TBS買収には1000億円以上を費やした

三木谷浩史氏(以下、三木谷):時に、社運を賭けた勝負に出るというのが必要だと思うんですよ。それが例えば今の話で言えばiモードがAndroidに乗り換えるとか。どうなるかわからないけれども出るとか。あるいは、ソニーが久夛良木さんを社長にするとか、まじめな話。それは相当なリスクなんですけれども。

(会場笑)

リスクをとらなかったがためにこうなっちゃったわけなんですよね。

米倉誠一郎氏(以下、米倉):両方ともね。本当にそうだね。

三木谷:だからその失敗力というのはそういうふうな意味をも考えてほしいなと。

米倉:うん。なるほど。偉そうなことを言っていますけれどもね。後輩だからね。

三木谷:(笑)。そうですね。

米倉:お前、なんだ? TBSは。どういうことなんだよ。はっきりしてもらおうじゃないかと。あれでいくらすったんだと。

三木谷:あれね、ちょっと言えませんけど、今まで出てきた金額をはるかに上回って使って、すべての金額を(笑)。

米倉:はい(笑)。

三木谷:まあ1000億以上、いきましたよね。確実にね。

米倉:いきましたよね。

三木谷:はい、いきました。

米倉:だけどあれはスマート?

三木谷:いや、僕はやっぱり自分の中で、メディアを買わなくちゃいけないという社会的なミッションというか、そういう自分なりの正義感があって。

それをやるために楽天をやっているんだという強い想いがあったし、それから事業的にも非常にシナジーがあるし。まさかそこまで抵抗されるというふうには思っていなかったので、いけるんだろうなというふうに思ったんですけれども、やっぱりなかなかメディアの業界の人たちには一生懸命説明したんだけれども、ご理解いただけなかったと。

米倉:なるほど。

三木谷:そこでもう少し早く止めればそこまで損が広がらなかったんだと思います、正直言って。でも、自分たちの正義感にかなり固執しましたよね。

米倉:なるほどね。固執するか。でも一説によると、ホリエモンがやったから付和雷同してついていったっていう人もいますが? その辺はどうなんでしょうか。

三木谷:いや、それはご判断にお任せします(笑)。

ジャーナリズムを開放したいという想い

米倉:その正義感というのはこの日本とメディアが垂直統合ですよね。新聞社も持っているし。まあ、TBSは持っていないか。かなり影響力があると。それに対して、外野からメディアというものにチャレンジしないといけないという正義感だったんですか?

三木谷:基本的には政・官それからメディア。それから一部の産業界。

これが一蓮托生で様々なことをコントロールしているわけですよね。ここに、とにかく新しい新参者、あるいは外国企業は入れないと。それがこの日本システムの維持なわけなんですよ。そこにインターネットとテレビの融合。

これはビジネス的に誰がどう考えても正しいわけですけれども、それを導入することによって、この閉ざされたジャーナリズムを開放したいというのが我々の想いだったんですよね。

米倉:それいいじゃないですか。

三木谷:そういうふうに申し上げたんですけれども、なかなかご理解いただけなくてですね。

米倉:だめだったの?

夏野:でも、10年前だよね、あれは。

三木谷:10年ぐらいですね。

夏野:2004年ぐらいだっけ?

三木谷:はい。

夏野:10年後の今、やっと見逃し視聴を民放も含めてやるっていうのが最近出ているんだけれども、やっと10年遅れて変わってきた。

だからこれ失敗なんですけれども、あのとき言っているから、10年かかってそっちの流れになったというのもあって、個人にとっての失敗は他の人から見ると良かったことかもしれない。

ハイパーネットもぶっ潰したけれども、あれが潰れなかったらiモードもなかったから、ドコモにとっては良かったですよね。ハイパーネットが潰れてね。俺にとっては最低でしたけど。

米倉:ということは大きな流れで見てみれば、あれもひとつのラーニング・エクスペリエンスだったということ?

三木谷:そうですね。久々にスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学ののスピーチをもう1回YouTubeで聞いたんですけれども。ドットはすべて繋がっているという話があって、それで自分が大学を辞めたのとか、Appleで辞めたのも繋がっている。だから結局ドコモを辞めたのもなんか繋がっているんですよ、きっと。将来かもしれないけど。

夏野:将来そう言えるように頑張りたいですよね。

三木谷:修行だ、修行。

諦めなければ失敗じゃない

米倉:でもね、僕は思うんだけれども、前にこれを三木谷君に聞いたと思うんだけれども、失敗するとか成功するじゃなくて、諦めない力でしょ?

