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フィードバック(全1記事)

ビジネスにおけるフィードバックの意味・目的とは? 部下の成長を促す実践的な伝え方を解説 [2/2]

ハラスメントと指導の境界線

管理職が部下指導を行う上で慎重にならなければならないのが、「指導」と「ハラスメント」の境界線です。特に部下のパフォーマンスに問題があり、改善を促すために厳しい指摘が必要な場面では、その伝え方1つで相手の受け取り方が大きく変わります。

良かれと思って行った指導が、意図せず相手を精神的に追い詰め、ハラスメントと認定されてしまうケースも少なくありません。適切な指導と人格否定を伴う不適切な叱責の違いを明確に理解することは、すべての管理職にとって不可欠なスキルです。

指導や叱責を行う際にフォーカスすべきは、あくまで本人の「行動」とその「結果」です。例えば、部下が遅刻をした場合、問題なのは「遅刻した」という行動であり、それによって「会議の開始が遅れた」「チームメンバーに迷惑がかかった」という具体的な影響です。したがって、指導はこの行動と結果に焦点を当て、「遅刻という行動が、周囲にどのような影響を及ぼすのか」を客観的な事実として伝えるべきです。

ピラミッド構造で人の信念を捉える考え方では、最下層に「環境と結果」、その上に「行動」があり、さらに上位に「性格と感情」「信念・価値観」「自己認識(アイデンティティ)」が位置します。

適切な指導は、この「行動」のレベルに留まるべきであり、それより上位の「性格」や「価値観」や「自己認識」にまで踏み込んで言及することは、人格否定につながる可能性が極めて高くなります。

「だから君はだらしないんだ」「親の顔が見てみたい」といった発言は、1つの行動からその人の人格全体を否定するものであり、決して許されるものではありません。

避けるべきなのが「なぜ責め」と呼ばれる追及型の叱責です。これはミスや問題が発生した際に「なぜそうなったの?」という問いを執拗に繰り返すコミュニケーションです。「なぜ書類の提出が遅れたの?」「忘れていました」「なぜ忘れたの?」「タスク管理表への記入が漏れていました」「そもそもなぜ記入が漏れるの?」というように「なぜ」を繰り返していくと、部下は徐々に逃げ場を失い、最終的には「私の認識が甘かったです」「考えが足りませんでした」といった、本人の資質や意識の問題へと帰結せざるを得なくなります。

このような追及は、失敗の原因を客観的に分析し、再発防止策を考えるという本来の目的から逸脱し、相手を精神的に追い詰める「精神的な攻撃」に該当する恐れがあります。指導のゴールは、相手に謝罪させることではなく、具体的な改善策を引き出し、次の行動につなげることです。

このような不適切な指導を避け、ハラスメントのリスクを低減するために有効なのが、前述したSBIIモデルのような事実に基づいたコミュニケーション手法です。事実をベースに話すことで、相手も指摘内容を個人的な攻撃としてではなく、改善すべき業務上の課題として捉えやすくなり、納得感を持って次の改善策の議論に進むことができるのです。

指導とは、相手の成長を願って行うものであり、その前提には相手の人格へのリスペクトがなければなりません。

言いにくいことをどう伝えるか

フィードバックの中でも特に難易度が高いのが、相手にとって耳が痛い、いわゆる「重い指摘」を行う場面です。これには、継続的なパフォーマンスの低さに対する改善要求や、場合によっては降格・降給といった厳しい内容も含まれます。

このようなデリケートな対話は、1歩間違えれば相手の心を深く傷つけ、信頼関係を完全に破壊してしまうリスクを孕んでいます。だからこそ、その場しのぎの感情的な対応は絶対に避け、周到な下準備と、相手への配慮に満ちた対話術が求められます。

