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心理的安全性(全1記事)

心理的安全性とは? リーダーが実践したいコミュニケーション術とチームづくりの具体策 [2/2]

Appleの事例に学ぶイノベーションを加速させる心理的安全性

イノベーション、すなわち既存の枠組みを打ち破るような新しい価値の創造は、現代企業が持続的に成長するために不可欠な要素です。そして、このイノベーションを生み出す土壌として、心理的安全性が極めて重要な役割を果たします。

なぜなら、イノベーションの種となる斬新なアイデアや挑戦的な試みは、本質的に失敗のリスクを伴うからです。失敗が許容されず批判を恐れる環境では、誰も既存の成功パターンから逸脱しようとはせず、組織は「成功の罠」に陥ってしまいます。

多くの企業では、事業が成熟するにつれて、新しいアイデアを探求する「知の探索」よりも、既存事業を深掘りする「知の深化」に偏りがちです。過去の成功体験が組織内の暗黙のルールとなり、それを踏襲することが評価される文化が根付くと、既存の枠組みを外れるような意見は「空気が読めない」と見なされ、潰されてしまいます。

このような環境では、たとえ会社が「イノベーションを推進する」とスローガンを掲げても、現場のメンバーは上司や周囲の顔色をうかがい、当たり障りのない提案しかできなくなります。

イノベーションを生み出すためには、結果だけでなく、そのプロセス自体を変える必要があります。つまり、粗削りなアイデアでも気兼ねなく発言でき、たとえ失敗してもそこからの学びが評価されるような、心理的に安全な環境を意図的に構築することが不可欠なのです。

この点で、Apple社の取り組みは示唆に富んでいます。同社は、環境対策という壮大なパーパス(目標)の実現に向けて、全社的に心理的安全性の高い文化を醸成しています。
松村:そうなんですよ。彼女が環境保護庁からAppleの環境担当に移った時に「一番興奮していることは、世界中のAppleの社員から毎日のように環境に良いことのアイデアが集まることだ」と言っているんですね。(中略)

あんなに巨大な会社なんですけど、全社一丸となって環境対策に取り組み、アイデアが思いついたらすぐ役員にメールしちゃう環境は非常に特殊であり、でもそれがモチベーションになっているなと思っています。

引用:Apple社が「心理的安全性」を高め生まれた効果 すぐ「役員にメール」できる仕組みがもたらしたもの(ログミーBusiness)

Appleの事例が示すのは、明確なパーパスの下で、「アイデアを躊躇なくシェアできる」文化がいかに強力なイノベーションの駆動力となるかということです。ロンドンのストアスタッフから製品のパッケージに関するアイデアが出たり、チップの開発者から省電力化に関する提案が出たりと、役職や部門の垣根を越えて、世界中の社員から直接役員にアイデアが届く仕組みが機能しています。

これは、社員一人ひとりが「自分のアイデアには価値があり、真剣に検討してもらえる」と信じられる、高い心理的安全性が担保されている証拠です。イノベーションを真に求めるならば、このようなボトムアップのアイデアを歓迎し、実現に向けて支援する組織文化と仕組みを構築することが不可欠です。

「過保護」に陥らないための境界線

心理的安全性の重要性が広く認識される一方で、その概念が誤って解釈され、「部下を甘やかすこと」「過保護になること」と同義に捉えられてしまうという新たな課題が生まれています。上司が部下への厳しい指摘や要求をためらうようになり、結果として部下が育たないという問題です。

真の心理的安全性は、メンバーの成長を促すための土台であり、決して「ぬるま湯」状態を肯定するものではありません。心の安全を担保しながら、いかにしてメンバーの成長を促すか、その絶妙なバランス感覚がリーダーには求められます。

この問題を考える上で参考になるのが、ティール組織で重要視される「ホールネス(Wholeness)」という概念です。ホールネスとは「分断されていない状態」を意味し、職場において仮面をつけることなく、ありのままの自分でいられる環境を指します。

ティール組織では、「自分すら気づかなかった自分に気づけるぐらい安全な」環境を目指します。これは、一人ひとりの中に眠っている情熱や可能性、その人らしさが臆することなく発揮される状態です。

ただし、これは単なる優しさとは異なります。ティール組織では、組織内に安易な親子関係(上司が親、部下が子)や、救済者と犠牲者といった役割が生まれることを避ける構造を作ります。メンバーを未熟な子どもとして扱うのではなく、一人の「大人として扱う」ことで、自律的な成長を促すのです。

この考え方は、「必要な恐怖」と「不必要な恐怖」を区別するという視点にも通じます。組織において排除すべきは、「不必要な恐怖」です。これには、上司からの暴言や人格否定、陰口といった、人間的な尊厳を傷つける行為が含まれます。このような恐怖は、メンバーを萎縮させ、心理的安全性を根本から破壊します。

一方で、メンバーの成長には「必要な恐怖」も存在します。それは、「上司から正当な評価を得られないことへの恐怖」や、「自分が成長できていないことへの恐怖」です。これは、自身の役割や責任を果たす上での健全な緊張感であり、パフォーマンス向上への動機付けとなります。

