母との関係はうまくいっていなかった

田原総一朗氏(以下、田原):お母さんは、あの事件をどう見てるの?

松本麗華氏(以下、松本):母とは、そういう話ができなかったので。

田原:できないの?

松本:少しでも事件に関わった方は、あまりそういう話をしてくださらない。特に出てきている人は。中にいるときは話してくれても、出てきてからは「いまいましい記憶」というか。

田原:関係ないって言いたいわけね? 「私は関係ない」と。お母さんとあなたは、どこでうまく行かなくなったの?

松本:2012年くらいですかね? 私がずっと弟の面倒を見てたので、それを母が快く思っていなかった。

田原:何で? 面倒見てもらったほうがいいじゃん(笑)。

松本:そこは不思議な(笑)。

田原:弟さんの奪い合いをやったわけ?

松本:いや、奪い合いじゃないです。母に言ったのは「あなたが養育してください」と、もしくは「養育してください、と私に言ってください」と。

田原:そうしたら?

松本:そうしたら会話にならなかったです。

田原:お母さんは相当ノイローゼになってたのかな?

松本:何か疲れているんだと思いますね。

田原:疲れている? お母さんもお父さんに騙されたと思っているの?

松本:母じゃないので、わからないです。

みんな自分のことを守りたい

田原:オウムの高弟たちは「悪いのは麻原だ」と「俺たちは麻原の言う通りやったんだ」とみんな言ってるよね?

松本:はい、そうですね。

田原:それで肝心のお父さんは壊れちゃって、ワケがわかんないわけね?

松本:はい。

田原:きっとあなたから見ると、みんなが嘘ついてるように見えるんだろうね。

松本:嘘? 嘘とまでは言わないんですけども「自分のわかりやすいストーリー」、「自分を守るためのストーリー」になっているんだろうなって思いますね。

田原:あなたは自分を守ろうとしないの?

松本:私はもう自分のこと守りたくてたまんないです。

田原:本当はね、自分のこと守りたいなら、こんな番組に出たりしないほうが良いんだよね。

松本:(笑)。

田原:だって、こういう番組に出ればみんな悪口言うよね?

松本:そうですね。

田原:守りたいなら黙ってジッとしてるのが一番いいんだけど。何でそうしないで本を書いたりするわけ?

松本:それはもう、黙ってジッとしてたら「三女・アーチャリー」がひとり歩きしちゃうので統合を図りたかった。

田原:統合?

松本:「アーチャリー」、「アーチャリー・正大師」、「三女・アーチャリー」と、それぞれ違いがあるわけですけど、それを統合して本当の自分になりたかった。

田原:本当の自分って何よ?

松本:わからないんですけど、自分に湧きあがる欲求とかですね。そういうものを感じられるようになったらいいなって。

麻原彰晃と母の夫婦関係

田原:あなたはね、恋人を持とうとは思わないの?

松本:持とうと思わないこともないんですけど。

田原:なってくれる人がいない?

松本:そうとも言えるかもしれないですけど(笑)。

田原:やっぱり誰かを愛するのがいいと思うけどなぁ。

松本:そういうことを否定する気持ちはないんですけれども。そういう出会いがあれば、というのもありますが。でも「結婚」ってなると、かなりハードルが上がりますね。

田原:何で上がるの? やっぱり「麻原彰晃の三女・アーチャリー」というプライドがあるのか。

松本:そっちじゃないですね(笑)。両親の夫婦関係とか見てですかね。

田原:両親の夫婦関係を見てどうですか?

松本:「結婚って大変だな」って。

田原:お互いに恨み続けることがあったり?

松本:ののしったり。

田原:そういうときは、お母さんがお父さんをののしったわけ?

松本:まあ、そうですね。

田原:ののしられると、お父さんはどうしてんの?

松本:「困ったなぁ」って感じで。

田原:麻原彰晃が「困ったなぁ」って、おもしろいけどね(笑)。

松本:(笑)。

田原:お母さんがお父さんを、ぶったりしないの?

松本:します。

田原:ぶたれるとどうしてんの?

