安倍政権下での軍事化の動きについて

宮崎駿氏(以下、宮崎):どうも暑い中、ご苦労様です。話し出すと長くなりますから、ご質問に答えたほうがいいと思いますので、どんなことでも構いませんから、おっしゃってください。

司会:非常にびっくりする、うれしいお話でございます。だいたい政治家は、30分ぐらい最初話してしまって、ほとんど質疑応答の時間を残してくださらないので、今日は大変うれしい会見となります。

記者:初めまして、中国のチョウと申します。1つ目、引退以降宮崎監督はどんな生活を送っていますか?

宮崎:今、それに答えるんですか?

記者:はい。1つ目です。

宮崎:僕は、以前と何も変わっていません。ただ、来る時間が30分ほど遅くなり、帰る時間が30分ほど早くなっています。

記者:新しいアニメはもう作っていますか。

宮崎:これからとりかかるところです。

記者:そうですか。

宮崎:はい。今、かかりつつあります。

記者:ロサンゼルス・タイムズの者でございます。今まで、多くの映画を通しまして、日本の軍事化、戦前の軍事化をテーマとして取り上げられたわけでございます。そしてまた、先の『風立ちぬ』におきまして、その軍事産業がどんどん発達していることを取り上げたわけでございますが、いろいろリサーチもされたかと思います。

この過去2年間、安倍政権の下で、兵器の製造また輸出の動きが、どんどん活発化されているわけでございます。また法律の変更によりまして、これがさらに活発化すると思うんでございますけど、これについてどう思われますでしょうか。

宮崎:非常に残念なことだと思っています。

辺野古基金を立ち上げた目的

記者:シンガポール・プレスの特派員です。宮崎監督は、この前も沖縄の辺野古に関する協力声明を出しました。その後は、進展はどういうふうになっているか。また宮崎先生にとっては、そのあとに嫌がらせとかはありましたか?

宮崎:沖縄の人の過半数以上が、辺野古に基地を作ることに反対しています。それで、まだそれは最終結論は出ていませんが、これから困難な道が続くんだろうと思います。それでも永続的に長く続けるために辺野古基金を作って、あらゆることをしていこうというのが、このファンドの目的です。もう1つ何でしたっけ?

通訳:何か直接の嫌がらせはありましたでしょうか? という。

宮崎:それはありません。直接の嫌がらせはありません。それよりも、こっそり寄ってきて、「ありがとう」っていう人が何人もいました。なぜこっそり寄ってくるのかわかりませんけど(笑)。堂々と来ればいいのにと思いましたけど。

家内は、私がその共同代表になったときに、それまで何も言いませんでしたが、丸をつけてその返信をするときに、とても喜んでくれました。

軍事力で中国の膨張を止めるのは不可能

司会:私のほうから、監督にぜひ聞いてみたいという質問を、聞かせていただきます。今週日本にとっては、大変重要な1週間でございます。国会のほうで、重要な安保法制について議論が進みまして、16日に採決されるという見通しになっております。

安倍政権は、この安保法制は「非常に重要である。日本の安全保障を確保するために必要である」と主張してるわけでございますが、監督はこれについてどう思われますでしょうか?

宮崎:話が飛ぶようですがイラク戦争が起こったときに、日本のテレビジョンで、あるイギリスの政治学者がインタビューに答えていました。その内容をかいつまんでお話しますと、「この戦争の結果、アメリカはアフガニスタンとイラクから、自分の牧場に帰ることになるでしょう。そして世界は一段と混乱するでしょう」と言いました。

今、安倍政権のやっていることは、そのことを考えてどういう方法を取るかということだと思います。私は、その正反対の方向がいいと思いますが。

つまり、軍事力で中国の膨張を止めようとするのは不可能だと思います。もっと違う方法を考えなければいけない。そのために、私たちは平和憲法を作ったんだと思っています。その考えは変わっていません。

