logmi・ログミー

世界をログする書き起こしメディア

夫を癌で亡くした女性医師による、がん研究への提言「動物実験はムダ。人間の細胞を使うべき」

夫を癌で亡くした女性医師による、がん研究への提言「動物実験はムダ。人間の細胞を使うべき」

「がん研究を進めるためには無意味な動物実験はやめて、人間の細胞で研究すべき」コロンビア大学の腫瘍学医師であるAzra Raza(アズラ・ラザ)氏は、批判を省みることなくこのように語ります。夫を癌で亡くした彼女が語った、今がん研究に必要なものとは?(TEDxNewYork2014より)

スピーカー
コロンビア大学メディカルセンター MDSセンター所長 腫瘍学医師 Azra Raza(アズラ・ラザ) 氏
参照動画
Why curing cancer is so hard

無意味な動物実験はやめるべき

アズラ・ラザ氏 男性の2人に1人、女性の3人に1人はガンに侵されています。ですから私たちは決して、この病気に勝利しているとは言えません。ガン研究の多くはかなり進んできていますが、治療のほうはそうとは言えません。治療のオプションはガンの進化について行けていないのです。 その理由として、ガン薬を開発するシステムが機能していないことがあげられます。私たちはより効率的な方法で、このシステムを改善しなければいけません。 gazou02 私がなぜ、今日ここでお話しすることになったかと言いますと、「ネズミ」が理由です。今年の初め、「ガンに対してより有効な薬が開発できないのは、あまりにも動物実験をベースに薬を開発してきたせいだ」と発言しました。それ以来、嫌がらせのメールがかなり届いています。 実際に、私たちは急性骨髄性白血病(AML)をネズミでは1977年に治すことができました。しかし人間に同じ薬を使用しても、惨憺たる結果しか残せていないのです。 gazou03 私たちは動物実験を辞めなければなりません。なぜなら、それは無意味だからです。私たちが今やらなければならないのは、人間から採取した細胞を研究することなのです。これから少しの間、それがいかに複雑なことかをお話しします。

ガンが悪化するまでの流れ

私たちは骨髄異形成症候群(MDS)という病気について研究しています。なぜこれを研究することにしたかといいますと、これは白血病になる前段の病気だからです。MDS 自体もガンであり、人を死に至らせます。骨髄異形成症候群が急性骨髄性白血病(AML)に進化した時点で、より一層速いスピードで人を死に追いやります。 患者の3分の1がAMLに感染します。私たちは白血病の前の段階から、白血病になるときの細胞の進化と、遺伝的な分子障害をカタログ化できれば、この病気を理解するためのモデルシステムとなるのではないかと考えています。 それによって、どのようにガンが悪化していくのかを研究することができるのです。私たちが骨髄異形成症候群を学ぶことによって、すい臓がん、リンパ腫、白血病など他のガンの進化も学ぶことができるのです。 gazou04 この病気がいかに進化するかと言いますと、 gazou05 まず脊髄中の幹細胞(幹細胞)が分裂し更に集団化します。 gazou06 そして、細胞が分裂すると同時に成長します。 gazou07 赤血球、白血球、血小板となって血液となります。 gazou08 そして私たちの骨髄では、毎日1兆個もの細胞が作られています。さて、骨髄異形成症候群(MDS)の場合です。赤血球が何らかの理由により異常を起こします。そして、正常な細胞が2つに分裂する間に、異常な細胞は50に分裂します。 gazou11 瞬く間にそれらの異常な細胞が脊髄に蔓延し、同時に成長してゆくのです。これらの細胞は完全に成熟する前に死んでしまいますので、血球数が下がり、血液となる細胞数が減少し、白血球の低下や貧血とを引き起こします。 またこれらの細胞は成長せず未熟な状態で残留し、それが約20%に達すると、急性骨髄性白血病(AML)という結果になります。AMLは危険な病気であり、多くの人を死に至らせる病気です。

ガンに必要な薬は、既に存在している

さて、私たちがAMLの薬を作ったとします。いくつかの例外を除いて、既に使用されている薬は大変効果的であり、ほとんどのガン細胞を殺すことができます。しかしそれは短い時間しか効果がなく、次々と発生するガン細胞に対応するのは困難なのです。なぜ、そうなるのかをお話ししましょう。 gazou14 これが、脊髄と幹細胞です。MDSの幹細胞が繁殖していきます。 gazou15 そして、分裂したクローン細胞に若干の変異が起こります。 gazou16 私たちが治療をスタートすると、大変効果的にガン細胞を殺すことに成功しました。 gazou17 しかし、このレスポンスは次の新しい細胞が成長するまでの短時間の間だけなのです。 gazou18 そして、新しい細胞が再び増殖して脊髄中に繁殖してしまいます。 gazou19 クローンの継続的活性化が起こってしまうことが問題で、治療を複雑にしてしまっているのです。皆さんは、何種類もの新薬が必要なのかと思われるかもしれません。しかし、必要な薬は既に存在しているというのが私たちの意見です。 私たちが知りたいのは、病気に至るまでのどの経路をさえぎる必要があるのかということです。例えば、この患者さんの例を取りますと、遺伝子に4回の変異が確認されています。 gazou21 これを、複雑な類推計算システムを使用して、ふたつの経路を突き止めました。1つ目の経路は、Metforminという糖尿病治療薬として使用されている薬によってブロックできることがわかりました。2つ目の経路は、Celebrexという抗炎症薬によってブロック可能だとわかりました。 したがって、このようにどの経路をブロックすればよいかがわかった段階で、既に存在する薬を使用できることがわかったのです。

