女性が女性に対して持つ偏見は存在するのか?

ブライアン・ウェル氏(以下、ブライアン):さて、質問があれば手をあげてください。

質問者:女性に対するバイアスの話ですが、女性が女性に対して持つバイアスに関するデータはあるのですか?

ブライアン:いい質問ですね。最初に話した研究は大学の教授たちがレジュメを見ていました。あの研究に関わって、レジュメを読んでいた女教授の方々は、他の男性の教授たちと同じレベルのバイアスを持っていたことがわかっています。

Implicit Association Testを受けた被験者たちも、女性は男性と同じレベルのバイアスを持っていました。皆偏りがちで、Googleでは「男性が悪い」とかそういうことを言わずに、みんなが悪いからみんなで変わろうと言っています。男女だけではないです。州立と私立の学校の違い、年齢、出身、訛りなど、既成概念全てに対してバイアスが生まれてしまうかもしれません。

質問者:ソーシャルネットワーキングのデータを見たとき、広いネットワークに対して小さくて濃密で細かいネットワークの利点と、Google内でそのデータを使って何を推進したいかをおうかがいしたいです。

ブライアン:それはとても複雑な質問で、ちゃんとした答えが出せるかわかりません。データが広くて大きいと、たくさんの職種から多くの視点を得られることがメリットです。総合的な人を採用したいのであれば、このような広いデータはとても有効的です。

Googleでも、色々な分野から要素をとってアイディアを生み出す人たちはとても重要な役割を持っていますし、例えば世界一のメールプラットフォームを作れるような人ばかりを雇っていたら、gmailから物事を発展させることは不可能だったと思います。

ですので、広いネットワークや知識に対するメリットはたくさんあります。しかし、中にはとても専門的な知識が必要とされる時もあるので、濃縮されたネットワークの重要性もあります。何を目標としているかによってどちらが大事かは変わると思います。

例えば、Googleでは糖尿病患者のための、ブドウ糖の値を読み取れるコンタクトレンズを開発しています。付属のメガネで充電できるんです、すごい技術です。そのプロダクトを開発するために、技術をとても小さくできる人たち、科学者、生物学者など、専門性の高い人たちが必要でした。それはひとつの例であって、既存のプロダクトを発展させていきたい会社は、応用力の高い人材がとても重要であり、広いネットワークが必要なのかな思います。

その職にふさわしい人物像をどれほど具体的に提示するか

質問者:「成功の構造」の話ですが、事前に適応者の要素を提示することが大事だとおっしゃっていましたが、その要素をどれくらいの具体性で示す必要がありますか? それとも、その行動に対して意味があるのですか?

ブライアン:もちろん具体的であるほうが効果的だと思います。しかし、具体的にしすぎる可能性もあります。一番いいのは、既にその職に就いている人たちのリサーチを行って、彼らのどの特徴にメリットがあるのかを調べることだと思います。

我々もそういうことは内部で徹底して調べて、他の人たちが持っていたような素質を職務内容に反映するようにしています。職務内容が曖昧であなたが選別するより、志願者が自ずと選別することは別に悪いことではないと思いますので、損にはならないと思います。

何かもうひとつあったんだけど忘れちゃいました(笑)。とりあえず、詳細に要素を見出すことです。またインタビューで聞く質問だけでなく、その回答を理解する方法も大切です。リサーチベースの質問を作るとき、その質問に対する理想的な回答、そこそこの回答、悪い回答も事前に考えておきます。そうすることによって、回答者全員を同じ基準で見ることができます。構造はほぼ無限に作り上げられます。

女性は男性より求人応募に躊躇しやすい

質問者:従業員調査に関する質問ですが、その調査はアドバイスを誰にするかという質問だけでしたか? 他にどういう質問がありましたか?

ブライアン:うちの従業員調査はGoogle Geistというもので、毎年のイベントみたいなものです。マネージャーを管理者の素質をベースに評価するし、社内の風習、楽しさ、キャリア発達の満足度、同僚の評価など、本当に色々なことを聞いています。アドバイスの質問はその中の1つでした。

質問者:そのような質問はどうやれば平凡な質問ではなく、魅力的に提示できますか?

ブライアン:中にはつまらない質問もありますよ、もちろん。一番大切なのは、調査の結果を行動に出すことです。会社全体と共有して、透明化して、部署や責任者別に分けることもできて、最終的には社内で結果を発表します。

質問がつまらないかは関係なくて、その質問によって仕事や会社が良くなるかという意識が大事だと思います。管理者がその結果をもとに動くと、調査に対する好感度がとても良くなり、調査の解答率は90%になります。大体の調査って30~50%にとどまりますよね。理由は簡単で、結果から行動するという事を理解してくれているから、この解答率が生まれるのだと思います。

質問者:職務内容を様々な人々へ提示するための工夫はありますか? 女性はどちらかというと「これはできるけどこれは無理」と言う反面、男性は「できるでしょ」と楽観的になる、という自分自身のバイアスがあるのですが、職務内容に偏りを持たせないためにはどうすればいいのでしょう?

