ロケットの再利用が可能になれば、ロケット工学は次のステージに

ジェム・プレール氏(以下、プレール):こんにちは。この3日間、マサチューセッツ工科大(MIT)の航空宇宙分野が過去100年でどう発展してきたのか、振り返ってまいりました。そして過去の教訓や、いま注目の分野、そして未来への展望も見てまいりました。

この1世紀のあいだ一貫してきたのは、ビジョンある人々の存在。そして、彼らの持つ情熱です。例えばハンセーカー、ドーリットル、ガーナー、ドレイパー、シーマンズをはじめとした方々ですね。

今日はもうひとり、このリストに付け加えたいと思います。本シンポジウムの最後を飾ると同時に、MIT航空宇宙学の次なる100年を迎えるのに、イーロン・マスク氏はまさにふさわしい人物と言えるでしょう。彼はイノベーターであり、次世代のエンジニアや起業家を引っ張る存在でもあります。イーロンさん、今日は来てくださってありがとうございます。MITにようこそ。

イーロン・マスク氏(以下、イーロン):お呼びいただきありがとうございます。

(イーロン・マスクが創業したSpaceXに関するビデオが流れる)

プレール:はじめに、今見たビデオの内容について詳しく説明していただけますか。

イーロン:わかりました。

ビデオの中で紹介されていたのは、我々の「ファルコン9」ロケットと 宇宙船「ドラゴン」です。離陸・着陸の面で再利用が可能なファルコン 9の初期試験をご覧いただきました。再利用可能であることはロケット工学を次の段階へと進めるために、必須な側面だと思っています。

10回の実験のうち、1回は着陸を成功させたい

プレール:再利用可能なロケットの飛行が達成できるのは、いつ頃になりそうですか?

イーロン:これまでのところ、ロケットブースタを海に2回、軟着陸させることには成功しています。残念ながら、着陸して数秒後にはひっくり返り、爆発してしまいましたが……。

(会場笑)

これでは再利用は厳しそうです(笑)。何しろ14階建てのビルくらいの高さがあるので、ひっくり返るとかなりの衝撃です。ですので、水面上に浮かぶプラットフォームですとか、理想的には打ち上げ場所まで戻って、そこで着陸できるようにする必要があるわけです。ですが打ち上げ場所に戻って着陸させるより前に、まずは繰り返し、正確に着陸できるようにしなければなりません。意図した場所に戻らないとまずいですから。

次回の打ち上げでは、水面上の着陸プラットホームに着陸させられるかもしれません。実は現在、ルイジアナにある造船所で、巨大なプラットホームを作っているところです。長さ300フィート、幅170フィート(長さ91メートル、幅52メートル)と、かなりのサイズでして。といっても、宇宙からは小さくしか見えませんけれどね。

ロケットの脚部の幅は60フィート(約18メートル)です。このロケットはエンジンで位置を固定しながら海上での場所を定めることになるわけですが、大きなローラーやGPSのエラーなどにも対応しなければならず、なかなか大変な作業になります。プラットフォームは大西洋上にあるため、錨で固定はできませんので。

次の打ち上げではこのプラットフォームに着陸させるのが目標です。無事成功すれば、ブースターの再打ち上げは可能だと思っていますが、初回の試みで成功できるかどうかは五分五分、あるいはそれ以下ですね。

ですが来年にかけて、打ち上げは何度も行われることになりますし、少なくとも次の1年で10回程度はやりますので、8~9割の確率でそのうちいずれか1回は着陸と再打ち上げに成功できるだろう、と見込んでいます。なのであと少しですね。

地球以外の惑星に着陸するためには、逆推進ロケットが必須

プレール:着陸に関してうかがいたいのですが、なぜ逆推進ロケットを採用されたのですか? スペースシャトルのように、翼やタイヤを用いたり、滑走路への着陸ではなく。

イーロン:いくつか理由はあります。SpaceXの長期的な目標は、火星に文明を築くために必要な技術を開発すること。ですが、翼や滑走路は地球以外の場所ではあまり意味をなしません。月には大気や滑走路もないですので、翼やタイヤは相応しいとはいえません。滑走路もなければ大気もない。ですから月に行くなら避けるべきですね。