微小環境の研究

もう1つ頭の痛い問題は、ガン細胞というのは単独では存在せず、微小環境という土壌で繁殖するということです。複数の突然変異が同時に起きます。 gazou22 gazou23 ご覧のように幹細胞がどんどん繁殖しています。そして、クローン細胞を生み出しています。各細胞が増殖因子を生み出し、それが常に変化する微小環境に影響を与えています。 gazou24 では、この常に変化している微小環境をどのように研究すればよいのでしょうか。 gazou25 これは脊髄から液体を採取している画像です。この液体の中に「種」があり、微小環境がこの下の写真のバイオプシー(生検)に存在します。

総合的な知見が不可欠

私が申し上げたいのは、全てを学ぶ必要があるということです。ガン細胞のみを学ぶのではなく、ガン細胞が繁殖する土壌になっている脊髄の微小環境を含めて研究する必要があるのです。 30年前、私が一生かけてこの病気を学ぼうと決心したとき、私は患者さんの細胞サンプルをカタログ化することにしました。当時28歳でしたから100年以上前のことのようです。 (会場笑) 現在では、細胞組織貯蔵庫があります。 gazou26 ここには30年間で6000人から採取した5万個のサンプルが貯蔵されています。これは、国内で一番古くサンプル数も最大の貯蔵庫です。 なぜこういったサンプルが必要なのでしょうか? ある患者さんが白血病になるのに14年かかるところを、別の患者さんは3か月で発症してしまうのは、どのような遺伝的経緯によってそうなってしまったのか、私たちは知る必要があるからです。ですから、もうネズミで研究実験するのはやめて、実在する人間の細胞サンプルを使って学ぶ必要があります。

意外と少ないガン研究の予算

「芸術は目」です。ゴッホは夜空の星を見てひとりで「星月夜」を描きました。しかし、科学は私たちです。私たちは協力しながら仕事をしなければなりません。患者、専門医、基礎研究者、計算術者、研究所、ドナー、フィランソロピーなどが協力しなければ研究できません。 しかし、それには意志が必要です。多くの人たちはガン研究にかなりの資金がつぎ込まれていると思っていますが、実際にはそうではありません。 gazou27 このグラフをご覧ください。ガン研究には40億ドル投資されているのに対して、3,580億ドルが靴を買うお金に使われているのです! 私たちは、ガンの研究にもっとお金を使う必要があります。

残された時間を丁寧に過ごすために

gazou28 今日この会場にいる方々の中で、ガンと全く関係のない方はいないと思います。最後に、ある女の子が書いた短いお話をご紹介したいと思います。スライドに映っている女の子です。 私の父は白血病で亡くなりました。それから10年が経ちました。私は父が亡くなった日のことを覚えています。朝7時に母が私の部屋に来て、父が呼んでいると教えてくれました。私は8歳の子どもながらに、何かが変だという直観を感じて父ところへ走って行きました。 父は笑顔でベッドに座って、私に両手を差し伸べてくれました。それから数時間、私は父に本を読んであげたり、ベッドの上で飛び跳ねたり、父の歩行器を持って逃げたり、マダガスカル蛙について真剣に語り合ったりしました。そして定期的に体温計で父の熱を測ってあげました。父は私に笑顔をそそいでくれました。 その後友人の家族がきて、私を公園に連れて行ってくれました。それが、私が父と過ごした最後です。その2時間後に父は息を引き取りました。 父が亡くなった数年後、母から聞いた話によると、父はあの朝5時に目を覚ますと、数か所から出血していたそうです。父自身が腫瘍学医師でありガンセンター所長であったため、母に落ち着いて自分がその日亡くなると伝えました。 母が出血の手当てをして着替えさせたあと、父は残された数時間を家族と過ごすことを希望しました。呼吸が浅くなり、徐々に肺に血液が溜まっていく間、父は私が遊ぶ姿を見たり、一緒にペットの蛙の生態について語りながら心を落ち着かせていました。 「運命への愛情」の完璧な姿です。ニーチェの言葉にあるように、「生命とは、成さねばならないことを誠実に行うこと」です。父は、尊厳のある死に方をしました。 皆さん、この女の子は私の娘です。そしてこの子の父親は、私の夫でした。

  
※ログミーでは、TED Talksおよび各TEDxの定めるCCライセンスを遵守し、自社で作成したオリジナルの書き起こし・翻訳テキストを非営利目的のページにて掲載しています。
×
×
×
×
×
×
×
×
この話をシェアしよう!
シェア ツイート はてブ
夫を癌で亡くした女性医師による、がん研究への提言「動物実験はムダ。人間の細胞を使うべき」

編集部のオススメ

おすすめログ

人気ログランキング

TOPへ戻る