創業からIPOまでの道のり

池谷大吾氏(以下、池谷):それではLaunch Pad同窓生の活躍ということで、今日はなんとIPOを決められた2社さんと「創業からIPOまでの道のり」について。

弊社はまだIPOとかの時期ではありませんけど、もちろん将来的に可能性はあると思っているので、今日は一緒にお話したいなと。最初はちょっと自己紹介から始めたいなと思うんですけども。じゃ、吉田さんお願いします。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):クラウドワークス、吉田と申します。「クラウドソーシング」という、インターネットを通して個人の方々に外注ができる、労働力を活用できるというサービスをやってます。

今、創業3年ほどでございまして、先ほど紹介にもありました通り、2014年12月12日に東証マザーズに上場させていただきました。ということで、今頑張っております。よろしくお願いします。

(会場拍手)

池谷:早速ですが、今日ちょっと紹介が硬めですね。大切な時期だから硬めなんですか? ギアが変わりましたね。

吉田:(笑)。(Launch Pad)Reunionの後なんで、宣伝臭を無くしてるっていうか。

池谷:なるほど。それでは丹下さん。よろしくお願いします。

スマホで香りを楽しむ「Scentee」

丹下大氏(以下、丹下):株式会社SHIFTの丹下と申します。よろしくお願いします。

SHIFTはソフトウェアの品質保証という仕事をやっておりまして、東京と札幌と福岡に今テストセンターがあります。対象は日銀さんのようなシステムからソーシャルゲームまで幅広くやらせていただいているんですけども、今は500人ぐらいのテストエンジニアで日々テストを手がけているといったような会社です。よろしくお願いします。

池谷:私、スマートエデュケーション代表の池谷です。よろしくお願いします。子供向けの知育アプリから、最近はリアルの幼稚園とか保育園向けの教育も始めたりとか、いわゆる「子供たちの生きる力を育てたい」というミッションの上に、そういったことを全般的にやっている会社です。よろしくお願いします。

丹下さんには2つの顔があると思うんですね。元々は1つでしたけど「Scentee」(センティ)やられたり、SHIFTをやられたりしてるわけですけども。どちらが本物なんですか?

丹下:両方本物です! ただIPOをさせていただいたのが(ソフトウェアの)品質保証というお硬い仕事なので、そちらが本業というふうに今は言いたい!

池谷:素晴らしいですよね。本業をちゃんとIPOされて、かつ、あれだけ夢のあるところにも投資されているという。スーパーマンですよね。

吉田:(Scenteeって)アレ、どれぐらい本気なんですか?

丹下:真面目に本気でコミットしてやってて。

吉田:(笑)。

池谷:普通、上場とかいったら諦めるじゃないですか。でも、ちゃんと個人の時間としては投資してるわけですよね。

丹下:そうですね。当然、上場後なんでIR上、昼間やってるとは言えないんですけど。

池谷:もちろんアレ、夜遅い時間に、(みんなが)寝た後にやるわけですよね?

丹下:寝静まった頃に、僕がいろいろ事業のこと考えたりとか、営業行ったりとか。

池谷:大変ですね。夜遅くまで長々と。

丹下:夜は大変なんですよ。そういう感じです。

なぜ上場を目指したのか

池谷:素晴らしいですね。今日は「創業からIPOまでの道のり」っていうことで、僕なりに幾つか質問考えてきたんですけれど。そもそも、上場っていろんな道程があると思うんですね。

なので、お2人にぜひうかがいたいのはなぜ上場を目指されたのか。上場を成し遂げられたのは素晴らしいことなんで、何故しようかと思われたのかをまずうかがいたいなと思うんですけど。吉田さん、いかがですか?

吉田:(丹下を指して)ちょっと先に上場された方から。

池谷:では、丹下さんから。

丹下:真面目な話になっちゃうんですけど、元々僕100%自分の株でコンサルティングファームをやってたところ、たまたま今のソフトウェアテストという仕事に出会いまして。

僕はものづくりの世界にいたので、ITの中に生産・技術管理っていうものを入れるとだいぶスケールするなっていう思いがちょっとあったんですよ。

その時に、ある人から「丹下、個人事業主やるんじゃねえ。100%の株式ってのはおかしい。会社は公器なんで、仲間を増やしていきながら、ちゃんと会社を公器に持ってかないといけない」と言われたのが4年ぐらい前ですかね。

そこから、うちで言うと三井物産さんとかNTTさんとかの事業会社、あとアメリカのファンドのDFJっていうところから資金調達を4億5,000万くらいしましたが、それによって本当に仲間が増えて。ある意味、お金も増えるし、仕事も増えるっていうんですかね。

特に「Made in Japan」の品質を海外に持ち込みたいという理念に共感してくれる仲間の方を揃えて、上場まで持っていければなと思ってギアチェンジして。つまり、上場したいな、公器になりたいなっていうのが僕の目的ですかね。

池谷:そのギアチェンジされた出会いっていうのは個人なんですか?

