国民の半数以上が「国会の審議はまだ十分ではない」と回答

司会:それでは、皆さんからの質問を受けたいと思います。最初に幹事社の方からお願いします。

記者:産経新聞のアビルです。今回成立した安全保障関連法をめぐっては、憲法学者らから「違憲」という指摘が相次いだこともあって、マスメディアもふくめて世論が二分しました。

そして成立後の世論調査でも、国民の半数以上が「国会の審議はまだ十分ではない」という回答をしていることが挙げられます。これをどう見ていらっしゃいますか?

また、インターネット上やデモなどでは感情的な言葉も飛び交いまして、総理がさっき指摘されたように「レッテル貼り」や「デマ」も目立ちました。

このように割れてしまった国論の融和について、今後どう取り組まれるお考えでしょうか? どのような方法で国民を説得し、多数の理解・納得を得ていくのか。具体策があればお聞かせください。

安倍晋三氏(以下、安倍):平和安全法制は国民の命と暮らしを守るために、必要不可欠なものであります。安全保障環境が厳しさを増す中、法案の成立によって、子どもたちに平和な日本、繁栄した日本を引き渡すことができると確信しています。

国会審議では、野党の皆さんからも複数の対案が提出されまして、深い議論ができたと考えています。真摯な協議の結果、民主的な統制を強化することで合意に至り、野党3党の合意も得ることができた。幅広い合意を形成することができたと考えています。それはこの法案の成立にあたって、大きな意義があったのではないでしょうか。

200時間を超える充実した審議の中で、野党の皆さんにも我々の問題意識を共有していただいた結果ではないかと思います。

他方では「戦争法案だ」とか「徴兵制になる」とか、こうした無責任なレッテル張りが行われたことは、大変残念に思います。

国民の命を守り、平和な暮らしを守っていくための法制であります。安全保障の理論というのは、しっかり国際情勢の分析をしながら、どのように国民を守っていくかという冷静な議論をしていくべきであろうと。

我々国会議員は、そういう中で、単なるレッテル貼りや無責任な議論はひかえなければならないと思っています。

そういう無責任な議論があったことは、大変残念なことでありました。実際にもし、戦争法案ということであれば、世界中から非難が寄せられているはずであります。非難轟々(ごうごう)ではなかったのでしょうか。それは全く違いました。

多くの国々から支持や理解の表明があったわけであります。圧倒的な支持を受けていると言ってもいいと思います。その点からしても、戦争法案という非難がただのレッテル貼りに過ぎないということの証ではないかと思っています。

今後も私自身、そして関係閣僚をはじめあらゆるレベルで国民の皆さまのご理解を得るべく、努力を重ねていきたい。そして、根拠のないレッテルを剥がしていきたいと、こう考えています。

かつての安保条約改定時もそうでした。PKO法制定のときもそうでありましたが、時を経る中において、その実態について国民の理解が広がっていったという事実もあります。

そういう意味におきましては、今後時を経る中で、今回の法制の意義については、十分に国民的な理解は広がっていく、このように確信をしております。

北朝鮮、ロシア、近隣諸国との外交について

記者:フジテレビのニシワキです。外交方針について伺わせていただきます。北朝鮮との協議は再調査から1年が経過する中、拉致被害者の方々に関する報告が示されていないと。この現状と今後の展望についてお聞かせください。

ニューヨークでの首脳会談のご予定も伺っておりますが、ロシアとの関係やプーチン大統領の年内の訪日、この方針・現状についてお聞かせください。

また、加えて恐縮ですが、首脳会談を予定されている中国・韓国の2国との外交展望についてもお聞かせください。

安倍:拉致問題については、安倍政権において必ず解決をしていくという決意で臨んでいます。調査の開始から1年が経っても拉致被害者の帰国が実現していないということは、誠に遺憾であります。

8月には外務大臣から李洙墉(リ・スヨン)外務大臣に対して、拉致問題の解決を強く要請いたしました。制裁についてですが、制裁は課すときと解除するとき、2回効果があるわけであります。それをいかに活用して、最終的な解決に結びつけていくかが大切であります。

対話と圧力、行動対行動の方針のもと、北朝鮮から具体的な行動を引き出す上で、何がもっとも効果的かという観点から、拉致問題の解決に向けて全力を尽くしていく考えであります。

近隣諸国との外交につきましては、冒頭で申し上げました通り、私はロシア、中国、韓国との関係改善にこれまで以上に力を入れていきたいと思います。

ロシアとの間には北方領土問題があり、戦後70年近く経っても平和条約が締結されていないという厳しい現実があります。先日行われた、日露外相会談では突っ込んだ議論を行いまして、事実上中断していた平和条約締結交渉が再開いたしました。

北方領土問題は首脳間のやりとりなくして、解決することはできません。これまでプーチン大統領と10回会談を重ねてまいりました。国連総会においてもプーチン大統領と会談をする予定であり、北方領土問題についても直接議論をしたいと思います。

また、プーチン大統領の訪日については、ベストな時期に実践したいと考えており、具体的な時期については総合的に勘案しながら、やっていきたいと思います。

中国、韓国との関係については、私は従来から日中韓首脳会談の早期開催を働きかけてきておりまして、秋にはこれを実践したいと考えております。首脳会談の議題は、今後調整していくことになりますが、地域の平和と繁栄のために、3ヵ国の首脳で有意義な議論を行いたいと思います。

