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ナレッジマネジメント(全1記事)

ナレッジマネジメントとは? 暗黙知を形式知に変換し、属人化を防ぐSECIモデルと心理的安全性の重要性 [2/2]

鍵を握るのは心理的安全性

SECIモデルという知識創造のサイクルを組織内で円滑に回していくためには、その土台となる環境が不可欠です。特に、暗黙知を表出化させたり、異なる意見を連結させたりするプロセスにおいては、メンバーが安心して発言・行動できる「心理的安全性」が極めて重要な役割を果たします。

心理的安全性とは、「このチームでは、率直な意見を述べたり、間違いを指摘したりといった対人リスクのある行動をとっても、非難されたり、関係性が損なわれたりすることはない」とメンバーが信じている状態を指します。

多くの人が「心理的安全性」と聞くと、「仲良しクラブ」や「ぬるま湯」のような、ただ居心地の良いだけの環境を想像するかもしれません。しかし、その本質はまったく異なります。

真に心理的安全性が確保されたチームとは、むしろ厳しい意見が活発に飛び交う、チャレンジングな集団です。なぜなら、メンバーは「反対意見を言っても受け入れてもらえる」「失敗を報告しても罰せられない」という信頼感を持っているため、遠慮なく本質的な議論を交わし、新たな挑戦に踏み出すことができるからです。

心理的安全性は、特に意見の対立(課題対立)を組織の力に変える上で、決定的な分水嶺となります。心理的安全性が低いチームでは、意見の食い違いはすぐに人間関係の対立へと発展し、チームのパフォーマンスを低下させる原因となります。メンバーは自分の立場を守ることに終始し、建設的な議論は生まれません。

一方で、心理的安全性が高いチームでは、意見の対立はむしろパフォーマンスを向上させる起爆剤となり得ます。メンバーは互いの意見を尊重し、自由に意見を戦わせることで、より良いアイデアや解決策を生み出すことができます。つまり、心理的安全性という土壌があって初めて、多様な意見のぶつかり合いがイノベーションの源泉となるのです。

心理的安全性の重要性について、福岡大学 人文学部 准教授の縄田健悟氏は自身の研究を基に次のように指摘しています。心理的安全性が確保された環境こそが、異なる意見の対立を建設的な成果へと導くのです。
心理的安全性が高いチームでは課題対立、つまり意見が食い違うと、チームのパフォーマンスがむしろ上がるんですね。なぜかというと心理的安全性が高いチームは、さっき言ったとおり意見をしっかり戦わせることができるチームだからです。

そういう条件がきちんと確保できていれば、意見を戦わせて、パフォーマンスが伸びるという結果になるんですね。

一方で、心理的安全性が低いチームでは、意見の食い違いがパフォーマンスを下げてしまいました。対立の研究だと、だいたい意見の食い違いがそのまま人間関係の食い違いになってしまう。そのままパフォーマンスを下げるというのがむしろデフォルトだったりするんです。

引用:“ぬるま湯チーム”を脱し、“本音が飛び交う組織”をつくるには 率直な対話を恐れない土壌づくりに必要なこと(ログミーBusiness)

ナレッジマネジメントを推進する管理者は、単に情報共有のツールやルールを整備するだけでなく、メンバー間の信頼関係を醸成し、誰もが安心して本音で語り合える文化を育むことにこそ、最も注力すべきだと言えるでしょう。

ナレッジマネジメントを効果的に実践する4つの手法

ナレッジマネジメントを組織に導入する際には、その目的や解決したい課題に応じて適切なアプローチを選択することが成功の鍵となります。

ナレッジマネジメントには、大きく分けて4つの代表的な手法(タイプ)があり、それぞれ異なる特徴と効果を持ちます。自社の状況を分析し、どの手法が最もフィットするかを検討することが重要です。