松本:「やられちゃったよ」って(笑)。

田原:そういうのを高弟たちは見てないの?

松本:けっこう見てますよ。

田原:見てどうしてんの?

松本:「今日も大変でしたね」みたいな。

麻原彰晃の側近は誰だったのか

田原:1番お父さんの身近にいた高弟は誰だろう? 石井(久子)さんとか?

松本:杉本(繁郎)さんも近かったですね。あと新実(智光)さん、遠藤(誠一)さん、中川(智正)さん。

田原:何で高弟の誰かが「地下鉄サリンとかやめましょうよ」と言えなかったんだろう?

松本:うーん……わかんないですね。

田原:僕はわかるような気がするの。山本七平って人がいるわけね。文章を書く人で「日本は空気の国だ」って言うわけ、「空気を乱すことがいちばん悪い」と。

だから大手の銀行が暴力団にお金を貸すことが起きる。ついには事件になって頭取が辞めるんだけど。暴力団の組にお金を貸すなんて悪いに決まってるんだから! 誰か役員が1人でも「やめましょうよ」って言えばいいのに誰も言えなかったのね。

松本:はい。

田原:それと同じことで、アメリカと日本が戦争をしたでしょ? そんなの負けるに決まってるんだよね。あんな国と戦争して勝てるわけがない。みんなわかってる。ところが「やめましょうよ」って言えなかった。

松本:そうですね。

田原:オウム真理教と大東亜戦争って似てると思うんだよね。バカバカしい事件ですよね、地下鉄サリン事件は。あんなのやらないほうがいいに決まっている。

日本もアメリカと戦争したら負けるに決まっている。でもね「負けるからやめましょう」と言えなかったの。もしも昭和天皇があのときに「戦争やめよう」と言ってもね、殺されるか閉じ込められるから、誰も戦争を止められなかった。

だから「戦争を止める人がいなかった」のと「オウムの事件を止められなかった」のが似てると思うの。

松本:似てますね。

みんな何となく知った気になって動いていた

田原:誰も止められないバカバカしい事件が起きてしまったのは、今考えて何だったと思う?

松本:確認をするということがあまりなかったんですね、「何となく知った気になって動く」っていう。

田原:みんなが?

松本:はい。

田原:みんなの動きと違う動きができないんだ。

松本:そういう感じありましたね。

田原:あなたがもう少し大きくて、反抗期で「やめようよ」と言えればよかったんだね、きっと。

松本:その場にいないかもしれないですけどね。

田原:もう家出してね。

松本:家出もそうですし。でもハタチくらいだったら、わかんないですよね。

田原:お母さんは、ああいう事件を知っていて「やめたほうがいいよ」って言えなかったのかな?

松本:わかんないですね。

田原:そういうことは、お母さんと話さないわけか?

松本:はい。

田原:そういうもんですかねぇ。

松本:はい。

兄妹に対する思い

七尾功氏(以下、七尾):ニコニコ動画の七尾と申します。よろしくお願いします。ユーザーから質問が来ていまして、お答えいただければと思います。

フジテレビのニュース特集で、四女がアレフの教祖になろうとする次男を説得するシーンがありました。そのとき次男は「教団は20年何もしていないのに何が危ないの?」と言っていましたが、次男についてどう思っていますか?

松本:次男についてはもう成人してますので、次男なりの幸せを見つけて欲しいなと思いますね。

田原:あなたの妹さんがね、いろんな雑誌に出て「本当にどうしようもない悪いことをした」と言ってるよね? あれはどう思う?

松本:……。

田原:「犠牲者に本当に悪いことをした」、「死んでも死にきれない」、「父親は本当に悪者だ」と言ってるのはどう思う?

松本:ちょっとコメントは差し控えさせていただきたいな、という感じですね。

田原:妹さんを傷つけたくない?

松本:妹が苦しんでいることは確かなので……。

田原:あなたはそれと少し違うわけね? ニュアンスが。

松本:はい。

田原:みんな世の中が親父の悪口を言ってると、ボロクソ言ってる、「悪の権化」だと。私くらいが「何とか愛してやんなきゃ」、「理解してあげなきゃ」と思ってんでしょ?

