「働く」とは、自分の命を使うこと

堀潤氏(以下、堀):俳優で、リバースプロジェクト代表の伊勢谷友介さんです。よろしくお願いします。

伊勢谷友介氏(以下、伊勢谷): こんばんは。よろしくお願いします。

:伊勢谷さんは、ニコ生ってよくやるんでしたっけ?

伊勢谷:よくはやらないですね。

:出ることはあるんですか?

伊勢谷:何回か出させていただいたことあります。

:今日は、コメントを色々拾いながらやっていきたいと思うんですけれども。今日はまさにテーマがですね、「働く」ということについて。まず、率直に言って、伊勢谷さんは「働く」ってことについてどんな考え方を持っている人なんですか?

伊勢谷:これは僕が若いときから持っていたものではなくて、ある程度、俳優をやったその後、リバースをやってから思うことなんですけど。まず最初の捉え方として、『働く』っていうことは人生のなかで一番、大きなアクションになっていくと思うんですね、社会的に関わっていくと。

であるから、要は命を、一番どこの、何のために、使うか。そのために活動することだと思っているんですよね。だから、それが「働く=お金」の人が多いなかで、そういうふうな形じゃない目線で僕は見ているのかな、と思います。

:まさにリバースプロジェクトでは、社会の問題を一つずつ問題を掘り起こして、みんなで集まって変えていくようなことっていうのをずっとやられていますよね。

伊勢谷:そうですね。楽しいですよ。でもまあ、楽しいというのもちょっと語弊があるのかな。あまりにもたくさん問題がありすぎて、僕らの場合はアイデアを必ずそのエグゼキューション(実施)にきちんとしないかぎり、アイデアなんかクソだ、っていうふうに思っていまして。

:ほう。つまりどういうことですか。

自分で実行していくことの重要性

伊勢谷:思ってるだけでもダメなんですよ。たとえば「愛してる」と言ってるだけでもダメ。ちゃんと形に、行動にしてあげないと、人には伝わらないものなんですよね。普段から色々つぶやく人っているじゃないですか。それに行動が伴って、自信持ってやってくれている人を見るとすごく嬉しいんです。

簡単に言うと、たとえば「劇場型の政治」ってよく言われていますよね。僕が感じているのは、一般である我々っていうのは、どうしたって直接的に政治に関わるっていうことがなかなか出来ない状態だということ。実際に投票率も60%を切っていて、これだと間接民主主義という形が、本当に「民主主義(として機能している状態)なんだろうか?」と思ってしまう。

要は、ちゃんと自分で実行していくというような形が成立してないものっていうのは、あまり意味はないんじゃないかな、と考えているところですね。

:まさに、この間の参議院選挙(2013年7月の参院選、結果は自公の大勝)では、伊勢谷さんと一緒に参議院選挙の特番やったんですよね。

伊勢谷:すいません。お邪魔しました。

:本当に、テレビ神奈川の番組なんですけど、テレビ神奈川の画面がすごい豪華になるっていう……。

伊勢谷:いえいえ、とんでもない。そんなことないです。

:神奈川県民のみなさん、すごい喜んでいましたけど。結構、面白い特番でしたよね。ひたすら政局を伝えるんじゃなくて、政策について議論する選挙特番、という形で。やっぱり当事者制の話とか結構出てきましたもんね。

伊勢谷:そうですよね。もうそれこそ、青木大和君が、まさかの未成年なのに、あれだけの。

:未成年で投票の権利がないにもかかわらず、選挙特番でコメンテーイターとして入っているという。

伊勢谷:うん、それだけの意識のある子が育ってきている、っていうことだとは僕は思うんですよね。

全人類に「正しい」と思われることをしたかった

:伊勢谷さんは俳優業をされていらっしゃって、そのなかで具体的にこうして「社会を直接的に変えていく」というようなメッセージを発信していく活動を始められました。俳優業の世界でも、それをやるほうと、そうじゃないほうに分かれると思うんですね。

ハリウッドに行くと普通にNPO持っていたりとか、慈善活動やったりとか、色んなアクションとるんですけれども、日本はまだまだ少ないと思うんですよ。そういうなかで、伊勢谷さんはなぜ、そういう道を選択したのですか?