まず重要なのが下準備です。重い指摘を行う前には、伝えるべき内容を客観的な事実(ファクト)に基づいて徹底的に整理する必要があります。

例えば、パフォーマンスの低さを指摘するのであれば、「このタスクの納期が過去3ヶ月で5回遅延している」「成果物のエラー率がチーム平均の2倍である」といった具体的なデータや記録を準備します。クライアントからのクレームなどがあれば、その内容も正確に把握しておきます。

これらのファクトは指摘の根拠となり、客観的な問題提起として成立させるために不可欠です。事前に伝えるべきファクトをメモに書き出し、その情報に誤りがないかダブルチェックすることも重要です。不正確な情報に基づいて指摘をしてしまえば、その瞬間に信頼は失墜し、関係性の修復は困難になります。

次に、実際の対話の進め方です。重い内容であるからこそ、高圧的な態度ではなく、むしろ低姿勢で対話を始めることが効果的です。「少しお時間をいただいて、ご相談させていただきたいことがあるのですが」「僭越ながらお伝えしたいことがありまして」といった切り出し方をすることで、相手は身構えながらも「話を聞こう」という姿勢になりやすくなります。

そして準備したファクトを淡々と、かつ簡潔に伝えます。感情的にならず、あくまで客観的な事実として提示することがポイントです。

ファクトを伝えた後にやってはいけないのが、一方的に「こうですよね」と決めつけることです。「私が把握している事実は以上ですが、この認識で間違いありませんか?」と相手に確認を求め、補足や弁明の機会を与えることを忘れないようにしましょう。相手には相手の事情や言い分があるかもしれません。まずは事実認識について双方で合意を形成することが、次のステップに進むための土台となります。

事実認識が一致したら、次に「なぜこのような状況が起きたのか」、そして「この状況を改善するために、どのようなアクションを取るべきか」について、できる限り相手自身の言葉で語ってもらうよう、辛抱強く対話を続けます。上司が答えを提示するのではなく、問いかけによって相手の内省を促し、自ら解決策を見出させるのです。

自分の口から出た解決策だからこそ、「自分で決めた」という自己決定感が生まれ、行動変容への強いコミットメントにつながります。このプロセスには時間がかかるかもしれませんが、相手の主体性を尊重し、自己決定感を育むことが、重い指摘を真の成長機会へと転換させるための最も重要な鍵となるのです。

自己評価が高い部下へのアプローチ

マネジメントにおいて特に難しい課題の1つが、「自分は十分にできている」という自己評価を持つ部下と、上司の評価との間に生じる認識のズレです。部下は成果をアピールするものの、上司から見れば「期待水準には達していない」「プロセスに課題がある」と感じるケースは少なくありません。

このような状況で一方的に低い評価を突きつけるだけでは、部下は「正当に評価されていない」と不満や反発を抱き、モチベーションの低下や信頼関係の悪化につながりかねません。このギャップを埋めるためには、丁寧な対話を通じて、客観的な事実に基づき目線を合わせていくアプローチが不可欠です。

自己評価が高くなる背景はさまざまですが、1つには評価基準や期待役割に対する認識が上司と部下とで異なっている可能性が考えられます。部下は自分なりの基準で「できた」と判断している一方で、上司はより高いグレードや職務に求められる期待値に基づいて評価しているため、そこに差が生まれるのです。

したがって、フィードバックの第1歩は、この期待値の差分をストレートかつ具体的に伝えることです。

このような難しい対話において、マネージャーが1人で問題を抱え込む必要はありません。場合によっては、人事(HR)部門の担当者に同席してもらい、第三者の視点から客観的なフィードバックを補足してもらうことも有効です。
岸井:その方の自己評価が高い背景次第ではありますが、一般的に推察するケースを想定すると、単純に目線が合っていなくて、グレードや自分が求められている期待値に対して「いや、もっとできましたよ」というふうに自己評価している場合は、ストレートにその差分をフィードバックしていきますね。

まずはキャリブレーションの横の目線で、「いや、その自己評価じゃないよね」というふうに待ったがかかるというか。「あの差分は何?」というところがあるので、レーティングとして自己評価どおりにはもちろんいかない。

