海外で急伸する、ビットコインの特徴

関口和一氏(以下、関口):皆さんこんにちは。ご紹介いただきました日経新聞論説員の関口でございます。ビットコインはちょうど1年前にマウントゴックスの破綻がありまして、日本ではメディアの話題からも失せてしまい、あまり耳にすることがなくなってしまいました。

しかし実はこの1年間に、海外ではどんどんとビットコインが使われるという事態になっているわけであります。会場にいらっしゃる皆さんの中でちょっとでも、試しでもいいですからビットコインを触ってみたという方、どのくらいいらっしゃいますか? 触ったという方、結構挙がりましたね。20人ぐらい挙がりました。ありがとうございます。

いくつかチャートをお見せしたいと思います。ビットコインについてはマウントゴックスが破綻したおかげで、価値が急激に下がるということを経験いたしました。ピークのときには大体ドル換算でいって1200ドルぐらいの価値までいったものが、現在では230ドルとか240ドルとか、そのくらいまで下がっていおります。

これをもってして、ビットコインはまやかしではないか? ということが言われたわけであります。その一方でどこで使われているかと見ますと、これはちょっと信頼性に欠けるかもしれませんが、中国ですね。中国換算のビットコインが非常に使われているということで、依然としてこの技術はいろんな形で使われているというわけです。

先ほど総合司会のショーンさんからもご説明がありましたように、ビットコインには特徴がいくつかあります。送金コストが非常に低いとか、あるいはそこに参加する人たちが、いわゆるブロックチェーンという技術を使ってその信用を担保しているというP2P型の技術であると。ですから当局がそこに介さないという特徴があるかと思います。

それからよく言われることですけれども、「ビットコインはマネーロンダリングに使われるんじゃないか?」とか、「危ないものを売るときに使われるんじゃないか?」とか、確かにそういう側面もあります。それから投機的な側面もありますし、いろんな形でこれまでの通貨とは、おおよそ違う特徴をそこに持ち合わせているわけであります。

しかしこの仮想通貨を使うことによって、例えば途上国から先進国に働きに来た人たちが、高い送金手数料を払わずに母国にお金を送ったりということもできますし、あるいはマイクロペイメントと呼ばれるような、例えば記事を1つずつ買ったものに対して非常に低額のお金でそれを決済するとか、いろんな形がそこに残されているわけです。

実際アメリカでは最近、パソコンで有名なDellとか、あるいは衛星でコンテンツを配信しているディッシュ・ネットワーク、それから決済をやっておりますPayPalとか、こういったところもビットコインに参入するということで、大きな盛り上がりを見せています。

登壇者の紹介

関口:そして今日のパネルディスカッションのテーマですけれども、それでは日本はどうするんだということで、そのテーマにぴったりの3人のパネリストの方にお集まりをいただきました。

ちょっと前置きが長くなりましたが、皆さん向かって左手から早稲田大学の野口先生です。野口先生は経済学者として皆さんよくご存じかと思いますが、最近では仮想通貨革命という本を昨年上梓されますと、ビットコインに対してはかなり早い段階から研究されているということで、その可能性と課題についてお話を伺えればと思います。

続きましてジョン・マクドネルさんでいらっしゃいます。ジョン・マクドネルさんはBitnetという、アメリカのビットコインによる決済をお手伝いするプラットフォームの会社を、昨年1月―ですからまだできて1年ちょっとの会社を―つくられた方であります。

実はご本人はVISAですとか、アメリカの決済事業にはかなり前から参画しておりまして、この分野で20年以上のご経験を積んでいらっしゃる。そういった経験の中から今回たどり着いたのがビットコインだったということで、レガシーのシステムと新しいシステムの違い、この辺についてお話を伺えればと思います。

それから斎藤さんです。斎藤さんは西村あさひ法律事務所の弁護士さんでいらっしゃいますけれども、昨年日本でも成立されました日本価値記録事業者協会、すなわちビットコインの関連ベンチャー企業等が集まっている新しい業界組織、そちらの顧問をされていらっしゃるということです。

日本における法制度や今後の流れについて、お話が伺えるのではないかと思います。それでは早速ですけれども、最初に野口さんから5分ぐらいでビットコインの可能性と将来性、この辺についてのお話を伺いたいと思います。ではもう一度大きな拍手でお迎えしたいと思います。

新しい通貨ビットコインのさまざまな用途

野口悠紀雄氏(以下、野口):私はビットコインというのは、大変大きな技術変化であると思ってます。そして日本がこの新しい技術を使いこなせるかどうかということは、日本経済の将来にとって大変重要な意味を持っているというふうに思います。