伊勢谷:はい。僕自身がですね、実は映画を作るっていうために俳優を始めた、その俳優をやるためにモデルをやった、という経緯があったんです。そしたら27の時に『カクト』という自分の映画を撮らせてもらえて、無事公開し終わることが出来た。そこでまあ、監督をするっていうのは達成したわけじゃないですか。そのとき「じゃあ、僕自身は何のために生きているのか」っていうのを、もう一度、自分に聞いたことがあったんです。

じゃあまず、僕はどういう風になりたいの、って考えたときに、もうすごい単純なんですけど、「色んな人に好かれたい」とか「仲間がいっぱい欲しい」みたいな、誰もが考える普通のことを思ったんです。そこから始まって考えていくときに、じゃあ、誰からも否定されない「目的」っていうのを持ちたいなと。

それって誰からも否定されない、全人類が「それは正しいよ」と言えることですよね。つまり人類が地球に生き残るためのこと。その行動をしている人になりたい、って考えたんです。

次に人類が地球に生き残るために、僕の命は地球に使い捨てていくものだと考えた時に、どういうふうな活動をしていけばいいのかな、って考えました。もうその当時から俳優をやらせて頂いていて、皆さんに見ていただける、そういうきっかけがあったんです。その分だけ行動したときに、人に伝えられることが多いんじゃないか。

で、そのなかで人類が地球に生き残るための株式会社、っていうふうな形態をとるようになりましたね。

日本人は集団になると変化を拒む

:これまでの議論でも、働くっていうこと、つまり「労働観」については、それぞれの立場の人が、色んな思いを描いていたんですけれども。たとえば出た話で言うと「ワークとジョブは違う」とかね。ワークっていうのは自分で何かクリエイトしていくもの。ジョブは与えられているものだ、とか。

後、ホリエモンさんとかが言っていたのは、とにかく計画を立てずに、思いついたことを全部実行していくんだ、ということ。さっきおっしゃったことに近いですよね……。逆に小利口な奴はダメだ、とかってね。

伊勢谷:それ結構、賛成しますね。

:おお、というのは?

伊勢谷:やっぱりこう、日本の官僚の方もそうですし、個人個人、日本人それぞれと会うと本当にいい人なんですよ。でも人間が企業のような集団になったときにですね、何か変化を起こそうとするものに対して、それに対する労力ってかなり大変なものになるので。後はリスクヘッジだったり、リスクを負うっていうことも、同時にしなくちゃいけないんですね。でも、集団になった瞬間に、人々っていうのは急にそれをやらなくなってくるんです。

なので私としては、やっぱりそういうふうに止める側ではなく、きちんと自分の思ったことを実行できるような人でありたいな、と思います。固着化していく会社、最終的には変化について来られない会社っていうのは潰れるべきだと僕は思うんですよ。

で、そうならない会社になるためは、何の目的のためにこの会社があってこの変化を必要としているのか、と思った瞬間に、それぞれがちゃんと自分で責任を負って、失敗できるような世の中、そうあるべきなんじゃないかな、っていうのは、すごく思っていましたね。

:さっき、一番問題なのは、リスクさえも把握できない小利口さだ、ってことをね、言っていました。それはそうだなと思いました。

伊勢谷:なるほど、リスクだけわかっててもダメですしね。

ニューヨークで気づいた、他人の優しさ

:伊勢谷さんが、どうしてそういう思考を持つようになったのかっていうの、非常に気になるんですけれども。留学もされているんですよね。

伊勢谷:そうです。23のときですね。大学院の1年生の時ですね。

:振り返ってみると、その留学体験っていうのは……。

伊勢谷:いやあ、僕にとっては、初めての海外での長期。とはいえ、1ヶ月と少しだったんですね。

:どちらへ行かれたんでしたっけ?

伊勢谷:アメリカのニューヨーク。NYUという大学で「ビギ二ング・フィルム・プロダクション」という、映画の制作を短い期間で勉強するというところでした。で、それを取らないと映像を勉強するためのアメリカの大学院に入れない、ということで受けさせてもらったんです。

:まさに、世界中から映像を目指す人が集まってくる場所ですね。

伊勢谷:そうなんです、よくご存じですね。

:僕もUCLAで映画関係の留学を、まさに去年していたんですよ。

伊勢谷:えー!

