【3行要約】
・職場で苦手な上司との関係に悩み「辞めたい」と感じることは珍しくありません。
・しかし、感情的な判断は後悔を招く「損な選択」になりかねません。
・上司との関係改善には「ボスマネジメント」の発想で相手を理解し、信頼を積み重ね、時には上司の上司に相談するなど、戦略的なコミュニケーションが不可欠です。
なぜ上司と合わないのか?
職場で苦手な上司や先輩との関係に悩み、「もう会社を辞めたい」と感じる人は少なくありません。ほぼ毎日顔を合わせなければならない相手との人間関係が悪い場合、逃げ場がなく、大きなストレス要因となり得ます。
ハラスメントを受けているなどの場合は早めの対応が望ましいですが、緊急度が高くない状態で上司との関係に悩んだ時には、何も考えないまま「合わない」と結論づけてしまう前に、なぜそう感じるのかを客観的に分析してみましょう。この客観的な自己分析の鍵となるのが「メタ認知」という能力です。
メタ認知とは、自分自身の思考や感情を、まるで他人事のように1つ上の視点から眺めることです。例えば上司の言動に「ムカッ」とした瞬間、その感情に飲み込まれるのではなく、「ああ、自分は今、この言葉に怒りを感じているな。なぜだろう?」と冷静に観察する力です。
このメタ認知力を鍛えることで、感情的な反応をコントロールし、より建設的な対話への道を開くことができます。
メタ認知が苦手な人は、自分の考えを「これが事実だ」と疑うことなく受け入れてしまいがちです。しかし、自分の意見や感情は、過去の経験や大切にしている価値観に大きく影響されています。価値観の違う相手と対峙した時、その違いを理解するためには、まず自分自身の意見がどのような背景から生まれているのかを知る必要があります。
昭和女子大キャリアカレッジ学院長の熊平美香氏は、メタ認知力を高めるための具体的なフレームワークとして「認知の4点セット」を提唱しています。
これは、ある「意見」に対して、それに関連する過去の「経験」、その経験に紐づく「感情」、そしてそこから見えてくる「価値観」をセットで振り返る手法です。これにより、自分の意見の根源を深く理解することができます。
熊平:価値観が違う人には、認知の4点セットを使った対話がおすすめなんです。この4点セットの対話をやると、意見が違う時にまず「なんでその人がそう思うのかを知ろうとする心」が芽生えます。さらにいうと、どういう価値観やものの見方がその意見に紐づいてるのかを知ろう、という考え方になります。
昔は私も「その人は私に反対している」と思っていましたけど、実はそうじゃない。その人は、「自分が大事にしている価値観が脅かされてる」と思っている。それが反対意見が生まれている背景だと、わかるようになってくるんです。
そうすると、私の意見に反対してるその意見はわりとどうでもよくて、「その意見の背景に何があるのかをちゃんと聞こう」となるんです。
引用:相手に「ムカッ」とした時は、人間としての成熟のチャンス 価値観の合わない人とうまくやるための「メタ認知力」の鍛え方(ログミーBusiness)
相手の意見そのものではなく、その背景にある経験や価値観に目を向けることで、対立は対話へと変わり得ます。価値観の対立は避けるべきものではなく、むしろお互いを深く理解し、人間として成熟するための「修行の場」と捉えることもできるのです。
上司との関係がうまくいかなかった経験を成長の糧に
上司との関係でうまくいかないことがあると、私たちはつい「反省」をしてしまいます。「あの時、こうすればよかった」「申し訳なかった」といったネガティブな感情に囚われ、過去の失敗を悔やむ。しかし、このような「反省」は、必ずしもすべてが未来の成長につながるわけではありません。
学習において最も重要なのは「心理的安全性」が確保されていることですが、反省には責任追及や自己否定のニュアンスが伴うため、心理的に安全な状態とは言えません。心が学習とは別の方向、つまり言い訳や自己防衛に向かってしまうため、経験からの学びを最大限に引き出すことができないのです。
ここで重要になるのが、「反省」を「内省(リフレクション)」に切り替えるという思考法です。内省は、過去の出来事が成功であったか失敗であったかを問わず、その「経験」そのものに価値があると考えます。
