くことも重要ですが、組織全体でフィードバックを奨励し、実践する文化を醸成することで、より持続的な成長につなげられます。
株式会社ゆめみの栄前田勝太郎氏によると、ゆめみでは、上司・部下が存在しないホラクラシー組織という特性から、人を動かす要素を「仕組み化」することに注力しており、フィードバックに関しても、詳細なガイドラインを設けていると言います。これは厳格なルールではなく、「これに沿ってやるとやり方がわかるよ」というマニュアル的な位置づけです。
また、同社では社内キャンペーンを通じて、フィードバックを「やってみる機会」を意図的に提供しています。「月に●回以上、相手の機会点になるようなフィードバックを行った」といったチェックポイントを設けることで、外部的な働きかけによって行動を促し、1度やってみることで心理的なハードルを下げる工夫がなされています。
こうした複層的な仕組みによって、フィードバックが特別なイベントではなく、日常業務に溶け込んだ「習慣」となることを目指しているのです。
フィードバックを習慣化させることで、時間をかけずに自然と感謝や気づきを伝えられるようになり、組織全体のコミュニケーションの質が向上していくでしょう。