ライブに呼ばれ、いきなりステージに立たされた

マーク・パンサー氏(以下、マーク):ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)、ジャニス・ジョプリンとかいう世界が当時は好きでした。

――どっちかというと洋楽のほうですね。

マーク:洋楽ですね。日本の曲では永ちゃんだったんですよ。

――永ちゃん、あのロックの。

マーク:クールスとか。

――ワルの方向性なんですね。カッコイイミュージックっていうのが。

マーク:そうだったんですよ。真っ赤なドレス着て、どーこゆくの、恋のミュージックとかなんかそういうような感じだったんですよね。そんなような世界だったんですよ。だから僕も、多分こういう頭だったし。

――ああ、リーゼント。

マーク:リーゼントしてたし。だからどうしてもそっちじゃなかったんですよね。

――どっちかっていうとこう完全に逆の方向ですね。

マーク:逆でした。そこに行く時も嫌々行って、挨拶っていうことで、もうライブやってて2000人くらいで。てっちゃーんみたいな世界のところでギャンギャンみたいにやっているんですよ。ギャンギャンやってる後ろでこんにちはマークです。「おー来たか」とか言って、いきなりマイクを渡されて、ちょっとなんかやれよって言われて。

――え、いきなり初対面で。挨拶も間もない。

マーク:そうそう。何かやれよってステージに出た時にみんな誰? みたいな。メンノンも知らないくらいの。

――恐らくファン層も違いますよね。

マーク:違うんですよ。そのお洒落じゃないんですよ。メンノンのインディゴを着てどうのこうのっていうんじゃない方向性の人達で。

小室哲哉の魅力にはまった

マーク:そこでMCソラーのようなフレンチラップをパクって、当時の流れるようなクルーミングのようなラップ。調子どお? というようなのじゃなくて流れるようにしゃべるようななんかをやったんですよ。キーボードに合わせて。

――それ何年くらいですか?

マーク:95年がデビューだから。92年とか。

――そうなると相当早いですね。

マーク:だと思いますよ。ラップもまだまだ日本では流行っていない頃だと思う。

――やっとアンダーグラウンドのシーンでヒップホップのラッパーが。

マーク:やっと、いとうせいこうとか。

――あの辺の時代ですよね。朗読に近いようなラップの時代でフレンチラップってもうすごい斬新で。

マーク:そこでウケたんですよ。おもしろいってことでウケて、それで小室さんの車に呼ばれて、どっか行こうだか忘れちゃったけど、車に乗っけられて、「やべー芸能界だ、このままホモだ」と。俺はすぐそれだと思ったんですよ(笑)。

「絶対にこれは芸能界で僕は自分を売って……」くらいの妄想が入っちゃって。俺は事務所に「俺は絶対嫌だ」みたいな事を言ってるんだけど、いいから行けみたいな感じになって。

――「マジか!」ってなったわけですね。

マーク:そしたら小室さん、ジャガーだったかな当時。車に乗ってエンジンをかけたら1曲目で流れるのがエアロスミスだったんですよ。それも当時出た『Livin' on the Edge』だったような気がするんだけど。

――そうですね、それくらいですね。

マーク:で、もうそれまでのその僕が妄想していた小室哲哉というのが一瞬で消えて。え、ここなの? みたいな。

――一気に盛り上がって。

マーク:そこから、すごい友達になって。俺、もうスタジオから帰らなくなっちゃいましたもん。

――ずっと通い詰めてたんですか?

マーク:そう。ずっと観葉植物のようにそこにいて。家に帰れよって言われても、全く帰らなくて。小室さんがあくびでもすれば「珈琲でも飲みますか?」って。マネージャーのような存在になっていって。

――それだけ仲がいい。小室哲哉さんは魅力的でしたか?

マーク:もうすごかったですよ。やってることと普段の違いがありすぎて。以来、プログレッシブ・ロックだったり激しいロックだったり、自分の頭の中ですげー先生になってしまった。

日本中の業界人が集まるパーティを主催していた

マーク:ある日TRFが表舞台にでるようになり、TRFの曲のラップをやれとかH Jungle with Tのあそこの部分埋めてとか、を小室さんに言われていましたね。

――僕もやっぱり1番最初にマークパンサーさんのラップのイメージが強いです。あの時のH Jungle with Tですね。

マーク:そうそう。あそこやってとか。

――で、多分あの時にJungleみたいなラップってまだ珍しかった。僕それは衝撃的でしたね。

マーク:あれが出てくる前は乃木坂に、当時ヒッポフェローっていうクラブがあって、隣のすぐ地下にお店があって、そこを借りて毎週末、Jungleのイベントをやったんです。

――おーそうなんですね。

マーク:名前を忘れてしまったけれど、Jungleのイベントをやって、そこに小室さんが来て、僕の友達の4人組のレゲエグループを呼んで、僕がMCで週末ずっとそこでイベントやってたんですよ。それでJungleにどんどんはまってくんですよ、小室さんが。

本家レゲエと小室さんの流行りものの曲とMCっていう3つの要素を取り入れていましたね。そこに朋ちゃんが来てたりとかしていましたね。

――それはイベントに来たんですか?

