結果的に素直な人が成長する

司会:ありがとうございます。次の言葉にいきたいと思います。『不格好経営』からおもしろい言葉だなと思いまして。

「斜に構える、というのは未熟な子どものやることだ」という言葉があって。

南場智子氏(以下、南場):そうですね。露悪的な子っていますよね。露悪的というか、偽悪的って言うんですかね。「頑張るぞ」なんてちょっとかっこ悪いっていう。全力とかかっこ悪いって。

それは、自分の能力をむき出しにして失敗すると怖いなという誰もが持ってるちょっとした防衛の気持ちなんですよね。

その気持ちは成果に関係ないじゃないですか。なんというか、プリテンシャスって言うんですか? 全力でやってないフリをするみたいなことにエネルギーを使うということはものすごく無駄なことだと思うんです。

子どもにありがちですよね。精神年齢の若い人にはまだそういうのが残っていることもあります。勝手にやっててくれてもいいんですけど、周りがそれに付き合うというのもちょっと面倒くさい。

私は「そういうスタンスは子どものやることだからやめようよ」って早めに言っちゃいますね。

森川亮氏(以下、森川):結果的に素直な人が成長するというのはあるかもしれないですね。

南場:本当にそう思いますね。

森川:余計な道を進めるまま進んだほうが、事故も早いし、でもそれを乗り越えるとまた結果につながりますよね。

南場:そうそうそう。なんか「勉強してないけどいい点数とった」っていうことを言いたがるメンタリティが残ってるのかな、とか(笑)。ちょっとどこか予防線張りたがるのかなと思いますが、余計なことだよね。

“頑張ってるアピール”も“頑張ってないアピール”も余計

森川:最近僕はフォレスト・ガンプみたいな生き方がすごくいいなと思ってます。そんなに賢いわけじゃないんだけど信じて前に進んでいくと、みんながそれを応援してくれて、結果的にやり切るというか。そういう純粋さが大事かなと思ったりしますね。

南場:今日、森川さんこんなよくしゃべるじゃないですか。結構私との付き合いも、まあ短くはないですよね? 守安と森川さんの飲み会に何回も乱入してますし(笑)。みんなで飲んでる時に、どちらかと言うとしゃべらないで言葉数少ないほうですよね。

だけどあの本を拝読して「ああ、本当はこんなことずっと考えてらっしゃったんだ」ってそこで学んだこともあったし、今日もよくしゃべるし、来て良かった(笑)。

森川:今日は本のために来ていただいたのにしゃべらないとまずいですからね(笑)。まああんまりしゃべるのが好きなわけではないですね。

南場:ドラムがすごいんですよね。

森川:(南場を指して)ドラマー。

南場:また今度対バンを(笑)。

森川:(笑)。(司会に向かって)すいません、失礼しました(笑)。

司会:ちなみにDeNAさんとLINEさんの社員さんで結果を出している人というのはやっぱりこういう斜に構えるところは一切ない、ガチでやってるという感じの方ばかりですか?

南場:そうですね。最初どういうスタイルを持っていようがすぐにプロとしての働き方を要求される社風で、「そんなことやってる場合じゃないな」ってみんなアホじゃないからすぐわかるので。新しいメンバーもそういうところはすぐ学習してガチでやります。

森川:人を試すとか計算するというのが逆にはたらく場合が結構多いですよね。もちろん不器用な人というのはいるんですよね。思ってるんだけど出せないとか。

南場:そういう人はいますね。

森川:守安さんなんかは結構不器用なところもありますよね。

南場:そうですね。「僕頑張ってます」みたいなそういうアピールも余計なんですよね。「僕頑張ってません」というアピールも余計で。「こと」に向かってくれっていう社風なんですよね。そういう意味では、守安はお手本のようにことに向かってますよね。

すごい人は「いい」と思うものを追求している

司会:次、参ります。これは『シンプルに考える』の中で森川さんの言葉なんですが。

「すごい人は、みんな、自分が『いい』と思うもの、自分が『おもしろい』と思うものをずっと追求している」と。

森川:これはちょっと難しいんですけど、ロジックだけでいくとやっぱり限界があるのかなと思ってまして。もちろんロジックがなければ、感性というかアートの世界なのでロジックは当たり前なんだけど、その上になんらかの自分の本当にいいと思う気持ちとか信じる気持ちというものがないと、なかなかメンバーとかお客様に訴求ができないので。

どこかそういうところがあったほうが結果を出しやすいのかなと思うところがありますね。

南場:これ大事ですよね。一人称で「いいな」って、腹落ちしているというのはすごく大事なことだと思うんですよね。頭で考えて「これからこの波が来るからその波をとらえよう」とか「これをネットに置き換えたらいいはずだ」とか。

