ライカ社のアニメは3Dプリンターで表情の1つ1つを作っている

真賀里文子氏(以下、真賀里):そやね。これこんなにアナログの作り方なんですけど、皆さんアメリカのライカ社って知ってますか? ご存知の方ちょっと手を挙げてみてください。『パラノーマン』みました? 『ボックストロールズ』は? あの顔全部3DCGで、3Dプリンターで作って1コマずつ全部取り替えるっていうの、じゃあ、皆さんはご存知ですね。

これの反対側にいるんですね。大変さは両方一緒だと思うんですよ。作り手もアニメーターもね。でも日本の女の子でライカ社に憧れて「私すごい行きたい! すぐにでも行きたい!」っていう子がいたりすると、ちょっと悲しくなるんですよね。

3Dプリンターで作った顔を1コマずつ取り替えるんですよ。アニメーションのためにちょっとやって取り替える。CGにすりゃいいじゃないって、つい思っちゃうんですよね。こんな事をなぜするのかは私にはよくわからない。

1度その担当者の人に聞いたら、アメリカ人には表現とか、くどくオーバーにやらないとおもしろがってくれないからだって言うんです。だから、「はあ~、行きたくないなぁ」って思いました。ウフフフ(笑)。

澤田裕太郎氏(以下、澤田):『クーキー』の場合は、取り替えたりとかはないですね。カメラの向きとか角度とか、光の当て方で表情を変えていますよね。

真賀里:それが映画ですよ! それが映画の方法なんです。それをCGでやりたくなかったっていう、スヴェラーク監督の想いが強くあると思うんですよ。

子供はディズニーも好きだし、いろんな向こうのアニメーションをいっぱい見て、でもやっぱり自然は違うんじゃないか、自然が伝えられる愛じゃないかって言ってましたけどね。最後のインタビューで、たぶん彼が力説すると思うんですけど。

全くそういうものがないところで物語が展開していくのは、やはり彼自身としては、ご自分があの森の中で育った方らしいので、そういう意味では非常に寂しい思いがあると思うんですよね。

人形を水に浸けることは普通はできない

真賀里:実際に私もコマ撮りを長い間やってますけど、コマ撮りでも実際の自然の中では、どうあがいてもできませんしね。水の中をあんなジャブジャブ浸けてやるなんてね。絶対できないですよね。

昔1回だけ人形を水の中に浸けて、やったことがあるんですよ。名古屋の「でいだらぼっち」っていう、浜乙女という海苔屋さんのCMで何本か撮ったんです。

海苔粗朶(海苔を付着させるために海の中に立てる木の枝や竹)を作るのに、お百姓さんたちが水の中で田植えをしているのを見て、自分も頭の中でああいう具合に海苔粗朶を作ってもいいんじゃないかというので。

実際の「でいだらっぼっち」ってわかります? 名古屋の方いらっしゃる? 駅に貼ってあるでしょ。あれです。あれを昔にやったんですよ。おもしろいでしょ。アハハハ(笑)。違うって言ったらもう(笑)。

「でいだらぼっち」はこんなに大きいんですよ。それでこれがおもしろいんですけど、軍足ってわかります? 軍手はわかりますよね。軍手と同じような、昔兵隊さんが履いてた靴下で、踵が無い、ずるんとした編んだだけのものがあって、それを軍足って言ってたんですよね。

おそらく兵隊さんが大急ぎで履けるとか、前後無くガッと履いたまま行けるというので。その軍足で作ったんですよ。ですからすごく粗いんですよね。それで田植えのところに入って自分も田植えするっていったら、もう水の中に入るしかないんですよ。

田んぼの中の水をどうしようかと思って、ちょっと色をつけて、ずっとアニメーションをしてたんですけど、少しずつ水が上に上がってきて、早くしなきゃ早くしなきゃって必死にやって、1度水に浸けてやったことがあるんですけど。

でもこれはノーマル撮影ですから、おじさんがここまで濡れてやってましたよね。いやーすごいなぁと思いますね。

澤田:バシャバシャと。

真賀里:バシャバシャと。絶対に1回じゃないですよ。アハハハ。だからクーキーも何回かずぶ濡れになってると思うんですよね。濡れるから川には入りたくない、絶対に入りたくないって逃げたんだけど。結局まぁ村長さんに怒られて。

澤田:その辺も劇場で見るときは、皆さん注目してもらってください。メイキングの方どうでしょう、何か他にありますか? 紹介したいところとか。

真賀里:メイキングねぇ、あっちもこっちもあるんですよね。もう次に行った方がよさそうな時間ですか?