:はい。やっぱり"ニューヨーク"だなと。留学先色々見るとき、ニューヨークのNYUの話とかあって。本当にでも、すごく刺激される部分が大きかった。

伊勢谷:いやあ、とっても大きかったですね。23歳ぐらいの時って、外国人に対して何者だかわからない、怖いって思っている。多分皆さんもあると思うんですけど。よくよく考えると、みんなが食ってるものも、吸ってるものも、生えているものも、脱糞してるものも、大体似たような素材でできておりまして。彼らが必要なものも、われわれが必要なものも、あまり変わらないんですね。

それは精神的にも同じで。僕らが世界の彼らに対して、どんな行動を取る人なのかもわからない「どんな人間なんだ!?」と思うように、向こうもそう思っている、というのを実感できる時間になりましたし。後はそれこそ、たくさんの世界、国から来ているので、それぞれの人たちと会うことで、僕自身もまだ成長の過程のなかということもあり、なかなか自分で実行できなかった。

伊勢谷:「他人としての優しさ」だったりとかをもろに、自分に身体で感じさせてもらったときに、はあ、自分も優しくなれるんだ、ならなくっちゃいけないと。そうなれたことによって与えられるエネルギーって、ものすごく大きいんだ、っていうのを感じたのが、僕はすごく嬉しかったですね。

:やっぱりしんどくて、優しさを実感するような機会が結構あった、ってことですか? 人からの優しさを。

伊勢谷:そうですね、しんどくはなかったんですよね。僕自身のあけっぴろげな性格によるところもあると思うんですけれど。ただ大変だった。何が大変かなと思うと、僕、東京芸大出身なんですけど、芸大でやるよりも全然短い期間で実行しなきゃいけない課題が多いんですね。その分だけヘビーではありました、体力的に。

ただその分だけ人と関わらなくちゃいけないし、自分の中だけでコンテを描いたり、ストーリー書いたりって考えなくっちゃいけない。その充実感たるや。帰ってきて、芸大否定していましたからね、僕。

:ははは(笑)。「みんなも出て行ったほうがいいぞ!」みたいな。

伊勢谷:そうですね、より実践的だったのもありますね。

広く多くの才能を集結させる、リバースプロジェクトという仕組み

:そういうのは先ほどおっしゃっていた、考えているだけ「実行」していく、具体的なアクションをどんどんやっていかなきゃダメだっていうことは、その時に原点があるんでしょうかね?

伊勢谷:そうでしょうかね。でも実行しないと感じられないもののほうが多い、っていうのは確実だと思うんですよ。だから、ぜひぜひ、みなさんもどんどんどんどん、やってみて。失敗しても許せる世の中にしなくちゃいけないですよね。今度、僕らが大人側になりますから。

:具体的に今の日本の状況を見て、変えていいかなければいけないこと。しかも自分たちの世代が変えていかなければいけないことっていうのは、どんなことだと思ってますか?

伊勢谷:僕も株式会社を経営させていただく身として、「働く」のあり方っていうのを考えてみたときに、僕どっかの会社に入ったことないんで、実際に何が正しいとか、何が当たり前であるっていうのは、わからないんです。けど、僕自身が自分の会社、リバースプロジェクトをやってて、結局プロジェクトの実行のしかたっていうのは、映画を作っていくところとあんまり変わらないんです。

簡単に言うと、ある原作を映画化したいとします。そうすると脚本家が要る、脚本家にアドバイスするために「どんなイメージで」っていうところでディレクターが要る。ディレクターにとっては「どんな映画撮りたいか」となり、カメラマンが要る。カメラマンにとっては「どういう照明が必要なんだ」ってきて。

今度そこに全体の流れを把握する、まあ最初からいるものなんですが、制作部さんがいたりとかして、そこに俳優がいる。とにかく、あらゆるところから才能が集められて、ひとつのプロジェクトが結実していくっていうのを、そのままリバースプロジェクトでやっている感じなんです。

