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仕事の雑談(全1記事)

仕事に雑談は必要なのか? 重要性・効果と、社員同士が話しやすくなるコツを紹介 [1/2]

【3行要約】
・リモートワークの普及により雑談の機会が減少し、その重要性が再認識される一方で、形骸化した取り組みが新たな問題を生んでいます。
・中途半端な雑談は孤独感を増大させ、「雑談してください」という指示自体が雑談の本質を損なってしまいます。
・企業は雑談を「させる」のではなく「生まれる環境」を設計し、チーム内の関係構築から始め、段階的に対応する必要があるでしょう。

そもそも雑談とは何か?

職場のコミュニケーションを語る上で頻繁に登場する「雑談」という言葉ですが、私たちはその本質を正しく理解しているでしょうか。

株式会社遭遇設計の代表取締役である広瀬眞之介氏は、法政大学経営学部の長岡健先生の定義を引用し、雑談を「非公式かつ内向きなコミュニケーションである」と説明しています。これは、雑談を他のコミュニケーション形態と区別する上で非常に重要な視点です。

ビジネスにおけるコミュニケーションは、大きく分けて「公式(フォーマル)」か「非公式(インフォーマル)」か、そして「内部向け」か「外部向け」かという2つの軸で分類できます。

例えば、「会議」は内部向けの公式なコミュニケーションであり、「商談」や「コンペ」は外部向けの公式なコミュニケーションです。一方、外部向けの非公式なコミュニケーションの例としては「接待」が挙げられます。

そして「雑談」は、このマトリクスの中で「内部向け」かつ「非公式」な領域に位置づけられます。つまり、明確な目的や議題が設定されておらず、社内のメンバー同士で交わされるインフォーマルな会話、それが雑談の本質です。

この定義を理解すると、なぜ雑談の促進が難しいのか、その理由も見えてきます。

また、雑談を「関係性づくり」や「割のいい投資」と捉える視点も有効です。雑談は、業務上の利害関係とは別の、純粋な人間関係を構築する土台となります。相手のキャラクターや価値観、プライベートな一面などを知ることで、心理的な距離が縮まり、信頼関係が醸成されます。この関係性という資産は、1度築けば簡単には崩れません。

例えば、頻繁に雑談を交わした同僚とは、たとえ部署が離れても協力しやすかったり、相談しやすかったりするでしょう。これは、雑談という投資活動によって得られたリターンと言えます。

一方で、「無駄話」や「情報交換」と雑談は明確に区別されるべきです。無駄話は、お互いに話題への関心がなく、ただ時間や空間を埋めるためだけの空虚なやりとりです。情報交換は、業務に必要な情報だけを効率的にやりとりする行為であり、そこに関係性の構築という側面は希薄です。

雑談は、たとえ内容が軽くても、お互いに興味や関心を持ち、これから続く関係性を前提としたコミュニケーションであるという点で、これらとは一線を画します。この本質を理解することが、効果的な雑談をデザインする第1歩となるのです。

「雑談すること」が目的になった時に生まれるジレンマ

雑談が「非公式なコミュニケーション」であるという定義は、ある厄介なパラドックスを生み出します。それは、「雑談をしよう」と目的を設定した瞬間に、その行為が公式なものへと変質し、もはや厳密な意味での雑談ではなくなってしまうという問題です。

「雑談してください」「目的のない会話をしてください」という指示や依頼は、それ自体が「雑談という目的」を設定する行為です。その瞬間、参加者には「何か話さなければならない」「場を盛り上げなければならない」というプレッシャーがかかり、インフォーマルな雰囲気は失われます。

これは、会社が主催するイベントや研修で、初対面の人々と「さあ、雑談してください」と言われても、多くの人が戸惑ってしまうのと同じ現象です。共通の話題を探すところから始めなければならず、自然な会話が生まれるまでには高いハードルが存在します。

この問題は、近年多くの企業で導入されている1on1ミーティングの場でも顕著に現れます。一般財団法人1on1コミュニケーション協会 代表理事の世古詞一氏は、雑談がうまく機能するかは上司と部下の「関係性」に大きく依存すると語ります。関係性が近ければ、雑談は打ち解けた雰囲気を作る良いきっかけになります。しかし、関係性が遠い、あるいは良好でない場合、雑談はむしろ苦痛でしかありません。

特に問題となるのが、上司からの「最近どう?」という漠然とした問いかけです。これは、多くの部下が戸惑いを感じる典型的なパターンです。

部下からすれば、「最近どう?」という全方位的な質問に対して、どの範囲の、どの話題について話せばよいのかを考えること自体が大きな負担となります。プライベートの話なのか、仕事の進捗なのか、キャリアの悩みなのか。その判断をすべて委ねられてしまうことで、かえって口を閉ざしてしまうのです。

世古氏は、このような場合には「あの業務、最近やっていてどう?」のように、少し話題を絞ってあげるだけで、部下は格段に話しやすくなるとアドバイスしています。

このように、雑談を意図的に生み出そうとする試みは、その非公式な本質を損ないやすく、特に当事者間の関係性が成熟していない場合には、かえってコミュニケーションを阻害する要因になり得るのです。

中途半端な雑談はむしろ孤独感を強める

雑談がコミュニケーションの潤滑油として機能し、チームの生産性を向上させる可能性がある一方で、その取り組み方によっては逆効果になりかねないという、非常に重要な事実が調査によって示されています。

