株式投資はおしゃれで、知的で、かっこいい社会貢献

藤野英人氏(以下、藤野):皆さんこんばんは。レオス・キャピタルワークスの藤野でございます。本日は雨の中お集まりいただきまして、本当にありがとうございます。出版記念の講演ということで、今回お話をさせていただくんですけれども、たぶんみなさんはいろんな関心事があると思うんですね。

1つはマーケットがすごく健闘しているので、その中でどのように行動したらいいんだろうか、ということもあるでしょうし。それからもう少し長い目で見ると年金の問題とか、資産運用のことについて、自分がこれからどうしたらいいんだろうかとお悩みの方もいるでしょうし。

今回はチャンスだということで、どういった会社に投資をしようというような方も、いろいろいらっしゃると思いますが、すべてのニーズに応えられるかどうかはわからないですけれども、今言ったようなことに目線を合わせながらお話をしていこうと思います。

最初にお話をしたいのは、いつも私が講演でよく話すんですけども、「株式投資をすることはおしゃれで、知的で、かっこいい社会貢献だ」。これは私の強い信念であります。今日はこのことについての話はしませんが、全般を通じて講師がこのようなことを解説してるんだなということを感じていただければいいかなと思っております。

私の紹介ですが、大学を1990年に卒業してから野村アセットの前身の野村投資顧問という会社に就職をして、現在のJPモルガン・アセットに転職をして、その後ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントという会社に入ってから、2003年に今の会社を起業しました。

39億年に1回の確率でファンド賞を連続受賞

ここにもいろいろ紹介がありますけれども、私自身はレオス・キャピタルワークスのファウンダー、取締役最高責任者という立場で仕事をしています。ここら辺の話は今日の主旨ではないので飛ばします。

あと、日本一の日本株ファンドを運用しているということですけど、R&Iという日経新聞の子会社の評価機関で4年連続ファンド大賞を取ってます。これは過去3年間の成績を見て、リスクが低くてリターンの高い商品に対して表彰されるもので、2012年が最優秀ファンド賞で1位。2013年が優秀ファンド賞で2位。2014年が最優秀ファンド賞で1位。2015年が優秀ファンド賞で2位という成績でした。

4年連続500本ある中から2番以内を取る確率というのは、250×250×250×250という数字で39億という数字になっています。純粋に確率的にいうと39億年に1回の確率という感じになります。39億年というとどれくらいかというと、地球が誕生したのが46億年前ですから、かなり奇跡的な数字だということがわかると思います。

5年連続取ったら宇宙を超えるんですね。宇宙の歴史が124億年と言われてますので、なんとか宇宙一となりたいと思っています。8月末の段階で現状の3年間の成績で言うとまだ十分可能性があると思っています。

ひふみ投信の特色は「停滞期に強い」「下がった後の戻りが早い」

これがひふみ投信の直近(2015年8月~9月)の成績ですね。やっぱり大きく下がってます。かなり落ちている。ピークから800円ぐらい値下がりしたと思います。これ(灰色のグラフ)がTOPIXですね。見ていただくと大きく差があるんですけれども。

特に僕らの強みは……これ(2013年5月ごろ)がアベノミクスの初期ですね。アベノミクスもこの時は伸び率で言うと同じぐらいなんですね。

ただアベノミクスが1回停滞します。停滞した時に(ひふみ投信は)大きく上昇しています。

ここ(2015年3月ごろ)も停滞した時に大きく上昇しているので、僕らは停滞している時に強いんですね。逆に大きく伸びているときにはマーケットなりというのが私たちのファンドの特色です。

あとマーケット全体が下がる時に下がるファンドです。下がるときに下がらないファンドではなくて、下がるときには結構同じぐらい下がります。ただ下がった後の戻りが早いのが特色で。

例えばリーマンショックはこの時(2008年9月)ですけど、リーマンショックの時も大きく下がっていますが、その後半年ぐらいでリーマンショック前の水準に戻っています。東証株価指数だとどうですかね。ずっとアベノミクスが始まる前まで回復はしてないですね。

アベノミクスが始まる前までマーケットが下がっている時に、僕らのファンドは上がっています。だいたいプラス40パーセントぐらい、下げ局面に割と強いというのが特色です。

だから結果的に4年連続ファンド大賞に至っているいうことです。だから今回も下げ局面ですから、なんとか過去と同じように東証株価指数よりも大きく戻していきたいなと思っています。

