スクールガール・コンプレックスとさよならポニーテール

古賀学氏(以下、古賀):もう1個青山さんと共通点があって。ミュージックビデオを青山さんが監督されていて。さよならポニーテールというグループのMVで。ここに来るという話だと知ってるかもしれませんが。

青山裕企氏(以下、青山):知っている人も多いと思いますね。

古賀:これは本当に『スクールガール・コンプレックス』のままですね。女の子が2人いるから「3」とかの頃ですか?

青山:まだ全然そういう頃じゃなかったです。ちょっと前触れ、前兆が出てるんですね。写真を動かしてみようということですね、これは。結局最終的に映画、『スクールガール・コンプレックス』の映画の主題歌もさよポニさんに書いていただいたりとか、縁は続いてます。実はDVDも出しているんですよね。『スクールガール・コンプレックス」の映像集。『SCHOOLGIRL COMPLEX “M”』っていうソフトを出しているので。

古賀:それは撮影は青山さんがやったんですか?

青山:そうですね、一眼レフで。

古賀:さよポニのPVも、基本的に一眼レフで?

青山:そうですね、撮影は私がしています。

古賀:じゃあもう、本当に写真集を撮るように映像を撮っている?

青山:そうですね。

古賀:映像にしては珍しくスクエアなんですね。

青山:そうですね。これって本当に結構前なので、やっぱりまだ『スクールガール・コンプレックス』っていうイメージがすごい強い時代だと思いますね。

でも結構、最初の頃は映画も、この辺のニュアンスから膨らんできたというのがあるんですよ。映画の企画の最初は「ホラー映画作りませんか?」だったんですよ。

古賀:青山さんの原作で?

青山:そうなんです。まあ、僕の写真って結構怖いんですよ。顔がなくて、なんですけど、最終的には青春映画になったんです。

古賀:ホラー映画(笑)。

水中ニーソとさよならポニーテール

古賀:さよならポニーテールのイメージ自体が、『スクールガール・コンプレックス』に似ているっていうのがあるじゃないですか。

青山:そうですね。存在が謎のベールで包まれて。

古賀:全員顔出ししていないバンドっていう。

青山:そうですよね、多分同じだと思うんですけど、さよポニのメンバーの方が、もちろんまだ会ったことがないんですけど、撮影するときに、プロデューサーの方に「メンバーの方も、ぜひ見たいと言ってたんですけど、残念ながらちょっと同席できず」って言われて。やっぱ謎を保つためだろうなと思って(笑)。

古賀:会ったことないっていうね。

青山:そうそう。会えないですよね。どこまでいっても。間接的にコミュニケーションするんですけどね。

古賀:さよポニのMVの話が来たときに、過去に誰がやったんだって調べたら青山さんがいて。こういうかたちのMVでいいじゃんって思ったんですよね。

これも結局、さよポニが薄っぺらいっていうことに気にして、どうやったら薄っぺらく水中映像が撮れるんだというところから始まっているんですよ。

これの前が、映画『ヘルタースケルター』の沢尻(エリカ)さんの映像で、多幸感のあるシーンなんです。カリッとした質感にしないと本編と合わないので、カリッカリにしたら、本編でエフェクトが薄くかかって(笑)、さすがにカリカリにしすぎたんですけど。

さよポニはそれの後なんで、反動があって。あと水中ファッションフォトとか水中アートって、ほっとくとどんどんカッコイイ方向にいくじゃないですか。チャラいほうというか。

で、沢尻エリカさんを撮ったらし、ちょっと満足しちゃって。あんまかっこいいほうじゃないのがやりたいんだけどな〜と思った矢先にさよポニの依頼をいただいたので。まあ、水中ニーソは撮り始めてたんですけど、まだ本にはなってなくて。

こだわりすぎると先に進めなくなる

このMVでは、ペラペラに撮るために、できる影をわざわざ水中ライトで徹底的に消すっていう。ポートレートの本来の基本である逆光とかトップライトに見えなく撮るっていうのをやって。

光源を水の中に何発が置けば同時に影が消えていくので。水面より上のほうが明るい世界なので、ほっとけばトップライトになって、下手クソでも上手な写真が撮れちゃうんですけど。

でもなんか、さよポニの歌で、上手な映像ってないじゃないですか。曲がアニメのエンディングみたいで、モデルも当時「ももちゃん14歳」ですけど、緑川百々子ちゃん顔がアニメみたいなかわいさなので、いかにアニメにするかってことばっかりやっていた撮影でした。