三木谷:諦めない力ですね。

米倉:そこのほうが大事だよね。だからチャレンジして突然いろんなことがあるけれども、諦めなければ失敗じゃないわけだよね。そこで止めちゃったら失敗になるわけだから。だから今それを言えるということは結構重要だよね。

三木谷:そうですね。それとあとは修正力ですよね。修正力。この前Androidを作ったアンディ・ルービンと話したんですが。

そもそもアンディがやっていた会社っていうのはアンドロイドを作っていたわけじゃないですよね。修正、修正で最後アンドロイドっていうビジネスモデルになったということなんで。まあそれも多分前やっていたことが失敗して、そして修正をしたんだと思うんですよ。

米倉:なるほど。

夏野:僕、これを「なんとかする能力」と呼んでいるんですけれども。大会社の中にいてもそれから起業家になっても事態がどんどん変わっていくので、そうすると失敗とかいう認識する前になんとかしないと生き残れないので、このなんとかできるっていうのがすごい大事で、それ全然前に言っていたことと違うじゃんって人に言われようが何しようが、なんとかする! なんとかする能力はやっぱり必要だと思いますね。

米倉:なるほどね。とは言ってもね。でも授業料1,200億?

三木谷:まあ、だいたい。

米倉:高くない?

三木谷:はい?

米倉:高くないですか?(笑)

三木谷:そうですね。反省しています。

米倉:(笑)。反省している。本当に反省している。

失敗を恐れて投資をしなかった案件が結構あった

米倉:あれを楽天の本業に突っ込んでいればもっといろいろできたかもしれないよね。その修正力が今どこら辺に生きているんですか。

三木谷:楽天という会社はミッションとビジョンが結構強烈にある会社で、久夛良木さんにも役員をやっていただいていますけれども、それに対してのコミットメントというのは。

米倉:逆にすごく強くなる。

三木谷:だから、別にそれは失敗したけれども、逆に言うと何百億っていう利益を上げた投資もありますし、何件も。

ただ、表に出てきていないのは、失敗を恐れて投資をしなかった案件が結構あって、ちょっとそれは言えないですけれども、そういうのを合わせると何兆円単位ですよね。

今まで僕が見逃してきた、ちょっと止めておこうかな? 失敗するかもしれないしっていうのを見逃していて、今すごいことになっているなというのがいっぱいありますよね。

米倉:そうなんだ。なるほどね。

三木谷:投資会社じゃないので別にいいんですけれども。

米倉:(笑)。さて、久夛良木さん。やっぱり嵐は戻ってくるんですよ。それでですね、僕は本当に久夛良木ワールドをソニーで実現してほしかったなと思うのですが。

三木谷:まだ遅くない。

米倉:まだ遅くない。いきますか?

久夛良木:いや、もう遅いでしょう。

米倉:(笑)。遅くないでしょう。

夏野:いや、奥さんが反対しているんだよね。

米倉:本当? 一緒に行こう、みんなで(笑)。みんなでソニーへ。

久夛良木:えっ? やっぱり奥さん大事ですよ。

(会場笑)

久夛良木:逆らえないもんね。論理ではなくてすべて捧げているので無理でしょう。やっぱり。ねっ!

PS2ではやんちゃをさせていただいた

米倉:いや、でもちょっと話を戻って、こんな話ある意味はないと思うんですけれども、どうしても聞きたいんですけれども、久夛良木さんだったらどうした? あのソニーを。今じゃなくて。ちょうど2000年。要するに2006年が50周年でしたよね。

久夛良木:一番やりたかったのはプレイステーションでそれを実現したかったんですよ。プレイステーションって1993、4年に出て本当に次の世代の、今もう、みんな当たり前に思っているものをやりたかった。

それをソニーでやろうと思うとやっぱり大変なんですよ。ないものを説明することはとっても難しいっていう段階で、しかもオーナーじゃないしね。

ミッキー(三木谷氏)みたいにオーナーだとやれることが、僕らだとやっぱりやりきれないというのがあって、それだったらというのがあって新しいエンティティを作ってそこで、非常に軽い状態でやろうとしたと。ところが成功しちゃったんですよ。PS1が。

あそこで成功する前にもうちょっとこう切り離れていたら思いっきりやんちゃな第2グループができたかもしれないけど。ちょうどPS1が発売して94年で97、8年に、本当にあのチームの力はすごいなと思うんだけれども。もちろんゲームソフトを作っても、いたらいたでみんなのクリエイティブがすごかったんですよ。

それで、結局数年目で売り上げが1兆とかいってしまうと、やんちゃできなくなるっていうね(笑)。なんかちょっとやると周りがえらい騒ぎになるわけで。ご存知なように、私はそういうのを気にしないので、ガンガンやると周りも右往左往してえらい騒ぎになって。

そのときにPS2っていう話になったんですけれどもPS2、これはなんとか僕らの夢の延長上で作りたいよねというんでここまでやりきったんですね。PS2は結構やんちゃさせていただいて。

僕は映画とか音楽とかが大好きなので、DVDも付けるしかないじゃんみたいなそういう形でハリウッドに行ったりしながらゲームソフトをお作りになっている人たちの意見を聞いて、あっ、絶対互換性いるよねとね。

今までプレイステーションのゲームで遊んでくれた人がPS2で新しいプラットフォームを手にしたとき、いきなりまたゼロリセットってあり得ないよね、エンターテイメントとか文化の世界で。

だからこれは絶対互換をとるんだみたいなことでずっとやり続けて、その間本当にチームメンバーの中では毎日いろんな議論をしたりブレストしたり、いろいろやっていたんだけれども。ソニーにね、ほとんどなんも説明しなかったんですよ。

失敗は闇から闇へ

米倉:勝手にやっていた?

