【3行要約】
・タスクマネジメントは業務効率化に不可欠ですが、多くの人が優先順位設定や時間管理に悩んでいます。
・経営コンサルタントのスティーブン・R・コヴィー氏の「重要度と緊急度のマトリクス」が効果的な優先順位付けの指針として注目されています。
・個人は「マルチタスクを避ける」習慣を、管理職は「任せる技術」を身につけ、信頼関係を基盤とした持続可能な組織づくりが求められます。
タスクマネジメントの基本
業務を効率的に遂行するためには、タスクマネジメントが不可欠です。タスクマネジメントとは、仕事を完遂させるために必要なタスクを洗い出し、優先順位をつけ、進捗を管理する一連の手法を指します。このスキルは、個人の生産性向上はもちろん、チームや組織全体の成果を最大化する上でも、極めて重要です。
働き方改革の推進や人手不足が叫ばれる現代において、限られた時間の中で高いパフォーマンスを発揮することが求められており、タスクマネジメントの重要性はますます高まっています。
タスクマネジメントの第一歩は、取り組むべき業務をすべて「洗い出す」ことです。頭の中だけで考えようとすると、タスクの抜け漏れが発生しやすくなります。
これを防ぐためには、ノートやメモ帳、あるいはExcelやスプレッドシートといったツールを活用して、すべてのタスクを書き出し、可視化することが重要です。このプロセスを経ることで、自分が抱えている業務の全体像を客観的に把握できるようになります。
タスクを洗い出す際にもう一つ重要なポイントが、「細分化」です。タスクの粒度が粗いと、具体的な作業内容が不明確になり、進捗管理が困難になります。
例えば、「書類作成」という大きな括りでタスクを設定するのではなく、「アンケート集計」「日報作成」「A社向け見積書の作成」「Bプロジェクトのデータ入力」といったように、具体的なアクションが明確になるまでタスクを分解することが求められます。
タスクを細かく分けることで、一つひとつの作業を完了するまでに何をすべきかが把握しやすくなり、作業の抜け漏れや重複を防ぐことができるのです。
チームで業務を進める場合も、タスクが細分化されていれば、誰が見てもやるべきことが理解でき、メンバー間の連携もスムーズになります。また、タスクの粒度を揃えることで、各メンバーの業務負荷を正確に把握し、偏りなくタスクを割り振ることが可能になります。
タスクの重要度と緊急度のマトリクス
タスクの洗い出しと細分化が完了したら、次に行うべきは「優先順位の設定」です。抱えているすべてのタスクを闇雲にこなそうとしても、時間やリソースは有限であり、効率的な成果にはつながりません。どのタスクから着手すべきか、いつまでに完了させるべきかを明確にすることで、業務全体の生産性を飛躍的に向上させることができます。
優先順位を設定する上で非常に有効な手法が、「重要度」と「緊急度」のマトリクスを活用する方法です。これは経営コンサルタントのスティーブン・R・コヴィー氏によって紹介された時間管理のマトリクスとしても知られています。この手法では、すべてのタスクを以下の4つの領域に分類します。
1. 重要度も緊急度も高いタスククレーム対応や納期の迫った重要なプロジェクトなど、すぐに対応が必要な業務。最優先で取り組むべき領域です。
2. 重要度は高いが緊急度は低いタスク将来の成長につながるスキルアップのための勉強や、中長期的な計画の立案、人間関係の構築などが該当します。緊急性が低いため後回しにされがちですが、企業の持続的な成長や個人のキャリア形成において最も重要な領域であり、意識的に時間を確保して取り組む必要があります。
3. 重要度は低いが緊急度は高いタスク多くの電話やメールへの対応、一部の定例会議などが含まれます。すぐに対応を求められるため優先してしまいがちですが、これらのタスクに時間を使いすぎると、本当に重要な業務に取り組む時間が失われます。対応を簡略化したり、他の人に任せたりといった工夫が求められます。
4. 重要度も緊急度も低いタスク雑談や目的のない情報収集など、生産性に直結しない活動です。可能な限り時間を割かないように意識することが重要です。
このマトリクスを活用することで、目の前の緊急なタスクに振り回されることなく、本当に重要な業務に集中するための判断基準を持つことができます。
しかし、現実には重要度が高くても着手しにくいタスクは、心理的に後回しにされがちです。その背景には、タスクへの嫌悪感や回避的な認知が関係しています。
先延ばしに関する研究では、なぜ特定のタスクが後回しにされるのか、その背景や原因についても明らかになっています。
例えば、タスクに対する嫌悪感が影響するケースがあります。やり方がわからない、難しそうに感じるといった理由で苦手意識を持つことで、なかなか着手しにくくなります。
また、回避的な認知も関係します。進めるのが難しく、成果がすぐに見えにくいタスクほど、「やりたくない」「気が進まない」と感じる傾向があります。このような心理的要因によって、タスクが先延ばしにされることが研究でも指摘されています。
そのため、すぐに完了できるタスクと比べて、時間や労力がかかるタスクはどうしても価値が低く見積もられがちです。ここで、「とにかくがんばって着手しよう」と促すと、苦手意識を持っているタスクに対して無理に取り組ませることになり、精神的な負担がかかるリスクが生じます。