青山:通常の作品とは、テーマは同じだけど描写が違うというか。

古賀:特に黒バックを敷いて、照明を足していくと、本当はどんどんシリアスになるんですけどね。

青山:でも水中撮影って本当に大変ですよね。

古賀:青山さんも『スク水』でやってますよね。

青山:だから余計にすごいと思います。こんなに綺麗に撮れているのは。僕なんか勢いでやっているだけなので、とても専業には。

それこそ、さっきの打率の話ですよね。写真もすごいですけど、映像で見たときにすごさが際立ちますね。もちろん、いいところを編集して使うとしても。

やっぱり写真をやっていると、基本的に気にならない部分を捨てるんですけど、映像で厳密にやりすぎると、素材がなくなっちゃうんです。映画監督をやったときでもそうですけど、こだわりすぎると、絶対先に進めなくなる。

古賀:完成しない。

青山:そうですね。妥協点というところを見つけていかなきゃいけない。

古賀:妥協ですよね?

青山:そうなんですよね。

古賀:なんか、圧倒的なものなど作れないじゃないですか。いや、青山さんの作品は圧倒的ですけど、なんて言ったらいいんだろう。例えばこれから何か作品を作って発表したい人が、一番最初から世界を覆すようなものを作りようがないと思っていて。絶対無理ですよね。本当にギャラリーに並べて、在廊して陰から見ているところから始めないと。

青山:当たり前のことですけど、とある作品の存在を知ったときが、その人にとって作品と出会った日だから、作っている側からすると、別にいつ出会っていただいてもいいんですよ。今日知ってくれてももちろんありがたいし、もちろん最初の頃から知ってくれていたらすごく嬉しいですけど、やっぱり作り手からすると、ポッと小手先で作っているわけではないですから。

僕はフリーになって10年なんですけど、10年やって、今この現状で、ようやくスタートかなというぐらいの気持ちだったりもします。

僕は永久にモテちゃダメ

古賀:解消しかけたコンプレックスをメガネで取り戻して。

青山:だから、そういう意味のメガネなんです。僕の中では。

古賀:コンプレックスって、成仏しちゃうとまずいんですね?

青山:コンプレックスで食ってるようなものなので。要するに、モテちゃダメなんですよね。

古賀:でも、モテるでしょう?

青山:モテないです!(笑) モテます?

古賀:モテないな〜。

青山:でも僕が思ったのが、古賀さんはVJもやってるじゃないですか。VJはモテるんじゃないんですか?

古賀:VJやってますけど、ヒドいVJなんで。

青山:でもモテる……?

古賀:いや〜。

青山:モテないVJなんですね?

古賀:かっこいいイベントからは呼ばれないVJです。

青山:なるほどね。ちょっと安心しました。いや、いいんですよ。そういうのがあっても。

古賀:「撮ってほしい」という人はいますけど、別にそれはモテているわけじゃないですからね。

青山:そうですね。本当そうなんです。

古賀:「ちやほやされる」と「モテる」も違うじゃないですか。

青山:うん。違いますね。

古賀:ちやほやはされるじゃないですか?

青山:まあ、ありますね。

古賀:青山さんの場合は、きっと「よくぞやってくれた」というか。「俺の見ていた青春のビジョンをよくぞ撮ってくれた」みたいな人がいますよね。「オラにみんなの力を分けてくれ」じゃないですけど、元気玉的に非モテの人たちからの気持ちがいっぱい集まって、青山さんの上に巨大な元気玉ができている気はします。

青山:だとしたら、僕は永久にモテちゃダメってことですね。

古賀:なるほどね(笑)。

生まれ変わるなら超かわいい子になって、めちゃくちゃビッチになりたい

青山:たぶん、僕がモテたら相当サムいと思うんですよ。この作品を撮って、結果超モテてたら。僕がいつも思うのは、『スクールガール・コンプレックス』の作品を撮るときって、制服とか一杯カバンに詰めて電車に乗ったりしてるんですよ。それ、絶対ヤバい状況ですよね?

