2024.10.10
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ウェルビーイング(全1記事)
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ウェルビーイングについて、厚生労働省は「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と定義しています。生活の質や生きがい、人間関係、仕事や趣味に対する満足度、さらには経済的安定など、幅広い側面が関与することを意味しています。
また、一人ひとりが自分の感覚や認識によって感じる「主観的ウェルビーイング」と、統計などの客観的な数字によって感じる「客観的ウェルビーイング」という考え方もあります。ウェルビーイングは人それぞれのライフステージや環境に応じて変わるものであり、個人の価値観や優先順位に基づいて追求されるものだと言えるでしょう。
ウェルビーイングが必要とされる背景は、社会の変化に応じて、先進国を中心に「本当の人の幸せとは何か」という問いに向き合っているからではないでしょうか。世界経済フォーラム2021では「グレート・リセット」がテーマとなり、これまでの社会システムや構成をリセットすることが議論されました。
コロナ禍という100年の一度のパンデミックによって生じたライフスタイルの変化や、働き方改革などに関連した労働環境の変化など、社会的な変化に適応し、幸福に生きるための指標としても必要とされています。
また、ウェルビーイングは個人だけでなく、ビジネスの現場でも決して無視できない概念になっています。「はたらく幸せ研究会/慶應SDMヒューマンラボ共催:はたらく幸せフォーラム」にて、慶應義塾大学大学院SDM研究科教授の前野隆司氏は、「上司との人間関係とパートナーとの人間関係のどちらが幸せに影響するかという研究があって、上司のほうが幸せに影響するんですよ」と話しています。
WHO(世界保健機関)やOECD(経済協力開発機構)などの国際組織がウェルビーイングを重視し、指標や政策の推奨を行っています。また、多くのグローバル企業がウェルビーイングをCSR(企業の社会的責任)の一部として重要視し、従業員の健康やメンタルヘルスの支援を強化するなど、経営に活かしている事例も多くあります。
例えばGoogleは、ESGブランド調査2022の設問の中にある「社員のウェルビーイング(幸せ)を意識した経営をしている」で1位を獲得しています。
日本国内においては、長時間労働や過労死などの危機感の高まりから、労働環境の改善をはかるためにウェルビーイングの取り組みを強化していることが多く、メンタルヘルスへの注目や関心が高まっています。
また、国内外ともに教育機関でも取り組みがなされています。OECDは「教育の目的は、個人のウェルビーイングと社会のウェルビーイングの2つを実現することである」としており、 世界各地でウェルビーイングを向上させる取り組みが行われています。
ウェルビーイングを測る指標として代表的なものは次の3つです。
(1)PERMA
(2)ギャラップ社の指標
(3)幸せの4つの因子
PERMAは、ポジティブ心理学の権威であるマーチン・セリグマン教授によって提唱されたウェルビーイングのモデルです。以下の5つの要素から成り立っています。
P (Positive Emotion / ポジティブな感情):日常生活での喜びや幸福感
E (Engagement / 没入):何かに集中して没入することでの充実感
R (Relationships / 人間関係):良好な人間関係やコミュニケーションの質
M (Meaning / 意味・目的):自らの生活や活動に意味や目的を見いだすこと
A (Accomplishment / 達成):目標を達成することによる満足感
レオス・キャピタルワークス代表・藤野英人氏は、ひふみフォーラム2022秋での予防医学研究者の石川善樹氏との対談の中で、PERMAの中心にRelationshipsがあることに注目し、「人間って「人」の「間」と書くぐらいだから、つながりがすごく大事なので、そのつながり感をどう持つのかは、すごく重要なことかなと思います」と話しています。
世論調査などを行うアメリカのギャラップ社は、ウェルビーイングの状態を5つの要素で評価するモデルを提供しています。
①Career Well-being(キャリアウェルビーイング) 仕事やキャリアに関する幸福感や充実感
②Social Well-being(ソーシャルウェルビーイング) 人間関係やコミュニティとのつながりに関する幸福感
③Financial Well-being(フィナンシャルウェルビーイング) 経済的な安全と幸福感
④Physical Well-being(フィジカルウェルビーイング) 身体的・精神的な幸福感
⑤Community Well-being(コミュニティウェルビーイング) 地域社会・コミュニティへの所属感や幸福感
「幸せの4つの因子」とは、国内幸福学の第一人者である前野隆司氏の研究グループが導き出した指標です。4つの因子を少しでも高めていくことが幸せにつながると言います。
①やってみよう因子 自己実現と成長の因子
②ありがとう因子 つながりと感謝の因子
③なんとかなる因子 前向きと楽観の因子
④ありのままに因子 独立と自分らしさの因子
前野氏は2022年1月22日に開催された働き方アワードにて、スライドを用いて幸福学について説明。
「心の状態について因子分析という手法で分析した結果、この4つを満たしている人は幸せで、満たさない人は幸福度が低いことを明らかにしたという研究結果」だと話しています。
