事業立ち上げ時のKPIの設定方法とは

吉井信隆氏(以下、吉井):あとは、スタートアップした後に、ここも結構落とし穴なんですけど、KPIって言葉、皆さんよく聞かれると思いますが、今、ネット社会の中でユニークユーザー、あるいはユーザーのアクセスがどのぐらい来ればいいよね、みたいなものが設定されてないとうまくいかないと思うんですね。

婚姻届製作所っていうのを、ぜひ皆さん見てほしいんですが、今、日本で結婚するカップリングは65万カップルいるっていうふうに言われています。婚約届っていうあの無機質な白紙のペーパーの上に、デザインしてもいいんじゃない? って、ある起業家が発案して。

婚姻届を無料でダウンロードしたり、これは3,000円とか、デザインした婚姻届を提供するビジネスを考えた人がいるんですよ。

スタートして日は浅いのですが、このペースでいくと婚姻届のシェアをかなり取りそうな勢いで伸びてんですね。婚約届の内容、中身を変えてしまうインパクトを与えています。その起業家は、利用者をKPI指標と設定しています。

どこの会社も新規事業、早く儲けたい、こうなりたいっていうことを、経営者は考えます。ここまでいったら、この新規事業、もっと続行していいですよねっていうところの指数をどう張るかが大きな要因なんだと思うんですね。

新規事業には社内外に調整役が必要

社内外の調整をする、間に立つ人がいないと、企業内新規事業は、ステークホルダーがトップへ意思決定者と自分との間に誰か利害調整者を置いとかないと、なかなかうまくいかないっていうことはあります。

日経新聞の私の履歴書を、私はいつも読んでて、必ずあの日経新聞のくだりの中に「あのとき、あの人に会ったから、今日の私がある」っていうくだりって100パーセント出てきますよね。

今、浅丘ルリ子さんが日経新聞に出ていますが、「ああ、そうだったんだ」なんて思って、今、読んでます。最近は山田洋次監督と彼女が出会って、どうなりました。という話になっています。

浅丘ルリ子さんが日活を辞めたときに、石原プロダクションに入ってたなんて、全然知りませんでしたが、やっぱり「あのとき、石原裕次郎に私が誘われなかったら、今日の私はなかった」とのくだりがありました。

誰に出会うかは、大切な要素だと、ご理解をしていただければと思います。

HOWよりはWHATを重視すべき理由

あとは新規事業、じゃ、どうすれば具体的に育つのかっていう話に入りたいと思います。

まずはビジョン、会社のお金とか人とか、会社のいろんなアセットを使って事業をやるわけですから、会社が、何を目指してるんだろうか、これ漠とした感覚でいいと思いますが、ゴルフでいえば、フェアウェイの範疇に球を打ってかないと、経営者は判断しないと思うんですね。

HOWよりはWHATなんだと。皆さんの中でやる立場の人、あるいは支援する人、今日、役員の人もいらっしゃってますが、ここの1つのドメインが非常に大事だと思うんです。

最低限、このフェアウェイの設定をしとかないと、役員も経営者も、意思決定しないと思います。ここだけは事前に、知っておくことが大切です。

人選ミスをしないための予防策

先程、人選のミスの話しをしましたが、どうやって人選するかを申し上げると、エントリーでの、自薦がいいと思うんですね。

我々がお手伝いする時は、必ずキャリア・アンカーをとり、その人の内面にある思い、深層心理を確認します。絶対的なものではありませんが、これは明確にその人の思考が出てくるものです。

その後、インタビューをしていきます。エントリーと、キャリア・アンカーと、インタビューの3つの要素で確認しています。

エントリーは、シンプルな内容でエントリーしていただくといいんじゃないかなと思います。

圧倒的な当事者意識をもっているか

企業内起業で成功する人を言語化していくと、圧倒的な当事者意識を持ってチャレンジしていく人。自らのオポチュニティ(機会)をつくっていくタイプの人。

あとは、自分の力を信じて、やりぬくことが大切だと思います。違った言い方をすると逃げない人。

企業内起業家を最後までバックアップできる仕組みをつくる

最近、ソフトバンクの新規事業を管轄されている役員の方にお会いする機会がありました。

この方は、多くの新規事業を成功に導いた素晴らしい実績を創られた方です。

お目にかかった時、「何を見て、あなたはこの人に任せようとするんですか」と聞いたら、とても共感する思いだったんだけど「吉井さん、たった1つですよ。逃げないやつ」って言っていました。

とにかくやりきる人。経営って、語るもんでも書くもんでもなくて、やるもんだと思います。

あとは、新規事業を推進してく人は、大体、外に意識が向いて、外の人と仲よくなってる人だと思います。

トップマネジメントのボードの人たちが、とにかく本気で、あきらめないで、最後まで総力でバックアップするっていう、こういう構造、カルチャー、仕組みをどうつくるかっていうことだと思います。

さっき会社の中にデスクを持つのはよくないっていうふうに申し上げました。要するに、裏返しでいうと、マーケットにエネルギーを集中させるっていう構造をどうつくるかっていうことだと思うんですよね。