久夛良木:勝手じゃなくて、それがソニーグループだと思ってね。みんな夢があって、ここに行くんだということでみんな想いがあるからやるんですよ。多分昔のソニーってみんなそうだった。

そこで、恐ろしい数の失敗がたくさんあって、そのすごい失敗は、ある役員の方が有名な語録を作ったんですが、「失敗は闇から闇へ」みたいなね。でも、本来今日のテーマだと闇から闇へじゃなくて、みんな共有しなくちゃいけないんだけれども。

ソニーが本当にやんちゃな会社でいろんなものをたくさん作って、それで恐ろしい失敗をするんだけれども、その中にたまにキラッとするものがでてくる。

そういうことをみんなが知っていた会社だったので、それがキャラだったので良かったんですよ。ところが、それでもやっぱりひとつのエンティティーでいきなり1兆円とか、いろんなお金が動くわけじゃないですか。

そうするといろいろなご意見をおっしゃる方もたくさんいらっしゃるのと、一番面倒臭かったのは、PS1とPS2が出てプレイステーション2でやったぞ! 夢のこのぐらいまでできたぞって思ったら急に吸収するって言うんですよ、ある方が。「ソニーに吸収するって何?」と思って。

そんなことをしたら元の木阿弥というか、全然昔に戻ってしまうだけじゃない? というふうに思って大抵抗をしたんですがだめなのね。やっぱり資本の論理っていうんで。僕の失敗って資本の論理を数年後に味わうような構造でプレイステーションをスタートしてしまったというのが大失敗でしたね。

資本のロジックに取り込まれて……

米倉:でも、今思えばですよ。何でも持っていたわけじゃないですか。エンタテイメントもあって、小さなデバイスもあるし、映画もあるし、音楽もあるし。それから、テレビというものすごいメディアの、まさに家庭における顔ですよね。それも持っていて。あとはつなげば、もうまさにAppleワールドなんか問題じゃない。その辺にいた気がするんですよね。それを資本のロジックに取り込まれて……。

久夛良木:取り込まれると同時に起こったことは、例えば、我々、ソニーグループだけじゃなくていろいろな方を集めてきて、とにかくベストプラクティスをそこに持ち込みたいと思うわけですよ。

それが当たり前だと思っていたら、例えば、ソニーグループって結構大きな会社なので「プレイステーションに俺の所の技術を出すのは嫌だ」とかね、それはある。あれを潰すために「似て非なるもの、これやろう」とかね、結構面倒くさいことを考える人間が中にはたくさんいるわけ。

それで、なんかそういうの嫌だなとか思って、それで、我々の拠点、青山ってところにいて、ソニーは品川にいるんだけども「なるべくちょっとさわらないで離れておこう」みたいな、そんな時期がちょっとあったのが不幸だったんですね。

米倉:なるほどね。もったいなかったですね。

僕らがやりたかったことをAppleがやってしまった

久夛良木:もったいなかった。でもね、さっき夏野さんが言ったけど、それでよかったのは、本来僕らがやりたかったことを残念なことにAppleがやってしまうっていうのがありますよね。

米倉:Appleは公言してますもんね。「全て、ほとんどはソニーから学んだ」と。

久夛良木:プレイステーションのビジネスモデルも結構ジョブズはすごく勉強していて、それで、今の「3割ピンハネビジネスモデル」とかね。ああいうのも含めていろいろ考えたみたいね。僕らそんなことはしませんよ(笑)。

だけど、本当にやりたかったこと、みんなというか、結構彼らがやってくれて。でもね、僕はね、ジョブスにも何度もお会いしたことがあるけれども、すごく信念があって、やはり彼もすごく失敗してるじゃないですか。ある意味で辛いけれども、それがパワーになっているのね。

米倉:そうですよね。本当、会社を追い出されたんですものね。

久夛良木:追い出されたんです。私もそうですけれどね。

米倉:そうですよね。

久夛良木:はい(笑)。

米倉:だから、もう戻ってきてもいんじゃないかっていう頃ですよね。

久夛良木:いや、今はちょっと楽をし過ぎていますね(笑)。

制作協力:VoXT