インハウスエディターの役割を考えるイベント

西村賢氏(以下、西村):皆さま、こんばんは。この間まで、TechCrunch Japanというメディアで編集長をしていました西村と申します。今日のイベントは「PR視点で企業価値を高める『インハウスエディター』の役割」ということで、モデレーターを仰せつかっております。

今日は私の他に、ゲストということでお二方に来ていただいています。一言ずつ、簡単に自己紹介をお願いできますか?

松尾彰大氏(以下、松尾):みなさん、お金を払って20時からお越しいただいたということで、よろしくお願いいたします。

(会場笑)

松尾:今はメルカリっていう会社のメルペイに所属している、松尾と申します。今日はいろいろとお話しできればなと思っていますので、よろしくお願いします。

西村:よろしくお願いします。拍手をお願いします。

(会場拍手)

丸山裕貴氏(以下、丸山):はじめまして、丸山裕貴と申します。私はSansan株式会社という名刺管理サービスの会社で「Eight」というアプリの事業部にいます。そこでコンテンツを作っています。よろしくお願いします。

西村:よろしくお願いします。

(会場拍手)

西村:ちなみに、Eightユーザーはどれぐらいいますか?

(会場挙手)

西村:おっ、かなり制覇してるじゃないですか。僕、今日知ったんですけど、Sansanって、「西村さん」とか「丸山さん」の「さん」からとってるんですよ。自明? みんな知ってた? シーンとしましたけど大丈夫ですかね(笑)。

ちなみに「メルカン」を読んでるっていう方、どれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

西村:なるほど。「メルカンみたいなものが作りたくて、今日この場に来た」っていう方は、どれぐらいいますか?

(会場挙手)

西村:おぉ〜、なるほどなるほど。みなさん事業会社なんですかね。あとは、じゃあなんだろう、「インハウスエディターってちょっと興味のあるポジションだなと思って、そういう方向に進んでみたい」と思ってる人はどんな感じですかね?

(会場挙手)

西村:なるほどなるほど。ライターさんっていうのはどれぐらいですか?

(会場挙手)

西村:お〜。なんか、さっきのイベントの開始前のPR Tableさんのアナウンスと違って、そんなにPR、PRしてないですね(笑)。

(会場笑)

丸山:他のみなさんは、何なんですかね?

西村:何なんですかね。ちょっと、「俺はなんとかだ!」って怒鳴っていただいたりしてもいいですか(笑)。

(会場笑)

西村:では、先に進みましょうか。

元SMAPだった丸山氏の自己紹介

西村:自己紹介からですかね。ちょっと長めのやつになりますけども、それぞれ。じゃあ、丸山さんからお願いしてもよろしいですか?

丸山:はい。一応名刺の会社なので、スライドに僕の過去の名刺を並べてみました(笑)。最初は「Gizmodo」っていう、テック系のブログメディアにちょっとだけいまして。そこで記事をいろいろ作ってたり、海外の翻訳の記事を作ってたりとか、そういうことをちょっとだけやっていました。

ちょうどAppleが全盛期の頃で、スティーブ・ジョブズも元気だった。iPhoneの新しいのが出るたびに、長蛇の列ができるみたいな時代だったんで、もうなんか……。

西村:熱かったですね。

丸山:Appleから新製品が出るときにはもう徹夜で並んで、みたいな。Appleの記事以外、出しちゃいけないみたいな感じだったんですけど(笑)。

(会場笑)

西村:一時期、すごかったですからね。

丸山:そういう楽しい時に、Gizmodoにいました。その次も同じグループ会社なんですけど、インフォバーンっていう会社にいました。今は幻の「SMAP」っていうチームにいたんです。「Social Media Account Planner」の略で、まぁシャレみたいな感じで「SMAP」って言ってたんですけど。

西村:無理やりですね(笑)。

丸山:そうなんです。これが僕のスタート台になってSansanにいくんですけど。そこのきっかけになってたような気がしていて(インフォバーン時代を)載せています。

そのころはみんなFacebookを使い始めていて、「そろそろ企業も、Facebookを使わないとね」みたいな話になってきていた頃で、「Facebookページを使い始めてる会社は、けっこう先進的だね」みたいな感じになっていて。

