交渉力を高める「信頼残高」の貯め方
上司との関係を改善し、自身の働きやすい環境を築くための「交渉」を行うには、その前提として「信頼残高」を高めておくことも重要です。
組織においては、正しいことを言っているかどうかよりも、「誰が言っているか」が重視される場面が少なくありません。影響力のない人物からの要求は、たとえそれが正論であっても、なかなか聞き入れられないのが現実です。
したがって、いきなり「こうしてほしい」と要求するのではなく、まずは周囲から「必要とされる人材」になることで、自身の交渉力を高めることが先決です。
信頼残高を貯めるための具体的な行動は、決して難しいものではありません。目指すべきは、上司や同僚から「頼れるやつだ」または「感じのいいやつだ」と思われる存在になることです。この2つの軸を意識し、1ヶ月から3ヶ月という期間を決めて行動するだけでも、周囲からの評価は大きく変わります。
また、上司とのコミュニケーションにおいては、上司が部下に何を求めているのかを正確に理解し、自分の「がんばり」がその期待からズレていないかを確認することも大切です。部下として一生懸命に仕事に取り組んでいても、その努力の方向性が上司の求めるものと異なっていると、評価に結びつかないばかりか、すれ違いが生じてしまいます。
例えば、上司が求めているのが3枚程度の簡潔な報告書であるにもかかわらず、徹夜をして分厚い詳細な資料を作成しても、「なんだこれは」と一蹴されてしまうかもしれません。これは、部下の視座でしか物事を捉えられていないために起こる悲劇です。
上司の思考法や視座を理解し、彼らが何を望んでいるのかをピンポイントで把握する努力が、無駄な努力を避け、最短で結果を出す「デキる社員」への道となります。
このような日々の積み重ねによって信頼残高が貯まっていけば、あなたの言葉には重みが生まれ、交渉の成功率も格段に高まるでしょう。
冗談のように希望を伝えるテクニック
上司との関係を改善するために、信頼残高を貯め、いざ自身の希望を伝えようとする時、その伝え方には細心の注意が必要です。多くの人がやりがちな失敗は、「お話があるのですが」と真正面から切り出し、真面目なトーンで交渉を始めてしまうことです。
しかし、このような方法は相手を身構えさせてしまい、かえって交渉を難しくすることが少なくありません。特に、相手の立場やメンツを重んじる文化の中では、より巧みなアプローチが求められます。
コミュニケーション能力の高い人が実践しているのは、「冗談のように希望を伝える」というテクニックです。これは相手のメンツを立てながら、カジュアルな雰囲気の中でこちらの要望を滑り込ませる高等技術です。
いきなり正面から要求を突きつけるのではなく、まずは感謝の言葉などで相手の気持ちを和らげ、ポジティブな関係性を確認した上で、軽やかに本題に触れるのです。これにより、相手は攻撃されていると感じることなく、こちらの意見に耳を傾けやすくなります。
交渉はいきなり正面から言わないんです。ドン! メンツを立てて冗談のように伝えていくのが、本当にコミュ力のある方がやる方法なんですね。「伊庭さ〜ん、めちゃくちゃ感謝してま〜す。ただ1つだけお願いがあるんです。ギリギリに言うのだけ、やめてもらえるとうれしいんです。いやいやいや、私が悪いんですよ。でも伊庭さんいつもギリギリですよね」、こんな感じです。
引用:「ストレスで辞めたい」という人が絶対にやってはいけないこと 職場の人間関係に悩む人への処方箋(ログミーBusiness)
特に目上の方に対しては、その立場を尊重する姿勢を示すことが、信頼関係を維持し、こちらの要望を受け入れてもらうための鍵となります。上司に何かを伝えたい時には、いかにして相手のプライドを傷つけず、かつこちらの意図を的確に伝えられるか。その表現方法を戦略的に練ることが、成功への近道となります。
それでもダメなら我慢はしない
ボスマネジメントを駆使し、信頼残高を貯め、巧みな交渉術を試みても、残念ながら状況が改善しないケースも存在します。相手がどうしても変わらない、あるいは組織構造上の問題があるなど、個人の努力だけでは乗り越えられない壁に直面することもあるでしょう。
そのような状況に陥った時、やらないほうが良いのは「ひたすら我慢すること」です。我慢はストレスを蓄積させ、心身の健康を蝕むだけで、良い結果を生みません。人生の貴重な時間を無駄にしないためにも、我慢という選択肢は捨て、然るべき次の行動に移るほうが得策でしょう。
