同じことをやっていたら、これまでと違う結果は生まれない

林野宏氏:おはようございます。

今日私がなぜこういう話(21世紀の企業経営)をするかというと、今日は入山先生(早稲田大学大学院経営管理研究科准教授の入山章栄氏)がお話しされるというので、私は入山先生の話を聞いてみようと思ったんです。

それはなぜかというと『ハーバード・ビジネス・レビュー』にずっと経営戦略の歴史を連載していて、「日本にもおもしろい先生がいるな」と。たいがい(そんな方は)いないんですけど、(今日は入山先生が)いるということで、私は今日、ちょっと早めに来てお話を聞いてみようかなと思ったわけでございます。

今日は時間がないので、手元に資料を配ることを了承していただきました。シュンペーター(オーストリア・ハンガリー帝国モラヴィア生まれの経済学者であるヨーゼフ・アロイス・シュンペーター氏)の写真などをさっき(入山先生の講演で)見せてもらって、おもしろいなと思いました。

こちらには「21世紀の企業経営」なんて書いてあります。話を聞いていたら、やっぱりみなさんイノベーション(に興味がおありのようですね)。イノベーションと戦略、人事(の組み合わせ)、ということですよね。

当社の人事部は、戦略人事部という名前になっています。これは当然ですよね。経営っていうのは、人がやるんですから。

(スライドを指しながら)あそこに書いてある"Do get different, do different."。要するに「違う結果を得たければ、違うことをやれ」と。「毎日同じことをやっていて違う結果を求めるなんてことは、そんなことはあり得ない」ということですよね。

入山先生も言っていたように、日本の企業はこれが一番苦手です。とくに日本の、戦後に成功した企業ですよね。戦後、成功した企業しか残ってないわけですから。

戦後、成功した企業が残っているけれども、その企業に共通なものはいったい何か。それは、新しいことをやらない、やれないっていう組織、論理になっているなということだと思います。

「知の泉」を作り出せ

(スライドを指して)これは「東池袋52」(東池袋サンシャイン60の52階に本社を置く株式会社クレディセゾンおよび、その関係会社全社員の中から選ばれた女性メンバーによって結成されたグループ)です。52階に本社があるんですけど、これがね、当たったんですね。おもしろいですよね。(5th singleの)「愛セゾン」、これで終わりにしようって思っています。

みなさま方は将来の経営者を目指している方でしょう。とくに人事の方が多いのかもしれません。しかし人事は重要だけれども、人事だけやっていても経営者になれるわけじゃない。さっき言ったように、(重要なのは)たぶん自分の中にダイバシティーをつくっていく、ということですね。

私は「知の泉」といっています。知の泉を作るんだと。なるべく広い範囲の知の泉を自分で作りだして、その泉から波立ってくる波を重ね合わせたところに新しいイノベーションが生まれるんだっていうのが私の考え方ですね。

それで、さっき言った「創造的な破壊」というものは、まさにシュンペーターが1912年に『経済発展の理論』の中で言ったことですよね。これ以上の資本主義に対する本質論というものはないと私は思っております。(さっき)シュンペーターの写真が出てきたので、ちょっとびっくりしたんですけど。

林野氏の掲げる「知識資本主義」とは

私は、企業の本質は競争だと思います。コンペティション。競争。したがって競争に勝つということですね。これはスポーツでもなんでもそうですね。勝たなきゃ駄目なんです。勝てばカーリングだって視聴率があがるんですからね。(先日の)サッカー(日本代表)のベルギー戦はですね、(午前)3時から始まって最高視聴率が42パーセントですからね。だから、勝て(る見込みがあれ)ば盛り上がる。

企業も同じだと私は考えている。勝たなきゃだめだ、ということです。それが本質じゃないかなと(思います)。この(創造的破壊と競争が)車の両輪で社会の革新や発展、すなわちイノベーションが実現すると考えているわけです。

社会は商業資本主義から産業資本主義にかわって、(スライドには)知識資本主義って私は書いたんですけど、だんだん情報と知識と知恵、私は知恵って言っているんですけど、その知恵を作り出すという資本主義に変わっていくと考えております。