でもアメリカとか海外を見ていると、「もうそんなの当たり前だぞ」みたいな。むしろ「その中で、大々的なキャンペーンをSNS上でやるのがイケてるんだぜ」みたいになっていましたね。

そのチームでの僕の役割は一応リサーチャーということで、そういったFacebookページを活用している海外企業の事例とかをリサーチして、それを日本の企業に提案するみたいなことをしていました。「こうやって、SNSを使ってみましょうよ」「海外はこうやってるんで、(御社も)やってみましょうよ」みたいな感じですね。

インフォバーンでオウンドメディアを立ち上げる

西村:日本の企業に提案するんですね? それって、社内の編集部にアドバイスするんじゃなくて、外側にサービスを外販してたんですか?

丸山:そうですね。インフォバーンは企業のオウンドメディアを運用したり企画を提案したり、SNSを運用したりと、そういうことをしている会社なので。

今はもうないんですが、「ソシエタ」っていうソーシャルメディアの事例を集めたオウンドメディアを立ち上げたりとかも、ここではしていました。

西村:タッチしてるメディアの数は十分にあるので、リサーチをして、自分たちなりに日本向けにカスタマイズする専任がいてもいいぐらいにビジネス的な意味があったっていうことですよね?

丸山:そうですね。

西村:なるほど。ちょっと、この後のアジェンダの先取りをするようですけど、丸山さんからすると、ソーシャルのことをどんどんやるのは、編集の仕事、編集者のスキルセットとして、マストハブだって感じで見られてますか?

丸山:インフォバーンにいた当時、Facebookページが登場したことによって、企業が自らコンテンツを作って発信できる場所が生まれました。

でも企業はそれまでコンテンツを自社で作ったことがあんまりなかったので、Facebookページを開設しても、なにを発信したらいいのか、よくわかんないわけですよ。なので、そういうのを教えてほしいっていうニーズが、けっこうありました。「ソシエタ」でも、企業が自らコンテンツを作ってソーシャルでの拡散に成功した事例を載せると、よく読まれていました。

西村:なるほど。それが2012年とかですか?

丸山:2011年ですかね。

西村:2011年。けっこう早いですね。

今はなきWIREDで雑誌の作り方を学ぶ

丸山:その後「WIRED」が2011年に日本で復刊して、2012年に転職してWIRED編集部に入りました。最初はWebエディターとして入って記事をつくってたんですけど、雑誌にも関わるようになりました。ここで雑誌の作り方を学んだんです。

西村:えっ、2012年に、1回紙の雑誌をやった? けっこうお若いのに(笑)。大変じゃなかったですか?

丸山:いや、大変です。やっぱり、ブログメディアからいきなり紙の雑誌って、ジャンルがいちばん離れてるぐらいのところなので。

西村:10年近く紙の雑誌編集者でしたけど、二度と紙なんか見たくないな、ぼくは(笑)。

丸山:ははは(笑)。デザインを1ページ1ページやっていくっていうところとかは、けっこう最初は戸惑いました。

西村:でも、やっぱりレイアウトや情報整理の仕方の面では勉強にはなったのでは?

丸山:やっぱり、すごく勉強になりましたね。WIREDの「コーヒーとチョコレート」って特集は僕が担当したんですけど、入って2年ぐらいでやらせてもらいましたね。

西村:「コーヒーとチョコレート」。いいなぁ、楽しそうだなぁ。

丸山:その後、Sansanに入りました。WIREDには4年間いたんですけど、ここで学んだ編集スキルは事業会社の中でも活かせるんじゃないのかなって、なんとなく思っていて。

WIREDにいた時にはよく記事広告を作っていました。でもそのとき企業の中にコンテンツを作れる人さえいれば、別にメディアに費用を払ってやらなくても、同じようなものが作れるんじゃないかなっていう、気づきがあって。それに、ちょっと挑戦してみたいと思ったんです。