マーク:イベントに来たりとか。もう日本中の芸能界や日本中のレコード業界からモデル業界から全員が集まるパーティでした。日本中のいい女が集まって日本中の音楽業界が集まるようなイベントですごいおもしろかったですよ。彼らが、Jungleで盛り上がってるんですよ。

――それを考えたのはすごいですね。最先端ですね。まだヨーロッパとかあっちのほうでやっと流行した感じくらいの時でしたよね。

マーク:最先端。とにかく最先端です。

KEIKOとの出会い

――ここから小室哲哉さんと出会いがあり、ずっとスタジオに通い詰めてJungleも一緒に楽しむってなっていって、globeの結成につながっていくんですか?

マーク:そうですね。だから、色んな地方をまわるイベントとかも飛ばされていましたね。MCやってきてって言われて、色々なイベントでMCをやるようになったんですよ。それである日、小室さんが、じゃあ俺も参加してボーカルオーディションで全国20カ所以上をまわろうと言うことになったんですよ。

――これはavexのほうの。

マーク:そうそう。名前忘れちゃったけどイベントで。そのボーカルオーディションをやるんですよ。最初に3人女の子が歌って、小室さんがプレイをするというオーディション番組みたいなのを全国クラブでやるんですけど、そのとき福岡でKEIKOに出会う。

――マリアクラブですね。

マーク:そうマリアクラブ。

――僕、福岡出身なものですごく印象に残ってるんです。福岡人にとってマリアクラブは憧れの場所です。

マーク:そこでKEIKOさんが登場する。そう。

――その時は、マークさんはMCで参加をされていて。

マーク:そうそう。小室さんがそこにいて。審査員みたいな感じで。

――もうそこで。globeの3人はそこで出会う。

マーク:出会うんですよ。

「エントリーナンバー3番。大阪からやってきた山田桂子です」

「どうぞ。『Boy Meets Girl』歌ってください」みたいに言って。

――覚えてるんですね。

マーク:で、ステージから落っこっちゃて。あーあみたいな。怪我してなければいいねと思ったら自分で這い上がってきて、「みんなごめんね」って言ったらもうファンがいて「頑張って」みたいな。それで歌うまくて。

すぐ小室さんところにいって、この子、丁度いいじゃん。かわいいし歌うまいし。これ選ばなかったら僕が彼女にしちゃうよとか言ったような気はするんですけど。それが今結婚しちゃってますけど。

――その時、小室哲哉さんは何か言われてました?

マーク:「うーんそうだよね」みたいな感じで言ってて。

――あのオーディション自体としてはKEIKOさんはグランプリとかはなかったんですか?

マーク:グランプリとかないんですよ、確か。そういうのは。

globeの名前の由来

――そこからは?

マーク:彼女が東京に呼ばれるようになって、デモテープとか取るようになったんですよ。マークとラップを歌って2人でOrangeっていうグループ。2アンリミテッドが当時流行ってたんですよ。

――流行ってましたね。はい。

マーク:2アンリミテッドみたいな事やろうよという事で、Orangeっていうユニット名になって。

――何でOrangeだったんですか?

マーク:わかんないです。丸いものにしたかったらしいですよ。

――丸いもの。

マーク:俺はアップルが当時流行り始めてて、ビートルズもアップルだし、マッキントッシュもアップルだし、それで、オレンジになったんじゃないのかなって踏んでるんですけど。

――なるほど。丸いものがよくて向こうがアップルだから、こっちはオレンジだっていう(笑)。

マーク:っていうような気はするんですけど。それで小室さんが途中で、やっぱり俺も入るわ! って事になって名前も変える。それでglobeになったんですよ。

夢だけを持ってデビューを待ち続けた

――その2人でやってた時ってどれくらいの期間ですか?

マーク:1年くらいじゃないんですかね。デモ作りだったり。後は待ちですね。とにかく待つ。

――デモは今どこかにありますか?