そして、経営環境も変化をいたしました。どんなふうに変化をしたかというと、文明の波動が太平洋を渡ってアジアにやってきました。もちろんその中心は人口の多いチャイナ。そして、これからインディアに向かいますよね。

しかし我々は東南アジアをベースにしていった方がやりやすいんじゃないかと考えております。いずれにせよ文明が太平洋を越えてアジアにやってきたということだけは間違いのない事実でしょう。

それがこれから中近東とかアフリカの方に行くと思われます。長期的に見れば「地球規模」での経済発展の時代です。ようするに「先進国」と、未開のところみたいな……それは「新興国」って言っていますけれども、「先進国」と「新興国」と、そしてまだどちらかというと未開といいますかね、非文明圏となっていますけど、長期的に見れば「地球全体」が同時に経済成長を始めるという時代を迎えました。

これはかつてない、人類の歴史の中で初めて起こることですよね。スピードの差はありますけど「地球規模」で経済成長が始まったということです。

インターネットは「社会革命」である

ただ、インターネットというのは、これは社会革命だと私は思っています。

フランスとかで起きた「市民革命」とか、他でも起きていたんですけど、一応象徴的には(市民革命は)フランスとなっていますね。それで、英国で「産業革命」が起こって、そしていわゆるインターネットの「社会革命」っていうんですかね。そういう革命だったんじゃないかなと思います。

イノベーションというのは先ほども入山さんが話していましたけど、日本では技術革新という言葉に置き換えられますね。そうすると、どうしても理系の人、理学部・工学部云々みたいな人たちの専門用語だというふうに言われてきたけれども、実は違うんだということなんですね。どこにどんなニーズがあるんだろうかというのを見極めること、これがまさにイノベーションであるなということだと思いますね。

では、企業とは何なのか。(スライドを指しながら)これが、今現在私が考えている企業のチャートです。企業はこういうふうになっているんじゃないかな。

資本主義の問題と企業の問題があって、そこに資本主義でなくても中国のようにああいう独裁型でもそれなりに成功することはありうるということですから、なにも資本主義でなくたっていいわけです。

それで簡単にいうと「マーケティングとイノベーションをマネジメント」する。これはドラッカー(オーストリア・ウィーン生まれの経営学者ピーター・ファーディナンド・ドラッカー氏)の考え方ですよね。そういう図の考え方で組織が成り立っている。これが企業だということなんです。

それで、(必要なのは)この企業をどうするか。次にこの日本の企業を改造するんです。

歴史のある日本企業は、ほとんどそうだと思います。今日は若い人もいるからそうじゃない人もいるんだと思いますけど、(そういう企業では)経営者人材というのがいない。育っていない。そうですよね。さっき説明していましたけど、育つわけがないんですよね。育てようとしてないんですから。

内向きの論理で動く社員が大量に生まれてしまう理由

また、(経営者人材が)育つ必要がない。(しかし、それでは)「他社で通用しない」「その会社でしか通用しない」「外に出たらおしまい」ということですよね。明日からまったく異業種行って同じように活躍ができなければ、プロフェッショナルとは言いにくいと思いますけど、今まではそんな必要はなかった。

それはそうですね。定期採用で定年まで勤めて、年功序列で、男尊女卑で、みたいなことですから。しかし、経営者人材って若いときに自分で経験したりなんかしないと育たないんですね、育つはずがないですね。

稀にそういう才能がある人がいるかもしれませんけど、そういう人は多分、その組織の中では馴染まないし、そういう人たちが評価されて上にあがっていく可能性はたいへん低いと思いますね。

それで、だいたいが機能別の組織になっていまして、(機能別組織には)それなりの強みやメリットはありますけど、セクショナリズムの温床になっていて、(組織が)肥大化して顧客のニーズや競争相手の動きに鈍感です。中にいる人が気づくことは少なくて、内向きの論理で動く社員が大量に生まれます。

そうすると、いろんな営業計画とか経営計画とかを作るけれども、そういうものがほとんど結果に結びつかないということになると思うんですね。スピードが低下するといつの間にか競争力が落ちて、経営危機に追い込まれる。

