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ナレッジマネジメント(全1記事)

ナレッジマネジメントとは? 暗黙知を形式知に変換し、属人化を防ぐSECIモデルと心理的安全性の重要性 [1/2]

【3行要約】
・業務の属人化は、まじめで責任感の強い社員によって無意識に引き起こされることもあり、組織の持続的成長を阻害する深刻な問題となっています。
・経営学者の野中郁次郎氏が提唱するSECIモデルは、個人の暗黙知を組織の形式知へと変換し、知識創造のサイクルを回すための理論的フレームワークです。
・企業はテクノロジーを活用した情報共有の仕組みを構築するとともに、心理的安全性を基盤とした「振り返りの文化」を定着させることが重要です。

まじめで責任感の強い人が引き起こす「業務の属人化」

組織における「業務の属人化」は、多くの企業が直面する根深い課題です。特定の個人しか業務の進め方や詳細なノウハウを把握していない状態は、その担当者が不在になった際に業務が停滞するリスクを内包しています。

“タレント社員”と呼ばれるような優秀な人材に業務が集中し、その人が異動や退職をした途端、組織全体のパフォーマンスが著しく低下するケースは決して少なくありません。これは、事業の継続性において重大な脆弱性と言えるでしょう。

興味深いことに、この属人化という問題は、しばしば「まじめで責任感の強い人」によって引き起こされる側面があります。責任感が強い社員ほど、自身の担当業務を完璧に遂行しようと努め、その過程で独自のノウハウや効率的な手順を編み出します。

彼らは良かれと思って業務を抱え込み、結果としてその知識やスキルが個人の中に閉じてしまうのです。これは決して悪意から生じるものではなく、むしろ職務への忠実さやプロフェッショナリズムの現れである場合が多いのです。

しかし、組織の視点から見ると、この状態は極めて危険です。例えば、アナログな手法で15年、20年と特定の業務を担ってきたベテラン社員がいるとします。会社全体でDXを推進し、ペーパーレス化やデジタル化を進めようとしても、その社員だけが「今のやり方が一番効率的だ」と変化を拒むことがあります。その人を中心に業務が回ってしまっているため、周囲も強く出ることができず、結果として組織全体の変革が阻害されるのです。

このような状況は、後続の人が業務を引き継ぐ際のハードルを著しく高め、組織の新陳代謝を妨げる要因となります。つまり、個人のまじめさが、意図せずして組織全体の成長を妨げる「害」となり得てしまうのです。この問題の根底には、個人の善意と組織の合理性が必ずしも一致しないというジレンマが存在します。

属人化の解消は組織の成長を促進する

業務の属人化がもたらすリスクを回避し、組織として持続的な成長を遂げるためには、個人の知識や経験を組織全体の資産として共有・活用する仕組み、すなわち「ナレッジマネジメント」の導入が不可欠です。

これは単に情報をオープンにすることに留まらず、組織の根幹に関わる経営課題として捉える必要があります。特に、企業が上場を目指すような高い成長ステージにおいては、属人性の排除は避けて通れないテーマとなります。

上場審査の過程では、「キーパーソン依存のリスク」、いわゆる「代表者が死んだ時のリスク」について厳しく問われます。特定の経営者や役員がいなければ事業が回らないという状態は、投資家から見て非常に大きなリスクと判断されるためです。

したがって、上場を目指す企業は、創業者や特定のタレント社員がいなくても、組織が機能し続けるための仕組みを構築せざるを得ません。この外部からの要請が、結果的に組織内の情報共有を徹底させ、属人化を解消する強力な動機付けとなるのです。

この課題を解決するために極めて重要となるのが、組織内の情報を徹底的に共有する文化とシステムを構築することです。株式会社ビザスクの代表取締役CEO・端羽英子氏は、属人化をなくすための取り組みについて次のように語っています。
私たちがとても大事にしているのは、「情報をできる限り共有する」。今Slackを使っているんですけど、基本的に組織の中のSlackは、全部パブリックチャンネルなんですね。プライベートチャンネルを作る時は、最初は私しか承認できないようにしている。(中略)

徹底して情報を共有するようにしています。結局、情報が共有されさえすれば、みんなある程度同じ結論に到着するよね、となるので、情報共有の徹底はすごくやっています。(中略)

そうすると、後から来た人も検索して入ってキャッチアップしていける。組織が大きくなる時に属人化を防ぐだけじゃなくて、人がどんどん増える組織においても大事だと思います。

引用:上場を目指す社長に求められる「死んだ時リスク」への備え方 組織から属人性をなくす情報共有術(ログミーBusiness)

このように、コミュニケーションツールを活用し、原則としてすべての情報をパブリックな場でやり取りするルールを設けることは、情報格差をなくし、組織全体の意思決定の質を高める上で非常に有効です。

情報がオープンにされていれば、担当者が不在でも他のメンバーが状況を把握し、業務を代替することが可能になります。また、新しく参加したメンバーも、過去のやり取りを検索することで迅速に業務内容や背景をキャッチアップでき、組織の拡大スピードを阻害しません。