で、リバースプロジェクト自体の社員の人たちっていうのは、もう言っちゃえば社員じゃないんですよね。プロデューサーだったり、そういうディレクターだったり。

:なるほど。それぞれのスキルをもった人たちの集団。

伊勢谷:はい。それが「この目的のためにこういうことやるけど、どうよ?」って言って、反応がなかったら出来ないんですよ、うちの会社。反応があった時にはそれが結実していく。だからそれを社会の中でも実行すべきだと思ったんですね。

伊勢谷:どういうことかって、このひとつの会社、企業のなかで仕事をしていくと、この範囲の中でしか知恵を集めないんです。その点、たとえばWikipediaには、みんながすごく面白いなって思うのが、それぞれの人たちのアイデアによって無償でどんどん高まっていく。

で、かたや企業主導でやってらっしゃる別のウェブサイトがあったんですけど、それはお金を払って有識者に物事を書いてもらうんです。そうすると、情報量というところで雲泥の差が出てきて、今Wikipediaだけ残っている状態なんです。そういうのがが僕、人の本質だと思うんですよ。オープンソースってことじゃなくて、そうやって結実していく、その知恵ってものに価値があるんじゃないかと。もちろん、Wikipediaの僕の欄だって全部合っているわけじゃないですけれども、だけど……。

:どうですか。Wikipediaの情報だいたい合っていますか?

伊勢谷:どうなんでしょう、やめてください(笑)。

:僕のは合っていました。でも嘘が多いとは言うけれども、結構色んな人が書いているから、書きあっていく上でだんだん精度が上がってきたりとかもしますけども。

伊勢谷:はい。だから僕はそれを、実際に会社の形態にやったんです、リバースプロジェクトとして。で、未だに外から入ってくるプロデューサーは多いですけど、抜けてく人は逆にいないんですよね。

:なるほど。

人的リソースを交換する新企画「ヒトシコノミ」

伊勢谷:やりたいことをやっているので。で、それを新しい企画として会社のなかでちょっと始めまして、その名前が「ヒトシコノミ」っていうんです。

:何ですか、「ヒトシコノミ」って?

伊勢谷:簡単に言うと、管理ツールではあるんです。これ実は、名前の由来が『ドラゴンクエスト』なんです。あれの何か裏ワザで、ヒノキの棒とか何とかのアイテムを、「ヒトシコノミ」の順序で揃えるとですね、仲間にしにくいモンスターを仲間にできて……。

:本当ですか! できるんですか?

伊勢谷:同時に、会心の一撃がものすごく出るらしいんですね。

:えー! それ具体的には、ドラクエいくつで?

伊勢谷:いやーそこらへんは僕……。掘ってないんですよ。子どもの頃そんなにお金がなくって、ドラクエしなかったんで。とにかくそういう管理ツール。

:裏技的な?

伊勢谷:そういう管理ツールを作ろうと思ってるんですよ。で、それ来年の4月以降にランニングが始まると思うんですけど。まず最初に僕が思ったのは、大学生の社会貢献をしている子たちの活動状況を見ていると、それぞれの人的リソースみたいなのが足りないなかで、少しずつ何とかやっていくんです。彼らの人的リソースをそれぞれ交換できるような状態を作ってあげよう、ということで最初考えついたんですよ。

:人的リソースを交換できる?

伊勢谷:はい。たとえば、カメラマンがいるけど、デザイナーがいないんだったら、デザイナーを向こうからも借りてきて……ということが可能になることで、お互いがプロジェクトのクオリティアップを図っていく、みたいな。

二兎を追うものは四兎を得る?

:いやあ、本当にそれ、いいですよね。僕もよく事件の現場の取材とかをしている時に、3、4時間ぐらいで犯人の目撃者の証言を得て、逃走中の犯人の顔写真を得て、現場検証を独自の切り口でやって……みたいなことを全部やんなきゃいけなかったりするんです。

カメラマン、まあディレクターの僕、ドライバーさん、音声さん、といたら、気がつくとみんなそれぞれが当初の役割とは違うことをやっているんですよね。もう音声さんが必死にインタビューを取りに行ってくれてたりとか。逆に運転手さんが「どっかで聞き込みしてきました!」とか言ってくれたりとかね。気づけば、色んな役割をしていることによってクルーが倍になっていく、みたいな。