安倍首相は歴史に名前を残したいのだろうが、愚劣だ

記者:ブルームバーグの記者でございます。来月予定されております、戦後70周年談話でございますね。安倍首相の。これについて、どうお考えでございますでしょうか? どういうような内容を盛り込んでいただきたいと思われますでしょうか。

宮崎:その談話は、中国の現在の政治情勢、経済情勢。それから日本における政治情勢や経済情勢の反映であって、その精神は、歴史に学ぶということからずいぶん離れていると思います。ですから、あまり期待していません。

記者:イギリスのタイムズ紙でございます。私は、その安倍晋三氏を考えましたときには、非常によくわからない部分があるんでございます。なぜならば、大きなテーマに関して、例えば原発に関してなどの世論調査の結果を見ますと、彼の人気は非常に低いわけでございます。

しかしながら、その大きな選挙におきましては、彼は必ず勝つわけでございます。その1つの理由は、やはり日本の左翼というんでしょうか、リベラルの方たちは、あまり強くないという現状があるのではないと思います。

監督もクリエイターでございます。またインテリでございますし、どっちかと言えば、そのリベラル派に属していらっしゃると思うんでございますが、なぜ日本の左側の方たちは、大きな政治的な力っていうのを、なかなか結成できないと思いますでしょうか。

宮崎:民主党の最初の総理は、この沖縄の基地の問題についても、日本全体で背負うべきであって、沖縄だけに負担させるのは間違いであるっていうふうに、はっきり言った方です。でも、たちまち党内の勢力争いの中で引きずりおろされてしまいました。

そして、そのあと地震と原発と立て続けに災厄が見舞って、その混乱の中で、とうとう自民党政権がずっとやりたくてもやれなかった消費税を、民主党が決める羽目になってしまったんです。この結果、長い政治的な無力感と不信感が、この国にはびこったんだと思います。

自民党は、過半数以上の支持を得たのではなくて、多くの人間が投票しなかったことによって、天下を取ったんです。ですから、これはまた変わります。永続的なものではないと思います。その安倍首相は、自分が憲法の解釈を変えた偉大な男として、歴史に残りたいと思っているんだと思いますが、愚劣なことだと僕は思っています。

戦時中に中国で愚劣な行為をしたことを忘れてはならない

記者:シンガポール、Channel NewsAsiaのイシダと申します。今日宮崎先生が、海外メディアの前で記者会見をされているわけなんですけれども、一番今、海外のメディアに伝えたいことは何なのか、教えていただけますでしょうか。

宮崎:私は、この役目。つまり、辺野古基金の共同代表という人間として、ここに臨んでおりますから、その辺野古の基地の問題、沖縄の人々が基地を撤去したいと思っている、そのことをお伝え願えたら本当にうれしいと思います。

それからもう1つ。先ほどの方の質問でしたが、日本と中国の問題についての共同声明について、私は、あの侵略戦争が完全な間違いで、多大な損害を中国の人々に与えたことについて深く反省しているということを明言しなければいけないと思っている人間です。これを政治的な駆け引きとして、双方で何かごちゃごちゃやるのは、本当に良くない。

あらゆる政治情勢と関係なく、この日本は長期にわたる、中国大陸における愚劣な行為について、深く反省しなければいけないと思っています。それを忘れたがっている人がいっぱいいることは知っていますが、忘れてはいけないことです。

通訳:そうですね。さっきの通訳の内容を確認したいということでございますが、先ほど、安倍首相が憲法の解釈を改革した偉大な人として、歴史に残ってもらいたいということ。

宮崎:残りたいと思っているんです。

通訳:残りたいと思っている。

宮崎:本人が思っているんです。でも、残らないでしょう。

安倍政権下での日米関係について

宮崎:ちょっと話しをさせてください。この紙切れが私のところに突然届いたんです。ここには、辺野古基金について、共同代表への就任についての依頼状です。それともう1枚。承諾する、承諾しないに丸を付けろという紙が入っていました。