なぜこの技術、ビットコインが新しいのかと言いますと、それは運営の方法にあるわけですね。つまり従来の通貨―銀行の預金も含めてですけれども―それらは管理主体がいて、それを運営していたわけです。ところがビットコインには管理主体がないんですね。

そのようなシステムが動くというのは、コンピュータサイエンス上の非常に大きなブレークスルーであったわけで、この点が大変重要な点です。これはブロックチェーンテクノロジーという全く新しい技術です。

あまりに新しいために、なかなか理解されていない面があるわけですけれども、このような新しい技術的側面を持った通貨が登場したということは大変重要です。そしてこの通貨が、ビットコインがどういった用途に使えるか? ということなんですけれども、これはいくつかの可能性が考えられます。

まず第1はマイクロペイメント、つまり非常に少額の送金ですね。特にWebでの取引に関して、この通貨が使えるということは非常に重要な意味を持っています。従来の方法ですと非常に少額の送金、例えば100円とかそういう額の送金をしようと思っても、手数料が高くなってしまってできなかったんですね。

ということは利益率が非常に低い取引というのはWebの取引ができない。そういう状態であったわけですが、ビットコインは使う人にとって手数料がほぼゼロと考えていいので、この問題を解決できるわけですね。これによってWeb上の取引が拡大するということが考えられます。

もちろんビットコインはWeb上の取引だけではなくて現実の店舗での取引にもつかえるわけですけれども、Webの取引に対する影響は非常に大きいと思われます。

それからもう1つは国際間の送金です。現在の国際間の送金というのは銀行が行っているわけですが、かなり高い手数料がかかる。ビットコイン、あるいはほかの仮想通貨であれば、その手数料がなくなります。しかも通貨の差というのがなくなるわけですね。

実際上のコストがなくなると。そういう意味で潜在的には、国際間の送金に関して非常に大きなポテンシャルを持っているというふうに考えることができます。

このことは逆に言えば従来の金融機関、特に銀行にとっては現在の業務における非常に重要な部分である送金の業務というのを、ビットコインや、仮想通貨に奪われてしまうということを意味するわけで、そういう面では非常に大きな社会的変化をもたらしていくということになると思います。

ビットコイン導入における日本の課題

野口:ただ現在の状態でビットコインが完全なものかと言いますとそうではなくて、いろいろな問題があるということは否定できません。特にビットコインの送金には秘密鍵というものを使うわけですけれども、これを個人がコンピュータの中で管理するというのはなかなか大変なことなんですね。

したがって普通の個人がビットコインを気楽に使うというような状態には、まだなっていないと思います。あるいはビットコインの価格変動が非常に激しいということも指摘されているわけですね。したがってビットコインを投機のために持とうとすると、非常に大きな損害を被る可能性もある。こういう問題があることは事実です。

ただこれは解決の方法が考えられなくはないわけで、これからそういったようなサービスが出てくることによって、ビットコインが日本の社会でももっと広く使われるようになるということを私は期待したいと思います。

それで日本の社会でビットコインというのは、まだ受け入れられていない。これは特に去年のマウントゴックスの破綻ということが―私は大部分が誤解だと思いますが―かなりネガティブに報道されたということが影響していることは間違いありません。

しかしマウントゴックスというのはビットコインの仕組みそのものではなくて、その外側にある交換の仕組みなんですね。ですからマウントゴックスの破綻にもかかわらず、ビットコインそのものが順調に成長しているというのは間違いないところであるわけです。

まずビットコインの使用にあたって日本で必要なことは、そういった信頼性の回復ということが大変重要な課題ではないかと思うんです。

仮に楽天のように多くの人から信頼され利用されているサイトがビットコイン、あるいはほかの仮想通貨を導入するというようなことがあるとしますと、それは日本においてビットコインに対する信頼を回復させる大変大きなきっかけになるのではないかというふうに、私は思うわけです。

そういうことから今日のシンポジウムが開かれたということは、私は大変大きな意味を持っているというふうに考えます。以上です。

関口:はい、野口先生ありがとうございました。

Bitnet立ち上げの経緯

関口:それでは続きましてジョン・マクドネルさんのほうから、実際Bitnetに対しては楽天が昨年の秋に出資をするということで、そこからも楽天が前向きに取り組んでいこうという姿勢が伺えると思うんですけれども、実際はどんな仕事をやっていらっしゃるのか? そして今のビットコインの現状はいかがなんでしょうか?

