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人的資本経営(全1記事)

人的資本経営とは? 注目される背景から経営戦略と連動した情報開示の考え方まで紹介 [1/2]

【3行要約】
・人的資本経営とは、従業員への投資が「行動成果」を通して「企業業績」を高めるという考え方に基づく経営手法で、その実践が企業の持続的成長の鍵となっています。
・経済産業省も推進するこの考え方は、労働人口減少という危機的状況において、企業が「選ばれる」ための最強の採用力と求心力を持つことの重要性を示しています。
・人的資本経営を成功させるには、経営戦略と連動した人材戦略の策定と、心理的安全性という土台づくりが不可欠であり、各企業が自社独自の答えを見出すことが求められています。

人的資本経営とは? 従来の経営手法との違い

人的資本経営とは、経済産業省の定義によると、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方を指します。近年、多くの企業でこの考え方が注目されています。

この経営手法が従来の人材戦略と大きく異なる点は、人材を「資源」として見るか、「資本」として見るかという根本的な視点の違いにあります。

これまでの経営では、人材は「人的資源」と呼ばれ、企業の四大資源「ヒト・モノ・カネ・情報」の1つとして数えられてきました。この考え方では、人材にかかる費用、例えば給料や福利厚生費は「コスト」として管理される傾向にあります。資源は消費されるものであり、コストは抑制すべき対象と見なされることが少なくありませんでした。

一方で、人的資本経営における「資本」という言葉は、より強い意味合いを持ちます。資本とは、投下することによって将来的にさらなる価値を生み出す源泉を指します。つまり、人材をコストではなく「投資」の対象として捉えるのです。

従業員の教育研修、スキルアップ支援、健康管理などにかかる費用は、将来の企業成長を支えるための重要な投資活動と位置づけられます。

この視点の転換は、単なる言葉の違いに留まりません。人材をコストと見なせば、経営状況が悪化した際に人件費削減が選択肢に上がりやすくなります。しかし、人材を投資対象の資本と捉えれば、短期的なコスト削減のために将来の価値創造の源泉を削ぐことは、経営戦略として合理的ではないという判断に至ります。

このように、人材を「資本」と捉え直すことは、経営の意思決定プロセスそのものに影響を与えます。従業員一人ひとりの能力や経験を企業の「見えない資産」として評価し、その価値をいかにして最大化するかを考えることが、人的資本経営の出発点となるのです。

人的資本は「行動成果」を通して「企業業績」を高める

人的資本への投資が、なぜ中長期的な企業価値の向上につながるのか。そのメカニズムを理解するためには、投資がもたらす影響の連鎖を捉えることが重要です。結論から言えば、人的資本への投資は、従業員の「行動成果」を高めることを通じて、最終的に「企業業績」に貢献します。

教育研修や能力開発プログラムといった人的資本への投資が、直接的に売上や利益といった業績指標に結びつくわけではありません。これらの投資はまず、従業員の知識やスキル、意欲を向上させます。

そして成長を実感した従業員は、日々の業務においてより質の高い行動をとるようになります。この「行動の変化」こそが、業績向上のための重要な中間ステップです。

この関係性について、株式会社日本能率協会マネジメントセンターの斎木輝之氏は次のように解説しています。
人の投資が何に影響するのかは論文でも立証されています。スライドのタイトルにありますが、人的資本は「行動成果」を通して「企業業績」を高めるものです。

「それはそうだろう」と思われるかもしれませんが、なかなかこれを学術的に証明したものは少ないです。

例えば教育研修がダイレクトに業績に直結するというよりも、それによって行動がしっかり変わっていく。その行動変化の繰り返しが、企業の業績に影響を与えるということです。ですので、人的資本が企業業績に効果を与えるのは間違いありませんが、まずは行動の成果をしっかりと高めていくことにコミットするのが重要です。

右側は、教育効果測定の考え方として知られている「カークパトリック・モデル」です。人的資本の活用では、全4段階の3番目にある「行動」にどれだけフォーカスして、育成プログラムを作っていくかが重要です。

引用:「人的資本経営」を実現するための、「測定」のポイント 人事領域で「数値」に基づく意思決定を行うために必要なこと(ログミーBusiness)

この指摘の通り、研修の満足度(カークパトリック・モデルのレベル1)や学習の習熟度(レベル2)を測るだけでは不十分です。重要なのは、研修で学んだことが職場で実践され、具体的な行動変容(レベル3)につながっているかを確認することです。