私は、共同代表になるような資格や能力を持っていないので、本当に当惑したんです。ただ、沖縄の問題というのは、ここにいればなかなか伝わってきませんが、実は自分の大事な友人に沖縄の人がおりまして、その人が1972年の沖縄返還の年、5月1日に返還になりましたが、4月28日に東京の大学に入るために、パスポートと、それから注射の黄色い紙と言いましたが、伝染病の予防注射だと思いますけど、その黄色い紙を持って東京にやってきた。

そのときにその人間が感じた、ありとあらゆる、非常に抑えられた感想でしたが、そのときの話を思い出すと、私は沖縄の人にものすごく申し訳ないと思っています。ですから、この共同代表を引き受けることにしました。

記者:よろしくお願いします。ビデオニュース・ドットコムのジンボと申します。今回沖縄の話も、それから先ほど安保法制の話も出ましたが、いずれも政府は、アメリカとの関係上、それが非常に必要なんだという立場を取っているというふうに理解しています。

監督は、今の日米関係、アメリカとの関係。特に今の政府の下での日米関係については、どのようにお考えでしょうか。このままでいいのか、もっとこうあるべきというところがあれば教えてください。

宮崎:それについて、つまり僕は、アメリカに非常に大事な友人たちがずいぶんいるんです。極めて誠実な本当に友情の熱い友達ですが、アメリカの文化は僕は好きではありません。アメリカの生活様式も、日本に多く浸透しているいろいろな生活のやり方も、基本的に好きじゃない人間なので、そういう色眼鏡だけで見てしまいます。

今具体的に、どういう方針を巡って、どうなのかっていうことをここで述べることはできませんが、僕はいつか、大量消費文明に終わりが来るだろうという予感の中で生きていますので、それでご勘弁してください。

日本は世界の隅っこで密やかに暮らすべき

記者:AP通信のヤマグチと申します。よろしくお願いします。今週の安全保障関連法案も、多くの国民はよく説明がわからないと言っていますし、憲法学者のほとんども危険だと言っている。そういう中で、強制的に採決されようとしているっていう、内容ももちろんのこと、その決め方についても疑問視されているんですけれども。

そしてまた、自民党の一部の会合で、沖縄の新聞に対するいろんな発言もありましたし、少しずつ民主主義が壊れていってるのではないかというふうに感じている人もいるんじゃないかと思うんですが、監督も、そういう映画をお作りになるという、表現をするという方のお立場として、今のこの状況をどういうふうにお感じになってるか、教えていただけますか。

宮崎:もともと、その程度のレベルの人たちなんです。それが、自分たちが数が多いと思ってのさばって姿を現しただけだと思います。

記者:フランスのテレビの者でございます。日本人というものはなんであるのか、というような質問でございますが。

『風立ちぬ』におきましては、やはり最初は、監督の意図といたしましては、非常に平和主義的な考え方を打ち出してたと思うんでございますが、やっぱり中では、誤解する方もいたと思うんです。軍事的なことを美化してるというような受け止め方もあったと思うんでございますが、あとのいろんなお話の中で、そうではないということをご説明されていると思うのでございますが。

結局、日本人であるっていうことは、どういうことなのかっていうのを基本的に聞きたいんでございます。昔、フランスの記者が、三島由紀夫にも同じ問いをしたところ、invisibleであること、直訳しますと透明であること、であることが日本人であることだと言ったんですが、監督はどうお考えでしょうか。

宮崎:僕は、社会のみんなはじっこにいる島の人間たちで、平和に暮らせるはずの人間たちなんです。僕はそれだけです(笑)。

この水と緑とで、資源といったら米が穫れるぐらいでした。今僕らがやってる、日本でやってる生活というのは、よそからかき集めてきて、それを使い尽くしていくっていう、そういう生活です。それは長く続かないでしょう。日本人であるということはどういうことかというのは、僕にはよくわかりません。わかりませんが、本当の知恵は、必要な知恵は、世界の隅っこで密やかにいようというのが一番正しいと、僕は思っています。

制作協力:VoXT