澤田:まだ大丈夫みたいですよ。

撮影の現場に家族を連れてくることはタブーだった

真賀里:そうですか。まず私はこの映画を見たときに、とてもびっくりしたというか、チェコはそうなのかなと思ったのは、撮影の現場に家族を連れてくること、昔はタブーだったんですけどねえ。

私が仕事を始めたとき、50何年前は、本当にCMの現場に女性がほとんどいない。だから後から来る人たち、旦那さんにバレるのが嫌だから、女だからなんて絶対に言わせてやるもんかっていう意地がありまして、ものすごく頑張ったし、絶対に遅刻しない、早めに帰らない、やる事は100%以上やるっていう意気込みがあった

今はカメラマンの人も照明さんも、特に美術さんも女性が非常に多くなって、子供を連れてきたりもあったりするんで、本当にいい世の中になったなぁと思うんです。

それでも自分の子供を映画の主演にするっていうのは、みんなちょっとびっくりしませんでした?

澤田:あんまり見ないですよね。

真賀里:まず無いですよね。どの子よりも家の子がいいっていうことですからね。オーディションしたら、なかなか負けなかったねと言ってますけど。やっぱり、これはなんだろうなぁ。

しかも『コーリャ 愛のプラハ』はお父さんが脚本でお父さんが出てて、彼が監督なんですよ。こういう作り方って日本でも意外と無いんですけど。

家族の絆っていうのが、すごい強くあるのかな。お国柄がお国柄で、大変な歴史の中を通り過ぎてきているので、そういう意味では、1番信頼おけるのが家族ということになるのかなと思ってねぇ。まず私はそこをすごくびっくりして。感激しました。

今は日本だと家族はバラバラになってきてるので、お父さんの地位はだいぶ下がってますね。この中にお父さんがいらっしゃるかどうかわからないですけど。

そういう意味では、「俺にもそういうことを言うのか」というお父さんのあの台詞は、爺さんも子供もうまくいったよって言ったら、俺に言うのか、みたいなあの台詞なんかも嬉しくなっちゃいますね(笑)。思わず笑っちゃいますけど。

チェコは私、1度も行ったことがないんですよ。人形アニメーションする人はみんなチェコ参りするんですけど、私は50何年もの間に1度も行ったことはないです。わざと行かないわけじゃないんですけどね。忙しくて行くチャンスがなかったんですけど。

確かにトルンカであるとか、いろんな人が出てる国なんでね。その人たちもおそらく人形劇を見て、操りを見て大きくなったんだろうなと思います。なかなかおもしろい国で、建物がすごい素晴らしいんで、皆さんも1度ご覧になったらいいかなと思います。私が言ったからといって、旅費は出せませんのですいません(笑)。

本当に人形が好きじゃないとできない

澤田:僕、1度チェコに旅行に行ったことがあって。

真賀里:プラハ行きました?

澤田:行きました。人形劇も見ました。とても良かった。全然違いますね、これと。

真賀里:あぁ。人形が?

澤田:はい。人形も違いますし、操っている人も確か1人でやってましたね。その本人は上から回って、姿が見える格好ですが。

真賀里:1人劇場みたいなね。

澤田:はい。いろんな人がいました。

真賀里:ただこれはアマニタさんのデザインがすごい関係してるんで、アマニタさんのゲームやったことがある人いますか? あぁ、好きでしょう? 何かものすごく優しいんですよ。

「バンバンバン!」「ギャンギャン!」っていうやつじゃないんですよ。だいたい今のゲームはそれが多いんですけどね。アマニタさんのゲームは非常に優しいです。なんだかとても心が癒されるゲーム。買ってください。

澤田:パソコンで遊べる?

真賀里:そうです。

澤田:ぜひ「Amanita Design」で検索して調べてみてください。

真賀里:森の自然の中で、自然の素材で作ったキャラクターたちが出てきて、まさにこの世界なんですよね。ですからこの『クーキー』のなかのキャラクターたちは、チェコの人形劇場の中の子供たちではないんです。アマニタさんがスヴェラーク監督のためにデザインしたものなので。そういう意味では、なかなか素晴らしいと思います。