そこはマネージャーの人もけっこう苦労されるタイミングだったりするから、重いケースであればHRが同席をして、「その差分はこういうことですよ」と、HRからも補足したりすることはあります。

ただ、基本的にはマネージャーから「どこの差分でそれが出てるんだっけ?」というのはキャリブレーションで話したりもするし、フィードバックの仕方に困ればHRや上長の方と一緒に「何を伝えていくのか」を整理してから、1on1の評価・フィードバックに臨むという感じですね。

引用:自己評価が高すぎる人にはどうフィードバックする? メルカリ流・評価制度のポイントとマネージャーの役割(ログミーBusiness)

上記のとおり株式会社メルカリ HR Managerの岸井隆一郎氏が語るように、重要なのは、マネージャーが1人で悩むのではなく、組織としてサポート体制を築き、客観的で公平なフィードバックを行える環境を整えることです。

ただし、あくまでフィードバックの主体は直属のマネージャーであり、その役割を果たせるようスキルを磨くことが基本となります。

対話においてのゴールは相手を論破することではなく、評価のズレを生んでいる原因を共に特定し、「期待されている水準に到達するためには、具体的に何をどう改善すればよいか」という建設的な行動計画に落とし込むことです。

このプロセスを通じて、部下は自身の現在地を正確に把握し、納得感を持って次の成長ステップへと踏み出すことができるのです。

フィードバックが響かない時の処方箋

丁寧にフィードバックを行い、具体的な改善策についても話し合ったにもかかわらず、部下の行動がなかなか変わらない、期待した効果が見られないという事態は、多くの管理職が経験する悩みです。

1度の指摘で人が劇的に変わることは稀であり、フィードバックは「伝えて終わり」の単発イベントではありません。真の目的である行動変容を促すためには、粘り強い継続的なアプローチと、状況に応じた柔軟な対応が求められます。

フィードバックの効果が見られない場合、その原因を冷静に分析する必要があります。原因は1つとは限りません。

1つは、そもそもフィードバックの内容が相手に正確に伝わっていない、あるいは理解されていない可能性です。抽象的な表現であったり指摘が多すぎたりして、結局何を改善すればよいのかが腹落ちしていないのかもしれません。

この場合は、伝え方を変えてみることが有効です。例えば直接的な指摘ではなく、「この状況を改善するためには、どんな方法が考えられるかな?」と質問形式で投げかけ、相手に自ら答えを導き出させるコーチング的なアプローチを試みるのも1つの手です。

また、口頭でのコミュニケーションが苦手な相手であれば、メールやチャットツールなどを用いて要点を整理し、文書で伝えることで、相手がじっくり内容を吟味し、理解を深める時間を与えることができます。

もう1つの大きな原因として、上司と部下の信頼関係が十分に構築されていない可能性が挙げられます。相手を信頼していなければ、どんなに正論を述べられても、それは単なる「ダメ出し」や「批判」としか受け取られず、素直に聞き入れることは難しいでしょう。

この場合、フィードバックのテクニックを磨く以前に、関係性そのものを見直す必要があります。日常的なコミュニケーションの頻度を増やし、業務以外の雑談を交わすなどして、相手の意見や考えに耳を傾ける姿勢を示すことが重要です。

相手を一個人として尊重し、気にかけているというメッセージが伝わることで、徐々に心の壁が取り払われ、フィードバックを受け入れやすい土壌が育まれます。

そして最も重要なのが、フィードバックを継続的に、そして定期的に行うことです。人の行動や習慣が変わるまでには、一般的に約3ヶ月かかるとも言われています。一度指摘しただけで放置するのではなく、定期的な1on1ミーティングなどを通じて、その後の進捗状況を確認し、小さな変化や努力を認め、必要であれば再度軌道修正を行うといったフォローアップを徹底することが不可欠です。