丹下:そうです。今、アドバイザーしてもらっている加藤隆哉さんって方がいて。グロービスのファンドをやられていて、(グロービス代表の)堀義人さんと加藤さんで2強だったと思うんですけども。

いろんな仕事があると思うんです、上場に向かない仕事とか。例えば個人商店的な仕事とかいろいろあるんですけど。僕らの仕事って品質保証なので、一つの会社でやる仕事じゃないと。

やっぱりいろんなお客様に仲間になってもらいながら、応援団を作らないとダメなんだって。たまたま出会った事業でIPOしないといけないかなっていうふうに僕を思わせたんですよね。

池谷:社長がアドバイスを受けて切り替えられる時って、一緒にやってきた仲間とそこでいざこざとかなかったんですか? 

丹下:それがありがたいことに無くってですね。昔は新しもの好きなんで、(会社の事業も)モバイルのGPSサービスやったりとか、ポルシェのレンタカーやったりとか、結構ブレブレだったんですよ。その時もやっぱり辞めずにいてくれて。

多分「仲間」っていうのがあると思うんですけど。とにかく、みんなで新しいもの作りたいっていう願いがあって、思いっきりギアチェンジした時もまったくみんな考えも変わらず。

池谷:お話をうかがっていると、丹下さん、ほとんどの社員とトライアスロンやられたりとか非常にバランスのとれた経営者ですよね。

人もちゃんとついてくるし。結構いろいろ聞いていると、ギアチェンジの時って(社内で)摩擦があったりとかする中で、うまく船から下ろす人を最小限にやっていくのってなかなか難しいことだろうなと思うんですよ。

会社は人生を楽しむための手段

丹下:そうですね。「会社は人生を楽しむための手段だ」と思ってて。僕も前の会社でサラリーマンやったことがあるんですけど、会社を利用しながら自分がいかに成長するかってことを言われました。

会社は手段ですよ。僕のSHIFTって会社も手段にして欲しいって常々社員に言っているんですね。夢があって、夢を達成するために自分がこの場所で何を学べるんだと。

例えばビジネスモデルとか、先ほどのトライアスロンも含めた精神的な部分、いかに人間を高めていくかっていうことを学ぶ場なんで。

SHIFTのSは「ドS」のSってよく言われるんですけど(笑)、上から順番にトライアスロンに12人出させて、「やれっ!」って言って。上場の半年ぐらい前からですかね。みんな上場の準備で忙しいんですけど日々走ったりとかやっていました。

池谷:とんでもない社長ですね! でも、ちゃんと身体のことだとか士気のことを考えてのことですよね。

丹下:パワハラをしないといけないなと思って。

吉田:今の話に近いんですけど、うちはNGワードがあって。「社長いかがですか」って言うのを禁止しているんですよ。

池谷:「社長いかがですか」を?

吉田:社長に答えを求めるんじゃなくって、ユーザーに答えを求めなさいということです。うちのミッションって“「働く」を通して人々に笑顔を”なんですけど。

ユーザーを見ている人と社長を見て仕事をしている人が一緒に混ざっちゃうと、多分共通言語が無くなると思っていて。全員ユーザーについて考えてつながってくださいということを言ってるんで。

池谷:「社長いかがですか」っていうのは、いろいろアイディアがあって、最後に「決済してください、いかがでしょうか!」。これはいいわけですよね?

吉田:ただ、ちょっと後でIRとか広報に確認しないと。この話が出せるかどうかわかんないんですけど。

池谷:この話なんですけど、自分から来ましたよ、今(笑)?

現場に権限を渡している

吉田:私、取締役会以外の定例会議ってないんですよ。だから、決済も基本かなり現場に「自分たちで決めて」って任せてます。だって思うんですけど、決済の最後のとこだけ社長が決めて、なんか条件変えられたら、100%自分で決めたって感じられないじゃないですか。

失敗を100%自分の失敗にできないじゃないですか。やっぱりきちっと現場で決めてもらったほうがいいかなと思ってて、かなり権限を渡しています。

どっちかというと、私が「(誰かを)採用したい」って言っても否決されたりとか、「こういう広報の広告出したい」とか言っても最近も否決されたりとか。基本社長に権限があまりない。IPO的に言うと「ガバナンスが効いている」っていう(笑)。

池谷:そういう言葉をいただいていくんで。吉田さんにもなぜ上場を目指したのかをうかがいたくて。(普通の起業した会社は)長い期間で失敗とか重ねられてるじゃないですか。

もちろん、上場は通過点だとは思っているんですけど、なぜクラウドワークスを、それも創業して3年半ぐらい……?

