小泉政権の経済政策は偏っていた

三橋:ちょっと話は変わるんですけども、バブル崩壊以降、日本政府は橋本政権のときからまず公共事業の削減を始めましたよね。次に消費税を増税しました。98年に日銀法の改正をして、中央銀行がなかなか言うことを聞かなくなるようにしちゃいました。「中央銀行の独立」とか言って。さらに、小泉政権でバリバリ公共事業を削って、規制緩和して民営化して。

野田政権は「TPPだ、増税だ」とか言ってるけど、これは全部インフレ対策ですよね。こういうことがわかる方って民主党にいるとは思えませんけど、自民党にはいないんですか。あるいは官僚にはいないんですか。それともわかっててやってるんですかってことが非常に気になるんですが。特に小泉時代ですね。

麻生:小泉時代に今の話を……竹中平蔵大臣はじめ総じて、あの方たちはマネーサプライ派がどうにかって説にやたら偏ってたね。だからいつも話がぶつかってましたけれども。あれが基本で、竹中さんの意見を小泉さんはもっとも吹き込まれたのかな。そんな感じはしますけどね。マクロ経済に対しての関心とか知識がちょっと偏っておられたように、僕には見えましたけどね。

三橋:小泉政権期の量的緩和をデフレ脱却策として否定してるわけじゃないんですよ。ただ(元)総理がおっしゃったように、お金をどれだけ銀行に渡しても借り手がいないので、また国債(を買う)という馬鹿なことになっちゃてるので。

それは当たり前で、民間の資金需要がないときにお金をジャブジャブ入れたって国債に流れるだけなんで、そんなの誰が考えてもわかると思うんですけど、なんで基本的なところまで無理矢理「いや、金融緩和をやればデフレ脱却できる」と言い続けて、かたや公共事業をバリバリ削ってるわけでしょう。できるわけないでしょうと。なんか難しい話ですかね? どうですか、皆さん(笑)。

麻生:今の三橋さんの質問はまったく正しい。あのときは政府に対して日銀が応えて20兆円、30兆円と出してきたんですけど、それが市中に出回ることなく、結果的にmonetary bond(債券)ということになっちゃった。銀行にstuck、残っちゃった。

そういうことになったんだと思いますけども、あれはやっぱり政府が民間に需要が起きるような政策を取らない、公共事業をどんどん減らしてく。それじゃあ「何もやらないんだな」と思って、金は使いませんよ。

そうすりゃあ、少なくともお金が市中に出回ることはなくじーっとしてたっていうんだから、あのとき出した日銀は正しい。それは間違いなく正しい。白川さんは「おたくら、それでちゃんとしてくれるでしょうね」って思ったろうに、あの人。事実しなかったんだけど。

あのときは僕は正直、チャンスだったのにもったいないことしたなと、つくづく自分が中にいて……極めて厳しい状況でいつもやり合ったけど、残念ながらこっちは(総裁選で)負けたほうですから。そのときは残念だったと、今でも思いますね。

2012年は公共工事をすべき年だった

角谷:そうすると、政策判断の選択によってそっちになったんだったら僕はしょうがない気がするんですけど、景気対策はどうしてたのかとか、いろいろな公共事業をやめた分はどういうふうにするのかっていう、同時に行われる政策が取れなかったってこと自体は、最終的には政府の失政ってことになるかもしれませんが。

どこかで反対するエネルギーがあって……どこかって財務省なんですけど、財務省のエネルギーは何を守りたいから、こういうふうにいつもボタンを掛け違うようなことになるんですかね?

麻生:たぶん、お題目としては財政再建だと思ってますけど、政府が借りている借入金と、企業が借りている借入金を混線してる人が世の中にいっぱいいる。企業会計と国家会計は全然違いますから。政府が一番気にしなくちゃいけないのは、借りている国債という名の借金と、それに対応する国民経済、GDPとの対比ですよ。

今は1000兆円と500兆円、正確には900何十兆 対 460何兆円だけど、まあ1000と500とすりゃあ2対1さ。GDPが伸びて、500兆円が600兆になり800兆になれば、借金が多くても別に(問題ない)。そうでしょ? だから、会社の規模が大きけりゃ1000億円の借金があったってそれに見合う資産が500億円ありゃ何とかなる。街の小さな会社に1000億円の借金があったら終わりよ。

