若者の英語力を下げた犯人はいったい誰?

ひろゆき:はい、次のテーマ。英語力不足の真犯人。ほぅ、犯人がいるんですか? そもそも。

鳥飼:これはね、難しいんですけどね。これご覧になってる方は若い方が多いでしょうから、言っていいのかわからないんですけど。

ひろゆき:まあまあカットするんで、言ってください(笑)。

鳥飼:昔と比べて、昔って言うと相当昔になっちゃうのかもしれないですけど、今の年配の人に比べても、若者は基礎英語力が落ちてるって言われてる。基礎学力も落ちてるって言われてるんだけど、英語力も落ちてるって言われていて。

それはなぜかと言うと、今要するにコミュニケーションに英語を使わなきゃいけない。当たり前の事のように思うんですけど、会話が英語で出来なきゃいけない、というのが企業からの要請ですよね。

で、この企業からのプレッシャーが非常に強くて、だから日本の英語教育は、全部会話したいみたいになってしまって、あんまり文法は教えない、読む事もそんなにやってない、とにかく会話を出来るようにってやっていって、もう20年ぐらいそうなんですよ。

ひろゆき:そうなんですか? 

鳥飼:20年以上そうなってて、あまり知られていないんですけどね。で、どうなったかって言うと、そんなに喋れるようになったって感じはしないし。

ひろゆき:聞かないですよね、大学生が英語喋れるようになったって。

鳥飼:最近の若者は、それは見事な英語を喋るって、そりゃ帰国子女とかね、留学経験者とかで上手い人はいますけど。全般的に英語教育がコミュニケーションにシフトしてから底上げしたな、って噂は聞かないですよね。

それどころか語彙力がない、読めないじゃないかって批判がとても多くて。それはやっぱり話せないからだって企業の圧力で、英語教育がそちらの方にシフトしすぎちゃったんですね。

ひろゆき:でも会話よりもメールのやり取りの方が多くないですか? 海外って。

鳥飼:それをもっと仰ってくださいよ。それをもっと言ってください。

ひろゆき:別になんかGoogleとかの翻訳がちゃんと使えれば十分な感じで、E-mailとかをちゃんと使えれば、別にそれでやり取りできるから、リアルタイムの電話での能力ってそんなにいらないと思うんですけど。

鳥飼:そうなんですよ、今電話なんてしないじゃない! だって迷惑でしょ、時差があるのに。でもメールだったら、自分の都合のいい時間に打っとけばすぐ打ち返してくれるじゃない。それで企業の人に「今どんな英語力が必要ですか」ってアンケートをすると、みんな「E-mailで英語が書けない」「E-mailで英語が書けるようにするべきだ」って書いてくるんですよ。

ひろゆき:企業に会話が重要だって言われて教育の現場は会話をやってたら、次はe-mailの時代だって。じゃあ最初から文法をちゃんとやっとけって。文章で良かったじゃんみたいな。

大学が英語力を伸ばせない理由

鳥飼:それで今振り子がちょっと戻りつつあって、やっぱ最低限の文章ちゃんと書けるくらいの文法は教えて、書く事ちゃんとやんなきゃ。それでやっぱ書くためには、読まないとお手本がわからないじゃないですか。だから読ませなきゃいけないし、っていう風に少しずつなってきてるんですけど、やっぱりまだ足りないの。

だから真犯人は企業なんですよ。でも企業はもう気が付いていいですよね。外資系の会社行った卒業生はみんな言います。「書けないと困りますよ、外資系も。上司になんか話して報告しても、文書で出せって、報告書を全部英語で書くんですよ。文法がはちゃめちゃでみっともなくて、怒られるんです」って言うわけ。

それにやっぱe-mailも、いちいち日本語で書いて、それをいちいち調べて英作文にして、ネイティブチェックだって、そんな暇ないですから、すぐに打ちこまないといけないわけですよ。送られてきた英語もバーっと読んで、大体の意味をつかんで、こういう事かなと思ったらポーンとすぐに打ってね、それについてはこうですって。

E-mailなんて一週間後に出してもしょうがないじゃない、すぐに打ち返さないといけないから。E-mailを自在に使えるようにってなったら、読んで書けないとダメですよ。