ブライアン:求人に応募するための自信は職務内容で変わるようなことではないと思います。女性は男性より、応募に対して躊躇しやすいという研究結果もあります。大事なのは職務内容に本当に必要なことだけを書くことだと思います。

逆に明らかに適応じゃない人が応募してきても、簡単に判断ができるのかとも思います。職務内容に必要じゃないことは書かないほうがいいです。そこで残ったもの適応者を探したり、構造化面接に進めばいいと思います。男女平等を徹底したいところですが、それが難しいのであれば明らかに該当しない人をフィルタしてから先に進むことが大事だと思います。

男性に比べて、女性は自己推薦をしない

質問者:昇格サイクルの時にアラン・ユースタス(Google上級副社長)が女性向けに送ったメールについて話してくれますか?

ブライアン:そうだね。人事判断をする時にバイアスを見出すために、男女の昇格比率、業務評価などをいろいろ見ます。大体は問題ないのですが、2010年には下級エンジニアの昇格比率が低いことが判明しました。最初の昇格なのでとても大切なものです。

加えて、女性のエンジニアのほうが少しながら男性より昇格比率が低いことも判明しました。「これはおかしい!」となり、昇格の条件を調べてみると、推薦され、受理されることが条件です。推薦には2種類あって、上司が推薦するか、自己推薦です。

自己推薦だと自動的に検討枠にはいるのです。女性のほうが自己推薦せずとどまる確率が高かったのです。同じ業績の男女がいるとして、女性は自己推薦せずそのポジションに留まってしまう現象が起きていました。

人事部では「どうしよう!」となり、のちには法務部が「公開しちゃだめだ!」と言い始め、このように錯乱している間、ナレッジ担当上級副社長のアランがいきなり全エンジニアに対して、「男女の昇格比率がおかしいから、条件を満たしていて昇格したい人は推薦してみなさい。却下されても損はしない」というメールを送りました。そのひとつのメールで、その来期の昇格サイクルは問題なく進み、それ以降は毎回そういうメールを送っています。

質問者:正直いうと『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』は読んでいないのですが、その本に書かれている解決法は有効なのかをおうかがいしたいです。

ブライアン:『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』はとてもお勧めします。シェリル・サンドバーグはその本で、個人的なエピソードをリサーチで根拠付けています。彼女も我々が使ってる研究の多くを参考文献として取り上げています。

彼女が提示する解決法は現段階では知られていると思います。彼女は女性が積極性を持つ方法と結果がどのようなものかという話をしていて、女性に対する話がメインかと思いますが、我々は組織として問題の解決策を探ろうとしています。

女性に変化を求めるのではなく、組織を引っ張る人たちに任せよう、ということです。バイアスを無くすために人事部などが動いているのもその結果です。『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』自体はすごい良い本で、ひとりの女性として組織を変化させることは難しいが、何ができるのか、ということを問いただしています。我々と彼女の違いはそこにありますね。

「女性は数学が苦手」という固定観念が、テストの点数を下げる!?

質問者:Googleは、このように学んでいることを他の会社や組織と共有することをひとつの目標としていますか? それとも、とりあえず社内に留まらせるのでしょうか?

ブライアン:社員には世界一の会社だと思って欲しいから、Googleを直すことは最優先です。会社として変化して、考え方が変わっていることがデータとして証明されてから、外部向けに発信していきたいと思っています。根拠なく「こうしたほうがいいですよ」というのは迷惑だし、我々は責任を持って行動したいと思っています。

質問者:長身でかっこいいリーダーであることが好都合のバイアスだとして、それ以外の人たちはハンデを乗り越えて、その人と同じ給料を得るために、もっと効率的に頑張らなければいけないということですか?

ブライアン:アジア系アメリカ人の男性が書いた記事が一時、社内で話題になりました。若い時に両親からテクノロジーへ後押しがあって、パソコンを与えられ、なぜか周りの人から自分が優秀なプログラマーだと思われて、大学院で同じクラスだった女性達に人気だった、という話でした。

彼をハーバードビジネススクールみたいな経営者向けの学校に入れたとしたら、彼に対する固定概念はあまり意味はなかったかもしれないですね。自分がどういう立場にいるかを把握し、その環境で好都合の固定概念が何かを考え、どういう人と行動すべきかを考えるのが大事なのかもしれません。

固定概念への恐怖に関する研究があります。固定概念への恐怖というのは、固定概念で自分を判断されることに対する不安で、テストなどの評価が落ちてしまう現象です。数学のテストを用意して「男女に対するバイアスがある」という話をすると、女性たちの成績はあまりよくないですが、「男女のバイアスはない」という話をするだけで、男女間で結果が同じようなものになるのです。

スタンフォード大学のClaude Steeleという研究者が行った実験です。もうひとつ実験をやっていて、身体測定としてゴルフをさせると、アフリカ系アメリカ人のほうが白人よりスコアが良くなり、戦略測定としてゴルフをさせると白人が勝つのです。このような固定概念の現れ方はとても興味深いと思います。

本日はこの辺で終わりとさせていただきます。ありがとうございました。