このような状況に陥ってもそこで働く人たちは「自分たちは真面目にやっている」「自分たちは、やれることをきちんと真面目にやっている」という。真面目じゃない人は(会社に)来ませんよね。

したがって危機感を持てない。そうですね。「自分は真面目にきちんとやっていた」と思っている人だけがやっているわけですから、そうじゃない人は「辞めちゃった」「どこかに行ってしまった」っていうことになると思うんですね。

それで私は、事業組織っていうのはなるべく小さい方がいいと思うんですけど、(現実には)そうなりませんよね。

人事部が、どんどん人を養成して(組織が)肥大化していって、仕事を細かくわけて、その仕事に一人ひとりが就いている。だからほとんどが細分化された、こんな小さいものが自分の仕事でして、(そのような仕事は)範囲が狭いし、権限もないし、決定権などもない。そういう時代を青春の、1番大事な時代に過ごしてしまうことに欠陥があるんですね。

利益は内部留保よりも若者の賃上げに回すべき

だからといって私はね、決して心配はしていないですね。今、日本の企業の業績はいいですよね。株価は、今日も上がっています。トランプさんが(アメリカ合衆国の大統領に)就任してから、ずっと株価は右肩上がりですから。

今日、NASDAQ はまた新値を切りましたし、ダウは4日連続(で上昇しました)。その間にGE(ゼネラル・エレクトリック社)がダウの銘柄から除外されて消えていったり、そんなことが起こっておりますけども、日本の企業の市況を見ればわかりますように、それなりの成果が出ています。内部留保が史上最高とかいろいろ問題はありますけども、そういうことです。

人手不足という状況もやってきました。人手不足というのは(労働者にとって)いいですね。賃金が上がりますからね。私は若い人たちの世代にこういう格差社会ができたのは経営者の怠慢であり、内部留保のお金を若い人たちの賃上げに使うべきだと思っています。

そこのところにメスを入れるようみなさま方、とくに人事の方ですから(頑張ってください)。若い社員たちの給料を上げる。これが経営の最大の目的です。社員の生活、あるいは家庭、それぞれが豊かになっていくということが、やはり経営者の目標ではないかと思います。

人手不足(の時代)が来たから、欠員が出ても今までのように補充する必要はないし、補充なんかしていたら駄目です。複数の仕事をやったり、スピードがないとついていかれなくなったりするということではないかと思うんですね。

いずれにせよハードトレーニングをしなければ人材は育ちません。とくに若い人に、なるべく早い時期に試練を与えるということですね。

私は高校1年生のとき、(既存の部活動には)今から始めても勝てるスポーツがないということで学校にバトミントン部をつくったんですね。そのころ、いわゆる普通の公立高校にはバトミントン部はなくて、我々が手間をかけたのに、その後輩たちは(その後、日本バドミントン協会の役員になるなどして)オグシオ(バドミントン元日本代表選手の小椋久美子氏と、潮田玲子氏による女子ダブルスペアの愛称)などを育てて日本のバトミントンを強くしたんですね。

だから世の中はおもしろいなと思ってね。中学と高校が同じだった人がサッカー日本代表チームの監督に就任したりと、いろんなことが起こります。自分でいろんなことをやってみると、それは後になって、いろんな成果を生む可能性があるんですね。

現代日本企業に蔓延する「身分制度」

林野 宏氏(以下、林野):次ですね。私はこれが最大の問題点じゃないかなと思っています。戦後75年ほど、4分の3世紀ほどの時が経ちました。(戦後の日本は)大成功ですね。日本は(当時)世界第2の経済大国になりました。なにからなにまで、ぜんぶ日本で調達しました。それによって二次産業及び消費財からなにから(需要が増えて)、世界第2の経済大国になれたと思います。

しかし、定期採用、年功序列、定年雇用の定着。ヒエラルキーによる差別は正当化できても、正規社員でなく非正規扱いの契約社員、派遣社員、嘱託社員、パートタイマー、アルバイトなど、多岐にわたる「身分制度」がこの失われた20年の間にどんどんできました。それがどんどんボリュームが増えていったんですね。