そして、その積み重ねが組織全体の生産性向上やイノベーション創出といった成果(レベル4)となり、企業業績に反映されるのです。

したがって、人的資本経営を実践する企業は、単に研修機会を提供するだけでなく、学んだ知識やスキルが実際の業務で活用されるための環境整備や、行動変容を促すための仕組みづくりにも注力する必要があります。

育成プログラムの設計段階から「仕事での活用」をゴールに据え、学習環境やプロセス全体を最適化していく視点が不可欠と言えるでしょう。

企業が「人的資本」に力を入れる理由

近年、人的資本経営が急速に注目を集めている背景には、日本が直面する深刻な社会構造の変化があります。特に、少子高齢化に伴う労働人口の減少は、企業経営に大きな影響を及ぼしています。

かつてのように豊富な労働力を前提とした経営はもはや成り立たず、企業は限られた人材の価値を最大限に引き出す経営へと舵を切らざるを得なくなりました。労働人口が減少し続ける中、採用の難易度は高まり、同時に、働く個人の交渉力は相対的に向上しています。

従業員が働く場所を選び、働き続けるかどうかを主体的に決定する時代において、企業には「選ばれる」ための努力が求められます。

こうしたマクロ環境の変化を捉えると、現代の企業にとって「最強の採用力」と「強烈な求心力」を持つことが、生き残りをかけた最重要課題であると言えます。優秀な人材を惹きつけ、定着させ、その能力を最大限に発揮してもらうことこそが、持続的な成長の鍵となるのです。

経営戦略論の歴史を振り返っても、その中心的なテーマは時代とともに移り変わってきました。1970年代から80年代が優れた事業戦略そのものが競争優位の源泉となる「戦略の時代」、1990年代が戦略を実行する組織能力が問われた「組織の時代」であったとすれば、2000年代以降はまさしく「人材の時代」です。

いかにして優れた人材を確保し、育て、活かすことができるかが、企業の盛衰を分ける決定的な要因となっています。

実際に多くの企業で、事業戦略の優劣よりも、人材の確保や育成、定着といった課題が経営のボトルネックとなっているケースは少なくありません。さまざまな企業が人的資本経営を推進しているのは、こうした現状に対する強い危機感の表れです。

「人的資本」の4つの特性

人的資本経営を実践する上で、その対象となる「人的資本」が他の資本、例えば金融資本や固定資本と比べてどのような特性を持つのかを深く理解しておく必要があります。人的資本には、経営の意思決定を左右する、特有の性質が少なくとも4つ存在します。

1つ目に、「価値の変動幅が異常に大きい」という特性です。1人の人材を資本として捉えた時、その価値は入社時点から大きく変動する可能性があります。適切な育成や機会提供によって価値が数倍、数十倍に跳ね上がることもあれば、逆に、エンゲージメントの低下やミスマッチによって、組織にマイナスの影響を及ぼす存在にさえなり得ます。

特に中小ベンチャー企業では1人の従業員が与える影響が大きいため、この変動幅は経営を大きく左右します。

2つ目に、「いきなりなくなる」というリスクです。どれだけ価値の高い人的資本であっても、離職や転職によって、ある日突然その資本が失われる可能性があります。

人材の流動性が高まる現代において、このリスクは常に存在します。企業にとって価値ある人材に定着してもらうためのエンゲージメント向上の取り組みは、このリスクを管理する上で極めて重要です。

3つ目に、「勝手に成長する(こともある)」という特性です。人的資本は、自律的に学習し、経験から学び、成長していくポテンシャルを持っています。もちろん、すべての人が同じように成長するわけではありませんが、適切な環境と動機づけがあれば、企業が意図した以上の成長を遂げることもあります。

この自律的な成長をいかに引き出すかが、人的資本経営の腕の見せどころと言えるでしょう。

4つ目に、「模倣が異常に難しい」という点です。ある企業で成功している人材戦略や、それによって形成された組織文化、人材ポートフォリオを、他社がそのまま真似て同じ成果を出すことは極めて困難です。これは、人的資本が企業の歴史や文化、戦略と複雑に絡み合って形成されるためです。だからこそ、1度、人的資本における強固な競合優位性を確立できれば、それは持続的な価値創造の源泉となり得るのです。

これらの特性は、人的資本経営が大きなリターンをもたらす可能性がある一方で、難易度が高く、リスクも伴うことを示唆しています。

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