パラリンピックはテクノロジーと人間の融合を競う大会に変化する

松浦茂樹氏(以下、松浦):メディアにおいて、ブロードキャストでいっぱい伝えるんだったら、これまでのやり方とそんなに変わる必要はないかなと思うんです。でも1対多のメディアを考えるんだったら、1対多のコミュニケーションの方法って結局、ここのFace to Faceのコミュニケーション部分が最終的には絶対効いてくるっていうことから逆算して考えていったほうが、今後はいいかなと思うんです。

佐々木俊尚氏(以下、佐々木):なるほどね。ちょっと関係するもので最近いつも思うのは、人間はサイボーグ化してくるよねって話があるわけです。例えばパラリンピックって、今は障害者のスポーツっていうふうに思われていて、どちらかといえば社会的弱者っていう冠がつけられるケースが多いんだけど、最近だと義足とか義手とか、あるいは車いすとか、例えばスキーとか義足つけて滑った方が速いみたいな話もあったりとかして。

そうすると、もはやこれは弱者のスポーツっていうイメージのものではなく、どちらかというと機械化された人間の限界を競うスポーツであるっていう方向に変わりつつある。テクノロジーと人間の身体をいかに融合し、でもそれをコントロールしているのは決して機械ではなくて、人間が自分の筋力や神経を使って、コントロールするんですよねっていう。

そういう新しいテクノロジー時代の人間の技みたいなものが、新たに開発されるっていう時代が、たぶんやって来るんじゃないかなっていう。だからテクノロジーと仕事ってそういうことなんじゃないかなっていうふうに思いますね。

松浦:そうですね。だから恐れずに学ぶことだと思うんです。義手の話とかだと、昔は職人の手でやっていたんですけど、今だと片方の手があれば3Dプリンターで置換してやるっていう形になって、すぐできちゃうような話。

もちろん倫理的にどうなのっていうところは実際あるんですけど、ただそこに恐れず、右足でも1歩踏み込んで考えること。考えることを恐れずにコミュニケーションすることによって生まれてくる知見っていうのが出てくるじゃないですか。そういう脳の筋トレっていうのは、やったほうがいいかなと思うんです。

技術と編集の歩み寄りができていない

佐々木:なるほどね。でも松浦さんみたいな仕事をしている人って、現状ではものすごくたぶん少なくて。

松浦:少ないです。

佐々木:結局メディアの編集っていっていいのかわからないけど、メディアのコンテンツを作って、それを読者や視聴者に送り届ける仕事を全体のメディアの仕事というのであれば、その中でテクノロジーを使いこなす仕事って実はあまりなくて、例えば新聞社だったら、昔からシステム部とかあるわけです。

でもシステム部って何をやっているかっていうと、どっちかっていうと社内のサーバを管理してるだけであると。最近は戦略的ITっていうので、今までサーバを管理するだけだった技術者の人たちに「お前らが新しい製品を作って売ればいいんだ」って言って、みんな途方にくれたりするっていう状況が起きていて。

だからそういう旧来の技術を担ってた企業の人たちは、新しい技術が中核になるっていうことにやっぱりついて行けないし、一方でメディアにおいては中核だった編集とか、そっちの人たちは今度はテクノロジーがわからないので、そこについて行けないっていう。

何かすごい新しい世界が出てきているんだけど、テクノロジーの担当者もメディアの担当者もそこに辿り着けない状況って今起きてきてますよねと。こういう仕事をするためには、何すればいいんですか?

松浦:うーん、自分は10年前ぐらいから言っていますけど、システムエンジニアの人たちがメディアにちょっとでも興味があったら恐れずに飛び込んでほしいです。本当に少ないですね。

佐々木:今はエンジニアっていないですよね。

松浦:なかなかいないです。といっても職人なんですよね。プログラマーの人とか、やっぱりモノづくりのところなので。日本人はモノづくり大好きなので。そしてエディトリアル、ライティングもモノづくりなので、そればかりやっていて楽しんでいるっていうのは百も承知なんですけど、そこに対して違う世界もあるんだよっていうのに、ちょっとでもいいから勘付いて前に進むことっていうのも大事なんですけどね、これがなかなか。