団塊の世代の(定年で)辞めた人の人件費を、(非正規雇用者を雇うことで)安い人件費に置き換えて、それを企業の利益にしました。したがって売上も伸びていないのに、利益だけが伸びてくる。(非正規雇用者ばかり増やして)人件費を払わないことによって、その分が内部留保に変わっていく。「人件費の節約分」が利益に回ったというふうに言ってもいいんじゃないかなと思いますね。

理不尽な制度が放置される日本の現状

そういう意味で、その他にも学歴、学閥、先輩後輩、派閥、人脈など、すごい上下関係が存在します。それから取引先をいわゆる「下請け」と呼んだり、あるいは「子会社」とかそういうことを言ってそこへ天下ったり。

それを当然として承知して、見て見ないふりをしているという構造になっているのは、たぶんみなさんの会社も例外ではなんじゃないかって思いますね。

そこで「ダイバシティー」と言ったって、(イノベーションが)起こるはずがないですね。こうした企業内の制度が理不尽なものとして指摘されることは少ない。

それはなぜかというと、指摘する側でも同様なことが行われているからです。戦後70年、敗戦後の成功体験が危機感の欠如と改革からの逃避を決め込んできたんじゃないだろうかと思います。そうすると長い歴史のある企業でいろんな不正行為が起きますよね。

クレディセゾンのグローバル戦略とは

グローバル化の動きと経営環境の激変、いつも経営環境の激変って言っているんですよ。(実際はこれまで)激変なんてありませんでした。だからのんびりと平和にやってくることができましたよね。したがってその平和な、平和でのんびりした時間が現在の体制を生み出したのでしょう。

しかし私は悲観なんかしていません。十分な戦闘能力がありますからね。とくに中小企業とか東南アジアに期待すれば、肥沃な成長マーケットがいくらでもあります。そのまま通用します。

そういう意味では国内の過当競争よりはるかに楽なので、そういった「グローバル化」というのは、すなわち「アジア戦略」ということになるだろうと思います。もちろん、もうちょっと欧米で競争する力があれば、それに越したことはありません。けれども、効率が悪いんじゃないかなという感じはします。

(スライドを指しながら)次にですね、株主主権論。株主主権論というのは誤りですからね。私はそう思うし、学者だと岩井克人さんとかね、前からそう言っていますよね。

知っている方もいらっしゃると思いますけど、企業というのは単に「新しさ」という「差異」を生み出すこと(が目的で)、この「差異」(のレベル)が「イノベーション」に変わっていったんですよね。だから難しくなってきたんだと思うんですね。

イノベーションの持続こそが企業の継続発展の原点

経済が成長すればパイが増えるから大丈夫なんです。能力に応じてパイを分け合えばよかったんです。だけど、(今日の状況は)そうじゃなくて、すなわち「再生」と「創造」と「追求」が利益の源泉になるような時代になったんです。

さっきも言っていましたけど、産業も事業も商品もサービスも陳腐化します。顧客の価値観が変化していきます。そうですよね。着るものを借りる(シェアリングサービス)とかね、あんなのは我々の時代では考えられませんでしたよね。他人の着たものをまた着るとか、ぜんぜんそんな発想はなかったんですけど、今やそういうも平気になりました。そういうクローゼットの会社(株式会社エアークローゼット)とかもいろいろあります。

イノベーションを起こし続けることが企業の継続発展性の原点なんです。これをやってのけるのは「人」ですよね。新しさを創り出すのは知性と感性を持ち合わせている「人」である。

私は知性とか感性という言葉を重要視しておりますけれども、創造的な活動では社会的な尊敬や信頼を寄せられる仲間、知的刺激を得られる組織、共感できる目的、社会への貢献、後はお金では買えない何かを求めている。人が主役になってチームが創造性を発揮し、新しいテクノロジーの活用や商品サービスの開発、市場の開拓、経営の組織の改革に絶えず努めることが必要になる。

人への投資、組織作りが重要なテーマになって、今日来ているみなさま方、関心を持っている人たちが、いよいよ企業の中でそれを創り出す主役になる日が来たんですね。それをやってのければ、その成果によってみなさま方が(更なる大役に)抜擢されることになるだろうと思います。