探してみたら、Eightでちょうどそういう人が求められていた時期で。タイミングもよかったので、移ったっていう感じです。

伝えたいメッセージがきちんと発信できているか

西村:まさに、今日はそういう意識で来てらっしゃる方もいるんじゃないかなと思うんですよね。広告記事なんかだと、高いお金を出してメディアに頼んで企画や記事作りをやってもらってるけど、頼んだのとは違うものが上がってきて、「俺はスポーツカーを頼んだのに、ダンプカーが納品された」みたいな(笑)ことって、ありがちですよね。

でも一方で、やっぱり広告を出す側としては、「いや、WIREDさんならではの企画力があるじゃないですか」とか、そもそも「載せるチャンネルが大事だから」っていうことが、あるじゃないですか。そのへんって、どのようにご覧になっていますか?

丸山:その時に言ってたのは、「結局、『WIRED』の読者にいちばん届けやすい方法を知ってるのは僕らだから、その専門家に任せてくれ」っていうことなんですけど。

でも結局、そのサービスやプロダクトの価値とか、その会社のいちばん大事にしてるものとかは、1時間ぐらいヒアリングしたりとか、社員をインタビューしたぐらいだと、そこまでわかんなかったりするわけですよ。

なので、ちょっと有名な人をアサインして対談させたりとか、外の力を借りて箔をつけて、記事を作ったりすることもあるのですが、それって本当に、その企業の伝えたいメッセージを発信できているのかなっていうと、「WIRED」の読者がある程度興味をもつコンテンツは作れるかもしれないけれど、その会社が本当に発信したいメッセージができているかはわからない。

だから、それはやっぱり、中の人がもっとうまく作れるところでもあるのかなとは思いましたね。

西村:なるほど。例えばプロダクトの思想とか、本当に語りたいところとかですよね。外部の人が書くのと中の人が書くのだと、それぞれ一長一短っていう話ですよね。たぶんね。

丸山:そうですね。

名刺を使った、新しい価値の提案

西村:わかりました。それで、Sansanに行かれて中から情報発信をしていると。

丸山:そうですね。「BNL」っていうメディアを立ち上げまして。

西村:「Business Network Lab(ビジネスネットワークラボ)」。

丸山:(立ち上げた)背景としては、名刺管理サービスとしてEightはこれまでずっとやってきていたんですけど、名刺を取り込んでも、その名刺に載っているのって連絡先の情報なので、連絡しないとあんまり意味がないんですよ。単にスマホの中に(名刺を)取り溜めておいても、結局それは紙くずと一緒で。

「どういう人がいたかな?」っていうのを見たりとか、「この人、こういうことやってるんだ」「この人、こういう会社に行ったんだ」とか。そういう情報を知って、「あっ、だったらちょっと久しぶりに連絡してみようかな」っていうふうに、コミュニケーションのきっかけになるような場所がやっぱり必要なんじゃないかっていうことで、SNSの機能を充実させてマーケティングメッセージも変えるタイミングだったんですね。

でもそれっていままでにない新しい価値なんで、ユーザーに新しい提案をしなくちゃいけないわけで、なかなか難しいことだと思って。それで、まぁいろいろやっていくうちに、「これはメディアを立ち上げるのがいいんじゃないのかな?」と思って。

もともと「Eightブログ」っていうのがあって、それは広報の人たちがやっていたブログなんですけど、そこの上でとりあえずユーザーインタビューを載せてみようかって始めました。まず「社外のつながりの活かし方」っていうので、著名なユーザーを11人ぐらい、半年ぐらいで取材したんですけど。

西村:例えばどういう会社の人なんですか?