吉田:上場承認は3年足らずですね。

池谷:すごいですよね! なにか明確な目的があって上場を目指されたんだと思うんですけど、改めていかがですか? なぜ上場なんだと。さっきの丹下さんも「公器にしていくべきなんだ」とあるアドバイスがあって、途中で考えが変わられたと思うんですけど。創業される際から「もう絶対上場いくんだ!」って思いがあったんですか?

吉田:今回についてはそうですね。思えば、ドリコムの役員とか代表取締役の内藤裕紀さんと出会って上場を経験させていただいて。あの頃の自分っていうのは少し驕っていたと思うんです、やっぱり。

上場企業の役員として30歳ぐらいですかね。「自分はできるんだ」みたいな意志があって、その後ドリコムで何年かやった後に独立したんですけど、丹下さんと一緒で1回目の起業をしているわけです。

その時は100%自分の資金で同じようにやっていましたと。でも独立してみたら、実は何やっていいかわかんなくって。最近メディアでも取り上げていただいてますけど、当時は上海でワインビジネスやったりだとか、ベトナムでアパレルやったりとか、国内で男性用スカートとかやったり。

月々何百万の利益よりもお歳暮が嬉しかった

丹下:いろいろやってるじゃないですか(笑)!

吉田:(笑)。いろいろやってみたと。やっぱり企業って2種類の会社があると思っていて。1つは自分100%の資金で、自分の身近な仲間を幸せにするためにやる会社。

未上場で、自分たちの仲間内で利益をシェアしてやっていくというあり方の社長さんもたくさん見てきて。結果として、自分自身も3年ぐらいはそういう会社をやってみたわけですよね。

その中で3年経った時に、自分自身も「あれ、これなんで続けているんだろう?」っていうのを考えてしまったんです。日々はなんとかお金は入ってくると。

でも、いろんな事業をやってて、自分の強みも活かせてないし、世の中も変わってない。ただ何となく事業があるみたいな状況の中で、ある役員が取引先を持って出ていって、もう一人の役員もありていにいえば愛想を尽かして出ていった後、36歳の自分が年末ひとりになって「やべぇな」と。

「俺、36歳でひとりって再就職先とか無いよな」ぐらいの危機的状況の中、最近社名ももう言ってるんですけど、アクセルマークさんからお歳暮いただいたんです。

まだ社長の尾下順治さんに直接伝えてないから、本人知らないかもしれないけど、それがめちゃくちゃ嬉しくて。月々何百万の利益が上がることよりもお歳暮が嬉しかった自分がそこに本当にいたんですよね。

その時、自分の人生において一番プライオリティが高いことは、寂しいのがイヤだというか、人とつながって人から感謝をされたいんだということなんだと初めて受け入れられたんですね。

100%人のために役に立ちたかった

吉田:20代の時、例えば多くの経営者の本とか見ると「他人のために尽くしなさい」とか書いてありますよね。でも、それって実は自分の中で腹落ちしてなかったんだと私は思っていて。

自分なりに36歳まで3年やってみて、どの事業もお金は入るけどなんかそこそこみたいな状況下で役員が全員出ていく中、お歳暮が届いた時に初めて「あ、自分自身はなんで会社をやっているかというと、本当に100%人のために役に立ちたいからだ」って初めて曇りなく思えたんです。

そこから「じゃ、自分自身が何を大切にしているのか」っていろいろ仕切り直した結果、出資を受けてでもいろんな人たちの力を借りながら新しい仕組みを提供して、それによって人が喜んでくれたりとか役に立ったりするっていうことをやりたいっていうことに気付きました。

そこからのマインドセットでいくと、当然社会のインフラを作っていきたいということなので、(丹下さんから)公器ってさっきありましたけど、上場ってことも含めて社会に大きくチャレンジしていきたいっていう形になりましたね。

池谷:もちろん資金調達されるんでしょうけど。クラウドワークスさんは結構大きい資金調達をされているし、もちろんいこうと思えばまだ株式未公開の状態で国内市場から資金調達もいけなくはないじゃないですか。

ただ、その中で上場されたっていうのは、公器であるということを初めてご自身で達成しようと思った際、それを成し遂げるための一つの通過点、大きなマイルストーンであったということですよね。

吉田:あとはやっぱり社会的信用だと思ってまして。先ほどプレゼンでも紹介させていただいたように、トヨタさんとかNTTさんとかソニーさんとか、そういった企業グループと我々取引させていただいているので。

そういう意味でいくと、きっちり社会的信用を得るということは優先順位として高かったというのはありますね。