本当に怖いんですよ! 元々女性不信なんですけど、輪をかけて女性不信になってきた。今までの女性不信の外側に、新しい種類の女性不信のベールに包まれてるので、もうどうにもならないです。でも、その不信感こそ、作品の源になることも、自分でわかってきてる。

だから、別にモテてもないので、なんの心配する必要もないんですけど。

古賀:勝手に警戒してる(笑)。

青山:そう。だから別にモテてもないんだけど、勝手に警戒して。だからもう、いいんですよ。結果、その場限りで、何も起きないですよ。何もないんだけど。そういう実状というか。

もともとモテてるイケイケのカメラマンはいいんですよ。そう。僕はそういう人たちを全然否定していないし。全然スタートも違うし。あこがれはちょっとしますけどね。無理なんですよ、僕は。

古賀:憧れます?

青山:『スクールボーイ・コンプレックス』的にあこがれてるってことです。あっち側の男子に対して。

古賀:自分がそっち側に行きたいというあこがれじゃないんですね。

青山:でも、やり直せるならあっち側にいきたいですよ! 話がずれちゃいますけど、僕はもし生まれ変われるなら超かわいい子になって、めちゃくちゃビッチになりたいんです。わかります? だから男だったら、もう女をね。

モテない男の子を順番に食っていく

古賀:美少女にはなりたい?

青山:なりたいです、なりたいです。

古賀:でも、なれないですからね。

青山:無理です!

古賀:女装してもしょうがないですからね。

青山:全然。ある意味、一番遠ざかります。でも美少女になったら、美少女っていうことを自分でも自覚……僕は自覚していない美少女に出会いたいんですけど、そんなのは無理です。自覚してるけど、誰にも撮らせない。

古賀:っていう美少女になりたい?

青山:そう。誰にも撮らせない。

古賀:中身は青山さんなんですよね?

青山:そうです。

古賀:で、モテない男の子に優しくしたいですよね?

青山:まあ、そうですね。夢を与えていきたいですね! でも、さっき言ったようにビッチなんですよ。だから、モテない男の子を順番に食っていく。

古賀:最低だ!(笑)

青山:僕はさっきの『〈彼女〉の撮り方』にも書いてあるんですけど、初恋というか、初めて付き合った女の子が超ビッチだったんですよ。高校入って最初に「好き」とか言われて、超舞い上がっちゃって、速攻捨てられて、その後同じクラスの別な男にどんどん行くっていう。……そっか、じゃあ僕は同じことをやろうとしているんですね。復讐ですね! 僕が今妄想してるのは……。

古賀:美少女になって、あまりモテそうもない子に声をかけてくっていう。

青山:全部同じだ(笑)。自分で言っててすごく恥ずかしくなりました。復讐だった(笑)。でも、撮っていて、美少女に限らないですけど、やっぱりありがたいですよね。

古賀:ありがたいです。

ソラリーマンは亡き父親を追いかけている

青山:撮らせていただくありがたさというのはすごい感じていて。

古賀:最初はどうしたんですか? 最初に制服を着てもらうときは。

青山:全然撮れる人もいなくて。当時そんなにモデルもいないし、声かけても無理ですし。だからもう、「お願いします!」って言って。

でも、『ソラリーマン』もそうなんですけど、すごく簡単にいうと、もともと跳んでる人は撮っていたんですけど、父親が亡くなってから跳ばせる対象がサラリーマンになったんですよ。それは亡き父親を追っかけているんですね。

だから、楔(くさび)でもあるというか。『ソラリーマン』だったら、父親の幻影を追い求めているわけですよね。自分の中では、圧倒的なリアルな父親がシンボルになっているんですよね。それを自分だけに課しているものですが。

だからどれだけ撮っても撮り続けられるというのは、満足しないというか、完成しないんです。『ソラリーマン』は、もう父親を撮れないから、撮り続けられるんです。本当は今でも父親を撮りたいんですけど。

古賀:絶対撮れない完成品があって、それをどうやったら作れるかっていう勝負みたいな。

青山:そうなんですよ。ただ、『スクールガール・コンプレックス」に関しては、もし自分に娘ができて、娘が制服を着るようになったら、もう絶対に終わりだと思います。その時点で作品は終了します。もう違いますもん。やっぱりそれはもう。

古賀:今、お子さんはいないんですか?

