池上彰×パックン

Patrick Harlan(パトリック・ハーラン)氏(以下、パックン):皆さんこんにちは。パックンマックンのパックンです。

池上彰氏(以下、池上):マックンです。マックンじゃないか(笑)。

(会場笑)

パックン:アックンでしょ(笑)。

池上:池上彰です。新しい漫才コンビの結成という感じですけどね。

パックン:ダブルボケになりますけどね。

池上:いやいや私はツッコミですから。

パックン:ツッコんでくれました、ありがとうございます。

池上:ボケとツッコミで……という話じゃないね。笑いも多分取るんだろうとは思うんですが。

パックン:ハードル上がりますよ、そんなこと言うと。笑いを取りますよと言ったら、期待しちゃうんですよね。

池上:なるほど。

パックン:一切笑えないですよ今日!

(会場笑)

パックン:このほうがウケるようになりますよ。

池上:なるほどこうやってやればいいんですね。期待値を低くしておくと、意外なお得感がある。期待値を高めると、何だこの程度かと。

パックン:そうなんですよ。

池上:と、いうことですから、今日は大したことお話できませんので。

パックン:ハードル十分下がりましたね。

池上:十分下がりましたね。でもまあこうやってコミュニケーション、ことばのやり取りをしながら、でもやっぱり大学で学ぶとはどういうことかな、発信ってなんだろうなということを、ちょっと低いレベルでやってみましょうかね。

パックン:そうですね。東工大ですからことばを小さく、少なく……。それは必要ないですよね! 今日は本当に高度な話を全部受け付けるつもりですから。でもその辺は期待しないでください。じゃあ座りましょうか。立ってると本当に漫才コンビみたい。

池上:そうですね、じゃあ座ってください。こういうのは、「たっての願い」と申します。

(会場笑)

パックン:うまい! 拍手!

(会場拍手)

パックン:座っててもみんな見えますか? 大丈夫ですか? 見えない方、聞こえない方。手を挙げてもらえますか?

池上:そこで手を挙げたらおかしな話になりますね。聞こえない人は手が挙がらないですから。極めて古典的なボケですね、今のは。

パックン:ツッコミの上に、今日はそこまで解説もいただけるということで。

池上:はい。

上手(かみて)と下手(しもて)の役割分担

パックン:でも不思議ですよね。こうやってじっくり対談、どっちが進行権を持っているのかわからない状況で話すのは初めてですね。

池上:ですよね。普通はどっちかが聞き手になって、相手の話を引き出すやり方をするはずですよね。

パックン:そうですね。

池上:ところが今日は、池上彰×パックンって。普通は「VS」って言いますよね。

パックン:協力し合ってその相乗効果を期待しているという。

池上:……ということなんでしょうけど一応、この日本社会ではですね、上手(かみて)下手(しもて)というものがありまして、それで言うと私は下手になるんですね。と言うことはつまり、(具体的な指示などは)何も言いませんけど暗に、私が聞き手となって、お客様(パックン)にお話をお伺いする、という構図になっていると。

パックン:ご存知でしたか? これは僕も知らなかったことですけども。ちょっと今ほっとしているところです。

コミュニケーションは聞く力

パックン:でも先生に僕も何回もお話を伺ってきましたし、先生が僕の話を引き出してくれたんですけど、コミュニケーション法っていうのは今日お話になると思うんですが、お互いのことをうまく聞きあうのがやっぱり原点ではないかと思うんですね。

池上:おお。

パックン:先生がコミュニケーション上手だなと思うのは、自ら伝えるところ、相手の情報を引き出すその敏腕な進行っぷりをみるところですよね。

池上:いやあ、ありがとうございます。急にうれしくなります。こうやって相手をヨイショと立ててるわけですけれども、私の本業は、要するに説明することではなくて、相手にインタビューをして、どれだけ相手の魅力とか、魅力でない嫌なところとか(笑)、というのを引っ張り出すかという、基本はやっぱりそれだと思うんですね。コミュニケーションっていろいろありますけど、基本はとにかく聞く力。

パックン:そうですね。

池上『聞く力』って本出してる某女性作家がいますけど……ぜんぜんウケないね。みんな読んでないのかな。『聞く力』って知ってるでしょ? 去年の100万部超えたベストセラーの、阿川佐和子の『聞く力』という本があるわけですけれども。

パックン:みんな読む力ないんじゃない?