丸山:えっとですね、(スライドを指して)これなんか、ロンブーの淳なんですよ。彼はビジネスの番組を持ち始めてたりとか、シリコンバレーなんかにちょっと遊びに行ったりとか。

西村:投資家としても活動されてますよね。

丸山:ちょっとビジネスにも興味がありそうな感じの方で、しかもEightをよく使ってくれているということだったので取材してみました。

社外の人たちに会うことの、本当の意味

丸山:他にも、最近けっこう名前が出るようになりましたけど、One JAPANの濱松さんっていう方で、大企業のいろんな人たちをつなげている方です。まぁ、そんな感じでやってきまして。

この右側のほうは、もうちょっと(違う観点で)「つながりを活用するとはどういうことか」を、聞いて回るっていうものでして。結局、Eightを使ってない人でも、名刺をうまく活用して、いろんな社外の人たちと会ってビジネスをしている人たちはいるなと思って。まず、その人たちの話を聞いてみようという企画ですね。

西村:「名刺管理」っていうと昭和なビジネス書の印象もあるじゃないですか。街の本屋に入ると、名刺フォルダーで管理して、どうやって年賀状や礼状を書くかみたいな営業向けの本がバーッと昔からあるような。ただ、今はもう昔と違って、企業間の垣根がどんどん下がって、人のつながり方が変わってきている。でも「じゃあ、どうやってつながる?」という古くて新しい問いがある。それは誰も教えてくれないっていう、そういう感じなんですかね?

丸山:「教えてくれない」もそうなんですけど、つながりってそんなに意識するものでもなかったりしていて。名刺はいっぱいあるけど、別に社内にいてもビジネスって成り立つし、仕事って回るんですよ。むしろ、「社外に行ってる時間って、ムダなんじゃないか?」とか、そういうふうに思ったりもしていて。

じゃあ、なんでわざわざ(社内の)人が外の人と会って、意見交換したりとかするのかなと思ってたら、この(スライドの)人たちが教えてくれたんですけど、やっぱり社外の人と会うと、新しい知識が入ってくる。社内にいたらわかんないような情報が入ってくる。そうすると、それが新しいビジネスにつながることだってあるんです。

僕の中では、答えがなかったんですよ。「なんで、名刺のコミュニケーションをとるべきなのか」「なんで、わざわざEightに取り溜めた人に連絡して、会いに行くべきなのか」。でも取材を通して、それがだんだん見えてきました。

ビジネスネットワークの価値ってなんだ?

西村:おもしろいですね。そう考えると、ブログのための取材をしていく中で、Sansan側のユーザーの知見だったり、自分たちのプロダクトの本当の提供価値みたいなものも結晶化するというか、浮き上がってくるみたいな。そういうファンクションも、期せずして持ち始めているっていう感じですか?

丸山:もともとが、そういう狙いだったんですよ。Eightのタグラインが「Your Business Network」っていうものなんです。日本語に訳すと「あなたのビジネスネットワーク」なんですけど、そもそも「ビジネスネットワークの価値ってなんだ?」と(考えてみても)それは、僕の中にも答えがないんで、取材をして研究してみようと。そういう意味で、「Business Network Lab」っていう名前にしてみたんです。

西村:なるほどね。

丸山:実例研究ということで、実際にビジネスネットワークを活用している人たちにお話を聞いて。

本当に難しいメディアのKPI設定

西村:今まで「コンテンツマーケティング」っていうと、「すでにあるプロダクトの思想を、いかに外に出していくか」みたいな話だったと思うんですけど、今のお話だと、「ラボ」っていうのは、もうちょっと開かれた、自分たちにとっても学びの場なのでしょうか。

そこから、何かのプロダクトにフィードバックがかかるようなものが出てくると、たぶん成功なんですかね? そういうところって、「これはこういう理由でやってるんだ」っていうのは、KPI(重要業績評価指標)じゃなくてもゴールのイメージを経営陣と握れてたりするんですか?