ディスプレイ広告をWebページにベタベタ貼っても儲からない

佐々木:なるほどね、メディアの業界的な話をしたいんだけど。メディアの業界ってネットメディアも含めて、この10年どんどん駄目になって来てるっていう。何で駄目になってきたかっていうと、新聞・テレビ・雑誌は、紙や電波はだんだん小さくなってしょうがないよねと。

一方でネットが出てきて、ネットが良くなっているかって、全然そんなことはなくて。広告モデルしかなかったので、ディスプレイ広告を山ほどWebページ上に張り付けまくって、それで何とかお金を儲けようとしたんだけど、たいして儲からない。

メディアの数が増えれば増えるほどインフレが起きて、単価が安くなるという状況の中で、ライターはいなくなり、どこで話をしてもネットメディアの人は「儲からないよね」みたいな話になる。そうすると、今のメディアの業界、人がいないんです。

TABI LABOをやってたりするんだけども、じゃあライターをもっと雇いましょうみたいな話をすると、もうライターがどこにもいないっていう。2000年代半ばぐらいまで雑誌の業界が元気だった頃は、フリーの専属ライターとフリーの独立系ライターが山ほどいたんですけど、この10年の間に雑誌がほぼ衰退していなくなり、かといってネットのメディアは単価が概ね10分の1。

例えば雑誌の頃は1本の記事を書くと、だいたいざっくり5万円とか10万円だったのが、今はネットで、それも2010年ぐらいまでですけど、ネットで原稿料1本1万円とか、最近はもっと言うと1本2,000円とか1,000円とか、下手すると500円とか、すごい赤字になってきていて。

そんなので専従ライターが食えるわけないっていう中で、すごい勢いで底が抜け始めちゃっているっていう状況があるんです。ところがここにきて松浦さんもご存知のように、アメリカですごいメディアイノベーションみたいなことを言われるようになり、そのメディアイノベーションの本質は何かっていうと、さっき僕が話したようなメディア空間がどんどん拡張しているってことで、同時にいま松浦さんがやられてるようなテクノロジーとメディアを本当の意味で融合するっていう状況が起きてきている。

今までのネットメディアって別にテクノロジーと融合してないんです。だってコンテンツを作って記事を書いて、それをWebサイトで発信しているだけでしょ。それって今まで紙とか電波でやっていたことと変わらないわけです。全然テクノロジーじゃない。

単に媒体がWebであって、それだけしか変わらない。でも今ここにきて、スマートニュースの取り組みもそうだし、あるいはバズフィードみたいなバイラルメディアの取り組みもそうなんだけど、完全にテクノロジーと融合させて、どうやって読者に送り届けるかというところを極限まで高めようっていう状況が出てきたので、初めてネットメディアにお金が回り始めているっていう。スマートニュースもあんなに巨額の資金調達をしているわけですが、何であんなに注目されているんだと思いますか?

バイラルメディアの仕組みそのものは買えてしまう

松浦:いや、本当に。でも自分が例えば今「独立します」ということになって「誰が欲しいですか?」って言われたら、CTOが欲しいです。

佐々木:やっぱりそうなんですか。

松浦:はい。編集者10人よりも、超絶優秀なCTOが欲しいです。

佐々木:今日はメディアの人もたくさんいるので、聞いた瞬間にショボーンとなっています。

松浦:いや、すみません。でも、そこは本当に思います。だからハフィントンポストの時も「あ、この仕組みは宇宙戦艦ヤマトだ。ヤマトだから、優秀な乗組員を集めるだけでいいか。これは気が楽だ」みたいな。ラッキーだったんですけど、今、完全にイチから仕組みを作ろうと思ったら、なかなか難しい。そうそう、今、バイラルメディアもパッケージみたいなものを売っているらしいですよ。

佐々木:そうなんですか?