伊勢谷:すばらしいですね。大変なんですね、取材って。すごい。

:そうですね。でも何かこういう、チームだなと思いました。しかもそれがこう、自分の役割を全うするだけじゃなくて、自然と心で「あいつは頑張っているけど、もっとこっちが足りないのを俺はひらめいたから、別に頼まれてもないけど、俺もやってみた。そうしたら結構いいものが撮れた、どうだ!」みたいな。「ああイイね!」みたいな。

伊勢谷:達成感ですね。やってみることで出てくる。でも堀潤さんもそうかもしれないですけど、ちょっと昔だと「二足のわらじ」って揶揄されませんでしたか? 色んなところで。

:そうですね。「二兎追うもの一兎も得ず」だとかね。

伊勢谷:はい。何を言っているんだ今さら、と思うんですけどね。

:本腰入れてやれよ、みたいなね。

伊勢谷:だから、1個頑張った人で2個目ができるんですよ。1個も頑張ってない人は、1個もできないんですよね。だから2個できる人は、たぶん4個できるんですよね。ただ、それでエネルギーが足りないというか、時間が足りなければ他の人に回していくってことは必要ですけど。それはもうよくよく感じますよね。

:最近の会社員の働き方の提案とかでも、「2枚目の名刺を持とう」っていう運動があって、今までだと、さっき伊勢谷さんがおっしゃっていたように、自分が勤めた会社に最後まで勤めあげる働き方。それが嫌だなと思いながらある程度、妥協しながら生きる。

そうじゃなくて、仕事でも自分の理想があったりとか、アイデアがあったんだったら、本業をやりつつ、空いてる時間とかプライベートの時間にもうひとつ名刺を作って、「こっちは本業じゃないんですけど、僕こういうことやりたくて……」って仕事をやってみるっていう。名刺を2枚持つっていうね。2枚目の名刺運動っていうのが、結構広がってきていると。

伊勢谷:そういう意味でいうと、自分の会社なんてみんな"2枚目の名刺"がリバースプロジェクトだったりするんです。

:なるほど。伊勢谷さん自身も、俳優であったりとかする中でやってる活動ですもんね。

伊勢谷:スタッフも同じ感じで、それぞれ自分の会社を持ってた上でリバースプロジェクトで活躍する、とかっていうのが本当ザラですね。

:でもやはり、そういった活動をしてから新しく発見があったりとか、自分自身が変わってきたこととかっていうのはありますか?

伊勢谷:発見だらけです。結局自分が抱えなくちゃいけない責任も、もう多くなってくるんですよね。

:責任。

伊勢谷:実際、本当は生きているだけで、未来に対してそれぞれ責任はある、と僕は考えていますから。なので責任は逆に言うと、どこにペイするかっていうところで、結構その幅が増えてきちゃったな、みたいなところはあると思うんですけど。そのお陰で、自分自身をどれだけコントロール……言い方よくないかな。どれだけ律して、相手が120%動ける環境をこちら側が作るか、みたいな。それはとても楽しくやらせていただいていますね。

自分らしく生きるためのキーワード

:手元にフリップを用意していただいているんですけども。テーマがですね、「自分らしく生きるために、伊勢谷さんが大切にしているキーワードを教えてください」というものです。

伊勢谷:はい。

:自分らしく生きる。これまた難しいですけどね。自分らしく生きようと思って、そういう生き方なのか。そんなことは別に意識せず、たとえば手を差し伸べたい相手がいるから生きていたら、結果そうなったのか、とか。どうなんでしょうね。

伊勢谷:言っちゃったらダメじゃないですか。もう書けないですよ、僕。

:ははは(笑)。

伊勢谷:これ、僕が作品を作る側にいたときから思ってたんですけど。よく皆さんも聞いたことがあると思うんですけど、「自分発見の旅」つって、海外に行く人いるじゃないですか。あれね、自分発見じゃないんですよ絶対。どう考えたって、別の環境にわざわざ行く必要ないんです、自分発見だったら。部屋に閉じこもって、真っ暗のなかで自分の心と対話するほうがいいはずです。