より詳しく「幸せの4つの因子」について知りたいという方は、ぜひ以下の記事をご覧ください
2023年5月、パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・立教大学経営学部 中原淳教授(ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ)が、ソーシャル・エンゲージメント(社会貢献意識)に関する調査結果を発表しました。
それによると、「目の前の仕事に主体的に取り組み、学びの意欲が高く、業務上の成果や主観的ウェルビーイングの実感も高いことがわかった」とのこと。こうした分析結果から、ウェルビーイングの高まりが人々の社会貢献意識を高めるとも言えそうです。
また、いわゆるデジタルネイティブと呼ばれるZ世代の人たちの中には、インターネットを通じて「世界を良くしたい」と考える人が増えているという意見もあります。こうした流れとウェルビーイングが重なることで、社会への影響は大きくなる可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。
ウェルビーイングが高まると、幸福を感じる個人が増えるので自殺率などが下がる効果が期待されます。しかし、個人のウェルビーイングを高めるにはまずは社会から変えていくことが必要です。
公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表である前述の石川善樹氏は、「個人の健康の前に社会的な健康が必要」だと指摘しています。
また、WHOの憲章前文においても、健康について以下のように定義しています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。
ここ数年は日本人のウェルビーイングは向上していると話す石川氏。一人ひとりがウェルビーイングを意識するようになれば、社会的な孤独や苦しみを感じる人はきっと少なくなるのではないでしょうか。
企業がウェルビーイングに取り組むことで、生産性の向上や離職率の低下、また、ブランドイメージの向上などにつながると考えられます。
「幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性が3倍高いんです。そして生産性も30パーセントぐらい、売上も30パーセント以上に上がるというデータがあります」と語るのは、「幸せの4つの因子」を導き出した前野隆司氏。
生産性に限らず、アイデアや新規事業の創出、売上の向上など、さまざまな効果があると言います。また、近年注目される「健康経営」の推進にもつながるため、企業としてもウェルビーイングの重要性は今後も高まっていくと予想されます。
これまでの情報を基に、企業がウェルビーイングを高めるにはどうすればいいかを考えます。企業の規模や状況に応じてできることは変わりますが、従業員が活き活きと働くためには以下のようなことが必要だと言えそうです。
従業員のヘルスケアやストレスチェックを行う
多様な働き方を受け入れる
労働環境を見直す
そして何より、従業員一人ひとりと向き合うことがウェルビーイングを高めることに繋がります。例えば、1on1の頻度とウェルビーイングの関係を見てみると「会社に不満足と回答した人の4割が、1on1がまったく行われていないと回答した」という結果があります。その上で、部下のウェルビーイングを高める最も大きなポイントは「上司が傾聴してくれること」だということです。
コロナ禍の影響によってテレワークが浸透した際、コミュニケーション不足による弊害が生まれた企業は少なくないと思います。こうした背景からも、近年1on1の必要性を感じている企業が増えました。組織の課題を解決し、ウェルビーイングを高める手段として、計画的な1on1ができるようになることが必要なのではないでしょうか。
最後に国内外企業のウェルビーイング事例をご紹介します。
Googleはデジタルデバイスの健全な使用を推奨し、使いすぎないための具体的なヒントやサポートを行っています。デバイスの使いすぎによる健康への影響を下げるための方法を提示し、その上で、テクノロジーの使いどころを見極め、ウェルビーイングの高いデバイスとの向き合い方を提唱しています。
また、こうした取り組みをユーザーに向けて一般公開しています。
積水ハウスは2020年度から全社員を対象に、前野隆司氏が開発した幸福診断を実施して、すべての項目で平均よりも数値が高かったとのことです。また、同社の執行役員人材開発担当の藤間美樹氏は、ウェルビーイングを実現するためには企業理念の浸透が不可欠であり、他社に対してもその重要性を伝えることが大切だとしています。
そして、企業理念の根本に「人間愛」を置き、1on1のキャリア面談を実施するなど、従業員が充実した働き方ができるように取り組んでいます。
今回はウェルビーイングが必要とされる背景から、企業の取り組み事例までをまとめました。近年注目されているとはいえ、まだ広く浸透しているとは言えない概念です。だからこそ、企業として取り組み、他社と差別化を図るチャンスがあるのではないでしょうか。
ログミーBizでは専門家たちの講演や登壇の記録を記事として残しています。ここでしか得られない情報に出会えるかもしれません。今回取り上げたウェルビーイングに関するログも多数残っているので、ぜひ他の記事も参考にしてみてください。
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