松浦:NAVERまとめみたいなものをパッケージ化したやつで、テーマとか入れてやっていくと200万PVぐらいまですぐ上げていきますみたいな広告が自分のFacebookのタイムラインに流れてきて「あー、こんなのもうあるんだね」みたいな。

佐々木:どんどんそういうリリースが進みますよね。

松浦:でも逆にいうと、その仕組み使えば200万PVという数字は、自分の肌感覚でそんなに難しくなくいくんだろうなと思うんですよ。今そういう仕組み化の部分のフレーム的なところをテクノロジーの人のほうがわかっていると思いますので、わかっている人がいれば、今やっている、そのバイラルメディアと言われているところの仕組み化はできると思うんです。

佐々木:ある程度は可能なんですよね。ただそこから先に移行すると、やっぱりもう1段上の技術力が必要になってくる。

松浦:重ね重ね、普通にやるだけだったら別に200万PVぐらい行くと思うんですね。そこから先の技術的な話の部分になってくると、たぶんアメリカと日本で結構差が出るんだろうなと思います。

佐々木:そうなんですよね。結局さっきのライターがいない話と同じで、メディア業界っていうと、何かもう終わっている感というか、オワコンみたいな感じのイメージがあって、新しい人が来ないっていうのがこの5年ぐらいの状況で。

「ネットメディアは儲からないよね、駄目でしょ」って、だからみんなソーシャルゲームにいったりとか、いろいろな方向にいってたわけです。ここにきてちょっと流れがやっぱり変わってきた感じがあるのかなっていう。

テクノロジーの進化で「読者開発」のような手法が可能になった

松浦:そうですね。広告テクノロジーの部分とかで、やっぱり人のマッチのところで最適な広告をみせるとか。あと考え方ですね、Facebookがそもそもコンテンツを全部頂戴みたいな、全部Facebook上で見せろよみたいな形の部分でやると、そこも含めて広告収入になる。

スマートニュースも、そういうところを含めて、ちょっと考えてやっていきたいなと思っているんですけど、技術力でちゃんと売り上げが上がるような仕組みっていうのを確保することが、今やればやるほどできるような世界観になってきたので、そっちにチャレンジするのもまたおもしろくなるかもしれないですね。

佐々木:メディアイノベーションって言い出したのはたぶん2013年の終わりぐらいからで、ここ1年半か2年ぐらいだと思うんですけど、何でこの時期だったんでしょう。やっぱりビッグデータの技術力が上がってきたのが大きいのかな。

松浦:そこはあるのかもしれない。でもさっき佐々木さんが言われた通り、作って送るだけっていう図式自体は、インターネットが始まった時から、この10年ぐらいはあまり変わってなかったと思います。

いろいろ言われてたわりには変わってなかったなっていうのがあるんですけど、ようやくアルゴリズムを使うことで、昔はいろいろパワーが必要とされてた部分が収縮されてきた。

佐々木:確かにね、クラウドも普及して。わりに安価な値段で高速なCPUパワーが得られるようになり、ビッグデータの分析も、ソーシャルネット上の非構造化されたデータを分析するみたいな。

そういうことも可能になったっていうのがだんだん積み重なって、この数年でニューヨークタイムズがいっていたオーディエンス・ディベロップメントみたいな、読者開発っていう技法が可能になってきたっていうことなんでしょうね。

個人ではなくコミュニティに向けて発信する

松浦:あと今、ソーシャルの関係で1対多になる。1対多って、間の人の意図は小さいかもしれないですけど、量的には全部重ね合せたらすごい量になるじゃないですか。

そこに対して、前は細い糸だったからわざわざ構図を超えたところでどうなるのっていうのがあったんですけど、今最適に1個1個のコンテンツをマッチしながら、例えば僕と佐々木さんが間になって、そういうのを上手くマッチ、合わせるような形になってきたところの技術的な部分が、ようやくそのテクノロジーの部分も含めて追い付いてきたのが、今の話ですね。

佐々木:なるほどね。僕もどうやって読者に届けるかっていう線の部分で言うと、完全なパーソナライズじゃなくて、もうちょっとコミュニティ的っていうか、あなたに投げるんじゃなくて、あなたたちに投げるみたいな、そういう感覚が今後強くなるのかなと思っているんですけど。

松浦:そうですね。僕もコミュニティのところ、例えばミクシィのコミュニティってコンテンツはコアなんですね。コアなアーティストのファン空間なんですね。で、オフ会とか行って、話してみると似通っている点っていうのが結構あるんです。そのアーティスト以外でも服とかそういうところの部分で。何か知らないけど、この限られた空間の中で流行るものが出てくる。そこに対して例えば広告的なところの部分もまた差し挟んでこられるようになるのかなとは、すごく思います。