松本:はい。

田原:そこが妹さんと違うわけね。

松本:そうですね。

七尾:7年前に四女が東京拘置所での面会で、麻原死刑囚が口元を隠しながら「今日はけっこう寒いね」と発言したのを受けて詐病ではないかと思ったそうです。これについてどう思われますか?

松本:詐病については私は面会を28回していますけども、1度もコミュニケーションが取れませんでしたし、もう「言葉らしきもの」すら出ない状態だったので。たまたま妹のときにそういうことがあったというのは考えられないと思います。

七尾:たくさん子供がいる中で正大師に指名されたのは松本麗華さんだけですが、その理由は何ですか?

松本:正大師になったのは私だけなんですけども、宗教的な立場については妹のほうが上なんですね。長男や次男も上ですし。そういう意味においては私だけではないと言えます。

七尾:宗教に対する興味や今後、宗教家になる考えはありますか?

松本:将来の宗教活動については今のところ全く考えていない、ちょっと組織にウンザリかなっていう気持ちがあります。宗教についても今は全く興味がないです。

父を今でも愛している

七尾:今はどのように生計を立てていますか? また、放送を見ているみんなに望むことはありますか?

松本:生計はいろんな仕事をしながら何とかなっています。今回、本の執筆に集中していたので、ちょっと経済的に厳しい状況ではあります。みなさんに望むことは、「人間として見てもらえたら嬉しいな」って思いますね。

田原:妹さんは「死刑執行を早くやるべきだ」と、あなたは「せめて私が理解してあげたいと思う」と。

松本:はい。

田原:あなたのほうが、とても危険なことを言っているわけね。妹さんが「死刑執行を早くやるべきだ」というのは世の中に理解されやすいと思う。でも、「せめて私が理解してあげたいと思う」っていうのは、ある意味とっても、とっても危険なことね。わかるでしょ?

松本:はい。

田原:何でそんな危険なこと言うの? あなたの言ってることが「ものすごい危険だ」っていうのは、(コメント閲覧モニターを指して)これにね。

松本:いっぱい出てますね。

田原:自分自身を確認したいと言いながら、何でそんな危険なことをあえて言うんですか?

松本:父を愛してる人が、「愛してる」と言葉に出す人が世界中にいないので。

田原:でも、かつては愛してなかったんでしょ?

松本:私ですか? 愛してました。

田原:ずっと?

松本:複雑な思いも持っていますね、普通に「何だこいつ」とも思ったり(笑)。

田原:そうでしょ? 僕はね、地下鉄サリン事件とかやる父親ね、絶対愛してないと思う。むしろどっちかというと、お父さんが壊れてから愛してんじゃないかな?

松本:壊れてからの愛し方と壊れる前の愛し方は全く違って。

田原:どう違う?

松本:壊れる前っていうのは「包みこんで欲しい」っていうか「庇護して欲しい」っていう。

田原:でも包みこんではくれないでしょ?

松本:そうですけどね。で、壊れていたのを見たときには「介護してあげなきゃ」というか「守ってあげなきゃ」っていう、赤ちゃんみたいな感覚ですね。

四女は父の死刑を望んでいる

七尾:四女は「父は死刑を執行されるべきだと思う」と言い切りましたが、これについてはどうですか?

松本:みなさんにお聞きしたいんですけども「娘が父親の死刑を求める」というのは、どのようにお考えになりますか?

(アンケート結果表示)

松本:あぁー。

七尾:娘が父の死刑を望むことは、当然が63.1%、父の死刑を望むことが間違っているは36.9%。

田原:あなたの妹さんの言うことはみんな理解するわけだ。あなたの言うことは理解しないと。あなたは、そういう危険なことを言ってると。

七尾:これ、ユーザーからこんなひどい質問はないと……。

松本:申し訳ございません。

七尾:いや、でもこれはいいと思います。お聞きしたかったことですから。だって今回三女と四女の意見、真っぷたつに違ったわけですからね。ほぼ同じ時期に。

田原:これからあなた、どうするつもり?