1. ベストプラクティス共有型

組織内で最も成果を上げている優秀な社員やチームが持つ知識、ノウハウ、成功事例(ベストプラクティス)を形式知化し、組織全体に共有する手法です。例えば、トップセールスパーソンの営業手法をマニュアル化したり、生産性が向上した工場のオペレーションを他の工場に展開したりする取り組みがこれにあたります。

特定の個人のスキルに依存していた業務を標準化し、組織全体のスキルレベルを底上げする効果が期待できます。

2. 専門知識ネットワーク型

社内外に点在する専門的な知識を持つ人材や情報をネットワークで結びつけ、必要な時に誰もがアクセスできるようにする手法です。具体的には、「よくある質問」とその回答をまとめたFAQシステムや、社内の専門家を検索できるデータベース(社内Wiki)などを構築します。

これにより、特定の専門家に問い合わせが集中することを防ぎ、課題解決や意思決定のスピードと質を向上させることができます。

3. 顧客知識共有型

顧客からの問い合わせ、クレーム、要望、アンケート結果といった、顧客に関するあらゆる情報を組織全体で共有し、商品開発やサービス改善に活かす手法です。コールセンターに寄せられた顧客の声をデータベース化し、開発部門やマーケティング部門がいつでも参照できるようにする仕組みなどが該当します。顧客のニーズを深く理解し、顧客満足度の向上や新たなビジネスチャンスの創出につなげます。

4. 知的資本集約型

企業が保有する特許、ブランド、技術、ノウハウといった無形の資産(知的資本)を明確に定義し、それらを組み合わせて新たな付加価値や収益を生み出すことを目指す手法です。例えば、自社で開発した業務システムを他社向けに販売したり、レストランの人気メニューのレシピを活用してテイクアウト専門店を展開したりするケースが考えられます。企業の隠れた資産を収益に直結させる、より経営戦略的なアプローチです。

これらの手法は排他的なものではなく、複数を組み合わせて実践することも有効です。自社の課題が「業務効率の改善」なのか「イノベーションの創出」なのか、あるいは「顧客満足度の向上」なのか、目的を明確にすることで、最適な手法を選択することができるでしょう。

テレワークでチームワークは悪化するのか?

新型コロナウイルスの影響で急速に普及したテレワークは、働き方に大きな変革をもたらした一方で、多くの組織に新たな課題を突きつけました。その中でも特に大きな懸念として挙げられるのが、「コミュニケーションの希薄化によるチームワークの悪化」です。

対面でのやり取りが減少し、非公式な情報交換の機会が失われることで、ナレッジの共有が滞り、組織の一体感が損なわれるのではないかという不安は、多くの管理者が抱えていることでしょう。

しかし、研究データや実際の調査結果を見てみると、「テレワーク=チームワークの悪化」という単純な図式が必ずしも成り立つわけではないことがわかってきています。むしろ、テレワークという環境変化は、チームのあり方を再定義し、より効果的なナレッジマネジメントを実践する機会となり得ます。

この問題を理解するためには、「チーム・バーチャリティ(ICTを通じたリモートチームの状態)」を2つの側面に分解して考えることが有効です。

1. 地理的分散(マイナスの影響)

メンバーが物理的に離れた場所で働くことは、確かにチームワークに対してマイナスの影響を及ぼす側面があります。気軽な挨拶や雑談といった日常的なコミュニケーションが減少し、相手の状況が見えにくくなることで、信頼関係の構築が難しくなったり、情報共有にタイムラグが生じたりする可能性があります。

これは、特にコミュニケーションの側面に負の影響を与えることが指摘されています。

2. テクノロジー利用(プラスの影響)

一方で、テレワークを実践するためには、チャットツールやWeb会議システム、クラウドストレージといったICT(情報通信技術)の活用が不可欠です。これらのテクノロジーを適切に利用することは、チームワークにプラスの影響をもたらします。

情報の記録が残りやすくなるためナレッジが蓄積されやすくなったり、場所や時間にとらわれずに必要な情報にアクセスできたりすることで、むしろ業務の効率性や透明性は向上する可能性があります。