佐々木:なるほど。Facebookでも実際、友達の何とか君が読んでいる記事だから、ちょっと見てみるかみたいな。そこが常に人間関係に紐付いていて、ソーシャルグラフ上に記事が流れるってこと、やっぱり完全なパーソナルもそっちなのかなと。

松浦:僕は1対1よりは1対多の部分で、1対多のさっきあった、弱いつながりの輪っていうのが、ものすごい数があるんだろうなと。そのものすごい数の輪っていうところの部分を見極めて発信したほうがいいんだろうなと思いますね。

テクノロジーで「なめらかな社会」を実現する

佐々木:なるほどね。でもスマートニュースって鈴木健さんの思想がやっぱりすごい色濃くて。彼は2013年に『なめらかな社会とその敵』っていう恐ろしい本を出して。皆さん、読みましたか? 読んだ方がいいですよ。

まだスマニューがこんな騒ぎになる前に出た本で、彼は元々起業家であると同時に、社会学者なので、テクノロジーが人間社会をどう変えるか、社会をどう変えるかを延々と考え続けて、そういう非常にコアな現代思想的な本を何冊か出しているんです。

その代表作で集大成が『なめらかな社会とその敵』っていう本で、「なめらかな社会」って何なのかっていうと、例えば選挙で1票を投じる。自民党に入れるか民主党に入れるかっていう二者択一しかない。

でも自民党もいいけど民主党もいいよねとか、そこは人間の判断の中で、自民が100で民主が0じゃなくて、例えば自民が75ぐらいオッケーで、でも民主も25ぐらいでいいかなっていう、常にそういうバランスがある。中庸であるっていう。

だったら1つの票を、これからのテクノロジー化された選挙態勢では、私1票持っているんじゃなくて、例えば100票持っていて、75票を自民党に投じ、25票を民主党に投じるって、そういう仕組みにしたほうが、より緩やかな民主主義ができるだろうと。

社会っていうのは常に敵を作りたがるので、私の味方とその敵っていう、敵味方をゼロイチの関係にしたがるんだけど、彼が言っているのはそうじゃなくて、敵と味方が方程式のカーブで、なめらかに繋がるような社会を作ったほうがいいんじゃないか。

それが『なめらかな社会とその敵』です。だから「なめらかな社会」においては敵はいないっていう、そういう話なんです。敵と自分もどこかで繋がっているっていう。そういう社会像を考えていて。

スマートニュースは新しい民主主義の基盤になる

佐々木:その思想の中でスマートニュースっていうのを作り、元々スマニューの前に浜本さんっていう共同創業者のスーパープログラマーと作ったCrowsnestっていう、完全パーソナライズのニュースアプリがあったんだけど、そこから発展してスマートニュースを作り、でもスマートニュースはパーソナライズを実は捨てて、一旦マスに向けてみんなが読める記事を作りましょうっていうふうに転換した。あの辺って、もう1回パーソナライズのほうに回帰していくんですか?

松浦:最終的にはやっぱりある程度それぞれ個人の好みみたいなものがあると思うんですよ。ただ本当に最大公約数的な部分を、やっぱり担保しないと。さっき言った、どんなアーティストでも集まるコミュニティっていうのが存在するんですけど、でもそこの存在を知らないと、そのファーストステップにならない問題はあると思うんです。だから僕はテレビ・新聞・雑誌がなくなるとは思ってなくて、ある程度のブロードキャストっていうものは。

佐々木:マスメディアっていうものが必要であると。

松浦:マスメディアっていうものが必要になると。そこは絶対必要かなと思っているので、そこでのバランスが変わりこそすれ、なくなりはしない。

佐々木:全体、みんなが支える公共権としてのマスメディアみたいなのもあり。それは新聞・テレビじゃなくて、ひょっとしたらネットメディアかもしれないですけど、それを言うと細分化された記事みたいなものがいろいろグラデーションのように流れて。

松浦:それである意味なめらかになっている。

佐々木:おもしろいですよね。だからある意味、スマートニュースっていうのを彼がなぜ作ったのって、前に対談した時に聞いたんだけど、やっぱり民主主義っていうものが、今すごい勢いで崩壊してきている。