松本:どうやって生きていこうかなっていう。

田原:どうやって生きていく?

松本:まっしろですね、もう。

田原:次の本を書きますか? 講談社のこの本(『止まった時計』)の次をまた。時計を今度は動かしてみせるとか。

止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記

松本:ぐるぐるって(笑)。そうですね、ずっと休みなく10ヶ月くらい生きてますので、1回休んで考えてみようかなと。どういう道があるかわからないので。

田原:はい、じゃあ、どうもありがとうございました。

居場所を探す旅をしていた

七尾:すみません、アンケートがひどすぎるっていう、「運営最低だ」っていう話があるんで、もうちょっと言い方を変えて再度質問を…。

田原:変えなくていいんだよ! ひどすぎるアンケートしたかったんでしょ?

七尾:いやいや、そうじゃないです。

田原:今更弁解するんじゃないよ。

七尾:いやいやいや、弁解するんじゃなくてですね……。じゃあ、別の質問させてください。三女の言うこと、あるいは四女の言うことに対して、どちらに自分は……。

田原:だから、四女の言うこと(父は死刑を執行されるべきだと思う)が大きいって言ってるじゃん。

七尾:それちょっとアンケートいいですか? コメントで寄せていただいて結構です。

七尾:(コメントを読みながら)「ひどくない」。松本さん、どうですか? 今いろいろコメント……。

松本:なんかいろいろ、(コメントが流れるのが)早くてついていけないんですけど……。(コメントを読みながら)「どちらも信用できない」。これってすごい速さで(文字を)打ち込んでるんですかね?

田原:そうでしょうね。

七尾:そうなんですよ。見ている方、四女がどう言っているかわからないっていう……。

松本:(コメントを読みながら)「四女まとも」とかっていう話が出てますね。

田原:今、どれぐらい見てる?

七尾:今ですね、17000人以上見ています。

田原:じゃあだいたい2万近くね。

七尾:ただやっぱりユーザーの中には、松本さんが本音を言っていないんじゃないかっていう。

松本:何の本音を?

田原:本音言ってんだよ! くだらないこと言うな!! 終わり!! 頭にきたよこれ。もう、終わる終わる。(席から立ち上がる)こんなくだらないこと聞いてるから頭にきたよ。

七尾:あ、そうですか……。

田原:うん。だって、さっきの質問はわざわざひどい質問をしたんだよ。あんたのほうが。

七尾:いや、そうじゃないです。

田原:弁解するなんてくだらない。

七尾:そうじゃないです。

田原:くだらない!

七尾:これは、松本さんが聞きたいことだったってことで上が作ったんですよ。それは誤解です。

田原:四女の質問と、三女どちらっていうのはあなたが聞いてるんでしょ。

七尾:ああ、それは質問しなかったですね。結局。失礼しました。

田原:はい。(その場を立ち去る)

田原:(松本の近くに戻り、握手をする)頑張ってね!

松本:はい。

七尾:松本さん、ごめんなさい。最後にですね、やっぱりニコニコ動画なので、ちょっと一言ユーザーの皆様にいただきたいと思うんですね。よくない終わり方はメリットないと思うので。わたし、『止まった時計』を読ませていただきまして、ある意味居場所を探す旅の本じゃないかって僕は思いました。

事実関係はいろいろあると思うんですけど、ちょっとそこで本の宣伝じゃないかっていろいろ言われ続けてるんですけど、ここに対してはユーザーに対してメッセージいただければと思います。

松本:この本の趣旨ですか? 居場所という視点で? 振り返れば、オウムにいたときから居場所がなくって、父がいろいろ頼んでくれたのが居場所になっていたんですが、逮捕後なくなってしまって。学校に行きたいと思っても行けないまま。ずっと居場所を探すための旅だったかなぁ。という気がします。

七尾:わかりました。本日はありがとうございました。

松本:ありがとうございました。

止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記