属人化の解消は、リスク管理という守りの側面だけでなく、組織の成長を加速させる攻めの戦略でもあるのです。

属人化された情報を可視化するための「暗黙知」と「形式知」

ナレッジマネジメントを効果的に推進する上で中核となるのが、「暗黙知」を「形式知」へと変換するプロセスです。組織内に存在する知識は、この2つの種類に大別されます。これらを正しく理解し、意図的に変換・共有する仕組みを構築することが、属人化解消の鍵を握ります。

「形式知」とは、マニュアルや報告書、データベースのように、言葉や図表、数式などで客観的に表現された知識のことです。誰でもアクセスし、理解することが可能であり、組織内での共有が比較的容易な知識と言えます。

一方で「暗黙知」とは、個人の経験や勘、身体的なスキルといった、言語化することが難しい主観的な知識を指します。例えば、ベテラン営業担当者が持つ「顧客とのやり取りの中で得た対応のコツ」や、熟練の職人が持つ「言葉では説明しがたい技術」などがこれにあたります。

この暗黙知こそが、業務の属人化を引き起こす主要な原因であり、同時に企業の競争力の源泉ともなる価値ある情報資産なのです。

多くの組織では、日々のコミュニケーションは活発に行われているように見えます。雑談を交わしたり、飲み会で親睦を深めたりといった関係性は構築できているかもしれません。しかし、そうしたコミュニケーションと、業務上不可欠な暗黙知の共有は、必ずしもイコールではありません。

管理職が陥りがちなジレンマとして、チーム内の雰囲気は良いものの、肝心な業務ノウハウや成功・失敗事例といった暗黙知が共有されず、結果として個々のパフォーマンスに留まってしまうというケースが挙げられます。

この問題を解決するためには、暗黙知を形式知に変えるための意図的な「コミュニケーション施策」が必要です。それは単なるツールの導入に留まりません。例えば、定期的なミーティングで「こうやったらうまくいった」「こうして失敗した」という経験を共有する場を設けたり、日報や週報のフォーマットを工夫してノウハウを引き出しやすくしたりすることが考えられます。

重要なのは、「必要な情報が交換できていること」をコミュニケーションの活性化と定義し、それを促す仕組みを業務プロセスに組み込むことです。属人化された情報を可視化し、チーム全体の力に変えていくためには、こうした地道な取り組みが不可欠なのです。

暗黙知を形式知化する「SECIモデル」

個人の持つ価値ある「暗黙知」を組織全体の資産である「形式知」へと変換し、さらに新たな知識を創造していくためのフレームワークとして、経営学者の野中郁次郎氏が提唱した「SECI(セキ)モデル」が広く知られています。

このモデルは、知識が創造される4つのプロセスを循環させることで、組織の知識レベルを継続的に高めていく考え方です。ナレッジマネジメントを実践する上で、このサイクルを理解し、意識的に回していくことが極めて重要となります。

SECIモデルは、以下の4つのプロセスの頭文字を取って名付けられています。

1. 共同化(Socialization):暗黙知から暗黙知へ

最初のステップは、共通の体験を通じて暗黙知を共有するプロセスです。OJT(On-the-Job Training)で先輩の動きを見て技術のコツを掴んだり、営業同行で顧客との間の空気感を肌で感じたりすることがこれにあたります。言葉だけでは伝わらない勘やノウハウを、五感を使って直接的に伝達し、新たな暗黙知が生まれる段階です。

2. 表出化(Externalization):暗黙知から形式知へ

次に、共同化によって得られた暗黙知を、他者と共有できるかたちに変換するプロセスです。これは暗黙知を言語化し、客観的な形式知にする段階を指します。例えば、OJTで得た気づきやコツをマニュアルにまとめたり、顧客の反応を分析して報告書を作成したりする活動が該当します。言葉だけでなく、図や比喩、ストーリーなどを用いて表現することも有効です。

3. 連結化(Combination):形式知から形式知へ

このプロセスでは、表出化によって作られた形式知を、既存の他の形式知と組み合わせ、新たな知識体系を創造します。複数のチームが作成したマニュアルを持ち寄って統合し、より網羅的で体系的な業務マニュアルを作成するような活動がこれにあたります。個人の知識が、この段階を経て組織全体の知的資産へと昇華されます。

4. 内面化(Internalization):形式知から暗黙知へ

最後のステップは、連結化によって体系化された形式知を、個人が実践を通じて自身のものとして体得するプロセスです。新しいマニュアルを基に業務を行い、その背景や意図までを深く理解することで、知識は再び個人の新たな経験やノウハウといった暗黙知へと転換されます。

この「共同化→表出化→連結化→内面化」というサイクルを組織内で継続的に繰り返すことによって、個人の知識が組織全体で共有・深化され、新たなイノベーションを生み出す土壌が育まれていくのです。

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