仲山氏が考える「働き方の4ステージ」

仲山:本の中身もほとんどの方がご存じないし、そもそも僕のことをご存じない……(笑)。前提からお話しすると、僕は自己紹介が難しすぎて、自己紹介をちゃんとしたら1冊の本になりました、というのがこの本の成り立ちでもあります。

でも、編集者さんから「無名な人の自己紹介をただ本にしても読んでもらえないから、他の人にも当てはまるように普遍化しましょう」というオーダーをいただいて、他の人にも当てはまりそうな枠組みを考えてみましたということで、この本の構成としては「働き方には4つのステージがある」という話が1つの軸になっています。

足し算・引き算・掛け算・割り算というステージで変わっていく、ということです。これは青木さんとしてはどう感じられましたか?

青木:これはすごく腑に落ちる気がします。(ポストイットを指して)さっきのこの中にあった質問で、「誰でも『加』から始めたほうがいいですか?」というのが……。

仲山:「加」というのは、できることを増やすステージ、苦手なことでもつべこべ言わずにやってみて、人並み以上にできるようになろうというステージです。

青木:誰でもあてはまるかどうかは別として、「加」がけっこう大事かな。というのは、僕も何回も「乗」ステージから行けないかと思っていたんです。そしてだいぶ遠回りしてしまって、僕の場合は30歳くらいから、「加」をやり直したんです。ずっとハックして「加」ステージと「減」ステージは飛ばせないかという若い自分だったので、あまりうまくいかず、ようやく30歳くらいであきらめて、もう1回「加」からお願いします! というかんじで始めて今に至ります(笑)。

必ず「加」から始めないといけない理由

仲山:もう少し具体的に言うと、ハックを狙っていたときは、どんなことをしようとしていたんですか?

青木:どんなことをしようというよりは、ハックできるところがないかなと言いながら、ぶらぶらしていたんです。典型的な痛いやつで、「俺が本気を出したらけっこうすごいんだよね~」と思いながら、ぶらぶらしていたんです(笑)。

仲山:「ハックさえ教えてくれれば、できる子だよ」というような(笑)。

青木:だから「加」からやるタイプではないんだろうな~、というかんじでぶらぶらしていたんですけれど、実際問題としてやっぱりそうはいかなかったなというのがあって。

仲山:「加」からやったというのは、どういうのを指しているんですか?

青木: 求められることをやったというかんじですね。すごく恥ずかしいんですけれど、言われてやるのは嫌だったから。自分で考えついたことじゃないとやる気が出ないというか(笑)。

仲山:そういうもんですよね。

青木:それが「上司の投げてくる球を全部拾うぞ」ということでした。3年か4年くらいですかね。年もだいぶいっていたので、本来は10年やるようなところを、なんとか3年くらいでやろうと。その代わり、けっこうやり切ったかんじ。好き嫌いはあまり関係なく、求められたことを完璧にやろうと設定したのはそこですね。

仲山:「『加』からやらないといけないんですか?」という質問に対しては、「ボールを蹴ったことがないのに、『俺の強みはドリブルです』と言っている人をどう思いますか」と(笑)。

守破離の「守」に面白みを感じる人は、少し狂っている

青木:そうですね(笑)。「守破離」という言葉があるじゃないですか。日本のお稽古事の成長法則といったかんじで、「守」は守る、流派の型をしっかりマスターする。「破」が破る。そして「離」は離れて自分の流派を作るという、3段階を説明していました。やっぱり「守」という「型を身に着けるためのなにか」というのはあるよね、というところで。

「守」の段階が面白いと思う人はちょっと狂っていると思うんです。そこで面白さを見つけられる人は、ある意味天才だなと思うんですが、ほとんどの人にとって面白くはないんです。だから僕はその時期に面白さを見つけようとすることのほうがけっこうつらくて、面白くないことを修行だと思ってやっているんだと思う気持ちのほうがまだ心が楽だったんです。

それがちゃんとできていないのに、楽しめていないということでさらに自分を責めるわけじゃないですか。それが楽しくないというのはいいんです。とにかく楽しかろうが楽しくなかろうが、やるんだというマインドセットになれたから、「加」のフェーズもけっこうやれたんです。