それをどうやって再構築化するかっていうのが社会の課題で、その課題の中でスマートニュースも新しい民主主義の基盤の1つとして作用するみたいな、そういう話を彼として、なるほどなと思ったことがあるんですけど。

さっきの話の連続で言えば、もはや我々の民主主義社会っていうのも完全に人間の、政治家の、永田町のうるさいおっさんが言ってるだけではなくて、よりテクノロジーともう少し融合して、テクノロジーを使いこなしながら、その基盤として作用するみたいな、そういう方向にたぶん来るんじゃないのかなっていう。

松浦:その時にテクノロジーはあくまでも手段であると。技術もアルゴリズムも含めて手段であるから、この手段が、要はハサミですよ。ハサミなんかはまず使ってみましょうよっていうだけのことだと、個人的には思うわけですよね。

佐々木:そうですね。支配されるみたいなところで。

松浦:これもいつも思うんですけど、使いこなせば本当にいつでもどこでも使えるだけの話になると思うので。

編集者が得意なのは、物事のフレームを別のところに当てはめること

佐々木:そうですよね。あと今日たぶんメディアの人とか、メディア業界の人も来ているんですけど、これから質問を聞こうと思ったんだけど、絶対うちの会社をどうしたらいいって質問がくると思う。その辺どう思いますか?

松浦:そうですね。編集とは何ぞやって思ってここに来た方もいると思うけど、ここまで何も答えになる話してないし、自分も編集テクニックを話せって言われたら話せません。でも大きな意味での編集っていう部分で、編集者の、要するにテキストを編集するっていう以外の行為で、もしあるとすれば、僕は物事のフレームのパーツを組み立てるところは、編集者が最も得意とするところだと思うんです。

フレーム化したもの。例えば新聞という纏まったパッケージを伝えているのはどんなところですか? 紙面が大事じゃなくて、今の仕組み上でいうと販売所が大事です。販売所がどういうふうに成立したのか、そのビジネスモデルを知っているほうが大事です。

そういう販売所のモデルがあるんだったら、それをシステムの、いろいろなミキシングとかそういうのを抜きにして、ビジネスの要素だけに寄っていたら、販売以上のものがたくさんあるじゃないですか。

そういうのを他のビジネスに置換する。そうすると編集的な要素の部分で、違う道が見えてくるんじゃないかと。テレビもそうですね、テレビも受送機がなければ、どんなブロードキャストでも繋がらない。

そこを逆算して考えるとネットフリックスは、どんなディスプレイでも見られるような形で設計して、Huluもそうですけど、その上にアルゴリズムが乗っけているみたいな。

だから今までもやっていたテレビ・新聞・ラジオ・雑誌っていうビジネスのフレームをちゃんと考えて、それを別のところに、ネット上に置換する。もしくは新しいビジネスに置換するっていうのは、編集者は気づきやすいと思うんです。そういう視点を持つこと、新しいことにチャレンジできるんだったら、チャレンジして欲しいなと思うんです。

自社サイトを閉鎖する「分散型コンテンツ」の登場

佐々木:フレームがあって、そのフレームに当てはまるように、紙とか電波とか販売店とかっていう、具体的なリアルなパーツをそこにはめ込んでいくと。どうしても、そのリアルなパーツのほうに気を取られがちで販売店なかったら新聞取らないとか、受動機なかったらテレビも見られないと思っちゃうより、一番重要なのは、その具体的なパーツではなくて、フレームのほうであるっていう。フレームさえちゃんと頭の中で抽象化されて存在すれば、そこに別のリアルなパーツをはめ込むことによって、新しいビジネスが生まれるんであろう。

松浦:生まれるし、考え付くんだと思う。そういうのが大事かなと思うんですね。Airbnbだって実際のところ宿泊させる部分のフレーム自体は簡単な話。

佐々木:そうですよね。別に人に部屋を借りて、そこに泊まるって、昔からある旅館の業態とあまり変わらない。

松浦:あまり変わらないところに、インターネットっていう手段に最適化しただけ。

佐々木:なるほどね。そのフレーム感って本当にすごい大事で、最近メディアイノベーションの状況って、アメリカは3年くらい先行っている感じなので最近おもしろい事例があって。