ジョン・マクドネル氏(以下、ジョン):ありがとうございます。John McDonnellと申します。Bitnet・CEOの共同創設者です。Bitnetは加盟店に対して支払いとしてビットコインが受け入れられるようにします。そして、財・サービスを提供することができます。

Bitnetチームは主に、VISAから参りました。私たちはサイバーソースを管理しております。サイバーソースは1995年に立ち上がっているのですが、これもやはり加盟店がインターネットでのクレジットカードを受け入れられるようにしようとすることで、eコマースの台頭期につくりあげられたものです。

クレジットカードは必ずしもインターネット用につくられてはおりませんでした。そこでサイバーソースとVISA―VISAは2010年にサイバーソースを買収しますが―加盟店が複雑なリスク、あるいはコストをオンラインでカードを使うことによって生まれるものを、管理できるようにし、成功したのです。

今やサイバーソースはVISAの一部となりました。スティーブン・マクナマラが―うちのCEOでこちらにも参っておりますが、共同創設者の1人です―2人で決めたのはビットコインのメリット―今先生が説明してくださったとおりなんですが―これが非常に魅力的であると。

私たちがVISAを離れて新しい会社をつくる、Bitnetをつくる正当化ができるだろうと考えたのでした。そこでデジタル通貨を受け入れられる。ビットコインのようなものを受け入れられるプラットフォームをつくろうとしたのです。

ビットコインは最初の決済システムとして、まさにインターネットのために設計されたものです。歴史的なファイナンシャルテクノロジーの世界ではブレークスルーであったと思います。この後もさらにその議論があるでしょう。

マスコミが注目するビットコインの影響力

ジョン:さて、このビットコインの中核にあるのはプロトコル、そしてソフトウエアです。プロトコルはオープンソースで、誰でもダウンロードしたければすることができますし、実のところ、まさに公開のインターネットをセキュアな決済ネットワークに転換したと言えます。

ローコストで、世界中で使えるシームレスな決済ネットワークで、インターネットにアクセスさえできれば世界中の誰でも使うことができ、世界中の誰とでも価値を交換できるのです。こういった意味において、とてつもないブレークスルーであったと思います。過去2、3年間、主要なマスコミがこのメリット、あるいはその影響力について注目してきたとおりです。

ビットコインのプロトコルはインターネットと共に決済ネットワークをつくりあげました。このネットワークは独立したノードからつくられています。ノードの1つ1つが全く同じ元帳のコピーを維持し管理します。

Bitnetの共同創設者であるスティーブンがよく言います、「ビットコインなんてあるもんか」っと。ちょっとびっくりすると思うんですけれども、コインそのもののことではないんです。すなわち、価値を交換する能力のことを指しているんです。つまりクレジットと元帳とをつなぐということです。

ということで、これがノードの中でコンセンサスシステムによってコピーされます。そしてそのセキュリティーは非常に強力な暗号で守られており、不正もできないので加盟店が守られるのです。

Bitnetという私たちの会社において、ビットコインがわくわくするのはこれを決済システムとして利用できることで、加盟店は世界中どこにいても、世界中のどこにいる人たちからの支払いも、あっという間に不正なく受け付けることができるということです。

オンラインの加盟店にとっても大変朗報です。一定のルールとして―カードであればVISA、MasterCardなどのカードがありますけれども―例えばクレジットカードの不正使用がでインターネット上であった場合には加盟店のせいにしてしまいます。

それに加えて追加のチャージ、カードノットプレゼントというチャージがあって、オンラインのカード取引に関してはコストがかかってしまいます。これが実際の物理的な購入と異なるところです。ビットコインの決算システムは、そうしたコストをなくしてくれるので、だからこそわくわくするし、それに詐欺、不正使用もなくなるのです。

ビットコインの取引が確認され、元帳内のブロックチェーンの中でそれが行われると、これに反論することはできません。その元帳のコピーが何千もできるので、AからBという加盟店に価値が送られたということの証明になるのです。

さらに3つ目としてマスコミが注目するのはビットコインが通貨であるということです。通貨としてのビットコインは単位です。これをビットコインネットワークのみで用います。初期の頃は大変上下変動が激しかったのは確かです。

ビットコインを通貨として考える見方の1つとしては、市場がその価値を評価していると。ビットコインというプロトコル、ビットコインというネットワークを評価していると考えるべきです。

まさに史上初めてソフトウエアの有用性が評価されているのです。そういう意味においてビットコインはその設計上、ノードに対して記録されて、これがきちんとした仕事をやっていることに対するリワードである、ご褒美であると、きちんと取引ができている。元帳が維持されているということでのご褒美であるとも言えるのです。

2100万のビットコインしか許されていませんけれども、今流通しているのは1400万ビットコインです。ということでネットワークがビットコインの有用性を評価しているのがこの通貨。そしてこれがビットコインを価値として、決済手段として消費者が採用することにつながっているのです。