実際には、多くの組織でこのプラスとマイナスの影響が相殺し合い、結果として「テレワークだからといって、一概にチームワークが悪化するわけではない」という状況が生まれています。

重要なのは、地理的な分散というデメリットを、テクノロジーの活用というメリットでいかに上回るかという視点です。

例えば、単にツールを導入するだけでなく、オンラインでのコミュニケーションルールを定めたり、意図的に雑談の時間を設けたり、ナレッジ共有のためのオンライン上の「場」を設計したりすることが求められます。

特にリモート環境では、メンバー同士の仕事ぶりが見えにくくなるため、互いを信頼し、自律的に動けるチーム作りがより一層重要になります。監視を強めるのではなく、信頼をベースとしたマネジメントへと移行し、ICTを効果的に活用することで、テレワークはナレッジマネジメントを加速させ、地理的に離れていても高いパフォーマンスを発揮するチームを構築する追い風となり得るのです。

KPI主義のやり方では、「そもそも」の振り返りができない

ナレッジマネジメントを組織に導入し、その効果を最大化するためには、戦略的なアプローチと継続的な改善活動が不可欠です。しかし、多くの企業が陥りがちなのが、手法やツールの導入そのものが目的化してしまう「KPI主義」の罠です。

例えば、「オンライン面接を月10件実施する」「営業議事録を全員が提出する」といった行動目標(KPI)を設定すること自体は、取り組みを推進する上で有効な場合があります。しかし、そのKPIを追いかけることだけに終始してしまうと、本質的な目的を見失う危険性があります。

採用活動を例にとると、KPI主義的なやり方では、「そもそも、なぜエントリーをこんなに集める必要があったのか」「面接という手法が本当に最適なのか」といった、活動の前提そのものを疑うような振り返りができなくなります。与えられたフレームワークの中で数値をこなすだけの作業となり、より効果的なアプローチを見出す機会を失ってしまうのです。

この罠を回避し、ナレッジマネジメントを真に組織の力とするためには、「振り返りの文化」を定着させ、本質的な問いを立て続けることが重要です。株式会社ビジネスリサーチラボの伊達洋駆氏は、以下のように語っています。
さまざまなKPIを設けて採用を進めていく企業があります。例えばエントリーが何名必要ですとか、次の選考に何名進む必要がありますとか。そういったKPIを見ながら振り返りをしている企業があります。

ただし、そのような振り返りは、与えられたフレームワークに基づいた振り返りです。もちろん振り返りをしないよりは、したほうがいいと思うんですが、「そもそもエントリーをこんなにに集める必要があったっけ」など、フレームワークを疑うような振り返りができなくなる恐れがありますね。

KPI主義的なやり方にこだわりすぎると、採用の前提を振り返れないということです。

引用:タレント社員だけに任せて、いなくなったら全部崩壊? 採用の「属人化」「KPI主義」を変えるための、本質的な“問い”(ログミーBusiness)

真のナレッジマネジメントとは、単に情報を蓄積することではありません。そのナレッジを活用して、組織がどう成長していくのかという「ストーリー」を描き、その実現に向けて活動を設計・改善していくプロセスそのものです。

そのためには、まず「自社にとっての成功とは何か」という根源的な問いを立てる必要があります。例えば、採用における成功を「採用した人が入社後に活躍すること」と定義すれば、おのずと採用プロセスだけでなく、入社後のオンボーディングや育成、キャリア開発といった、より長期的で包括的な視点が求められるようになります。

このように、活動の意図や目的から遡って施策を考え、その結果を定期的に振り返るサイクルを回すことが、ナレッジマネジメントを形骸化させないための鍵です。採用担当者が多忙で振り返りの時間が取れないのであれば、外部の専門家をファシリテーターとして招き、強制的に振り返りの場を設けることも有効な手段です。

重要なのは、一度決めたやり方やKPIに固執するのではなく、常に「そもそも」を問い直し、組織としてのナレッジをアップデートし続けていく姿勢なのです。

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