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タスクマネジメント(全1記事)

タスクマネジメントで業務を効率化 チームの生産性を高める、マネージャー・個人のための実践テクニック [2/2]

上司の役割と「任せる」技術

タスクマネジメントの視点を個人からチーム、そして組織へと広げた時、管理職、すなわち「上司」の役割が極めて重要になります。多くの上司が、「上司は部門の中で誰よりも働き、常にメンバーの尻拭いをするものだ」という考えに縛られていますが、この考え方こそが、組織全体の生産性を下げ、職場から笑顔を奪う大きな原因となっています。

上司がすべてのタスクを抱え込み、必死に働く姿は、部下に深刻な悪影響を及ぼします。まず、部下は「自分は信頼されていない」と感じ、仕事へのエンゲージメントが低下します。上司が常に先回りして尻拭いをしていては、部下が困難な課題に挑戦し、失敗から学ぶ機会を奪うことになり、結果として部下の能力が育ちません。さらに、疲弊しながら働く上司の姿を見た部下は、「あんなふうにはなりたくない」と感じ、昇進への意欲を失ってしまいます。この悪循環は、組織のサステナビリティにとって計り知れない悪影響を及ぼします。

真のリーダーシップとは、手を出して問題を解決することではなく、部下を「信頼して任せる」ことです。経営学者の中川功一氏は、上司自身が壊れることこそ最も無責任な行動だと指摘します。重い職責を担う上司だからこそ、心と体に余裕を持ち、笑顔でいることが重要です。そのような上司の姿は、部下にとって「ああいうポジションになりたい」というポジティブな目標となり、組織全体の活力を生み出します。

「尻拭いをしない」とは、部下を放任することではありません。それは、部下が最後までタスクをやり遂げられるように、助言や支援を与え、モチベーションを高め、最後まで本人を信頼し切るということです。たとえ自分が手を出せば5分の1の時間で終わる仕事であっても、ぐっとこらえて部下に任せ切る。この姿勢こそが、部下の能力を開発し、「自分事にできる喜び」を味わわせる最高のマネジメントです。

NTTデータで管理職を務める浜口麻里氏は、裁量労働制とテレワークが進む中で、マイクロマネジメントに陥らずに成果を出す鍵は、年度頭の目標設定にあると語ります。上長と部下が達成すべき目標について納得してコミットし、そのプロセスは部下に任せる。そして、部下が悩んだ時にはいつでも相談できる環境を整え、ハードルを下げておくことが重要です。

このように、管理職が部下を信頼し、自律性を尊重する姿勢を持つことが、助け合う風土を作り、結果的に組織全体の生産性を向上させるのです。

明確な指示とコミュニケーションの重要性

チームにおけるタスクマネジメントを円滑に進める上で、上司から部下への「指示の出し方」は決定的に重要です。多くの職場で問題となるのが、「あれやっといて」「それをなるべく早く」といった、あいまいな指示です。

「これ・あれ・それ」といった「こそあど言葉」や、「なる早(なるべく早く)」といった具体性のない表現は、受け手である部下を混乱させ、業務の非効率やミスの原因となります。

部下は、あいまいな指示に対して「どれだけの品質で、いつまでに、何をすればいいのか」を正確に理解することができません。先輩や上司に聞き返そうにも、「ちゃんとマニュアルを見てほしい」「そんなこともわからないのか」と叱責されることを恐れ、結果的に推測で仕事を進めてしまうケースも少なくありません。

その結果、期待されたアウトプットとは異なるものができあがり、現場の責任者から叱責され、自信を失ってしまうという悪循環に陥ります。

このようなコミュニケーションの齟齬を防ぐためには、指示を出す側、受ける側双方の工夫が必要です。特に、口頭でのコミュニケーションが苦手な人もいることを理解すべきです。

会話は反射神経が求められるため、得意不得手があります。しかし、コミュニケーションは会話だけではありません。メールやチャットツールなど、文章でのコミュニケーションを活用することで、こうした問題を解決できる場合があります。
F太:「手順書を作ったけどうまく使いこなせない」っていう方はいっぱいいらっしゃるんですが、最初は手順書を作る過程でだいぶ頭の中が整理されるので、それだけでもやる価値はあると思うんですね。(中略)

F太:実際に手順書を作って、上司の方に見てもらうのはとても有効なコミュニケーション方法だと思います。「『なる早で』ということで仕事をいただいたんですけれども、今、私が抱えている仕事がこれだけあります。今日はこの仕事を先ず終わらせようと思っていたんですが、今しがたいただいた仕事とどっちを優先すればいいでしょうか?」といったことを手順書を一緒に見ながら相談できるじゃないですか。

これなら上司にも「けっこう仕事を抱えてるんだな」ということが認識してもらえるかもしれません。そういう裏テーマもあったりします。(中略)

F太:上司に優先順位を相談することによって、優先順位のミスが自分だけの責任ではなくなる。そんな効果もあったりするので、手順書を書くことは自分を守ることにも繋がったりします。

引用:「あれやっといて」「なる早で」という上司の指示がわからない.... あいまいな指示に悩まないための「仕事の手順書」のススメ(ログミーBusiness)

手順書を作成するプロセスは、仕事の内容を具体的に言語化し、頭の中を整理する絶好の機会です。そして、その手順書を基に上司と対話することで、「なる早」と言われたタスクの具体的な納期や優先順位を明確にできます。

これは、お互いの認識のズレをなくすだけでなく、自身の業務負荷を上司に正しく理解してもらい、優先順位の判断責任を共有するという、自身を守るための有効な手段ともなるのです。