同じように、火星にも滑走路はありませんし、大気も非常に薄い。ですので、超音速で着陸したいとでも思わない限り、火星に行くのにも翼は相応しくありません。そんなわけで、地球以外の場所にいくためには推進着陸が必須で、そのためにロケットがあるわけです。航空機はあくまで地球のためのものですから。

地球への帰還についても、たとえ他の惑星に大気があったとしても、推進着陸は理にかなっていると言えるはずです。最終速度、速度ゼロに至るまでに必要なエンジン稼働時間、それとそのGレベルを計算すればわかりますよ。

あとは多少の工夫ですね。たとえば我々の着陸装置。基本的には大きなボディフラップのようなものです。この装置を起動すると空気抵抗がかなり増すので、着陸装置と同時に大きなボディフラップの両方として機能させているわけです。

これによって最終速度が半分に抑えられ、同時に燃料、つまりロケット停止に必要な推進剤も半分に抑えられるので、確実な着陸のためにはかなり経済的な手段と言えます。パラシュートを使って水面着陸するのも質量を抑えるには有効ですが、そうすると再利用性に影響が出てしまいますからね。

あと5年で火星への試験飛行にうつりたい

プレール:再利用可能な次世代ロケットについての近々の計画をお聞かせください。

イーロン:ファルコンに続く世代のロケットは完全な再利用を目指して設計していくことになります。一連のファルコンシリーズには再利用のできる上位機を製造しようとは思っていません。

ファルコンはケロシンを用いたシステムなので、再利用するための比推力も不十分ですし、我々が行っている商業衛星の打ち上げミッションはほとんど静止軌道上でのもの。ですから、かなり遠くまでの飛行になっていますし、速度もかなり高くなるため、再利用するのは極めて難しいわけです。

ですが、次世代機では過冷却メタン・酸素システムで推進剤を凍結温度近くまで下げ、密度を上げることで完全な再利用が可能になるはず。そしてこれが完全に再利用可能な火星輸送システムへつながるわけです。このシステムができれば、地球の低軌道だけでなく火星まで行って帰ってきて、さらに再利用することも可能になります。

プレール:3年くらいあればできそうですか?

(会場笑)

イーロン:私は楽観的な方ですけれども、おそらくあと5年ほどで試験飛行ははじめられるかなとは思っています。ですが、現在のものよりもかなり大きなロケットとなりますし、次の世代へグレードアップも必要になります。

フルフロー式多段燃焼サイクル機関への転換ですね、現在の開放サイクル機関から。SpaceXの現時点での最大の弱みはエンジンですけれども、航空電子工学の機器と同じくらいの強度に次世代のエンジンはもっていけると思います。

スタートアップが大企業の競合になり得る理由

プレール:ありがとうございます。SpaceXは歴史と実績のあるサービス提供者、たとえばロケットやボーイング、あるいはヨーロッパを拠点とする企業などと互角に渡り合えることを示されてきました。SpaceXのような新しい企業が、歴史や定評のある企業と競い合えるのはなぜだとお考えですか?