焦点は過去の責任追及ではなく、「その経験から何を学び、未来にどう活かすか」という未来志向の問いにあります。うまくいかなかった経験は、学びを可視化する絶好の機会であり、「この失敗があったからこそ、これがわかった」とポジティブに捉えることができます。
この考え方に立てば、無駄な経験は1つもなく、すべてが自分を成長させるための糧となり得ます。
内省は日々の業務改善だけでなく、自身のキャリアビジョンを形成し、実現していく上でも強力なツールとなります。新しい目標を立てる際には、単に「何を実現したいか」だけでなく、「なぜ自分にとってそれが大事なのか(動機の源)」や「どのような経験を経てその目標に至ったのか」といった背景を言語化することが重要です。
これにより目標がより「自分ごと」となり、困難に直面した時にも諦めずに挑戦し続けるための内発的動機が掻き立てられます。
そして、目標に向かって行動を始めたら、定期的に経験を振り返る内省を実践します。内省は、理想の姿(ビジョン)と現状とのギャップを埋めていくための作業そのものです。
行動の結果、ビジョンに近づくこともあれば、やってみた結果、目指す方向が少し違うと気づくこともあるでしょう。その都度内省を通じてビジョンを再定義し、アップデートしていくことで、常に自分にとって意味のある目標を持ち続けることができます。
このように内省は、単なる振り返りの技術ではなく、自分が目指したい姿を主体的に作り上げていくための、不可欠なプロセスなのです。
上司を動かす「ボスマネジメント」という発想
上司との関係を考える際、多くの人は「いかに上司に対応するか」という受け身の姿勢で捉えがちです。しかし、より主体的で効果的なアプローチとして「ボスマネジメント」という考え方があります。
これは、上司を「管理・対応すべき対象」として捉えるのではなく、「自分の目的を達成するために、うまく動かすべきリソース」と見なす発想の転換です。
良い仕事をし、楽しく働くためには、組織において権限や人脈を持つ上司をうまく「使う」というマインドセットが必要になることもあります。
ボスマネジメントを実践する上で、まず重要になるのが「上司のスピード感にしっかりとついていくこと」です。メールやチャットへの返信速度、資料作成などのアウトプットにかかる期間など、仕事における時間の感覚は人それぞれ異なります。上司の視点から見れば、部下の仕事の進捗が自分の想定するスピード感と合わないことは、非常に大きなストレスとなります。
仕事が今どのような状況なのか、部下が何に悩んでいるのかがわからないと、適切なフォローもできません。したがって、仕事のクオリティを追求する前に、まずは上司が期待するスピード感に応えることが、信頼を勝ち取るための第1歩となります。
このスピード感を意識し続けることで、上司からの信頼は確実に高まり、結果としてボスマネジメントがしやすくなるという好循環が生まれます。
次に重要なのが、「上司が好むコミュニケーションスタイルを押さえること」です。上司によっては、テキストベースでの報告を好む人もいれば、口頭での簡潔な説明を好む人もいます。重要な案件や「ここ一番」という場面では、意識的に相手の好むスタイルに合わせることで、コミュニケーションは格段にスムーズになります。
これは相手に媚びることではなく、目的達成のための戦略的な選択です。相手の土俵でコミュニケーションを図ることで、こちらの意図が伝わりやすくなり、上司をコントロールしやすくなるのです。
そして、ボスマネジメントの核心とも言えるのが、「上司が困っていることや要望を、腹を割って聞いてみること」です。上司の期待に的確に応えるためには、上司が何を考え、何を求めているのかを正確に理解する必要があります。
しかし、黙っていても相手の考えはわかりません。「どのような場面で、どう対応されるとうれしいか」「自分に対して、もっとこうしてほしいという要望はないか」といった質問を投げかけてみましょう。
このような問いかけをされて、嫌な気持ちになる上司はまずいません。むしろ部下から歩み寄ろうとする姿勢は、関係改善の大きなきっかけとなります。
こうした対話を通じて上司の懐に入り込み、相手の要望を的確に満たすことで、結果的に自分が上司を手のひらで転がすような、有利な関係性を築くことが可能になるのです。