丸山:えっと、それは実は、あんまりやってなくって。うちの会社はOKR(目標管理)っていうので、3ヶ月ごとに目標を設定していて。要は、「この3ヶ月は、これに集中するぞ」みたいな設定をしてるんですけど、そこにはあんまり乗らないというか。そういうところに、メディアの価値があるんじゃないのかなと思っています。たぶん、後の話に(つながるのですが)。

西村:一般的にいうとメディアのKPI設定は難しいところがありますよね。

丸山:長期的に価値が生まれていくものだと思っていて。

西村:そうなんですよね、積み上げでね。

丸山:やってるっていうのが、まず大事で。それで、「すぐに結果が出ない」ということをちゃんと経営陣に理解してもらった上で始めるのが、やっぱりけっこう大事だなと。

西村:なるほど。そういう意味で言うと、事業会社のほうがやりやすいとか、あるのかもしれないですね。メディア専業じゃなくてね。

丸山:そうですね、予算があるところで。

出会いそのものに、なんらかの思想はあるのか

西村:(画面が切り替わって)「次に進め」と言ってるようなプレゼン画面なので、先に進めましょうか(笑)。(スライドを見て)2017年も、こういうことやりましたと。アイデアが生まれる。まぁそれって、(外部の人から)思想・哲学を聞いて?

丸山:これは、「出会った後に、アイデアがどう生まれるか」っていうところです。要は、出会ってわざわざコミュニケーションを取ることに、どんな価値があるのかっていうことを2016年にやって、それはある程度答えが出てきたんで。

西村:結果のほうですね?

丸山:次は、出会った後、実際に過去に名刺交換をした人に連絡してみて、じゃあランチに行きましたと。そこで何を話したらいいのかを、聞いて回ったんですね。

さらに、そもそも「出会いそのものには、なんらかの思想があるのか?」とか、そういうちょっと深いところにも入っていったりとか。まぁ、どんどんそうやって探求していく……問いを深く探っていくという行為をしていったのが、2017年です。

西村:なるほど。というところで、ちょうど「インハウスエディター」のイメージが、僕の中ではグッと変わった感じ(笑)。

丸山:社内に50人ぐらい入る、ちょっとしたイベントスペースがあるんですけど。月に1回、そこにユーザーさんを呼んで、インタビューした方をゲストにお招きしていました。

西村:なるほど。

イベントをすると、いろんな人とコラボしやすくなる

丸山:イベントをやると、いろんな人たちとコラボしやすくなるんです。これは、イベントの大きな価値のひとつかなと思います。

(スライドを指して)いちばん左の上のやつは、「Vitra」っていう海外のデザイン家具メーカーの人たちに、カッコいい家具を用意してもらったりとかですね。他には次の年、2017年にやったちょっと大きめなイベントなんですけど、これは「BUSINESS INSIDER」に協力してもらってやったりとか。

あと、「TOKYO WORK DESIGN WEEK」でセッションをもらったりとか。今年(2018年)だと、自社の大きいカンファレンスなんですけど、そこの中のセッションを「Forbes」と一緒にやったりとか。

そういう、他のメディアとか会社とかとのコラボがしやすいっていうのが、イベントの魅力のひとつかなぁとは思いますね。

西村:イベントのコンテンツを企画するとか、そのためのセッションのアジェンダを決めるとか調整するみたいなことも、やっぱりこれは編集(の仕事)なんですかね?

丸山:そうですね。基本もう、僕が全部考えてやるっていう感じだったんですけど。他のBI(ビジネスインサイダー)さんとかForbesさんとやる時も。基本、僕が企画書を全部作って、それを向こうの編集の方に「これでいいですか?」って言って、すり合わせていく感じでしたね。

西村:そういうファンクションがほしい事業会社の方は、あとで会場で丸山さんをガツッと捕まえていただいてですね(笑)。あとでちょっと言いますけど、「編集者」って言っても、スキルや求められてるものには、本当にいろいろなカテゴリがありますよね。

挑戦し続けること自体が価値

丸山:BNLで今年始めたのが、新しいカテゴリを3つ作ったんですけれども。要は、どんどん新しいことに挑戦していこうっていう気持ちでやっていまして。

さっきのKPIの話にもつながるんですけど、明確なKPIみたいなものをそんなに設けていないので、要は「どんどん新しいことに挑戦している」っていうこと自体が、価値だと思っていて。

最近始めたのが「BNL Books」「BNL History」「BNL Arts」っていうやつです。「BNL Books」は、「flier(フライヤー)」っていうビジネス本の要約サービスがあるんですけど、そこのコンテンツを転載させてもらっています。