その具体的な行動の1つが、「上司の上司に相談する」ことです。これは、直属の上司と敵対するための告げ口ではありません。より大局的な視点を持つ上位の管理者に、現場で起きている問題を報告し、解決策を共に探るための建設的なアプローチです。
上司の上司は、組織全体をマクロな視点で見ており、有能な人材が理不尽な理由で会社を辞めてしまうことを嫌います。また、彼らはあなたの直属の上司のマネジメント能力に課題があることを、すでにある程度認識している可能性もあります。
したがって、部下であるあなたから具体的な相談があれば、何らかの対策を講じる必要性を感じ、異動や役割変更など、具体的な解決策を提示してくれる可能性が高いのです。
しかし、上司の上司に相談してもなお、状況が好転しない場合もあります。その時は無期限に期待し続けるのではなく、「時期を決める」という戦略が有効になります。「この1年間は現状維持で様子を見る」「次の異動時期までに改善が見られなければ行動を起こす」というように、自分の中で期限を設定するのです。
この戦略の背景には、「組織は常に変化する」という事実があります。1〜2年も経てば上司が異動したり、自分自身のミッションが変わったりと、状況が自然に変わることは珍しくありません。
時間という要素を味方につけ、戦略的にキャリアを考えることが、感情的な消耗を避け、自分にとって最善の選択をするための鍵となるのです。
「他人を変えることはできない」という原則も忘れずに
上司との関係に悩み、さまざまな対処法を試みても、時に私たちは「この人とは根本的にわかり合えないのかもしれない」という無力感に襲われることがあります。
相手の怒りっぽい性格や、いつもズレていると感じる意見、回りくどい話し方など、変えようのない個性に直面すると、コミュニケーション自体を諦めたくなるかもしれません。
ここで思い出してほしいのは、「他人を変えることはできない」という原則です。他人を変えようとすればするほど、私たちは多大なストレスを抱え、疲弊してしまいます。
この困難な状況を乗り越えるための、シンプルかつ強力な心構えがあります。それは、「この人はこういう人なのだ」と、あるがままに受け入れることです。この言葉は、諦めや妥協とは異なります。相手の特性を客観的な事実として認識し、感情的な反応から距離を置くための精神的なテクニックです。
例えば、怒りっぽい上司がまた怒り始めたら、心の中で「ああ、また始まったな。この人はこういう人だから」と唱えてみる。すると、不思議と冷静に相手の言葉を聞くことができるようになります。
相手の言動を自分の価値観で「良い・悪い」と判断するからイライラするのであり、「その人はそういう人なのだ」と認めてしまえば、冷静な対応が可能になるのです。
すべてに言えることだけど、他人を変えたり人を変えようとすればするほど、ものすごくストレスになって、自分だけがものすごく疲れちゃってダメージを受ける羽目になるので。「この人はこういう人だ」という言葉をみなさんにお送りしたいですね。
例えば、みなさまの上司が怒りっぽいんだと。また怒ってきたら、「この人はこういう人だ」「また怒ってきた。ははははは」と思いながら聞くんですね(笑)。患者さんにもそういう怒りっぽい人がいるのね。「ああ、怒りっぽい患者さんが来たな」「うんうん、また怒ってますね」と、冷静に聞けばいいので。
その人なりのいろんな特徴があるから、「自分ならそんなことをしないのに」「自分ならそんなことをしないですぐできるのに」って思うとイライラしちゃうんですよ。だけどそうじゃなくて、「その人はそういう人だ」ということをまずは認めてあげると、冷静に対応できるんですね。
引用:上司が部下に求めているものと、部下の“がんばり“は必ずズレる 上司とのコミュニケーションで悩まないためのコツ(ログミーBusiness)
ムカつく上司、苦手な先輩のために、あなたが損をする必要はありません。今回紹介したような考え方やテクニックを実践すれば、状況が改善するケースもあることでしょう。
その困難を乗り越えた経験は、あなたのコミュニケーションスキルを飛躍的に向上させ、今後のキャリアにおいてかけがえのない財産となるはずです。