ひろゆき:でも実際、大学なんて入っても、勉強なんかしないじゃないですか。だから勉強する英語力って受験時が一番高いと思うんですよね。

鳥飼:そうなの! でもそれも企業が悪いですよ。だってもう3年生になったくらいから、セミナーってのにみんな出掛けて行ってね、内定取れる取れないって大騒ぎして。

1年生で入ってから半年とか一年はなんかボーっとしてるじゃないですか、サークルどこにしようとか浮かれてね。それで落ち着いた頃はもう2年生じゃないですか。何勉強しようかな、ゼミどこにしようかなーって思ってるうちに3年生になって、就活就活ですよね。

だから、就活の時期を遅くするって言ってますけど、もっと遅くしてほしいですよね。可哀想! 大学行ったって言っても、正味一年くらいですもんね、勉強できるのは。

ひろゆき:センター試験で何点だったかっていうので、文法力と語彙力は大体わかるじゃないですか。

鳥飼:わかります。

ひろゆき:だったらそれで十分な気もしますけどね。大学ではそんな勉強しないから、レベル上がってないと思うんですよ。実際ものすごい勉強しないと取れなかった単位なんてないじゃないですか、日本の大学って。

鳥飼:なんか嫌な事いっぱい言いますねー。一応各大学は、文部科学省から言われてるわけですよ。「大学を卒業したら、仕事で使えるような英語を教育するべきだ」「どういう英語だったら仕事で使えるかっていうのは、それぞれの大学で考えるべきだ」って。みんな色々必死に考えてやってるんですよ。

でも1、2年でそんな急にバーッてなんて英語力上がりませんから、苦しいんですよね。大学ってそんなに勉強する所じゃないって思われてるわけですね。

ひろゆき:はい。

鳥飼:悲しいです(笑)。

"楽単"が日本の大学生をダメにする

ひろゆき:僕アメリカの大学も一年間行っていたので、日本の大学とアメリカの大学比べると、日本の大学って超ゆるいじゃないですか。アメリカの大学って、今日授業ありました、3日後に同じ授業やるのでこれ2冊読んできてください、っていうのが、一日に4つあったりするじゃないですか。そうすると一日に4冊読まないといけないっていうのが当たり前で、それが一年続くじゃないですか。

それが終わった後に日本に帰ってきたら、友達にレポート見せてもらってワーッと書いてるとか、出席頼んどいたら単位取れてるとかばっかりじゃないですか。「あー、超ラク」って思って。

鳥飼:そういう所ばっかりじゃないですけどね。私なんか厳しいから。でも、もうちょっと厳しくしないとダメでしょうね。厳しくしている所もあるんですが、そうすると選択科目の場合に、あの授業は超キビシイとかいって、敬遠したりするんですよね。

ひろゆき:楽な授業リストっていうのが出回ってて、そこに入ると出席しなくても単位もらえるみたいな。

鳥飼:それは自分のためにならないんですけどね。高い授業料払ってるんでしょ、その分だけしっかり学ばないとね。ここでも厳しく言っとかないといけないですね。

ひろゆき:なんで僕が30にもなって説教されてんだ(笑)。大学が勉強する場じゃないっていうか、みんな逃げて逃げてってしてたら、大学で何かを教えても身にはつかないじゃないですか。

鳥飼:そうなのよね。

ひろゆき:だったら今頃、教育方針を決めてもしょうがなくないですか?

鳥飼:アメリカの大学がって仰ったけど、ちょっとやり方を考えないといけないけど、日本の場合にはこれだけ大学の進学率が上がっちゃってるから、みんな入ってくるんですよね。それなりに大学卒という資格が欲しいってなって。でも結構色んな話を聞いてると、だんだん厳しくなってきてますよ、大学も。勉強させなければならないと。

ひろゆき:先生の授業は厳しいんですか? 

鳥飼:厳しいですね。ちゃんとやる人はやりますよ。歯ごたえのある授業が好きって学生もいて、課題出すとちゃんとやってくる人もいますけどね。大学生によりますけど。でもさっきの話、アーカンソーに一年行ってらしたんでしょ。一週間に何冊も何冊も読まされて、必死で読んだわけでしょ。