「BNL History」は、これはBNLの核になるコンテンツにしていきたいなと思っていて。「大企業も、昔はスタートアップだった」っていうのは、よく言われる話だと思うんですけど。それだったら、どんなにいま大きな会社でも、昔はどこかで大きな壁にぶち当たっていたはずなんですよ。

それで、それって(大企業が)わりとサラッと乗り越えてきたと思われがちですけど、たぶんそこには……こう、運命的な出会いがあったんじゃないのかなっていう見立てで、その歴史を紐解いていく企画です。

西村:企業の歴史を紐解いていく感じですね。日本の大手企業だと千ページくらいありそうな社史があって、すっごい面白い歴史が書かれてたりしますよね。

アートとビジネスの距離

丸山:(スライドを指して)これは、うちの会社のPRメッセージみたいなものがあるんですけど。「出会う、が、世界を変えていく。」っていうメッセージなんです。会社全体のコーポレートメッセージなんですけど、「出会いが世界を変える」と会社として言ってるんだったら、これまでも「出会いが世界を『変えてきた』」って言えるんじゃないかって。

西村:なるほど。

丸山:それも、ちょっと探求したいなと思っているところではありますね。それで、いちばん右側は「BNL Arts」で、ちょっと毛色の違うものなんですけど。アートとビジネスって、一見離れているようで、けっこう近いところがあるんじゃないのかなと思っていて。

今日も、それこそ村上隆さんとかを輩出したギャラリストの方を、インタビューしてきたばかりなんですけど。やっぱり、すごくおもしろい話が聞けたりしていて。そういうアートの世界も、ちょっと探求してみようっていうコンテンツですね。

西村:最近だと、(ZOZOTOWNの)前澤さんとかね。

丸山:そうですね(笑)。

西村:ZOZOの前澤さんが、ガツンと60億でバスキア(の作品を)買ったりとか(笑)。もっともっとあるんでしょうね、経営者とか。ありがとうございます、はい。

mercan(メルカン)を立ち上げた松尾氏

西村:じゃあ次は松尾さん、自己紹介をお願いします。

松尾:はい、松尾です。改めまして、よろしくお願いします。

西村:よろしくお願いします。

松尾:今年30歳になる29歳です。大学を卒業して、エン・ジャパンという総合人材サービスを手がけている会社に「総合職(営業)」というポジションで入社しました。インターネット周りの人材サービスを、インターネット経由で手がけている会社なんですけど、たまたま配属が、当時は「サイト企画部」という、サイト運営とか企画とかをするところになったんですよね。

そこで、既存の大きな転職サイトの運営をするのかなと思いきや、新しくメディアを立ち上げるというところで。入社して3ヶ月ぐらいの6月に、「CAREER HACK」というメディアの立ち上げメンバーにたまたま選んでいただいて、やってました。

まぁここで、インターネット業界やテクノロジー業界、後はクリエイティブ業界を、基本的には一次情報として、インタビューを通してコンテンツを作っていくようなことをやりながら過ごしていて……約4年かな? 3年ちょっとやってから、メルカリにジョインしました。

ポジション的にはHRで、ソフトウェアエンジニアとかプロデューサーとかデザイナーの人たちの採用に基本的にコミットしながら、「mercan(メルカン)」を立ち上げて。今、所属的には、新しくできた金融系のサービスをやろうとしている、メルペイというところにおります。

西村:職種的には、インハウスエディターで、エディターなんですか?

松尾:いや、職種はHRです。

西村:なるほど。

生き残るための社内調整は重要

松尾:サマリーなんですけど、CAREER HACKをやってたときは、先ほど申し上げたとおり、総合職(営業)ということで、営業をやる気で入ったんですけど。「お前、『インターネット好き』って言ってただろう」みたいなノリで(笑)、たまたまサイト企画部というところに入ったんですよね。

編集者とかライターって、志望してなる方がけっこう多いのかなと思うんですけど、私はぜんぜんそのつもりはなくて。会社員として、CAREER HACKっていうメディアに携わることになったんですよね。

それで、幸いなことに(分野としては)「インターネット」とか「テクノロジー」、あとは一次情報を取りにいくというところで、「インタビュー」にはすごく関心があったので。かなり苦しい思いをしながらも……上司がいっぱい辞めていく中でも(笑)、「メディアを殺さないこと」だけにフォーカスを当てて、アクションしまくって。

それで、私が抜けたあとのCAREER HACKって、また違う色のコンテンツもてきた面白いメディアになってるんですけど。CAREER HACKって、見たことない人?