そういう実感のない構想というのはやっぱりこける。実感っていう言葉がたぶん森川さんの本にもあったんじゃないかと思うんですけど。なんかこう……大事ですよね。

森川:そうですよね。何か自分の実体験からというのもあるでしょうし、事業提案があった時に本当にその人が思ってるのか、数字の積み上げなのかはすぐわかりますよね。

南場:そうなんです。やっぱり企画書ってそこの違いが出ますよね。企画してこれやりたいって言ってくる時に、その違いが出ます。実感として「俺いけるな」とその人が思ってるかもあるし、聞いてる私がそう感じるかどうかもある。

一方で意思決定者が経営会議になっちゃうとすごく危険で、企画してる本人は実感があるんだけど、聞いてる私とか社長の守安は実感が湧かない時があるんですね。だけど、必ずしも社長とか職責の偉い人に世間が見えているわけではなくて。新米の若い社員にしか見えていない真実もあって。

結構良い提案を潰してしまったこともDeNAはあります。同じような企画を他社がそのあとやって大ヒットしたのを見て猛省することもありました。

だからやっぱり「偉い人」という、まあカギ括弧付きで本当に偉い人なんて世の中にいないんだけど「偉い人」が審判を下すんじゃなくてユーザーが審判を下すということができればそれは最高です。

アプリとかインターネットのサービスって結構それができる世界なんです。それは活用するべきですよね。

森川:私の場合いま若い女性向けの動画サービスをやってるので、僕の意見をほとんど聞かないですよね。僕がこれは人気だって言っても真逆の存在なので(笑)。そういう意味だと本当に頑張るしかないという感じなんですけどね。

南場:そして昔はテストマーケティングだったんだけど、今は本番で勝負ができるようになった。いい時代ですよね。

森川:インターネットの世界は数字ですぐに結果が出ますからね。議論している間に(数字を)出して、数字を見て判断したほうが早い場合が多いですよね。

コンサルタントと経営者は間逆の立場

司会:南場さんに個人的にお伺いしたかったのが、もともとマッキンゼーでコンサルタントをやられていて、自分がいいと思うもの、おもしろいと思うものだけでは突っ走れないわけですよね。

DeNAを創業される時というのは、あるビジネスアイデアを熱く語っていると「自分でやればいいじゃないか」と言われたのがきっかけだったと書いてありました。そこは南場さんがコンサルタントではなくて一人称で仕事がしたいと。

南場:そうですね。人の商売に横から口を出しているのは、やっぱり自分でドゥーアー(doer)としてやるというのと全然違う。ちょっと違うというのではなくて本当に真逆ぐらい違うので。

でもコンサルタントの時も、自分で実感として「これいける!」と思って提案したものは非常に大きな事業になりましたし、そういった意味では、それがコンサルタントには当てはまらないというわけではないんですが。

ただやっぱりアドバイザーとドゥーアーは真逆の立場だと思いますね。

森川:そういう意味だと、僕もいろいろな会社をやって、今回は自分でイチからやって。投資家と起業家というのも、またずいぶん違うところがあると思いますね。

南場:投資家と起業家もそうだけど、(森川さんは)ぜんぜん違う幅広い経験をしていますね。はじめは、いわゆる社員の立場を2つ、全然カルチャーの違う会社で経験し、次は社員から入って経営者になり、そのあと創業社長でしょ? (森川さんは)全部経験してすごいよね。

森川:楽しい人生を歩んでおります。

南場:本当ですよね。羨ましいよ(笑)。

森川:南場さんも、野球のオーナーまで経験されて。なかなかできない。

南場:また思い出しちゃったよ(笑)。

森川:失礼しました(笑)。

「空気を読む」とは目の前のことに気を使って本質を見ないこと

司会:次は『シンプルに考える』のほうから。

「すごい人は、自分が『違う』と思えば、空気を読まずに突き進むところがある」。空気を読まないというのが大事だとおっしゃっているんですが。

森川:空気を読むとはどういうことかと考えると、結局目の前のことに気を使って本質が見えていないということだと思うんですよね。本当に大事なことはやっぱり正しいものを選ぶこと。

それが人を傷つけたとしても、結果を出すことによって人を喜ばせようと思うこと。それが責任感でもあるし、仕事の世界だと思うんですよね。

例えばサッカー、(南場に向かって)またサッカーですみません。サッカーやってて「仲いい奴が隣に来たらパスしてシュートさせてやろう」とか思ってるうちに球取られちゃったら結局勝てないですよね。

自分が入れられる時にはシュートを打って、点数を入れて初めてみんながハッピーになるので。

日本は何か空気を読むとか、評価でも「協調性がない」とか、変なことに気を取られて本当に大事なことを見失う場合が多いんじゃないかなと思ってて。そういうのが気になるんですよね。DeNAさんもすごく率直に言う文化ですよね?