日中韓のサミットが開催される際には、朴槿恵(パク・クネ)大統領と李克強(リ・コクキョウ)首相と、それぞれ日韓、日中の首脳会談を行いたいと思います。それぞれ隣国ゆえに難しい課題や問題もあります。だからこそ首脳間で議論を行うべきであろうと、こう思います。

「1億総活躍社会」の実現に向けた具体的な政策

記者:共同通信のスギタです。総理が冒頭でもおっしゃられていた、「1億総活躍社会」、昨日の会見でもおっしゃられた「介護無職ゼロ」、「GDP600兆」。大きな目標を掲げられていますが、この目標に具体的にどういう道筋で進むのかがまだ見えていません。いつ頃までに、どういう政策で進むのか説明をお願いします。

安倍:昨日は日本の構造的な問題である、少子高齢化に真っ正面から挑み、「1億総活躍社会をつくる」と申し上げました。そのために「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護無職ゼロ」という具体的な目標を掲げました。いずれも困難な課題です。

その実現が、一朝一夕で成し得ないことはもとより覚悟のことでございます。20年近いデフレが続き、日本人は自信を失いました。少子高齢化の克服がどうやっても無理だと、最初から諦めていたのではないでしょうか。

しかし、このまま放置していていいわけではありません。どっかでスタートしなければ、輝く未来を実現していくことはできないわけであります。

政権を奪取したとき、あるいは3年前に私が総裁に就任した際、デフレから脱却をするという大きな目標を掲げました。15年間も続いている中で、「デフレを前提に考えるべきだ」という人も中にはいました。その中でまず目標を掲げ、そのためにこういう手段をとっていくということを表明しました。

当時「それは不可能だ」ということを随分言われました。しかし今、もはやデフレではないという状況をつくりあげることができたんです。あのとき給料やボーナスがあがっていく、そういう時代はもう来ないと言われていました。

政治が政治で決断して、しっかりとその処方箋をもって示していけば、私はそれは実現できる、あるいはその実現に向かって進んでいくことができると確信しております。

今我々は、再び成長することができるという、自信を取り戻すことができた。今こそ長年手付かずでいた課題に向かって、具体的な目標・明確なビジョンを掲げてチャレンジするべきだろうと思います。

その強い決意とあらゆる政策を総動員して取り組んでいく、基本的な考え方を昨日申し上げたわけでありまして、来月の新体制の発足にあたってはこの「1億総活躍社会」づくりに腰を据えて取り組むために、しっかりとした体制をつくる考えであります。

新たな担当大臣を置くことに加えまして、その下に、国民的な議論を深め、多岐にわたる政策を総動員するために、国民会議を設置する考えであります。

目指すべきは大きな節目でありまして、やはり日本でオリンピック、パラリンピックが開かれる2020年であります。団塊の世代が70を超える年でもあります。この2020年に向かって、またその先を見据えて、新たな国づくりを進めてまいります。

こうした観点から、新しい体制のもとで「日本1億総活躍プラン」をつくり、その実現に全力を尽くしていく考えであります。

「名目GDP600兆円」を掲げる成長戦略

記者:ウォールストリート・ジャーナルです。先日、内閣参与である本田(悦朗)氏が3兆円規模の景気対策が望ましいと述べられました。総理はこの3兆円という数字について、大きすぎるのか、少なすぎるのか、それともちょうどいいのか、お考えをお聞かせください。

安倍:政権交代後、3本の矢政策によって、雇用においても所得においても、環境は間違いなく改善していて、デフレ脱却までもう一息というところまできました。景気の現状は、今のところ一部に鈍い動きも見られますが、緩やかな回復基調が続いています。

そういう中で、アベノミクスの第2ステージにおいて、「名目GDP600兆円」という大きな目標を掲げました。引き続き経済最優先で、しっかりとした成長戦略を進めていくことによって、雇用をさらに増やし、給料をあげ、消費を拡大してまいります。

補正予算による経済対策を策定することは、現時点では考えておりませんが、経済動向をよく注視し、機動的な経済、財政運営によって万全を期していく考えであります。

記者:NHKのハラと申します。先ほどの質問と少し重なりますけど、「GDP600兆」という目標を達成する上で、総理が最も重視する政策は何でしょうか? また成長戦略の柱となるTPP交渉は足踏みの状態が続いていますけれども、来年にアメリカ大統領選挙があることを踏まえながらいつ頃までに妥結することが望ましいとお考えでしょうか?

安倍:まず「GDP600兆円」を達成するためには、デフレから脱却をして、力強く経済を成長させていかなければなりません。企業の人材やITへの投資を喚起して、生産性大革命を大胆に進めていく。

女性や高齢者の皆さんにも、もっと活躍をしてもらえるよう、多様な働き方改革も進めていきたいと思います。コーポレートガバナンス改革、規制改革、制度改革も大胆に実行しまして、過去最大の企業収益を、積極的な設備投資、雇用、所得のさらなる改善や消費の増加に結びつけていく考えであります。

さらにTPPを含めた大きな経済圏を世界に広げながら、投資や人材を日本へと呼び込む政策を力強く進めていきたいと思います。TPPについてでありますが、9月30日からアトランタでTPP会合が開催されます。交渉は最後が一番難しいわけでありますが、今回の閣僚会合を最後の閣僚会合としたいと考えておりますし、これはすべての参加国がそういう考え方のもとに、この閣僚会合に参加すると思います。