(会場、少人数が挙手)

松尾:おぉ〜。じゃあ、ほとんど(の人が)見たことがある。ありがとうございます。それで、まぁ4年弱、本当に(会社員として)ど素人がやった中では、けっこう一連のものを、すべてやらなきゃいけなくて。

そもそも予算なんかほとんどないし、はっきり言って自分の給料も4年間で1円も稼いでないっていう、売上さえ上げてないようなメディアをやってたので。全部自分でやらなきゃいけないというところで、なんでもやってましたっていう感じですね。

西村:社内政治も……違うか(笑)。社内「調整」ですね。

松尾:でも、社内政治は、生き残るためにけっこう重要だと思っていて。例えば、直上長の人とか(との関係)だけだと、まぁ生き残れないんですよね。

それを飛び越えて役員に話しに行って、「ここでCAREER HACKを潰したら、エン・ジャパンとして情けなくないですか?」とか、「こんだけ経営うまくいってんのに、こんだけしか金使ってないメディア殺したら、ちょっとダサいですよね」みたいな話を、半年に1回ぐらいちょいちょいして、生き残ってきたっていう(笑)。当時は、そういうこともありました。

弱者の生存戦略

西村:なるほど。インハウスエディターには、大事かもしれないですね(笑)。予算取りというか。(スライドを見て)この「弱者の生存戦略」っていうのは、どういう意味なんですか?

松尾:先ほどのスライドにあったみたいに、一つひとつのスキルセットとしては、誇れるものが本当に何もないし。自分も正直言って、好きなわけじゃないんですよね。書くこととか、写真を撮ることとか。

インターネットとかを通して、自分が意図したように人が動いてくれたりとか、それで世の中が良くなってくるとか、楽しいと思ってもらうっていうのは、もちろん喜びに感じるんですけど。それ以外のことってあんまり好きじゃないっていうか、別に続ける気力もなかったみたいな。

こういう考えを持って、結果としてメルカリのほうに転職することになったんですね。

西村:なるほど。はい、ありがとうございます。(「メルカリに入社したワケ」のスライドを見て)これですね。

松尾:最後なんですけど、当時(CAREER HACKを)4年ぐらいやって、2012年から16年の間ってオウンドメディアの全盛期で、いろんな文脈でオウンドメディアが立ち上がっては消え……そして、大量に「Webライター」みたいな職種が生まれました。

そこでいろんな論争というか、ああだこうだと人がケンカしたりとか(が起きていて)。大変だなと思いながら(笑)。横目で、「俺、ああいうところに巻き込まれたくねぇな」って思いながらも、そこで飯食ってたんですけど。ただ、そのスキル的なところで言うと、けっこうレアな経験とかスキルセットをゲットできたなって思っていて。

プラス、年齢的にも当時は27歳とかで、やっぱり事業会社側で、このメディアとかインターネットのプロダクトをやりたいなっていうところで、先に退職を決めて。「どこにいこうかな」って話してたら、たまたま今のメルカリ社長の小泉(文明氏)と、「六本木で朝ごはん食べましょう」っていう話になって。

食べながら、「じゃあ、もし松尾さんがメルカリに入るんだったら、ポジションとかを抜きにして、何やる?」っていう話があって。当時のメルカリって、もう僕が入社した翌日に、シリーズDかな? 80何億の調達があって、今週(2018年6月19日)、やっとIPOできたんですけど。

なぜメルカリを選んだのか?

西村:ここ、オフレコでお願いします……ストックオプション、どれぐらい持ってるんですか?

