イスラム国からのメッセージ

中田考氏:今日はお集まりいただきましてありがとうございます。私はもともと、非常に言葉がはっきりしませんで、日本語のテレビでも私が喋ると字幕が出るというくらいはっきりしないんですけれども、今、難聴が非常に悪くなっておりまして、皆さんの質問もよく聞き取れませんので、今回は出来る限り隣にいらっしゃいます秋田先生を通じて話を聞いております。

私は今、(北大生のイスラム国参加計画事件に関与したとして)被疑者の立場におりますので出来る限りマスコミの質問を避けておりましたし、イスラム国とのコンタクトも避けておりました。それは私自身にとっても問題ですし、先方に対しても迷惑がかかるということがあったんですが、今回こういった人命が関わるということでしたので、皆さまの前でお話することに致します。

今回、タイミング的に安部総理の中東歴訪に合わせて発表があったわけですけれども、安部総理自身は、中東に行ったことが地域の平和と安定につながると信じていたのだとは思いますけれども、残念ながら、非常にバランスが悪いというふうに思います。

もちろんイスラエルに対して入植地の反対を直言する、といったことでバランスの取れた外交を行っていると信じているのだと思いますけれども、中東においてそもそもイスラエルと国交をもっている国自体がほとんどないという自体を、正確に実感していないのだと思います。

ですので、これは中東、あるいはアラブ・イスラム世界では、非常に偏った外交というふうに見られます。

記者会見のなかで、難民支援・人道支援を行っているということを強調していましたけれども、もし人道・難民支援ということで今回の中東歴訪があったのだとすれば、今シリアからの難民は、正確にはわかりませんけれども300万人とも言われています。

その大半、半数以上は、160万人とも言われていますけれども、トルコにおります。まずトルコを最優先すべきであって、(訪問国から)トルコが外れている時点で、難民支援のために行った、人道支援をすると言っても、これは通用しないというふうに思われます。

訪問国はエジプト・イスラエル・パレスチナ・ヨルダンと、全てイスラエルに関係する国だけであると、そういう選択をしている時点で、アメリカとイスラエルの手先であると、当然認識されます。人道・難民支援のために行っているとは理解されない、というのが中東を知る者としては常識です。

中東の安定に寄与するというのは当然理解できる発言ですけれども、中東の安定が失われているのはイスラム国が出現する前からのことです。そのなかでわざわざというか、イスラム国だけを名指しで取り上げて、イスラム国と戦うため、と言いながら、人道支援だけをやっていると言っても、それは通用しない論理だと思います。

日本人の人質2人がいるということは、外務省も把握していたことであって、わざわざ「イスラム国と戦う」ということを発言するというのは、非常に不用意であると言わざるを得ないと思います。

テロリストの要求を飲む必要はもちろん無いわけですけれども、しかしそのことと、交渉するパイプを持たないということは、全く別のことだと思います。

例え無条件の解放を要求するとしても、実際に人質2人を解放するために安全が確保されるのか、その間空爆を止めることが出来るのか、誰がどこに受け取りに行くのか、そういったことを、正しい相手を正しく話をするパイプがないことには、そもそも話になりません。

今回の件でも、これまでと似たようなケースでも、多くの「仲介者になる」という偽物が現れて、それにアメリカが騙される、というようなケースはたくさん起きております。今回でも、そういう恐れが当然あるわけです。

イスラム国の呼び掛けは、安倍政権だけではなく日本国民に対する呼び掛け、という形をとっておりました。それに対して我々は応えるべきだと思います。もちろん日本は民主主義をとっている国ですので、安倍政権に賛成する人間もいれば反対する人間もいる。そのなかで我々にどういう対応が出来るのか、というのを問われているのだと思います。

中田考氏が考える仲介案「イスラム国にも人道支援を」

ここからは、私個人の提案、提言になります。それはもちろん、イスラム教徒、イスラム学者としての立場でもありますし、同時に日本国民として、日米ともに受け入れられるギリギリの線だ、ということで提言させていただきます。

安部総理が言ったとおり、日本はイスラム国と戦う、そういう同盟国の側に援助をするわけですけれども、それはあくまでも人道援助に限られる、というこの論理は、イスラム国に対しても同じように適用されるべきだと考えます。

これまでも人道援助、あるいは経済援助の名の下に、アフガニスタン、あるいは直接関係するイラクに関しても、日本や国際社会は多くの援助を行ってきましたけれども、それが適切な人の手に届いていなかったと。特にスンナ派のイスラム主義といわれる人たちに対しては、非常に扱いが悪かった、というそもそもの怨嗟が、今回の事件の根源にございます。

現在のイスラム国の前身は、イラクのスンナ派のイスラム運動です。ですので彼ら自身は、アメリカによってイラクが攻撃されたことを、自らの体験として覚えております。そしてその時に彼らも含めて、サダム・フセイン政権が倒れた時には、ほとんどのイラク人はアメリカを歓迎していました。

それが数ヶ月で反アメリカに変わった。それはやはり、空爆その他でたくさんの人が殺された、特に女子供たちが殺されて、それに対して全く保障がされていない、という自体がございます。現在それが繰り返されており、イスラム国が支配している、行政の責任を持っている地域で、多くの人びとが殺されています。

国際赤十字、中東地域では赤新月社と言われておりますけれども、ここはイスラム国の支配下のところでも人道活動を続けていると聞いております。

ですので、私の提言と致しましては、イスラム国の要求している金額、これはあくまでも日本政府の難民支援、それと同額のものということですので、それを難民・人道支援に限る、ということで赤新月社を通じ、そしてトルコに仲介役になってもらって、そういう条件を課したうえで、日本はあくまでも難民の支援を行う、あるいはイラク・シリアで犠牲になっている人たち、そういった家族の支援を行う、という条件を課したうえで行う。

これが一番合理的であって、どちらの側にも受け入れられるギリギリの選択じゃないか、と私は考えています。

これで最後になります。日本ではあまり大きく報道されていませんでしたけれども、1月17日にイスラム国はイラクのヤジディー教徒を350人、無償で、人道目的で解放しております。これもひとつのメッセージであると捉えるべきだと、私は考えています。

イスラム国の定めた期限「72時間」は短すぎる

これから、イスラム国にいる私の古い友人たちに対して、私のメッセージを伝えたいと思います。まず日本語で。

日本政府に対して、イスラム国が考えていることを説明し、こちらから新たな提案を行いたいと思います。しかし72時間というのは、それをするには短すぎる時間です。もう少し待っていただきたい。もし交渉が出来るようであれば、私自身、イスラム国に行く用意もございます。

1月17日にヤジディー(族)の350人の人質が人道目的で解放されたことは、私も存じております。そのことは高く評価するべきだというふうに思っております。それで印象も良くなっていると思います。

日本人を釈放することが、イスラム、及びイスラム国のイメージを良くするし、私もそれを望んでいます。また、日本にいる全てのムスリムもそのことを望んでいます。72時間という時間は、我々にとってあまりにも短すぎます。時間をもう少しいただきたいというふうに思っています。これを聞いていただければ幸いです。ありがとうございます。