それと同じで、こっち側(国民)を支えてる経済の基を大きくするということを考えていくのが、僕は今の世の中に対してもっとも正しい解決方法だと思うね。

三橋:(元)総理がおっしゃったGDPって所得のことなので、国民を豊かにするっていう話なんですね。私、野田政権が一番腹立たしいのは、三党合意の話はちょっと置いといても、政府の負債、財務省の言う国の借金について「将来世代にツケを残すな」って言うじゃないですか。お金なんて日銀が発行したらそれで終わりなんですね。

そうじゃない。日本のデフレが深刻化していってるでしょ? 公共事業やりません、企業は設備投資しません、だんだん基盤がボロボロになっていきますよ。結果的に、国民が働こうとしても働けないような国になったものを将来世代に残すことこそが、ツケの先送りだと思うんです。

麻生:それはまったく正しい。今の表現は上手いなと思って、国民は政府に対して債務者じゃないからね。債権者なんだから。将来に向けて立派で安全な道路ができました、設備投資でいい会社ができました、雇用もありますっていう、活力ある社会……高齢化社会でもいいよ。高齢化でも活力があればいいんだから。

活力ある高齢化社会を作るのに成功したら、世界は日本を見習うよ。間違いなく世界は日本を見習う。僕はそう確信してるんだ。どうやってそういう国にするかを考えたほうが、よほどいい気がするけどなあ。

三橋:もうひとつ、ポイントがあるんですよ。高度成長期に作ったインフラストラクチャーの寿命が、ちょうど今来てますね。さらに、東日本大震災が2011年にありまして、国民は安全というものを求めてます。当然ながら、本来は政府がここで金を使わなくちゃいけないんですね。

でも普通の国はインフレで金利が高いので、政府が国債を発行できないんですよ。ところが日本はデフレなので、0.8%というふざけた金利で政府がお金を借りて、国内は仕事がない人たちで困ってるわけなんで、みんなが働けばできるわけなんですよ。私は本当に、神様が日本を称えてくれてるんじゃないかってくらいすごい幸運だと思うんですよ。今インフレだったら大変ですよ。

麻生:賛成。それは間違いない。金利が安い、土地が安い、工事費が安い、工期が短い。今やらなきゃアホですよ。

角谷:今(2012年)が一番いいのにってことですよね。

古びたインフラに忍び寄る危機

麻生:そうです。だから、自民党でやった国土強靭化っていうと「ほら、またぞろ自民党は公共工事」って言うけど、あの東北大震災を見たらやっぱり日本人として一番買っておきたいものは安心と安全なんじゃないの。安心と安全に勝る買い物なんてないですよ。みんなどこ行っても、泥棒の入りそうもない家でもセコム付けてる時代なんだから。

そういう時代になったんだから、みんな安心と安全はほしいんだから。「だったらそれを売ります。で、報酬やら何やらをやったら?」という話を総理大臣のときに言いたかったんだ。正直なこと言うと。ところが、みんなに止められた。理由は簡単。(自分を指差し)元セメント屋だから。

角谷:なるほど。

麻生:セメント屋がそんなこと言うもんじゃありませんって言われて、「ごもっとも」と。余計なことをまたマスコミに言われてもバカバカしいと思ってやめたので、あのときは言わなかったんだけど。

実際問題、今の日本に橋ってのは67万8000ありますけども、そのうち「危ない、キケン、渡るな」って橋は1000なんてもんじゃないよ。ものすごい数があるんですよ。これが公共工事を減らしてメンテナンスをサボったために起きてるとすりゃあ、間違いなく問題なんですよ。みんな高度経済成長のときにできたやつだから、ちょうど築50年~60年。セメント屋に言わせると、ほぼ……。

角谷:セメント屋に言わせなくても、そろそろ危険な時期に……(笑)。

三橋:恐いのは、地方公共団体ってお金がないので、点検すらしてないところがあるんですよ。これは本当に危ないと思います。

角谷:そこの予算が最初に切られること自体の判断も、僕に言わせればちょっと間違えてるんじゃないですか。国民の安心・安全は最低限やるべきことでしょ。だってインフラの維持なんだから。この橋が危ない、高速道路も不安だ、こうなったらお金をかけなきゃいけない。だけど、それはできません。お金がないからだと。本当にお金がないんですか?

三橋:有り余ってますよ。

角谷:おかしいじゃないですか!