投資は愛である

最近私のセミナーでよく話す「桐たんす物語」という話をさせていただいて本論のほうにいきたいと思います。これは何の話かというと私たちが考えている投資とは何か? についての考え方です。昔、明治の初期ぐらいまで女の子が生まれると桐の木を植える習慣が日本にはあったんです。

その女の子が成人になってお嫁に出す時に、その木を切って桐たんすにして嫁入り道具として出したというところから、桐の木を植えるという習慣があったということです。

女の子が生まれると桐の木を植えました。なんで桐の木なのかというと、成長が早いからです。杉とか桧は20年経ってもそれほど大きな木にはなりません。桐の場合だと非常に成長早いので、女の子が成長する当時18歳とか20歳でお嫁に出していたので、その時にはもう成木になっているという成長の早さと、防虫とか防火、防水とかの機能も持っているので、タンスに非常にふさわしいということがありました。

この絵では1本だけ植えてますけれども、だいたい2本植えたと言われています。なぜ2本植えたのかということですが、それはリスクヘッジです。2本植えれば1本は生き残るかもしれない。1本だったら枯れてしまったら終わり。だけど2本目をちょっと別の場所に植えたと言われています。裏山に植えたんですね。

もし、うまく2本とも育ったら1本を売って、それで製作費にしたと言われています。女の子の成長と共に桐の木が育っていくわけです。当然家族ですから家族の間でもいろいろあります。病気になることがあるかもしれないし、夫婦仲が悪くなることもあるかもしれないし、リストラされてしまうかもしれません。

そういう中でも家族のピンチを乗り越えて、桐の木を育てて、最後は女の子がお嫁に行く時に、桐を桐たんすにして嫁入り道具に出したんですね。「桐たんす物語」で学べることは、「投資は愛である」ということです。投資はむしろ自分のために行うものかもしれませんが、誰かのために行うものでもあります。

非常に大事なことですが投資は未来です。過去に投資することはできません。投資はすでに未来なんですね。ここは大きなポイントです。僕らがよくやってしまう間違いというのは、過去に投資をすることをしばしば行ってしまうことです。それは何かというと、有名なもの、大きなものに投資をしてしまうことです。

過去良かったものに投資をすることは、実はそのことは過去に投資をすることなんで、投資家としては正しいことではありません。投資というのは、これから成長するかどうかが大事です。だから過去に投資をするようなことはないようにする。投資とは常に未来だということになります。

あと投資には我慢が必要です。ちょっと下がったからって切ってしまうと、それは立派な桐たんすにはならないわけです。途中で切り倒さないことです。当然時間がかかります。投資で最も重要な資産は何か? 時間なんですね。時間をかけることです。

最後に、投資とは育てることだと思います。これが投資の本質じゃないかなと思ってます。桐たんす、桐の木は今の住環境には無くて、触れることができませんけども、現在の桐の木にあたるのが投資信託なんじゃないかと思っています。

企業のどこに注目すべきか

さて前置きはこのくらいにして。今日皆さんにお伝えしたいことですけれども、企業のどこに注目するのかということと、これからの株式市場について。特に今回本に書いたもので言うと、伊藤レポートを中心とする新しい経済、新しい投資家と会社のあり方についてお話をしたいと思いますので、そのことについて触れながらお話をしようと思います。

まず企業のどこに注目するかという話ですけれども、投資の三権分立とありますが、投資をする時にどういうところを見ているかというと、この3つ。経営理念、ビジネスモデル、業績資本効率がとても大事です。特に経営理念が大切ですね。

経営理念を知るためにはどうすればいいか? もちろんホームページを見るとか、もしくは有価証券報告書を見るとか、会社案内を見ると書いてありますが、やはり会社の社長に会って、直接経営理念を聞くことがとても大切ではないかなと思います。

たまたま昨日は、ワコールの会社に行ってきてワコールの社長の話を聞いてきました。1時間半の面談の中で社長が話した中で何度も出てきた言葉があるんです。それは何かというと、「女性を綺麗にする」。

女性を綺麗にする、素敵にすることが彼らの会社の理念、存在ですね。それを途中でざっと数えたんです。1時間半のミーティングで20回ぐらい出ました。

女性を綺麗にする。私たちの会社は女性を綺麗にする会社です。パンツを売っている会社じゃないんですね。ブラジャーを売っている会社でもない。私たちの会社は女性を綺麗にするというミッションがあるんだということですね。そのために下着をたまたま扱っているということなんだと思います。