(会場笑)

松尾:(笑)。(有価証券報告書に)載ってないので大したことないです(笑)。

西村:いやいや、まぁいいや(笑)。

松尾:本当に大したことないですけど。

西村:あとで楽屋で(笑)。

松尾:はい(笑)。メルカリって、当時からTechCrunchさんとかに、何かあったら取り上げてもらっていて。人が入っただけで取り上げられて、数字は勝手に伸び……。勝手にというか、すごい勢いで伸びているので、いろんな側面から取り上げられるし、いろんなプラットフォームに、情報が散乱してたんですよね。

それで、いろいろ話を聞いてみたり、もともと自分も「CAREER HACK」っていう、メルカリを取材する立場として見ていた中では、メルカリだったら「採用」とか「人員的なリソースの確保」が経営課題になるっていうことは、もう明白だったし。

自分自身からしても、「この会社は、本当におもしろいことになりそうだ」っていうところで、情報の発信を中でひとつにまとめて、その文脈の中でオウンドメディアみたいなことをやったらいいんじゃないですか? みたいな。そうすると、細かいコンセプトはまた後で考えるとして、「それだったらやりますね」みたいな。

僕、当時は、やっぱりオウンドメディアで飯を食ってる人がめちゃくちゃいたので、「メルカリに提示された額よりも倍の給料を出すから、(うちで)オウンドメディアをやって」みたいなこともあったんですけど。それはちょっと、「(前職と)同じことになるから、つらいな」みたいなところもあって。いろいろあって、メルカリのほうに入社したっていう感じですね。

あくまでHRにこだわりたい

西村:かつて、2012年ぐらいからオウンドメディアが出てきた頃って、プロダクトアウトというか、「メッセージを発したい」みたいなのがありましたけど、最近は採用広報や、プロダクトのマーケティングというか、ユーザーとの接点から自分たちも学ぶみたいな側面がでてきてるんですかね。

すでにある事業に対する付加価値がわりと明確で、かつ、物売りを増やすとか、さっき言ったみたいに、より自分たちのプロダクトを宣伝するとか。そういうこと(プロダクトアウト)じゃない面も、出てきてるっていう感じなんですかね?

松尾:そうだと思います。なので、いわゆるマーケティング文脈でのオウンドメディアみたいなものが、やっぱりいちばん大きかったと思う。お金も生むし、わかりやすいというか、数字も見えやすい。

西村:今までも、どうせ広告に予算を打ってたから。

松尾:そうなんですよ。

西村:「WIRED」に200万円とか300万円出してタイアップ広告を出すぐらいだったら、自分たちまるっと抱えて、自分たちが出しやすいものを出したほうがいいと?

松尾:そうです、そうです。それを、ストック型のコンテンツとして、ちゃんと見なしてみましょうみたいになって。あと、よかったのは、「ダメだったらやめればいいじゃん」みたいな意思決定を最初にしてもらえたのが、非常にありがたくて。かつ、僕もインハウスエディターとして入社したわけじゃないんですね、今でも……。

西村:あくまで、HRだと。

松尾:はい。人事で、採用をずっとやってて。これからどうなるかわかんないんですけど、今まで約2年ちょっと、採用をずっとやり続けている中では、「いいように使えた」というところは、お互いにとってあるのかなぁと。

西村:メルカリの中で横串で、プロダクトのほうでも編集的なことをやるみたいな、そういうのはなかったんですか?

松尾:1回、打診みたいなことはあったんです。「1回、プロダクト側にいってみないか?」みたいな話は、正直あったんですよね。でも、それはちょっと違うなと。

「違うな」というのは、いろいろプロダクト側のVPとかと話してみたら、やっぱりそれに適任のメンバーがいるんですよね。そう考えると、自分のキャリアからするとプラスになるかもしれないけど、当時は(他にも)いろいろと話があって、(結果として)一旦は採用にコミットするということで、やったりしましたね。

自分の話じゃないですが、メルカリではPRに、プロダクト側出身の元コミュニティマネージャーがいて。「そっち側」の文脈でプロダクト側とコーポレート側を見ることができているのが、おもしろい部分かなと思ってます。