:なるほど。

伊勢谷:それならそれで全然いいんですけど。多分、海外に行ったりとかで何を得られるかっていうと、やっぱり「社会ってこういうものなんだ、ああいうものなんだ」っていうことを知るじゃないですか。で、外的要因で「自分」っていうものが出来上がってくることに気づく。社会が私を作ってる、ってことに気づくと。じゃあ、その社会をどういうふうにしていきたいの? というように逆に変わっていくんじゃないかなと。書くとなると、何て書けば……。

:何でもいいです。イラストでもいいです。

伊勢谷:ちょっとじゃあ、ぜんぜん違うけど、待ってくださいね。

(伊勢谷氏がフリップに書き始める)

:違う切り口で……。でも確かにそうだよな。自分探しじゃないんですよね。

伊勢谷:そうなんです。社会発見。「どこで自分が活躍できるのか」を発見することなんですよね。

:なるほど。

「挫折禁止」

伊勢谷:僕がいつも掲げている言葉で、色んなとこで言っているんで見たことある人もたくさんいると思うんですけど。

:挫折禁止!

伊勢谷:挫折禁止です。

:その心は?

伊勢谷:たとえば「歌を歌いたいな」と僕が思ったとして、僕そんなに歌うまくないんですよ。だだ、じゃあ歌を歌うっていうことがもたらす影響って何なんだろう、と考えたときに、観客がいてなんぼのもんじゃい、という話だと思うんですね。一人で歌っていていいんだったら「歌手」って呼ばないんで。だとすると、人に何かを与えたい、その内容は別に歌でなくても与えられると思うんです。

だから歌が下手だとしても、誰かに愛情を伝えたいとするんだったら、愛情を伝える方法って歌だけじゃないから、これだけ世の中には仕事がたくさんあるわけで。そういうことにちゃんと転換できることが大事なんだ、というふうな思いが、この「挫折禁止」には込められているんです。

:挫折。でもあえて、そういった考え方を「挫折」っていう表現にしたっていうのは何故なんでしょうね?

伊勢谷:「歌を諦める」っていうじゃないですか。「私は歌を諦めて、普通の仕事、やりたくない仕事をしている」とかにながちなんですけど。そうじゃないよ、と。そうじゃなくて、挫折そのものじゃなくて「別のこと」っていうのを発見していくための、最初に踏まなくちゃいけない、ある種の自分を発見するための失敗なんですよね。失敗じゃないな。自分の発見でしかないんですけど。

:経験の積み上げ、みたいなもの。

伊勢谷:はい。おっしゃるとおりで。だけど世の中、それ「挫折」って言ったりするんですよね。

:言いますね。うん。

伊勢谷:だからそれはちょっと違うよっていう。「そこで終わらせんなよ」っていう。

:なるほどね。そこで終わったら挫折。終わるなと。

伊勢谷:そうですね。終わらないんです。

:1回目のコケでしかなくて、次のがあるだろうと。なるほど。

伊勢谷:そうです。人生そのまま続いていきますからね。関係なく時間は過ぎていきますから。堀潤さん、ありました? 挫折。

:いや、いっぱいありましたよ。

伊勢谷:ねえ。でもありますよね、この歳になると。

堀潤氏をつくり上げた"挫折"

:だって僕なんか東京に転勤してきた頃、26歳だったんです。で、報道番組のリポーターのオーディションを受けて選ばれて、その番組に来たんですね。で、初任地が岡山放送局で。5年間務めて、東京に呼ばれたから行ったんです。それだけ働いたからやっと好きな報道ができるんだ、と思って。そしたら「お前みたいなチャラチャラしたやつに報道の現場はやらせない」って言われて。

伊勢谷:今と感じが違ったんですか?