マーク:どこにあるんでしょう。ないです。幻ですよ。あのデモ曲ってどこにあるんだろう。

――下手したら小室哲哉さんも知らない。

マーク:うーん持ってないんじゃないですかね。もう当時だって小室さんもミリオンメーカーのトップのトップじゃないですか。

――いっぱいあるスタジオの。

マーク:全員当たっちゃってるんですよ。TRFを始め篠原(篠原涼子)もはじめ。全員が何かを出せば全然ミリオンでH Jungleなんてもうすごいことになって。その中にOrangeっていうものがあって。俺達はもうOrangeでデビューすれば当たっちゃうねみたいな感じで言ってたんだけど、全然来なくて。どんなに待っても来ない。

――結構自分的には、何でだっていう気持ちがありました?

マーク:それでも忙しいというか小室さんと一緒にいる事が。だって寝る時間もないんですよ。小室さんと一緒にいると。あの人寝ないし食べないし。やっとこ寝たかなと思うと、宿題がわんさかあって。もう大変でした。夢だけ持って待って。約1年くらいたってglobeでデビュー曲『Feell Like dance』、やっと来たー。

――具体的には?

マーク:『Feell Like dance』で呼ばれるんですよ。

――曲をぱーと渡されて、俺も入るなって言われた感じ。globeという名前に変えるかって言われた時みたいに。

マーク:俺、部屋全部オレンジに塗っちゃったんですよ。当時世田谷に住んでて。家を全部オレンジに塗って。Orangeだから。寝室全部オレンジでしたね。超お洒落な部屋にした。

それがglobeって言われて、部屋全部オレンジに塗っちゃったんですけどみたいな。寝室だけ緑に変えて、globeだから緑かなみたいな。

――ああ、なるほど。

マーク:ってぐらいOrangeにハマってたんだけど、でもglobeって言われた瞬間に、その小室さん入るって事で見えた未来はやっぱりすごかったですけどね。

KEIKOの初舞台は10万人規模のステージだった

――僕、当時TMネットワークにはまって。新曲出るかなと思ったら解散だった。終了だったんですけど、次またなんかユニット組まないかなって思ってたところでのglobeだったので、僕、かなり衝撃だったんですけど。実は僕誕生日が8月9日なんですよ。globeと同じ。心の中で衝撃的で。これは運命だ。

当時僕globeのファンクラブに入ってた事があって、かなり記憶にあるグループなんですけど、その『Feell Like dance』が出るってなった時にまずお披露目がありましたよね。

マーク:ダンスキャンプですね。

――あれ、何万人?

マーク:6万から10万くらいいたんじゃないんですかね。

――あれがいきなりの最初のステージですよね。で、あれが『Feell Like dance』のPVに使われている映像ですよね。それまでKEIKOさんって大きな舞台でやったりとか?

マーク:ないです、ないです。だってOLだもん。大阪のホテルのOLさんですもん。受付嬢ですもん。

――ライブとかってやったりとかしてたんですか?

マーク:わかんないです。カラオケばっかりじゃないんですか? でもちっちゃい頃から賞は取ってたみたいですけどね。

――もうglobeになってからも全然そういう腕試しみたいな。

マーク:もうとにかく緊張しまくってたんじゃないんですかね。彼女は。

――映像見る限りでは全くそういうの感じないんですよね。

マーク:いっつも一緒にいる時は、ずっと手を握ってずっと震えてて、とにかく緊張。レコーディングの時もとにかく緊張してて、でも大丈夫だよとか言って、もう普通にすげーんだからさとかってよく言ってました。

――ましてあのTKブームの中で、あのばーって集まってる中でのステージは緊張はハンパない。

マーク:緊張ハンパないと思いますよ。だから僕から見たら緊張してるのすごくわかるんですけれど、彼女もあの映像を見ると嫌がるんですよね。あれを。

「globeは好かれるだけだったら、あそこまではいかなかった」

――あのその時はマークさんはどうでした? 緊張されてました?

マーク:まあ緊張はしてるんだけれど、楽しむほうが先決で。だから走りっぱなしじゃないですか? とにかく走るんですよ。当時TRFさんも安室さんも篠原さんもH Jungleも全員動きが決まってるんですよ。どういうふうに動いてどういうふうにしなきゃいけないっていうのが。

それで照明さんとか全員が動いて1つのステージができ上がるんだけれど、globeだけスーパー無視ですから全て。

――何もなかったんですね。

マーク:もうだって俺が落ちついてないんですもん。1度も言われた事と同じ事やった事ないんですよ。

――あ、そうなんですね。

マーク:ないです。

――はー(笑)。かなり自由にやっていたと。

マーク:自由にやっていた。でもそれがglobeであって、そこにおもしろさがあって。周りと違うものが生まれていて、逆にそれが敵もいっぱい作っていって、批判もいっぱいされて。もう批判もあり、愛されることもあるからこそ、巨大なメガグループになったんじゃないのかなって僕は思うんですよ。

好かれるだけだったら、あそこまではいかなかったような気がするんですよ。

制作協力:VoXT