リーダーの役割は、不必要な恐怖を徹底的に排除し、心理的に安全な基盤を築いた上で、メンバーがこの必要な恐怖と向き合い、挑戦し、成長できるような環境を整えることです。

したがって、心理的安全性を高めることは、上司が部下への指示や注意を行わなくても良いということでは決してありません。むしろ、信頼関係という土台があるからこそ、厳しいフィードバックや高い要求も、相手の成長を願うポジティブなメッセージとして受け止められるのです。

部下が責任を果たすために権限を行使し、時には上司に対してもはっきりと異論を唱えられるような、健全な対立が生まれる職場環境こそが、メンバーと組織の双方を成長させるのです。過保護は、部下から自ら考え、行動する機会を奪い、その可能性の芽を摘んでしまう行為であると認識する必要があります。

ハラスメントにならないフィードバックの技術

心理的安全性の高い組織文化を築く上で、リーダーが直面する最も困難な課題の一つが「フィードバック」、特に行動改善を促すための厳しいフィードバックです。伝え方によって相手の成長を促す貴重な機会にもなれば、ハラスメントと受け取られ、信頼関係を損なう原因にもなり得ます。心理的安全性を維持しながら、効果的なフィードバックを行うには、高度なコミュニケーション技術が求められます。

まず、フィードバックで重要な要素の一つは「タイミング(速度)」です。ネガティブな事象であれ、ポジティブな事象であれ、フィードバックは可能な限り即時に行うべきです。問題行動があったその瞬間に伝えるのと、数日後の面談で伝えるのとでは、その効果は大きく異なります。時間を置けば置くほど、指摘の意図が伝わりにくくなり、溜め込んだ不満をぶつけているかのような印象を与えかねません。

多くのリーダーは、「裏付けを取らなければ」「相手の気持ちを配慮して」などと考えすぎるあまり、伝えるタイミングを逃してしまいがちです。しかし、コンパイラがコードのエラーを即時に教えてくれるように、フィードバックもまた、わかった瞬間、違うと思った瞬間に伝えることが効果的なのです。

もちろん、衆人環視の状況で相手を叱責するなど、伝え方への配慮は必要です。しかし、その配慮のためにフィードバック自体を見送るのではなく、「ネガティブな効果がなく、ポジティブに作用する方法で、いかに速く伝えるか」を考えるべきです。

そのための心構えとして、「思ったことを言う、ただし意地悪に言わない」という原則を持つことが有効です。自分の感情を大切にし、「イヤだな」と感じたことを素直に伝える訓練が、健全なフィードバックの第一歩となります。

さらに、フィードバックを「聴く」と「伝える」のコミュニケーションに分解し、テーマによって使い分けるという考え方が非常に有効です。この使い分けを視覚化した「Positive Intention Matrix」というフレームワークがあります。
まず軸の説明からするんですけど、縦軸は、下のものが上のものに影響を与えるという軸になっています。(中略)

横軸は、「人生がキャリアに影響を与える」「キャリアは役職に影響を与える」「役職はタスクに影響を与える」と、左のものが右のものに影響を与えるという順番で並んでいます。(中略)

よく傾聴の研修なんかをすると、「とにかく聴きなさい」と言われるんですけど、仕事の行動レベルの話はジャッジメントなく聞いていると、ものすごくスピードが遅くなりますし、効率が悪いと思うんですよ。

だって知識や経験があって、(正しい)判断はわかっているわけなので、「これはこうやったほうがいいよ」と伝えたほうがいいと思いますし。「それは間違っている」ということだって、ちゃんと伝えるほうがいいと思うんですよね。(中略)

一方で、左下はジャッジメントなく聴けるといい領域かなと思っていて、その人の価値観ですよね。

「私はこういうことを大切にしています」と言った時に「いや、それは違うと思います」と言われたらけっこう困るというか、人間性を否定されたなと感じると思うんですよね。

引用:ハラスメントにならない、部下への厳しいフィードバックの伝え方 心理的安全性を高める「聴く」と「伝える」の使い分け(ログミーBusiness)

このマトリクスの通り、人の「価値観」や「感情」、「人生」や「キャリア」といった内面的な領域については、評価や判断(ジャッジメント)を挟まずに「聴く」姿勢が求められます。相手の人間性の根幹に関わる部分を否定することは、心理的安全性を著しく損ないます。

一方で、「タスク」や具体的な「言動」といった業務レベルの領域(右上)については、リーダーの知識や経験に基づき、時には「それは間違っている」と明確に「伝える」ことが必要です。この領域で傾聴に徹していると、業務効率が著しく低下してしまいます。

フィードバックを行う際は、まず相手の価値観や背景にある思いを「聴く」ことで受け入れ、その上で、具体的な行動に対して「伝える」というステップを踏むことが重要です。この使い分けによって、相手の人間性を尊重しながら、的確な行動改善を促す、ハラスメントにならない建設的なフィードバックが可能になるのです。

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