:(笑)。今とあんまり変わらないと思うんですが、もうちょっと痩せていましたね。その時に1ヶ月か2ヶ月くらい、番組が始まっているのに仕事がないんですよ。本当に呼ばれなくて。で、周りの人たちはニュース番組作るために、嵐のようにバァーッってやっているのに、自分だけぜんぜん仕事がない。

伊勢谷:窓際族みたいな感じですかね?。

:それでもう、岡山を万歳三唱で送り出してくれた地元の局とか、親戚の人たちが、「なんか堀潤さん、テレビ出んが。どうしたん?」とかって。「いや、ちょっと長い企画モノ作ってて……」とか言って。

伊勢谷:あーきつい、厳しいですね、はい。

:それで仕方がないから、本当に全部、自分で電話をかけまくったり、事件が起きるとデジカメ持って「目撃者の証言、とってきます!」みたいな。あの時は本当、折れそうな気持ちでした。

伊勢谷:なんか僕……。堀潤さんが「ただレポートっていうのを読むだけのアナウンサーになりたくない」っておっしゃっていたのを見たことがあるんですけど。それはどこで生まれたんですか? その前ですか、後だったんですか?

:それは元々ですよね。僕がメディアに入ろうと思った理由っていうのは、バブルが崩壊した後に景気が悪くなって、リストラされて自殺するサラリーマンが増えて。で、リストラを申し出たほうも心が病んだり。あと殺人事件がいっぱいあったりとか、政治の汚職があったりして、「この世の中、本当終わってるな」と思ったんですよ。「こんなに終わっているんだったら、ノストラダムスの大予言が当たって、ぜんぶ終わればいいのに……!」と思っていたんですけど。

伊勢谷:(笑)。

:せっかく社会に出るんだったら、まだ終わってないんだ、っていうのをみんなに感じてもらえればいいなと思っていたので、取材をやるために入ったんですね。でもアナウンサーになると「ニュース読んどけ」みたいな。「お前あんまり考えなくていい」みたいな感じだったので、「いやいや、それ違うでしょう、世の中明るくしたいんで」みたいな感じでやってたんだけど……っていうのはありましたね。

伊勢谷:それじゃないですか。それが上の人の“変化に対する嫌い”が入って、みんな忙しいのに自分だけ置いて行かれた時間があったんじゃないですか? そんなことはないですか?

:そうですね。でもまあ振り返ってみると、そういう時期がないと……。

伊勢谷:今の堀潤さんはない。

:なかったですよねえ。

未来の為に、自分の命でなにができるか

:さあ、と言うことで、なんと伊勢谷さん。僕の過去の話をしている間に、時間が来てしまいました。

伊勢谷:おー、早いですね!

:はい、最後にニコ生をご覧のみなさん、そして会場にいるみなさんに、改めてメッセージをお願いします。

伊勢谷:これはやっぱり、働くってことですかね?

:そうですね。

伊勢谷:そうですね。僕は自分の会社、リバースプロジェクトやるときに、周りの人に「絶対そんな会社なんて成立するわけねえ。そんなに社会は甘くねえ」って言われたんですね。なんですけど、「もし、こうやって人類が地球に生き残るための株式会社が存続できない社会だったら、そんな社会はクソ食らえだ!」と思ったし、さっき堀潤さんがおっしゃったことと同じで、僕だって「それだったら終わったほうがましだ、この社会は」と思っていました。

だけど、僕自身が信じるところをやっていたら、社会の中には同じように考えてる、感じてる方々がたくさんいらっしゃった。このことが結局、株式会社として支えてくださる、みなさんのお力によるものだったと。今考えてみてもそう思うことが大きいです。

ですから、僕が本当、常々感じるってところがあって、この間も撮影で寒いなか砂浜に立ったとき、小さい貝殻の上に立っていることに気づくんですよね。だから、様々な死骸の上に、我々は立っているわけです。どこにいても。ということは、自分自身の命もそんなに大したものじゃない、と思うんですよ。

要はこんだけ、これから未来のことのために責任を持って、どれだけの命を全うして、それで死んでいくか。そのこと自体が、とても重要なことで。それに対して、僕は自分の命を大切にして、自分のために何かをするんじゃなく、他人のために何かをするから、自分が出来ることに気づけるっていう。このことを是非、みなさんでも感じてもらえたら嬉しいな、と思いますね。

:伊勢谷さん、ありがとうございました。「熱いこの男!」って。「面白くて風呂入れない」っていうコメントが。

伊勢谷:ははは(笑)。ありがとうございます。

:ということで、伊勢谷さん、本当にありがとうございました!

伊勢谷:どうもありがとうございました。