三橋:有り余ってるからこそ、金利が安いんです。銀行は金を借りてほしくてしょうがないから金利が安いんですよ。こんな国ないですよ。

麻生:俺は本当に、一番簡単だと思うね。しかも史上最低金利がずーっと、かれこれ18~19年続いてる。世界最低金利、ゼロ金利なんてやってるんだから。(お金が)ないなんてことありません。過剰貯蓄になってるから金利が安くて、皆さん方の預金(の金利)もずーっと低いわけですから。それが僕が思うところの現実問題。

適度なインフレが今一番求められている

角谷:じゃあ次の段階で、みんなお金があるけど使わない、吐き出せない、吐き出したくても吐き出しようがない。このときに、例えばたまにイタリアとかでお札の絵を変えてタンス預金を吐き出して、交換しないと、市中に出さないと動けないようにする。「紙くずになっちゃいますよ」と、こういうことをやるときがある。これはマフィアがお金を隠してるようなとき……。

三橋:犯罪対策ですね。

角谷:そういうときにやると言われますけど、「今のお金じゃだめよ」という動かし方はできないんですかね?

三橋:こういうのどうですか? 徳川吉宗がやったデフレ対策で、1両の小判を持ってくと新小判を1.6両くれる。だから1万円札を持ってきたら国が1万6000円くれるってやると、一気にマネーサプライが1.6倍になる。これでどうでしょう?(笑)

麻生:享保の改革だ。

三橋:享保の改革。その後の元文の改鋳ですけどね。

角谷:そういう、少なくともわかりやすくて、誰かだけが得するとか儲かるんじゃなくて、「みんなこれならどう?」というのはありませんかね。

三橋:今のデフレの状況だと、お金を国民に配っても貯金になっちゃうんですよ。

麻生:だいたい、物に(使おう)っていうのは先が良くなるなと思わないと、ハンドバック買い替えようとか、何とかしようって気にならないんですよ。先が読めないときはまずダメ。そこが一番で、そうしないと、景気が良くならないと、結果的には給料が上がらずデフレになってんだから。

「可処分所得が増えてるじゃないか」とか何とかわかったようなこと言ってる人がいっぱいいるけど、少しずつ給料が上がっていかないと、奥さんから「あんた全然給料上がらないわね」って言われて、家庭でも調子悪いんですよ。

そうすると元気もなくなってきて、何となくみんなの気分がこうなって(下がって)くるから、適度なインフレっていうのは、僕は政策としていかに上手くやるか……急激にやったらダメだけど、上手くやっていくかっていうのが、今一番(必要)なんじゃないの。

根気よく成長を待つ、という姿勢はマスコミに潰される

角谷:それは逆に政治が……今は自民党というかどの政治家であろうが5年後、10年後、20年後には日本はこういう国になると。もちろん高齢化で、人口も少し減るかもしれない。だけどその分、新しい日本の形はこうなると示すのが一番いいと思うんです。

僕ね、(民主党の)岡田(克也)さんに聞いたんですよ。「それを言ってくれたら消費税だって意味合いがわかってくるんじゃないんですか」と。「20年後どういう国にしたいからこうするんだと言ってくれ」と聞いたら「そんなことは言えません」って言われたことがあるんです。

麻生:自民党が出した国土強靭化の10ヶ年計画だって、そのひとつの部分ですよ。あれだって我々は絶対やったほうがいいと思って、通産大臣だった二階(俊博)先生のときにやっていただいたんだと記憶してますけど、そういったものが確実に出てくると、あれを読んでもらえれば「おおー」と、理解してもらえると思うんだけどね。

その他にも、例えば最近出てくるけど、「国立漫画喫茶」なんて俺たちがボロカス言われて……。

三橋:メディアセンター(国立メディア芸術総合センター)ですね。

麻生:叩かれて終わったけど、今になったらやたらめったらと「コスプレ大会に何万人来た」とか、大騒ぎしてるでしょ。ああいうのは、やったときにはみんなで叩くんですよ。叩かれて残念ながらつぶされちゃったけども、ああいうのをやり続けて成功したら、今度は「俺たちは前から言ってた」なんていう人たちがいる。それがメディアって世界なんですよ。僕はそう思ってる。

だから育てるとかそういう気には……メディアの歪んだ報道、マスコミの捻れた報道からきちんとしておかないと、政治家はよっぽど選挙が強くないとやれませんよ。僕はそう思うなあ。