(会場笑)

池上:どうもない感じですなあ。要するにコミュニケーションとか対話とか伝える力、どうやって自分のことを相手に伝えようかとか、みんなにアピールしようかとか、みんなそればっかり考えるんだけれども、基本はまず相手からいろんな話を聞き出す、聞く力が大事と。

会話は「7:3」のボール配分が丁度いい

パックン:なるほど、そうですよね。アメリカの有名な社交界の名士が言ってましたけれども、噂好きな人はあなたに他人の話をする。話が退屈な方は、あなたに自分の話ばかりする。話のおもしろい人は、あなたにあなたの話をする。

その人の話をうまく引き出せる人が一番最後ので、「話してて楽しかったなあ。そういえば僕の話ばっかりだったんだけど、いいや!」みたいな、そういう聞き上手ですよね。

池上:そうですね。あるいは人間って不思議なもので、2人だけで例えばずっと話をするでしょ。相手ばっかりしゃべってて、自分があんまりしゃべれなかった時は、終わった後本当に欲求不満なんですよ。今日はなんかぜんぜん話ができなかったな。

ところがうまく話を引き出して、例えばパックンに全体の7割しゃべらせ、私が3割しゃべると、パックンは「いやー今日はお互い五分五分に話し合って楽しかったなあ」って思って満足して帰るんですね。

パックン:そうなんですね。僕もそれわかってるから、今日はパスを譲り合ってばっかりなんで、たぶんひとりもシュート決めないんですよ。

池上:ゴール前で「ほらお前、シュートしろよ」ってね(笑)。ボールをやり取りしているということなんですが。つまり、なるべく相手の話を聞いてあげる、相手に興味を持つ、それによって話が出てくることによって、相手はとっても楽しく時間を過ごせるということですよね。

パックン:そうなんですよね。僕のおばあちゃんはすごいしゃべり上手と言うか、しゃべりたがりの人だったんですけど、1回ガソリンスタンドに入って車を止めて、僕が給油している時におばあちゃんがお会計しに行って、僕給油終わって車に戻ったんですけど、全然戻ってこないんですよ。

15分くらい経っても全然出てこないから、倒れたのかと思って見に行ったらずっとレジの方と話してるんですよ。早く出て来いって、いいから行きましょうよとおばあちゃんに言ったら、いやいや私のせいじゃないんですよ。この人ずっと聞いてくれるんですと。

池上:なるほどね(笑)。ガソリンスタンドで給油中におばあちゃんが油を売っていたという話ですね。

パックン:うまいなあ(笑)。そういうところで点数稼ぐんですね今日は!

アメリカの悪口は、世界共通で盛り上がる

パックン:先生は日本だけじゃなくて全世界回って取材されてると思うんですけれども、各国の聞きだしやすいネタとか、話しやすい雰囲気とか違うんですか? やっぱり。

池上:これはやっぱり違いますよね。例えば中東で、アラブ世界に行って、アラブの人からちょっと水を向けて話をしてもらおうと。私は別にアラビア語できませんからね、言っておきますけど(笑)。

英語で聞いたりあるいはアラビア語の通訳のコーディネーター使って、ちょっと水向けるんですよ。もうしゃべるしゃべる。ひたすらしゃべり続けますよね。もういい加減このへんでちょっと話を切らないと次に行けないんだけど、ってくらいとにかくしゃべるんですよね。

パックン:それって盛り上がるネタとか特にありますか?

池上:とにかく向こうは自分のことを言いたいわけですよ。そうじゃないですか、ましてこう東洋の国の日本から来たって言うならぜひ伝えたいと、これはすごいことですよ。

パックン:そうなんですか、自分の文化の話を。

池上:文化の話じゃなくて大体政治的な情勢、中東問題だったりするので、アメリカの悪口が多かったりするわけですけど(笑)。

パックン:それは盛り上がるでしょうね!

池上:そう。アメリカの悪口を言いたい人は世界中にいますからね。

中東ではカナダ人のふりをするアメリカ人

パックン:そうなんですよ。僕も世界各国を旅してるときは、バックパックにカナダの国旗を貼りますけど(笑)。

(会場笑)

池上:そうですよね。

パックン:「いやー南の国ってひどいよねー」って僕が振ると、みんな盛り上がるんですよね。

池上:いやこれはね、お笑いのネタじゃないんですよ? 本当なんですよ。特に中東などに行くときには、アメリカっていうだけで大変イメージが悪かったり、襲われたりすることがあるので、カナダ人を装うんですね。

パックン:これ有名な手ですよ。僕だけじゃないです。

池上:一般的にはアメリカ人とカナダ人の区別がつきませんから。よく聞いてるとカナダ人のほうが英語が上品なんですけどね。

パックン:……そうですね!

(会場笑)

パックン:確かにアメリカとカナダの英語の違いは、「sorry」の発音だけですよね。「sorry」と「out」。ご存知ですか? 「sorry」はアメリカ人は「スォウリー」と言って、全然反省してないような感じですよね。

(会場笑)

パックン:カナダ人は「ソーリー」って日本語にすごく近くて、きちんと心をこめてる感じがすると。「out」もカナダでは「ウット」になるんですね。

僕は海外で「ソーリー」「ウット」と(カナダなまりで)言うようにして、かなりカナダ人を装ったんですけれども。アメリカ人にとってはある意味ちょっと切ないというか、複雑なところでもあるんです。