イーロン:そうですね。その前にもう1点だけ。今のところエンジンに関して我々の1番の弱みは比推力ですけれども、スラスト重量比ではないということは補足させてください。むしろ私たちはどんなエンジンよりも高いスラスト重量比を持っているわけですけれども、比推力については、エンジンの効率性は同じ推進剤を使用した多段燃焼機関よりも10%ほど劣っているのが現状です。

さて、我々の競争力についてですが、つまるところ進歩のペースが鍵になっていると思います。SpaceXは大手航空宇宙企業や国主導の企業と比べるとかなり早いペースで進歩していますが、これは一般的にも言えることのはず。

たとえば大手企業と中小企業を比べると、規模の小さな会社のほうが大手よりもうまく発展していく傾向がありますよね。これは進化論的な見方をしてみれば当然のこと。中小企業はイノベーションをしていかないと、一般の人はみな大企業の商品を買い続けることになるわけで、競争に負けてしまいますからね。

ではなぜSpaceXが革新的な取り組みができるのか考えてみると、おそらく技術を第1に考える文化があるからです。言ってみれば、シリコンバレー的なアプローチで会社を運営していましてね。

言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、例えばリナックスの良さについて説明するのが難しいのと似ているかもしれません。Linux (リナックス)のほうが他のOSと比べて効率的ですが、なぜかと言われると、パッと説明するのは難しい。

平等な組織があれば、コミュニケーションが加速し、ベストの提案が選ばれていく文化が育まれるわけです。この反対が、年功序列で上の者が決断を下していく組織。工学分野において後者は絶対に避けるべきです。合理的に動く組織でなければいけません。

また、幹部レベルにはいわゆるマネジメント力のある人よりもエンジニアとしての能力が高い人を選びたいですね。SpaceXではMBA取得者もある程度採用していますが、MBAを持っている「から」採用するのではなく、持っている「けれど」採用する、という場合が多いです(笑)。

プレール:これは拍手を送りたいところですね。

(会場拍手)

航空機が使い捨てだったら利用者はいるか?

プレール:イーロンさんは再利用性のコンセプトによって費用面に対応しようとされているわけですが、それは現在のロケット需要の低さを受けてのことですか? 市場はあるのでしょうか、また、5年~10年のうちにロケットの需要はどのような方面から発生してくるとお考えですか?

イーロン:鶏が先か卵が先か、という状況ですけれども、宇宙飛行の需要が低いのはとんでもなく高額だからです。ですので、まずは誰かがもっとコストの低いものを作らないといけません。そしてその後の展開を見守っていくと。

今のロケットの状況は、仮に航空機が使い捨て式だったとしたら、利用する人はどれだけいるでしょうか? おそらくほとんどいないはずです。25億ドルから30億ドルほどするボーイング747機を購入したとして、往復で2機必要だとしたら、誰も50億ドル払ってボストンからロンドンまで飛行機に乗ろうとは思いませんよね。そんな状況だったら飛行機は科学や軍事目的でごく少数、運行されるだけで、市場も小さく、船での移動が主流になり、おかしな状況になるわけです。

再利用可能なロケットがあれば、利用料も適正にできます。そうすれば宇宙輸送のコストも現在の100分の1程度には下げられる。自律した文明を他の惑星、月やL5協会のコロニー等に築くためには、最低でも現在の100分の1レベルに宇宙輸送の費用を下げる必要があると思っています。

有人の火星飛行ミッションにかかる費用の概算について言えば、確か低く見積もられたものでも4人乗りで1000億から2000億ドル(約12兆から24兆円)かかるのが現状です。この1万分の1程度には費用を抑える必要があるわけです。

プレール:実現可能にするために。

イーロン:ええ、一般の人でも行けるような価格にするためにですね。

プレール:宇宙旅行はマーケットとしてのポテンシャルはあるとお考えですか?

イーロン:プライベートな宇宙旅行もある程度市場としてのポテンシャルはあると思います。ただなんとも言えないですね、我々の目標はロケット技術を発展させることですし。

仮に、私たちの最終目標の、火星移住が可能になるレベルまで技術を多少でも発展させられれば、衛星の打ち上げや宇宙ステーションへのサービス提供などの面で、ビジネスが発生する可能性はあると思います。

5%程度でも進歩できればですね。ですが今のところ、地球軌道の事業だけでも成長は可能ですし、我々は他のロケット産業の企業よりも競争力では優っています。最近では競合も増えてきていますが。