会社から隔離すると、うまくいくんですね。本社の近くに、意図的に置かないっていうことが非常に大事なことなんだと思います。

起業に手を挙げた人は、その成否を問わず偉い

先ほども、失敗の要因の中にも触れましたけど、上司のインキュベーションスタンス、経営幹部のインキュベーションスタンスって言うのは、非常に重要です。我々の場合は、ときどきいろんな企業の企業内インキュベーションの仕事をプロジェクトスタートするときに、経営幹部の皆さんに向けて「皆さんの発言、皆さんの関わり方で絶対にやってほしくないこと」をテーマに、セミナーをやるようにしてます。

ここを改善してかない限りは、なかなかうまくいかないっていうことだと思うんですよね。

三位一体の、このチーム組織が大事だと思います。これは1年2年で簡単にできるものではありませんが、とにかく起業家をバックアップする、賞賛する風土が、ど真ん中にないとだめだと思うんですよね。

あとは、手を挙げた人は偉いんだと。この人を尊重していくカルチャーと支援チームが大事なんです。

経営ボード、判断基準の確立っていう部分と、社内外のサポートしていく調整するチーム、こういう三位一体のチームを組まない起業で成功したものは本当に見たことがありません。

企業内起業家の皆さんが、新規事業に向き合う時、経営資源を、徹底的に分析して棚卸しをするのが大切です。そのときに、自分たちの強みっていうのが見えてきますよね。

ユニクロは自社の弱みをよく知っている

ユニクロが成功している大きな要因は、東レと組んだってことだと思います。

ユニクロの経営はものをつくって自分たちで販売するっていうビジネスモデルで、ヒートテックやエアリズムは、素晴らしい素材の商品だと思いますが、その糸はユニクロがつくってるわけではもちろんないですよね。

ユニクロは、何処とつながるかをよく知っている企業だと思います。

強みを知るっていうことは、逆にいうと弱みを知ることです。自分たちの会社だけでスタートしても、なかなかうまくいかない。そのときに成立するファクターが、これとこれとこれが必要なんだけど、全部自前でやろうとするには、無理があると思います。

CYBERDYNEは弱みをどう補ったか

CYBERDYNEっていう会社が今2,000億弱ぐらいの時価総額になっています。

CYBERDYNEの商品は大和ハウス工業さんが販売しています。 大和ハウス工業から出資をいただいて、大和ハウス工業は販売契約をしている位置づけなんですね。販売するマーケティングの力、顧客を開発していく力は、大和ハウス工業にお願いすると、この発想がすごく大事だと。これはベンチャーにも言えることです。

もう1つは、成功の要因の設定が大事です。自分の考えてる事業って、椅子にたとえると、4本の足がなければ座ったらコケてしまいますよね。

自分が考えたビジネスモデルって何と何と何と何と、どんな要素が必要なのかっていう、この1つの成功の要因がすごく重要だと。KFSっていうのは、必ず頭の中に、入れていただきたいことです。

社外のバックアップ体制がピンチのときの支えになる

あとは、ステークホルダーと直接向き合ってしまうと、なかなか思うようなことを言えないんで、社内外のバックアップをする支援者の確保は必ず必要だと思います。

私のリクルート時代の先輩で、この人は結構、不思議な人で、リクルートの中にいるときに、「困ったら○○さん」っていう。大体、困った事は○○さんにお話をすると、彼がいろんな経営ボードの人と調整をしてくれたんですね。ある意味では社内の利益調整のインキュベーターだったんだと思います。

必ずどっかのタイミングでは、これはステージごとに求める人は変わってくるケースもありますが、必ずそういう人を見つけて、仲間を見つけとかないといけない。この辺のこともぜひ参考にしていただければなと。

リクルート新規事業創出のファクター

私が思うリクルートのユニークな目線を、皆さんにお伝えしておきます。

リクルートの役員で、「おまえ、それだめだよ」って立場から、新規事業の責任者として提案する側に回ったことから新規事業にパワーが宿りました。

まずは失敗を許容する文化をつくる

あとは、新規事業は人事制度にメスを入れない限りは、なかなかうまくいかない。新規事業って失敗するケースもものすごく多いですよね。そのときにやった人が、もう片道切符でどうなるのかっていうことだけではない、制度もきっと大事なんだろうと思います。

リクルートは、10戦9敗、経営者が失敗することを許容する文化みたいなものがあります。

100年企業が日本で2万6000社ある。だから、本当に日本っていう国はイノベーションの歴史を持つ国です。

じゃあ、どうして100年の歴史を持つ企業がこの国に存在してるかっていうと、その答えは企業内起業家をバックアップする体制をつくった企業が数多く存在したのだという事を、皆さんにぜひ理解していただきたいなと思います。

今の経営者は10年後にはいない

1時間になりましたので、一旦、話を終えたいと思います。

ぜひ、皆さん、「100年企業 日本」と、Googleで検索していただくと、いろんなものが出てきます。「あ、こんな県に100年企業がこんなにあるんだ」っていうのが見えてくると思います。

新潟の100年企業で一番古いのは酒屋さんで、吉乃川っていう酒屋なんですよね。

今日いろんな世代の方がいらっしゃいますが、皆様の会社の経営者は、10年後、20年後はいないと思いますが、では、誰がやるのか。チャレンジしていけば、必ず何かしらの役が自分に回ってくると思います。

企業内起業家が機会を手にしたことから、いろんなドラマが生まれ、結果的に、それが100年企業になるっていうことを、忘れないでいただければなと思います。

ご清聴いただき、ありがとうございました。