それまでは何で「加」のフェーズを超えられなかったのかと言うと、「加」のフェーズを楽しめないということをよくない状況だと思ってしまうからです。世の中的には楽しもうという空気があるじゃないですか。でも楽しくないんです(笑)。

仲山:苦手なことをやっているときは楽しくないですよね。

青木:楽しくないけれど、永遠ではないということですね。

とりあえず「加」をやりきること

仲山:この加減乗除のフレームで「いい」と言ってもらえるのは、まさに今のことで、苦手なことをやるのがずっと続くと思ったらやる気が出ないけれど、これはステージであって、これをやり切ったら次のステージがあると思えればできると。

青木:「加」のポイントを超える方法は……僕はあまり受験をちゃんとやっていないけれど、みなさんは賢いと思うので、ちゃんと受験をやっていると思います。受験のコツは勉強法で迷わないということじゃないですか? 

ある勉強法で勉強し始めて、結果が出ないからすぐに「この勉強法は違うんじゃない?」と思って違う参考書にいって、そっちもやっているうちに「これも違うんじゃないか、友達がこっちの参考書いいって言っているから使ってみよう」というようにやっていると、大体うまくいかないんです。

「これで行く」と決めたら、「このテキストでいこう」というかんじの人が大体勝つんです。そう考えたときに「加」のフェーズは、「これに賭ける」というかんじでやらないと、けっこう抜けられない気がしています。どこで「加」をやるか、何に「加」をやるかということで迷ってしまうと、僕がそうだったんですが、全然「加」が終わらないんです。

なので、何でもいいので、とりあえず、どうしようもないことでもいいから……「加」のフェーズで一定の量を超えた先にあるものってあるじゃないですか。でも、そこを超えない間にやり方をコロコロと変えると「加」が終わらないんですよね。

仲山:みんな仕事では、日本昔話に出てくるてんこ盛りのご飯みたいなカタチの高い山を築こうとしがちですけど、砂山を作るイメージで裾を広げないと高さが高くならないじゃないですか。逆に、「加」から先に進めない人は、山の裾野とは関係のないところでまた積み始めるかんじですよね。

「加」で突き抜けたものが「乗」で活きる

青木:あてどころのない勉強法をしてしまうんですよね。例えば、僕は今、雑貨屋で働いているじゃないですか。「世の中はAIの時代になるらしいぞ」と言われたりこれからは「ブロックチェーン」の時代だ! と言われてもわけが分からなくて、とりあえずどっちのこともわかっていないと、これから生きていけないかもしれないからといって、無限に裾を広げたくなってしまうんです。雑貨だけいじくっていたら10年後にはAIに取って代わられてしまうんじゃないかと怖くなったり(笑)。

でも今は雑貨屋だから雑貨をやって、「AIのことは目の前に来てから考えよう」と言ってやっているところはありますよね。「加」のフェーズでは。

仲山:山の軸はそのままにしておいて、AIという裾が新しく見えてきたから、その辺までは積み始めてみようというかんじだったら、AIを使う雑貨屋さんになりますよね。

青木:そうですね。「加」はそれもあるし、何かで「加」を突き抜けて、この図で言うと「乗」は掛け合わせというところにいくわけじゃないですか。「乗」にいってしまえば自分に1個強みがあれば誰かとやればいいんです。別にAIのことは何も知らなくても、AIの達人みたいな人と価値を交換し合うことができれば、一緒にやればいいんです。だから「加」というのは、1個何かを持つということですよね。

仲山:得意技のレベルが10段階だとして、10の強みを1つ持っていたら、同じ10レベルの強みを持っている人と仲良くなりやすくなることはありますね。

青木:なりやすくなるので、「加」で可能性を増やして、「減」で自分の得意分野が何かということを絞り込んで一本立ててしまえば、このテーマの自由というところにけっこうつながる。なぜかと言うと、全部自分でやらなくても済むからなんです。

だから、自分でやっていて、正直に言うと雑貨のことはあまり今もわかっていないんです。僕は経営分野の人なので、そこは得意分野ではなくて。雑貨の分野が強みの妹と一緒に働いているので、彼女の力を借りて、ほぼ妹のおかげで食えているという状態です。