引用:部下の「先延ばし」を防ぐ上司の習慣 タスクに着手しやすくするマネジメントの具体策(ログミーBusiness)
単に優先順位を機械的に決めるだけでなく、着手しにくいタスクの価値をいかに高め、取り組むための心理的なハードルを下げるかという視点を持つことが、効果的なタスクマネジメントには不可欠と言えるでしょう。
スケジュール設定と進捗管理の実践
タスクの優先順位が決まったら、次はそのタスクをいつ実行するのかを具体的に計画する「スケジューリング」の段階に移ります。効果的なスケジューリングは、計画倒れを防ぎ、着実に目標を達成するための羅針盤となります。
スケジューリングを行う際には、WBS(Work Breakdown Structure)の活用が有効です。WBSとは、プロジェクトの成果物を達成するために必要な作業を階層的に分解・構造化する手法です。洗い出したタスクをWBSで構造化することにより、各タスクの関連性や依存関係が明確になり、進捗の遅れが発生するリスクを抑えることができます。
タスクごとに期限を設定する際には、ギリギリの日程を組むのではなく、ある程度の「余裕」を持たせることが極めて重要です。業務には予期せぬトラブルや、突発的なタスクの割り込みがつきものです。スケジュールに余裕がなければ、こうした不測の事態に対応できず、計画全体が破綻してしまう可能性があります。
また、常に時間に追われている状態は精神的なプレッシャーとなり、ケアレスミスを誘発する原因にもなります。余裕を持ったスケジューリングは、品質を維持し、精神的な安定を保ちながら業務を遂行するための鍵となります。
スケジュールを立て、実際にタスクに取り組み始めたら、「進捗状況の管理」が重要になります。計画は立てただけでは意味がなく、定期的に進捗を確認し、計画と実績のズレを把握して必要に応じて調整を行う必要があります。
進捗管理を効率的に行うためには、ガントチャートの作成が役立ちます。ガントチャートは、タスクの進捗状況を棒グラフで視覚的に表現した表であり、プロジェクト全体の状況を一目で把握することができます。WBSとセットで活用されることが多く、どのタスクが予定通り進んでいて、どれが遅れているのかを明確にすることが可能です。
チームでプロジェクトを進める場合は、この進捗管理と情報共有がさらに重要になります。一つのタスクの遅れが、後続のタスクやチーム全体のスケジュールに影響を及ぼす可能性があるため、こまめな情報共有が不可欠です。進捗報告のタイミングをあらかじめ決めておいたり、チャットツールなどを活用して気軽に相談できる仕組みを作ったりすることで、チーム全体で問題を早期に発見し、協力して対処できる体制を築くことができます。
重要なのは、品質を最優先に考えることです。納期に気を取られるあまり、低品質な成果物を提出してしまっては、手戻りが発生し、結果的により多くの時間を費やすことになりかねません。品質を確保した上で、期日を守るという意識が大切です。
個人の生産性を最大化する働き方の習慣
効果的なタスクマネジメントは、手法やツールを導入するだけでは完結しません。日々の働き方における個人の「習慣」や「意識」が、生産性に大きな影響を与えます。ここでは、個人の生産性を最大化するための重要な習慣をいくつか紹介します。
まず、強く意識すべきなのが「マルチタスクを避ける」ことです。複数の作業を同時に進めるマルチタスクは、一見すると効率的に見えるかもしれませんが、実際には脳に大きな負荷をかけ、集中力や生産性を低下させることが科学的に指摘されています。
脳はそれぞれのタスクにリソースを割かなければならず、結果として一つひとつの仕事の質が低下し、楽しむ余裕も失われます。
経営学者の中川功一氏は、マルチタスクは「それぞれの仕事がつまらなくなるだけ」「人生の幸せが逃げるだけ」と述べ、その瞬間に一つのタスクに集中するシングルタスクの方が、結果的に生産性が上がると強調しています。次に、仕事とプライベートを明確に分け、限られた時間内に成果を出すという意識を持つことです。
ドイツの働き方はこの点で非常に参考になります。ドイツ人は与えられたタスクを定められた時間内に終えることに集中し、それ以上の残業は基本的に行いません。「この後コンサートに行く」といったプライベートの予定を先に入れることで、「それまでに今日のタスクをどう効率良く終わらせるか」を自ら考え、集中して業務に取り組むのです。この意識と習慣が、高い生産性を生み出します。
さらに、定期的に自身の時間の使い方を「振り返る」習慣を持つことも極めて有効です。
元マイクロソフト業務執行役員の越川慎司氏は、週に一度、金曜日の午後3時に15分間、カレンダーや手帳を振り返ることを推奨しています。この時間の使い方を可視化する「時間の体重計に乗る」行為によって、無駄な作業が11%も削減されるというデータがあります。
振り返りを通じて、「よかれと思ってやったが成果につながらなかった作業」や「参加意義の薄い会議」などを認識し、翌週以降の行動を改善していくのです。日本のビジネスパーソンは、1週間の働く時間のうち、社内会議に39%、資料作成に12%もの時間を費やしているという調査結果もあり、これらの時間をいかにダイエットするかを考えることが、生産性向上の鍵となります。
これらの習慣を身につけることで、タスクマネジメントのスキルはさらに磨かれ、より高いレベルでの生産性向上が期待できるでしょう。