南場:そうなんです。うちも驚かれるぐらいそうなので。空気を読まない集団ばかりなんだけど。

同時に、森川さんの本に「そうは言っても非常に真摯に純粋に結果を求めた結果、空気を読まないんであれば喧嘩にもならない」と。「誠実にそれを説明すれば」と書いてありましたよね。

だから本当にできる奴ほど全く空気読まないけど喧嘩にもならないという。実際本当にそうだなと思うんですね。わが社は結構誰も空気読まない社風だけどみんなが喧嘩してるかというとそれはなくて。「成果を出すために何が必要か」という議論は喧嘩になりにくい。

あるいはチームの中で「あなた外れてください」と言う時も、そういう人事上の厳しいことも、森川さんがおっしゃってたように、むしろ誠実に伝えるほうが禍根を残さない。

私が「お昼行かない?」って言うと、みんな目をふっと逸らす

森川:逆にそういうので恨んじゃったりとか、足引っ張るような人はいらないですよね、組織には。チームとして勝つということにコミットできるかどうかが重要かなと思いますね。

南場:そうですね。でも空気を読むというのは日本の中では重要とされてるのかな?  結構「空気読まなくてもいいんだ!」っていう論調はテレビやネットでも言われてるような。どうなんですか?

森川:ちょっと(会場の方に)聞いてみますか? よく聞くのは、課長とか部長に嫌われると出世できないみたいな、そういう話があって。仕事があるんだけど課長から飲みに誘われると行かなきゃならないとか。

(会場に向かって)どうですか? そういうのって。……ちょっと手挙げにくいですよね(笑)。

南場:そういうことありますかね? 私が「お昼行かない?」って言うと、みんな目をふっと逸らして(笑)。

この間もミーティングのあとに時間があって、これから錦織の試合まで時間あるなと思って「クイックに飯食いに行かない?」って言ったらみんなふいっと「無理です」ってやっちゃうのよね。そんなもんだよ、いまどきは。

森川:僕も前の会社で日本的な経営をしようとして朝礼をやろうと言い出したら「その間仕事させてください」って(笑)。

南場:そうだよね(笑)。

森川:そうなんですよね。確かにロジカルに考えるとそうですよね。もちろんそうじゃない意味もありますけど。

人の気持ちが全くわからない人はユーザーの気持ちもわからない

司会:ひとつ質問があってですね。「空気を読まない」と言うんですが、人の気持ちが全然わからない人の場合はなかなか世間のニーズに応える商品・サービスをつくるというのはまた難しかったりしないのかな、と。人の気持がわかる/わからないというのと、ここで言う空気を読む/読まないって……。

森川:それぞれ違いますね。読まないのと読めないのはずいぶん違いますね。読めるから読まないわけなんですよね。読めなかったら読まないとは言えないですよ。読めないので。なので、読める人ほど読んじゃいけないということですよね。

経営者とかってたぶんそうだと思うんですが、優しい経営者だと思われたら意思決定結構大変なんですよ。

優しいんだけど冷たいように思われることによって意思決定のスピードが速くなるとか、いざという時に方向転換できるとか。一人ひとりあとでフォローするわけなんですよね。

(南場に向かって)そういうところはありますよね?

南場:そうですね。人の気持ちが全くわからない人って、おっしゃる通り、ユーザーの気持ちもわかりません。だからいい仕事はできないと思います。だからこそ、森川さんがわざわざ本に書くぐらい重要なんですよね。

読めるんだけど、目的意識を劣後させてはいけない。読めてしまうからこそ、それが非常に重要なこと、意識しないといけないことなんだなと思いますね。やっぱり大ヒットを生み出した社長は違います。

森川:あまり野球の話ってなるべく振らないほうがいいですよね?

南場:いえいえいえ。

森川:さっき監督の話されてたので。そういうのがあるのかなと思って。

南場:監督が空気読むかどうかということですか? 清々しいですよね、非常に。プロなので全員。チャンスを与えて、掴むかどうか結果次第という。森川さんの本にそのままストレートじゃないかなと思うんだけど。

でも、森川さんの本で「野球じゃなくサッカー」って2回ぐらい出てきて(笑)。

森川:すみません(笑)。野球も素敵だなと……。でも選手交代は難しいですよね。

南場:記録を作らせてやろうみたいなのもあるんだろうね。でも1回じゃないからさ。シーズン143試合あって。チームは何年も続いていくので。例えばこの1試合を逃しても、とある選手が成長したことにより143試合の中で非常にいい成果があったり、来年に向けて礎を築いたりという。

タームの違いというのは、経営でもありますよね。

森川:そうですね。