進捗が芳しくない場合でも、その努力の過程を認めることでモチベーションの維持につながります。フィードバックは、点ではなく線で捉えるべきプロセスです。長期的な視点を持ち、根気強く関わり続けることで、徐々に行動は改善され、確実な成長へとつながっていくのです。

効果が見られないからといって諦めるのではなく、伝え方を変え、関係性を深め、継続的にフォローするというサイクルを回し続けることが、部下の行動変容を成功に導く鍵となります。

フィードバックを「いちゃもん」にしないために

これまでさまざまなフィードバックの技術やフレームワークについて述べてきましたが、最も根源的で重要なことは、テクニック以前の上司と部下の間にある「関係性の質」です。

どれほど論理的で巧みな伝え方をしたとしても、そこに信頼関係がなければ、フィードバックは部下の成長を促すための貴重なアドバイスではなく、単なる「いちゃもん」や「人格攻撃」として受け取られかねません。

相手の成長を心から願い、そのために耳の痛いことも伝えようというリスペクトと愛情が、フィードバックの土台には不可欠です。

フィードバックが「いちゃもん」に聞こえてしまう上司の特徴は、一方的に自分の正しさを押し付け、相手に考える時間や反論の余地を与えないことです。対話は双方向のコミュニケーションであるべきなのに、それが上司から部下への一方通行の「説得」や「論破」になってしまっているのです。

そうならないためには、いくつかの重要なスキルセットが求められます。

まず、対話を始める前に「合意を得る」ことです。「パフォーマンスについて少し気になっている点があるのだけど、そのことについて話してもいいかな?」と相手に許可を求めることで、一方的な通告ではなく、対話のテーブルに着く準備を促します。

そして対話の中では「話すより聴く」姿勢、すなわち傾聴(アクティブリスニング)が極めて重要になります。特に相手がネガティブな指摘に対して黙り込んだり、苦虫を噛み潰したような顔をしたりした時こそ、上司は沈黙を恐れずに待つべきです。その沈黙は相手が自分の中で認知の不協和と向き合い、考えを整理している時間なのです。

ここで焦って言葉を重ねたり、中途半端なフォローを入れたりすると、相手の内省の機会を奪ってしまいます。相手が言いたいことを100%吐き出し、モヤモヤした感情を整理できるまで、辛抱強く耳を傾けることが、深いレベルでの納得感を生み出します。
まず、「合意を得る」ことに関しては、先ほどお話ししたとおりです。本人に決めてもらうことが大事です。一方的にネガティブなフィードバックをすると、相手にとっては、ただの「いちゃもん」にしか聞こえないんですよ。「自分が聞きたいと思っていないのにひたすら言われた」みたいなかたちになります。(中略)

そこに対して、相手がいろいろと悩んだ結果、「確かに私にもこの点はギャップがあって、この問題を放置したらまずいですね」と。自分で考えて、自分で結論を出してもらうまで、粘り強く話し合うことが大事になります。

引用:部下へのフィードバックが「いちゃもん」に聞こえる上司の特徴 メンバーに「言いにくいこと」を伝える5つのスキル(ログミーBusiness)

上記のとおり書籍『ネガティブフィードバック』の著者である難波猛氏が語るように、最終的な結論や次のアクションは、上司が命令するのではなく、部下自身が「自分で決めた」と感じられる状態(自己決定感)に導くことが理想です。自分の口から出た言葉だからこそ、人はその実行に責任を持つのです。

このような建設的な対話は、一朝一夕に実現できるものではありません。日頃から笑顔を見せる、感謝を伝える、小さな成功を認めるなど、ポジティブなコミュニケーションを積み重ね、相手への好意や信頼、期待を伝え続けることが、強固な信頼関係の土台を築きます。

時には言いにくいことを伝えなければならないのが上司の役割ですが、それが相手の成長のためであるという真摯な思いが伝わっていれば、たとえ厳しい内容であっても、部下はそれを前向きに受け止め、自らの成長の糧とすることができるはずです。

フィードバックとは単なるスキルではなく、部下との人間関係そのものを映し出す鏡なのです。

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