NowThisっていう動画サイトがあって、元々普通の動画サイトでYouTubeみたいな自分で制作した動画を自社のサイトにアップして、それを見せるっていう、ちょっとおもしろ系の動画ですけど、最近そこが自社サイトを辞めてしまったという。

辞めてどうしたのか、動画どこにあるんだっていうと、FacebookとかYouTubeとか、あるいはVineとか、ありとあらゆるソーシャル系のプラットフォームにただ流している。要するに自分のところのサイトはいらないっていうんです。

結局それも本質的には、自社で作ったコンテンツっていう、その動画のコンテンツがあって、それを多くの人に見られるっていうのが重要であると。だからネットフリックスだって別に自分のところで作った番組がいろいろな人に見られるから、それは別に手段は電波でもケーブルでもネットでも何でもいいって考えるのと同じように、動画を多くの人に見てもらうっていうのが1つのフレームだと思う。

そうすると、もはや自社サイトである必要が何もない。だったらFacebookに流し、Vineに流し、YouTubeに流し、メディアに流しってやっていけば、「もうそれでオッケーじゃん」っていう。

何かその自社サイトの存在しないメディアっていうのが、もはやアメリカでは普通ではないけれども、そういうのも出てきているっていう。だからその本質とは何かっていうのを捉えるっていうのは、すごい大事ですよね。

ライブと定額配信サービスしか生き残れない

松浦:そうですね。だって音楽業界もそうじゃないですか。音楽業界もある意味ネットのビジネスより先行してデジタル化され、個別配信になって、どんどんデジタルのほうに入っていったあとに、もう既にリアルに戻ってきてるじゃないですか、ライブビジネスのほうが今ビジネス上は好調になってきていますからね。

佐々木:そうですよね。

松浦:そういうのが今後出てくるんではないかと。本当に新聞のコンテンツの部分で似たようにやるんだったら、もしかしたらどこかの新聞が代々木体育館でガーッてしゃべるイベントやって、人が集まって「あれ、これ1回の売り上げで言うと、こっちの方がよくね?」みたいな。

佐々木:そうですよね。音楽は本当にそうだと思います。僕らが昔から聴いている音楽のスタイルって日常的にはラジオとかでダーッといろいろな曲をダラダラ聴いて、たまに「あ、これいいな」と思ったら、そのファンになって、それでライブに行くっていう。

だから別にCDである必要は何もない。iTunesである必要もない。別に買わなくたっていいじゃんっていうので今どうなってるかっていうと、ライブが一方にあって、一方にSpotifyみたいな、流しっ放し月1,000円の定額配信モデルが普及している。ラジオで聴いてライブに行くのと、あまり変わってないっていう。だから本質はそこだってことですよね。

松浦:そうですよね。ビジネスでいうんだったら飛行機もそうですね。ANAとJALっていう従来の航空会社もありつつ、LCCもあるじゃないですか。価格に見合ったサービスとして使うっていうようなところで一定の市場感が出る。

今だって音楽の部分で、ハイレゾがあるじゃないですか。良い音質で聞きたい人もいれば、別にSpotifyみたいな、ビットレートが低くても聞く人がいるっていうふうにあてはめれば、ネットのテキストだって同じことが起きるかもしれないとか。

その大枠のいろいろな業界の、その考える部分をフレーム化して使用するっていうのは、いろいろなコンテンツ、いろいろなインタビューをされている編集者はやりやすいと思います。

それをどんどんいろいろなところにあてはめるような形をするのが、何かテキストだけの編集者ではない、もっと大きな広い意味での編集っていうかエディター。

佐々木:そうですよね。みんなメディア業界で記事書いて、すごい入魂の、これはすごいいい記事だって、絶対みんなに読んで欲しいって雑誌に載せるんだけど、あまり読まれない。でも読んでいる方、自分が読者の側になって考えてみたら、そんなに気合い入れて雑誌記事読まないだろうっていう。

だいたいパラパラながら見になっていて、だったらパラパラながら見が本質であるっていうところに立ち返って考えると、記事はそうやって読まれるっていう目的に向かって、コンテンツを作るっていうふうに、やっぱり変わってくる。

だからそのフレームがどうなのかっていう本質を考え直して、メディア業界っていうかメディア自体を立て直すのは本当に大事だなという、非常にわかりやすい、いい話ですね。

制作協力:VoXT