ビットコインは市場で使えるようになるのか

ジョン:Bitnetとしてはビットコインを加盟店が受け入れられるようにしているということです。

「ビットコインは何に使うの? 使う場所がないじゃないの」と言われることがあるんですが、Bitnetでは世界中の加盟店に対して、具体的には例えば楽天のような、あるいは航空会社、旅行代理店やホテル、大手の小売業者が、どこでも消費者やほかの国、ほかの地域から安全に決済をビットコインで受け取れるようにしたいと思っているのです。

具体的に言えば、これは私たちのセールストークになってしまうのですが、Bitnetは市場において加盟店がビットコインをリスクなしに受け入れることを保証します。

支払いの保証ができるのです。Bitnetが保証します。例えば1000円ですという、その場合Bitnetはその1000円の支払いを保証します。ビットコインの価格には関係ありません。

これによってチャージバックや詐欺、不正使用が減ります。加盟店側に支払いたいという場合に、そうしたことがなくなります。また保証することによってボラティリティも最小化することができるでしょう。以上、まとめとしてお話いたしました。

関口:McDonnellさん、ありがとうございました。

日本におけるビットコインの規制状況

関口:それではまた、パネルディスカッションで詳しくお聞きしたいと思います。それでは斎藤さんのほうから、ビットコインを取り巻くリーガルな側面をお話をいただければと思います。

斎藤創氏(以下、斎藤):はい、斎藤でございます。私のほうからは日本におけるビットコイン規制の状況と、あと私が所属しておりますJADA、日本価値記録事業者協会で何をしているかということを話させていただきます。

昨年の2月にマウントゴックスが倒産しましてその後政府が、ビットコインを規制する必要があるのか? ビットコインというものはどういうものなのか? 倒産したということで規制をすべきか、それともそういう必要はないのか? ということを議論しました。

自民党のIT特命委員会というところで金融庁ですとか財務省、警察庁、消費者庁、経産省とかを集めまして、規制をする必要があるかどうかということを議論しまして、6月に自民党がガイドラインを出しました。中間報告と言っているんですけれども、一応ファイナルというものです。

そこではビットコインについて特段の規制は必要ないと。ポテンシャルを考えて規制の必要はないだろうということです。ビットコインというのは通貨でもない、物でもない、新しいカテゴリーだということを言っています。新ビジネスの拡大を期待すると。

日本はどうしてもシリコンバレーですとか、そういうところに比べて新しいビジネスの動きが遅いと。あまり起業とか、そういうものがないんじゃないかと。

それに対して中本さん(中本哲史氏)が―日本人かどうかというのは議論がありますけれども―日本人の名前を持った人が発明をして、日本に大きな取引所があってということで、日本がビットコインの中では大きな地位を占められるんじゃないかと。

そういうベンチャー的なビジネスというのもいいんじゃないかということで新しいビジネスを期待すると。

日本価値記録事業者協会(JADA)の活動内容

斎藤:ただビットコインは完全に自由というわけではなくてマネーロンダリングですとか、そういう問題も懸念はされるので、そこの懸念を解決するためには政府が何か規制をつくるというよりも業界団体をつくって、業界団体で自分たちで業界を健全にするためにはどうすればいいんだということの議論をしてほしいと、そういうことをガイドラインでは言っています。

それでできたものが日本価値記録事業者協会というものでして、現在事業者が5社入っております。ほか賛助会員が1社入っておりまして、ビットコインの事業の募集をずっとしております。それが去年の9月にできまして、JADAでもガイドラインをつくっております。

JADAのガイドラインではどういうことを規定しているかと言いますと、本人確認ですとかマネロン対策というものをきちんとしてくださいと。細かく「こうこうこういうことをやってください」ということを書いております。

セキュリティー、例えば「コールドウォレットをつくれ」とか、ウォレットに対する署名というのがあるんですけれども、そういうものについてどういうものをやれとか、SSLを導入しろですとか細かいことが1つ1つ書いていると。

あと「消費者保護と窓口をつくれ」とか、「コンプライアンス担当者を置け」とか、「消費者に対してこういう開示をしろ」ですとか、そういうガイドラインをつくっています。

細かいことは検索していただければと思うんですけれども、そういうふうに日本の現状というのは規制はないんですけれども業界として自分たちでガイドラインをつくって、それを守って健全な業界にしていこうと、そうやってビットコインというのがテクノロジーとして期待される中、皆さんに安心して使っていただけるようにしていこうと、そういうことを活動しております。

関口:斎藤さん、ありがとうございました。