ひろゆき:そのうち読まなくても何とかなるテクニックを手に入れたんですけど。友達を作ればいいんだ! っっていう、日本と一緒でした。

鳥飼:そういうオチですか。私は、だからTOFLEが大変なんですよって言おうと思ったの。

ひろゆき:(笑)。大変でした。でもアメリカも日本も友達を作れば大体解決するっていうのは、世界共通だなって思ったんですけどね。

鳥飼:友達を作るっていうのは、いつでもどこの国でも大事ですよね。友達から学ぶ事多いですしね。心配してても友達の話聞いて安心するって事もあるんですけどね。でもね、今は英語のカリキュラムなんて日進月歩ですから、一年上の先輩にこうだよって言われて、そうかなと思ったら全然違うって事もありますから。だから友達だけに頼ってるのも良くないですね。

ひろゆき:じゃあ英語力は必要なのか、必要じゃないのかっていうのは微妙な所ですけれども。

鳥飼:必要かっていうか、どれくらい必要かって問題がある。

外国語を学ぶ価値とは

ひろゆき:外国語はやっぱり何か学んだ方がいいと思います? 

鳥飼:私はね、外国語をやるという事は、言葉の世界っていうものがあるんですよ。言葉が違うと世界の切り取り方が違うのね。文化が違うってそういう事だから。スペイン語やればスペイン語の世界を知ることができて、中国語やると中国語の世界を知ることができるという。そういう意味では外国語やると人生が広がる、豊かになる。

英語の場合は、それに加えて今の国際共通語ですからね。世界どこ行っても英語だけやってればOKってわけじゃないんですけど、でもその人ができなくても、英語できる人を探してきてって事はできるので。

さっき便利って言ったけれども、便利っていえば便利ですよ。それに映画なんかも、最近英語の映画多いですよね。そうすると、字幕だけ見てるよりは会話を聞き取れた方が楽しい。だから楽しいって事はあります。でもね、それが義務になっちゃうと、公用語だからやらなきゃいけないって言われると、楽しくなくなっちゃうじゃない。それは英語のためにも悲しいなと思いますよね。

ひろゆき:じゃあ、やらなきゃいけないから仕方なくやるみたいな覚え方をすると、面白くないからもったいないみたいな。

鳥飼:もったいないし、そんなに押し付けて欲しくないと思います。人間の価値をTOEICのスコアで測るような事はして欲しくないなと思います。

ひろゆき:確かに他の国の言葉使うと、他の国の人の考え方がわかるので、あー日本ってこういう所変わってたんだなって気づきますよね。日本では当たり前だと思ってたことが、世界では非常識だったみたいな。

鳥飼:そうなんですよ。それは外国語やるとわかるし、外行ってみるとまたよくわかるって事あるんですけどね。そういう観点では、私は外国語を学ぶ価値はあると思っています。

幕末から英語に惹かれ続ける日本人

ひろゆき:ちなみに日本人が一番覚えやすい言語って何語なんですか? 

鳥飼:発音から言うと、スペイン語は日本語と同じように子音のあとに必ず母音を入れますから、発音は比較的楽。韓国語は近いって言いますよね。私ちゃんとできないんですけど。

ひろゆき:文法の構造は韓国が似てるって言いますよね。

鳥飼:似てる。だから比較的入っていきやすいって言いますよね。だから英語は違うんだけれども、これだけみんなが英語英語っていうのは、もしかしたらあんまりにも違うから興味があるんじゃないですか? 日本人にとって。

ひろゆき:あー確かに、中国語とかって筆談でいけばどうとでもなりますからね。

鳥飼:わかるでしょ。面白いですよね、漢字書くと。

ひろゆき:中国のキャバクラに行った時、筆談でなんとかゲームできましたからね。サイコロで負けた方が飲むみたいに書いて。

鳥飼:あれ面白いですよね。でもね、日本人は幕末の頃から英語に惹かれてるんですよ。英語が大好きなの、なぜか。島崎藤村の『夜明け前』にもすでに出てくるんですよ。「これからは英語だぞ」みたいに、英語の話が。

ひろゆき:2000年になっても同じ話をしてる日本人ってどうなんですかね。

鳥飼:それもどうかと思うんだけどね。だから、憎いんだけど大好き、大好きなんだけど憎ったらしい、みたいなね。とっても複雑な気持ちを日本人って英語に対して持ってるんだけど、無視できないみたい。だからとっても気になる存在なんですよね。そういう人っているじゃない。女の子でもいません? 感じ悪いんだけど、なんか気になる。

ひろゆき:感じ悪い人、僕嫌いです。すみません。

鳥飼:じゃあだめだ(笑)。でも英語もそういう所があるんじゃないかな。あんまりにも違いすぎるから。日本人にとって、これくらいマスターするの難しい言語ないんじゃないかって。

発音は難しい、イントネーションも、日本人にとっては恥ずかしいようなイントネーションをしないといけない。文法は例外が多すぎて、せっかく規則学んでも例外ばっかりとかね。「a」と「the」の違いなんて、いくら説明聞いてもわからないなんてね。いい所ないんですけど、みんなやっぱり英語勉強するの好きですよね。

英語の「基礎力」を評価しない日本社会

ひろゆき:一年くらい外国に住んだら、それなりに喋れるようになりません? 