株式会社Enbirthが実施した調査では、雑談の取り組みの「質」が、従業員の生産性認識や孤独感に大きく影響することが明らかになりました。

まず、「雑談と生産性」の関係について見てみると、「テレワークになってから、コミュニケーションを増やすため、雑談の取り組みをしていますか?」という質問に対し、「している(そう思う)」と自信を持って回答した層では、生産性が上がったと認識している傾向が見られました。

これは、明確な意図と設計のもとで質の高い雑談が実践されている場合、それが業務効率や成果に良い影響を与えることを示唆しています。

しかし、注目すべきは「ややそう思う」と回答した層です。この層は、何らかの取り組みはしているものの、それが十分であると自信を持って言えるレベルではない人々を指します。

彼らの回答では、生産性は「変わらない」という結果が出ています。つまり、中途半端な雑談の取り組みは、生産性向上にはほとんど寄与しない可能性が高いのです。

さらに深刻なのは、「雑談と孤独感」の関係性です。テレワークにおける孤独感は広く知られた課題ですが、雑談がその解消にどう影響するのでしょうか。調査結果は、ここでも取り組みの「質」の重要性を浮き彫りにします。

雑談の取り組みを「している」と明確に回答した層では、孤独感が軽減されるというポジティブな結果が見られました。ところが、「ややそう思う」と回答した層では、驚くべきことに孤独感が「増している」という結果になったのです。

この点について、株式会社Enbirth CEOの河合優香理氏は次のように述べています。
でも、「ややそう思う」と回答している方たちは、逆に孤独感が増しているんですね。なんとなく雑談の取り組みをすることによって、逆に孤独を感じてしまっている。みなさんも、「ああ、そういうこともあるかもしれない」と感じるんじゃないでしょうか。

しっかりした雑談の取り組みをするのであれば、孤独感の軽減につながるが、中途半端だと逆に孤独感が増してしまうのが、調査結果から見てとれると思います。やはりやっているだけでは意味がなくて、雑談といえども、どうやるのかが非常に重要なんですね。

引用:「正直、忙しい時に雑談で時間を取られるのってキツい」 中途半端な「雑談」は、むしろ社員の孤独感を強める原因に(ログミーBusiness)

形式的に設けられた雑談タイムで、一部の人だけが話し、他の人は聞き役に徹するしかない状況を想像してみてください。それは一体感を醸成するどころか、むしろコミュニティからの疎外感を強め、孤独を深める原因となり得ます。「やっているだけ」の雑談は、もはや無意味であるだけでなく、有害でさえあるのです。

この事実は、企業がコミュニケーション施策を導入する際に、その目的と方法論をいかに深く検討する必要があるかを強く示しています。

雑談が自然に生まれる「3つの要素」とは

では、「雑談を命令する」という矛盾を避けつつ、自然な雑談を促進するにはどうすればよいのでしょうか。その答えは、直接的に会話を促すのではなく、雑談が生まれやすい「環境」や「状況」を意図的に設計することにあります。

株式会社遭遇設計の広瀬眞之介氏は、雑談が発生しやすくなる条件として「適度な距離」「適度な暇」「自然な理由」という3つの要素を挙げています。これら3つが重なる場所や状況では、たとえ初対面の人同士であっても、ごく自然に会話が始まるのです。

この考え方は、古くからオフィス設計の分野で実践されてきました。例えば、かつての「たばこ部屋」や、終業後の「飲みニケーション」は、まさにこの3要素が揃った空間でした。

しかし、喫煙率の低下や働き方の多様化により、これらの場はすべての人をカバーできなくなりました。そこで、オフィス設計者たちは、よりインクルーシブな形で雑談を誘発する空間、いわゆる「マグネットスペース」を考案してきました。

社内カフェや、意図的に通路に設置された立ち話スペースなどがその代表例です。広瀬氏がコミュニティマネージャーを務めていたコワーキングスペースの事例は、この設計思想を非常にわかりやすく示しています。

そこに設置されていたのは、一杯のコーヒーを淹れるのにわざと時間がかかるコーヒーサーバーでした。コーヒーが出来上がるのを待っている間、人は手持ち無沙汰になります。これが「適度な暇」です。サーバーの前には自然と人が並ぶため、物理的に「適度な距離」が生まれます。そして「コーヒーを淹れに来た」という共通の目的が「自然な理由」となり、そこに居合わせることへの違和感をなくします。

この3つの条件が揃った状況で、「今日はどちらからですか?」と話しかければ、ごく自然に会話が始まります。もし何もない場所で突然同じように話しかければ、相手は警戒心を抱くかもしれません。時間がかかるコーヒーメーカーは、まさに雑談を生み出すための触媒として機能していたのです。

さらに、虎ノ門ヒルズの隣で行われた「焚き火」の事例も示唆に富んでいます。複数の異なるイベントが同時開催されるスペースの入口で、冬の寒い日に焚き火をしました。

受付を待つ人々は寒さをしのぐため、イベントのジャンルに関係なく自然と焚き火の周りに集まります。火にあたるためスマホは持てず、暇になり、距離も近くなります。すると、「どのイベントに来たんですか?」といった会話が自然に始まり、普段なら交わることのなかった人々がつながるきっかけが生まれたのです。

これらの事例は、雑談とは「させる」ものではなく、巧妙に設計された環境によって「生まれる」ものであることを教えてくれます。

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