部下の内発的動機付けを引き出すマネジメント

タスクマネジメントを組織に浸透させ、生産性を高めるためには、単にタスクを効率的に処理する仕組みを作るだけでは不十分です。部下が自ら考え、主体的に行動する「自走力」をいかに引き出すかが、マネジメントの重要な鍵となります。

多くの管理職が「指示待ち部下」に悩んでいますが、その原因は、従来の「アメとムチ」による外発的な動機付けに依存したマネジメントにあるのかもしれません。

ダニエル・ピンク氏の著書『モチベーション3.0』では、人間のモチベーションは3つの段階で進化するとされています。生きるための「モチベーション1.0」、報酬や罰則といった外発的動機付けである「モチベーション2.0」、そして内なる欲求から生まれる「モチベーション3.0」です。

モチベーション2.0は、常に外部から力を加え続けないと動かなくなってしまうというバグを抱えています。これからの時代に求められるのは、蒸気機関車のように自らの力で進むことができる、内発的動機付けに基づくモチベーション3.0です。

この内発的動機付けを高めるためには、3つの重要な要素があります。

1. 自律性:自分の行動や取り組み方を自分で決定したいという欲求。
2. 熟達(成長):自分の能力を向上させたい、もっと上手になりたいという衝動。
3. 目的:自分の仕事がより大きな目的や価値観と結びついていると感じたいという欲求。

管理職は、部下との関わりの中で、これらの要素を刺激するような「良い質問」を投げかけることが求められます。例えば、以下のような問いかけが有効です。

「どんな工夫ができそう?」(自律性を引き出す)
 この質問は、部下の視点を「指示通りにやること」から「どうすればもっとうまくできるか」へと切り替えさせ、自分のやり方を考えるきっかけを与えます。

「どうやったら、自分の力を伸ばせそう?」(熟達・成長を促す)
これにより、目の前の仕事が単なる作業ではなく、自分を高めるためのチャレンジへと意味合いが変わります。単純作業であっても、上達や効率化を考える視点が生まれます。

「あなたが大切にしていることと、どう関係しそう?」(目的に結びつける)
仕事と個人の価値観を結びつけることで、「やらなければいけないこと」が「やってみたいこと」へと変わり、内発的なモチベーションが生まれます。

このような良質な問いかけを続けることで、部下は自ら考える習慣を身につけ、やがて自分自身に問いかける「セルフコーチング」ができるようになります。上司がすべきことは、放任することではなく、問いかけ、信じ、見守ること。その繰り返しが、部下の中に気づき、行動、成長という好循環を生み出していくのです。

信頼を基盤とするサステナブルな組織づくり

タスクマネジメントの手法や効率化のテクニックを追求していくと、最終的に行き着くのは「信頼」という組織の根幹をなすテーマです。どれだけ洗練されたツールや制度を導入しても、上司と部下、あるいは同僚との間に信頼関係がなければ、組織の生産性は本当の意味で向上しません。

元マイクロソフト業務執行役員の越川慎司氏は、「仕事は信頼ツムツムゲームである」と表現します。仕事において、上司や顧客の期待に応え、着実に信頼を積み重ねること。その結果として「裁量権」が得られます。

裁量権が与えられると、仕事の進め方に自由度が生まれ、不要なレビューやマイクロマネジメントが減り、時間に余裕が生まれます。その余裕を使って脳と心を休ませ、新たなインプットを行うことで、さらに高い成果を出すことができる。この好循環こそが、サステナブルな働き方を実現する鍵なのです。

しかし、多くの職場では、この好循環とは逆の現象が起きています。特にテレワークが普及する中で、部下の働きぶりが見えなくなることに不安を感じた管理職が、マイクロマネジメントに陥るケースが増えています。

「何時に始業し、何をやるのかを全部報告しろ」といった過度な管理は、部下の裁量を奪い、信頼されていないという感覚を植え付けます。これは、部下の主体性やモチベーションを著しく低下させるだけでなく、管理する側にとっても大きな負担となります。
浜口:それで言うと、目標設定にコミットしつつも、やはり部下が悩む場面が絶対にあるので、そこのハードルを下げるというのはあるかなと思います。(中略)

浜口:成果だと言いながらみんなが常に自律してアウトプットしたり売上を上げたりできるわけではないので、好きにやりたい人はやればいいし、相談したい人は相談できるっていう、そっちの判断にも自由度を持たせるのは1つあるかなと思いますね。(中略)

浜口:自分の事情だけを主張するのではなくて、みなさん、いろいろな生活の事情も抱えているので。

昔の地域社会で「隣のおばちゃんが子どもを預かってくれた」じゃないですけど、オープンにすることで助け合えるところってあると思うので、私も心掛けていますし、自分が積極的にオープンにすることで配下のメンバーがオープンにしやすいっていう環境を作っているつもりです。

引用:部下が動きやすい目標設定の作り方 “逐一報告”に頼らないマネジメントの方法(ログミーBusiness)

マイクロマネジメントの閉塞感を打ち破るには、まず上司と部下がお互いの目標を共有し、その達成にコミットすることが重要です。その上で、プロセスは部下の裁量に任せる。しかし、それは決して放任ではありません。

上司は、部下が困った時にいつでも相談できる環境を整え、そのハードルを下げておく必要があります。また、上司自身が自分の状況や課題をオープンにすることで、部下も安心して自分のことを話しやすくなり、チーム内に「助け合い」の文化が生まれます。

結局のところ、タスクマネジメントとは、単なる作業管理術ではなく、人と人との信頼関係をいかに構築し、維持していくかという、きわめて人間的な営みなのです。

信頼を基盤とし、一人ひとりの自律性を尊重する組織こそが、変化の激しい時代においても持続的に成長し、成果を出し続けることができるでしょう。

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