鳥飼:それなりの"それなり"が、どれくらいかですよね。人によりますよ。一年行っててこれだけ? って人もいますし、一年行ってこんなにか! って人もいますし。

ひろゆき:言葉に対するアレルギーみたいのはなくなるじゃないですか。

鳥飼:日本人は結構ある程度、基礎なんか中学校でやってるから、できないって思ってる割にはできるんですよ。外に行ってアレルギーがなくなると。アレルギーっていうか、やらざるを得ない。アーカンソーでとにかく頑張ったわけでしょ。

ひろゆき:うん、まぁ酒飲んでばっかりでしたけど。

鳥飼:それはだめだねー(笑)。でもお酒飲むと緊張感も程よくなるわよね。

ひろゆき:僕、一番最初に英語喋るようになったのって、お酒飲んだ時だったんですよ。

鳥飼:あー、舌も滑らかにね。

ひろゆき:あ、僕英語喋れてるじゃんみたいな。次が喧嘩してる時だったんですよ。こういうのって便利なんだって。

鳥飼:喧嘩が英語でできるようになったら、これはすごいことですよ。

ひろゆき:金払えって言われて、嫌だっていうのをずっとこう。

鳥飼:それは立派ですよね。そこまでいけたら、英語がちゃんと使えるっていう事になってるんだと思いますよね。

ひろゆき:日本人って英語の勉強し過ぎてて、ものすごい大変だっていうのがあるから、まず行ってみて、適当に喋って、移民とかでも喋ってるわけじゃないですか。他の国から来た中国人とかメキシコ人とか。別に英語喋れなくて大変って人は、一人もいないじゃないですか。

鳥飼:いや、いますよ。私何人も会ってますよ。30年アメリカに住んでるけどあんまりできないっていう。例えばラドっていう言語学者がいて、この人はミシガンメソッドみたいのを作った人ですけど。

ひろゆき:日本のは潰れましたね。

鳥飼:日本のは潰れましたけどね。あの人がなぜ外国語教育を専門にするようになったかっていうと、(出自が)ヒスパニック系なんですよ、スペインから来てて。お母さんがスペイン語の母語話者で、とうとう亡くなるまでスペイン語しかできなくて、アメリカでとっても苦労した。英語は最後まで覚えられなかった。

だから何とかして、アメリカで暮らしてる人たちがもっとスムーズに英語を学ぶ方法はないかと思って、英語教育の研究者になったって言ってましたよ。だからいるんですよ。

だからそういう人結構見てますよ。日本人でも、他の国の人でも、移民でも。20年いるんだけど、ほとんどまともなことを英語で言えない、それは基礎がないからでしょ。日本人がいけば結構できるようになるのは、なんだかんだ言っても中学でちゃんとやってるからですよ。

ひろゆき:中学と高校で6年くらいはそれなりに勉強してると。

鳥飼:それは大きいんですよ。できないできないとか、学校英語は使い物にならないとか言いますけど、基礎作ってもらってるっていうのは大きいんですよね。

ひろゆき:じゃあ、中学高校の英語の授業って割とOKってことですか? 

鳥飼:今はOKじゃない所も。話す事しかやらないから、体系的な文法を教えたりとか……。でも学校にもよるんですけどね。そうは言ってもちゃんとやってる学校もあるし、会話ばっかりにシフトしてる所もあるし、一概に言えないんですけども。

だからもうちょっと基礎をやるんだ、って所にフォーカスしてもいいかもしれないですよね、学校英語教育の使命としては。でもそうはさせない社会の圧力があるんですよ。学校でやったのに使えないぞ、6年もやったのに喋れないぞってすごく怒るんですよ、みんな。

ひろゆき:じゃあ社会の圧力っていうのがなければ、もっと自由にできるんですか? 

鳥飼:と思いますね。

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