澤田:映画としても、本当に新しいことをしてますね。アマニタデザインさんが作った人形を使って、操演をやっているっていう。

真賀里:さっき「頼まれたらやりに行きますか?」って言ったら、「やりに行きます」と言いましたよね。

澤田:ちょっと言ってましたよね、ハハハ(笑)。

真賀里:今も決心、変わりませんか? このメイキングを見ても。

澤田:でも、「来てくれ」と言われたら「行きます」と言っちゃうとは思いますけど(笑)。

真賀里:あぁそうですか。この中だったかなぁ、私もちょっと映像の中を探してたんですけど。腹ばいになったまんま、こうやって動かしてたでしょ。

どこに人形があるのか分からないから、こうやって動かしてたんですよね。すると5本の指の4本に人形を付けて、自分の体に草をかけて、こうやって動かしてるんですよ。

これは「スタンバイOK」って言われるまで、相当時間がかかると思うんですよ(笑)。でもそのまま、こうやってやってるチェコの人に頭が下がるみたいな、ウフフフ(笑)。

質素だとか言ってましたね。やっぱり本当に人形が好きじゃないとできないんですよ。これが途中で飽きたりとか、集中力が切れると、演技ができないので。

やっぱり本当に皆さん人形が好きなんだなぁ、お芝居が好きなんだなぁ、映像になることがすごい嬉しいんだなぁ、と思うんですよね。

CGは99%使っていない

真賀里:ちょっとだけ待ってくださいね(資料を探す真賀里氏)。付箋つけてきたんですけどね。

澤田:映っている写真、『クーキー』のメイキングブックも日本で発売されるんですかね?

真賀里:これが?

澤田:しないみたいです(笑)。これ全部チェコ語で書かれてまして、Amazonとかで、もしかしたら買えるかもしれないですけど。

真賀里:でもね、メイキングを見る方がずっとおもしろいですよ。

澤田:まぁ、確かに映像の方が。

真賀里:メイキングを売り出せるといいですね。

澤田:DVDとか出たら、もしかしたら。

真賀里:そうですね。一生懸命探して準備したつもりなんですけどね。どこにいっちゃったんですかねー。

澤田:この本の中に、さきほどの映像で出てなかったものとか、映像に映ってないものもいろいろありまして、なかなか興味深い資料としてありました。

(メイキングブックのあるページがスクリーンに映される)

真賀里:これ、わかります? 椅子の上に3人上がって、上から下を見て演技をしていますよね。こういうのが普通だったみたいですよ。あとは寝転がってやるとかね。

それともう1つ。カメラがここにありますよね、それで籠に入ってて、村長の家に行くところだと思うんですけど、ここの下で動かす人と、固定するラジオペンチで持ってる人。非常にアナログですよね。

澤田:アナログですよね。本当に。

真賀里:本当に全部アナログなんですよ。ここでCG使ってるところは、見つけました?

澤田:あんまり無いですね。CG使ってどうのっていうところが、ほぼ無いですよね。

真賀里:99%というか、私は見つけられなかったんです。一生懸命どこか使ってるだろうと思って。まぁ、使ってるというか、糸を消したりとか。それから1つのキャラクターの側に何人もいる、例えばこれだとしたら、ここだけ切り取って、上を全部消すという。

おそらくこれを撮影した後は、全部無くしたところでバックを撮ってると思うんですよね。そうしないと、ここの学生さんならご存知だと思うんですけど、合成できないんでね。そういう意味では、もしかしたらここの学生さんが参加するともっと楽だったかな、アッハハハ。

澤田:そうですね。ポスプロとかだったら。

チェコの人形劇俳優の人でなければできない技術

真賀里:それにしても、すごいと思うんですけどね。

澤田:チェコの本当の人形劇俳優の人でないとできない技術なんで。

真賀里:いや、上手いです。私もマリオネットをやったことがあるし、手伝いをやったことがあるし、影絵もやったことがあって、私は木馬座のときも藤城さんに上手いって言われたし、下手ではなかったと思うんですけど。

この人たちの見るとやっぱり全然、上手いですよ。長年やってますからね。ただこの人たち、コマ撮りはできないと思いますけど、アハハハ。そこでしか私が勝つところがない(笑)。

澤田:忍耐強いから、やるとしたら向いてるかもしれないですね。そろそろ監督インタビューに行きたいと思います。メイキングで興味深いことが聞けましたので、次は監督インタビューを。主演の俳優の少年と。

<スヴェラーク監督のインタビュー映像>

真賀里:ずいぶん大きくなってますけどね。

澤田:メイキングとかでは映ってなかったんですけど、食べ物がグロテスクみたい、なのがありましたけど、これぜひ映画の本編を見たときに注目してください。相当気持ちが悪いものを食べてるので。では真賀里さん、監督のインタビューに対して、何か気になるところありましたら。

真賀里:いやなかなかおもしろかったですよ。隣の坊やが嫌だ嫌だって思いながら出てきたのかなーと、非常に気になりました。ハハハハ。だから「僕、出たくなかった」って後で言うのではないかとかね。そろそろ反抗期の顔してたような気がするので(笑)。

澤田:そうなんですね。今のインタビューで、一応今回の『クーキー』関連の広報はほぼ。

真賀里:ほとんどしっかり言ってましたからね。

澤田:そうですね。メイキングはかなり語っていただきましたけど。

真賀里:補足することは何もないっていう感じですけど(笑)。