女性を綺麗にする会社という経営理念で、会社を経営しているということでした。だから女性を綺麗にするためにどういう政策をとっているんですか、という話もありましたし、「これから私たちは世界に出ていきます。なぜなら世界は市場があるからだ」とは言わなかったんですね。「私たちは日本の女性を綺麗にするだけではなく、世界の女性を綺麗にしたい」って言ってました。

なんで中国に出ていくのか? 中国の女性を綺麗にしたいから。なぜ台湾に出ていくのか? 台湾の女性を綺麗にしたいから。そのために何をしているのかっていう話を組み立てていました。もちろんそれは綺麗ごともあります。綺麗ごともありますが、でも社長がそれを捨てたら、会社はどんどん腐っていくと思うんです。

やっぱり自分たちが何をしたいか? 何をするべきか? というところを、トップ自身が語っていくことがすごく大事だなと思ったので、なるほどワコールという会社はそういうことで真面目な会社なんだなとすごく思いました。

母は日本で一番ブラジャーを売った女性

これは完全に個人的な話なんですけど、実は私はワコールという会社に感謝していて。なぜかというと、私の母がずっとワコールの販売員だったんです。名古屋だったり、東京だったり大宮だったり、ワコールの販売員をしていて、ワコールの商品を売る、彼らの下着を売ることに母は全力投球をしていたんです。

私は中学校時代、なんか嫌だったんです。自分の母が下着の販売員をしているのは、なんとなく嫌だったんですね。あまり尊敬できなかったというか、下着っていう感じが……。

母はそういう意識は全く無かったですね。母はすごく仕事が大好きで。そして食卓の話題の3分の1ぐらいがブラジャーだったんです(笑)。僕はその時、あまりそういう話を聞くことが好きではなかった。高校の時も大学の時もそうだったんですけれども。

でも仕事をするのが楽しげでしたね。いつもいつも工夫して、これだけ売るんだ、これだけ売ったんだったら、単純にお金儲けではなく、そのブラジャーとか下着を売って、ただ売ること以上の喜び、お金を得ること以上の喜びを母は得ていたと思うんですね。

そういう働くことの楽しさ、素晴らしさっていうところを、実は結構母から学んだんじゃないかなと思います。今から考えてみると、父は父で頑張って働いていたんだけれども、父の稼ぎだけでは十分ではなくて。僕自身はお金持ちの家庭というわけではなかったので、一生懸命両親が共働きで頑張って働いていたということがあるんですが。

逆に母が働いていたお金が、私の教育費になっていたっていうのがあって。たぶんそれは同年代の人よりも母が教育の大切さをよくわかっていて、勉強したり本を買ったり、ピアノとかをさせてくれたり、ということがあったのも母のおかげなんですね。

かつ、母はワコールの営業成績で日本でトップクラスの成績を取って、何回も表彰されたことがありました。埼玉県に住んでいるんですけど、もう70歳を越して、最近は働いてないんですが、60を過ぎまであまりに販売が上手だということで、ずっと嘱託(しょくたく)で売っていました。

おそらく日本で一番ブラジャーを売った女性の1人は、間違いなく母なんですよね(笑)。だから昨日社長と会ってその話をしたら、すごく社長に喜んでいただいて、ワコールの社長と写真を撮ったんですよ。それで昨日母に送って、すごく母も喜んでくれました。

ちなみに脱線ついでに話をすると、ワコールって皆さん、意味がわかりますか? ワコールの意味。わからないですよね。もともと和江(わこう)商事と言ってました。和江商事の「わ」は平和の和に、「こう」という字は揚子江とかの江ですね。それは何かと言うと、江州から来てるんですね。要するに滋賀県です。江州で和するから和江。

平和の和に江州の江なんですね。江州っていうのは滋賀県です。近江商人だったんですね。近江商人を和する、近江商人の中でもみんな家族全員と仲良くするんだっていうことが、和江という意味なんですね。

じゃあワコールの「ル」は何ですかっていうことですけれども、留めるという字です。要するに近江商人が和して留まる。これでワコールですよ。

だから平和の和、江州の江ですね、それで留まる、それでワコール。それを海外の商品のように見せるために、ワコールっていう名前にしたんだって仰ってました。社名の由来を聞くのは非常におもしろいものですね。その中にいろんな歴史とか、経営者の思いが出てるんじゃないかなと思います。

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