青山:いないです。でも娘ほしいなと思って、『むすめと! サラリーマン』を撮りました。それも妄想で、さっきの妹みたいなもので。

古賀:『むすめと!サラリーマン』撮らせてくれる人募集ってあったじゃないですか。うわっと思ってRTしてたら、うちの奥さんから「出たいの?」って聞かれて「出たい出たい」って言ったけど、「その前にあなたサラリーマンじゃないじゃん」って言われて(笑)。残念。

青山:そうですね(笑)。

古賀:自分は娘がいますけど、全然娘を撮ろうとは思わないですね。

青山:でも生活上では撮っているんですよね? 旅行行ったりとか。

古賀:そうですね。でも大きくなってきたら撮らなくなってきましたね。

青山:記念になるので、撮りましょう。作品じゃなくて、個人的に。

作品は困難なほうが絶対にいい

青山:僕のスタンスって、撮りたいって言われたら撮るんですよ。作品とか関係なく。もちろん、撮れるスケジュールの限界はありますけど、その前提は崩したくないんです。

というのは、未だに『ソラリーマン』モデルも、そんな引く手数多じゃないです。そんなにいないんです、跳んでくれる人。だから必死で探しているんですよ。募集をしたときも、それほど応募はないんです。

古賀:そうなんですか?

青山:そうなんです。ようやく本が出て、少し増えましたけど。本が出る前なんて、全然来ないですもん。だからもう、さっきの『スクールガール・コンプレックス』の最初のモデルを探すのと同じで、ツテをたどって、一人ずつ、「撮らせてください!」とか「お父さん、跳んでくれないかな?」みたいな。「制服着れないかな?」と「お父さん跳びそうかな?」っていうのを聞いてまわるという。

でも、作品というのは困難なほうが絶対いいんですけどね。困難だから撮っているわけじゃないんだけど、「全然見つからない!」ってなったら、でも頑張って見つけて撮り続けたら、なんかいい作品になりそうな予感はします。

古賀:作品はそうですよね。水中なんて、撮れる人がまずそもそもいない。

青山:「水中ニーソ」の場合は、発想としてはさっきの類似的なものがあっても、フォロワーが出ないんですよね。

古賀:ほぼ出ないですよね。無理ゲーすぎるっていう。

青山:でもそれが大きいかもしれないですね。『スクールガール・コンプレックス』は結構真似しやすいんですよね。だから真似のしようがないジャンルっていうのはすごい強いですよね。

古賀:「真似したいんだろうな〜?」みたいなのがたまに上がってくるんですけど、「やっぱ無理だよね〜」というところで止まっているのだらけなので。

青山:そうですか……。

ドキュメンタリーではなく、理想化した存在を撮り続けている

古賀:昔、中学、高校時代とかに、フェチというか、エロ本的に、ダイビング雑誌をみて「かわいい」と思っていたんですよ。

青山:……なんかいい話ですね。

古賀:ダイビング雑誌の女性モデルが南の海でダイビングしているっていう写真やグラビアがいっぱい載っていて、当然いっぱい持ってたんですけど、僕の記憶の中で勝手に美化をされていたみたいで。

ダイビングが一番花形だったのが、80年代後半にガッと盛り上がって、90年ぐらいをピークに、バブルがはじけるとともにどんどん縮退していっちゃうんですね。

だから1990年ぐらいのダイビング雑誌が華やかでいいんですけど、それを追い求めて、それに近しいものを自分では撮っているつもりだったんですけど、最近当時のダイビング雑誌とかを手に入れて見る機会があったら、「こんなにダメか!?」というくらい、自分の思っていたのと違ったんですよ。

どうやら写真を見て、写真を撮るための水中カメラマンと水中モデルの関係みたいなものを、勝手に思っていたらしくて。

青山:でもそれは、まさに「水中ニーソ」が作品だということの証明かなと思いますけどね。無理やりではなく、さっき言ったような、僕が父親のイメージを追い求めて撮っているのと、おそらく構造は近いんです。

古賀:構造は近いですね。

青山:そういうことだと思うんですね。その妄想、想像を勝手に補完して、美化している、理想化している。だからよく『スクールガール・コンプレックス』について言われるのも、「こんなに美しくないよね、実際は」っていうことなんですよ。女子校の人とかから特に言われます。

古賀:リアルJKはね。

青山:「もっと汚いもんだよ」って。でも、理想化してるっていうところが作品なんで。リアルな女子高校生をリアルに撮っても、撮りたい作品にはならないですから。

古賀:別にドキュメンタリー写真の人じゃないですもんね。

青山:そう。ドキュメンタリーになりますから。だから「水中ニーソ」もそういうイメージがあるんですね。

古賀:そうですね。イメージが先行して、それをどうやって形にするかみたいな話になっちゃう。

青山:そうですね。なるほど。

制作協力:VoXT