とは言え、僕は僕で「加」「減」のステージがある程度進捗する中で、1つはなんとか人のお役に立てる強みのようなものが、自他ともに認めるくらいにはなっていく。そうすると急に自分でできなくても実現できるフェーズが来て、ある意味では自分という制約から解かれたりして、そういう意味では自由になりますよね。

仲山:それはまさに掛け算で、チームでやることによって苦手なことをやらなくて済むようになっていったり、というところですね。

減のポイントは「あきらめ」

青木:そのためには「加」と「減」の部分はすごく大事だと思います。

仲山:「減」がわからないと言われるんです。「減」にはどんなことが書いてあるかと言うと……。

足し算を進めていろんなことをやっていくと、そのうちキャパオーバーになります。キャパオーバーの部分をキャパの範囲内に収めざるを得ないので、何か工夫をし始めて、それが収まったということが起これば、パフォーマンスが上がったということだから、自分の強みを使ってパフォーマンスを上げることができたことになります。ほんものの強みがそこで浮かび上がってきたということだと思うんです。

ほんものの強みが自分でわかるようになれば、次は自分の強みをより磨いたり発揮できる仕事を選び取っていって、そうではないものは人にやってもらう流れを作るなり、そもそもその作業が発生しなくなる工夫をして、やらなくても済むようにする。そうやって減らす工夫をしていくと、強みが磨けるようになるよね、というのが引き算の意味合いです。

青木:人生、あきらめが肝心というようなことがけっこうあるじゃないですか。やっぱり減のポイントはあきらめかなって個人的には思っています。

仲山:僕が聞いた話で、「あきらめるというのは、明らかにしてやめるということだ」というのがあって、要は自分の強みや弱みが明らかになって、弱みのところはやらないって決めるというような。

青木:そうですよね。人間は常に上昇したいというところがあるから、「今こういうことについて2個できることがあるから、3個にしたい」「個人として2個のレベルをもっと上げたい」というようなことをずっと思い続けてしまうものなんですが、それは投資するために貯金を続けているようなかんじなんです。

どこかで貯金をやめて投資をしないといけないんのに、減るのが嫌だからずっと貯金してしまうというような。でも、「それって投資のために貯めているお金だよね」というところで言うと、「個としての成長に投資し続ける」というのは、貯金しているようなかんじなんです。

足し算をやりきらないで減らすのは、ただのリスク

青木:それで自分の器のようなものを、運用しはじめて活かしはじめるというフェーズが、「僕はどこまでいってもおちょこだ!」「ビールジョッキみたいにでかい器になりたかったけれど、僕はおちょことしてやっていく!」というような。「ビールは入れられないけれど、熱燗だったら絶対に活きる」というような。

横にビールがドカンとおかれると、「でかい器にビールを注いでみたいな」と思ったりもするけれど、そこに対してあきらめがつくと、出番がけっこう明確になるんです。「熱燗のときは青木を呼ぶか」「あいつ、器は小さいけれど、こういうときだけは役に立つんだよな」ということになるんです(笑)。

仲山:なりますね(笑)。あと、「減」のフェーズには減らすものをいろいろ書いていて……「安定」「レール」「ルール」「評価」というようなものを書いているんですが、「どうやったら仲山さんみたいな働き方になれますか?」と聞かれたときに、「それは社内から評価されることをあきらめることです!」って一言目に言ったら、その人は2度と何も聞いてくれなくなったことがありました(笑)。

だから足し算をやり切らないで、ここに書いてあるいろんなものを減らすと、ただのリスクになりますよね。

青木:減らす材料がないですよね。評価をあきらめるにしても、評価されていないとあきらめられないですよね。

仲山:そうです。だから「評価を手放す」「評価から自由になる」ということの意味合いは、足し算のところでお客さんに「ありがとう」と言ってもらえる状況ができていることが大前提です。そのベースをもとに、「そういう活動は今月の売上にならないから意味が分からない」などと言ってくる上司がいたときに、その人から評価されるということはあきらめていいと思えるよね、という話です。

価値観が合わない上司に評価されようと頑張るより、お客さんに評価されることをやり続けておいたほうが、のちのち自由になりやすいという、そんな意味合いです。

自由を与える側が考えていること

青木:本質的に言えば、「自由」とは権限だと思うんです。

仲山:どういう意味ですか?

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