新しさを積極的に生み出すには優秀な個人の力に頼るよりも、共通の目的のもとリーダーとメンバーが一体となった人的組織をつくって、異なる価値観、信念、感情、これは期せずして入山先生が言っていたことですからもう(詳しく)言いませんけど、そこで自由に発言ができれば、建設的な議論や創造的なアイデアが生まれてくる可能性が高いということですね。

会社は誰のものか考えてみる

近年の日本企業の最大の過ちは、グローバル化に適応する過程で日本的経営に見切りをつけつつ、「株式会社は株主のものである」という株主主権論を欧米の周回遅れで導入しようとしていることです。これが最大の過ちだということです。

企業は株主のものであるが、会社は株主のものではない。会社は2つの顔を持っている。 利潤の追求を目的としたモノであるという企業の顔と、法的には法人としての個々の資産を所有する会社(の顔)です。(株主は)モノとしての企業の株式は所有しているが、人としての会社の活動自体を支える主権者ではない。

日本で強化を急いでいるコーポレート・ガバナンスの理論なども、必ずしも正しくない。その結果、世界の資本主義を歪んだものにして、格差社会を過度に促進したんじゃないだろうかと私は考えています。

資本主義ではすべてを他者の評価に晒すシステムであるにもかかわらず、株主主権論のもとでは会社は株主や投資家の主権だけで評価されてしまう。しかし(会社とは)本来、株主、消費者、経営者、従業員、取引先と、すべてのステークホルダーである市民の視点から評価される「社会の公器」でなければならないだろうと思います。

ほんの一部、利益について、モノとしての企業は持っている。それは確かにそうですね。しかし株主主権論っていうのは間違っていると考えた方がいいですね。

我々は顧客最優先。お取引先、関係各社に働くすべての人、社員を尊重して経営をしていく。そしてイノベーションを起こして、その結果として株主に報いる。結果ですね。(活動の)結果、報いるというのが経営ではないだろうかと私は考えております。

「企業の価値に劇的な変化を起こること」がイノベーション

(スライドを指しながら)次のBQとはいったい何なのか、ということですね。イノベーションとはいったいなんなのだろうか。

先ほどもちょっと言いましたけど、技術革新、発明のように人間社会が進歩を遂げるものとは違って、イノベーションは発見じゃないかと。発明とは異なる概念だということです。先ほど紹介したシュンペーターもドラッカーもこんなことを言っております。イノベーションというのは企業側に価値に劇的な変化が起こることですね。

まあジョブズさん(について入山さん)の言ったとおりですよね。数多く失敗をしていますし、でもあの人の社会への影響力はすごかったから、今日ももうネクタイなんかしている人は1人もいませんね。昔は全員していましたからね。

(当社の取引のある)IT 業界(で社員数が)4,000人ぐらいいる(大きな会社もある)けど、ネクタイをしている人なんてひとりもいない。

そういうことですよね。あるいは、ジョブズさんの正しさ、革命だというふうに言ってもいいと思いますね。そう思っております。

それで、イノベーションとは何か。技術革新はできるかできないか。イノベーションは思いつくか思いつかないか、ということなんですね。我々はたまたま、クレジットカードの会社にいますけど、もうクレジットカードだけをやっていては駄目ですね。

カードがなくなっちゃう。決済もあらゆるところから出てくる。そしてスマホのなかに入ってしまう。そして決済の仕組みもまったく違うものが出てくる。中国でアリペイとかWechat Payとかでやっているようなね。ああいうキャッシュレスで先端を行っている……別に先端を行っているわけじゃないんですけどね。

国家も信じられないし人も信じないし、貨幣も信じない。誰も信じないところから(新しい決済手法などが)生まれてくるのが、ああいう自分たちの利益行為です。そういうことだと思います。

イノベーションの本質は「潜在需要の顕在化」にあり

日本の場合もまた国家はあまり信用に足りるような状況にありませんね。国会の議論を見ていますと、いつまでたってもなんとか学園などという話をやっていますけどね、あれは1日やるとだいたい2億円かかるんですね。それから官僚が残業しますから、それで1日あたり6、7千万円のお金がかかって、国会っていうのは(1日あたり合計で)だいたい3億円弱ぐらいのコストがかかるんですね。

そこで学園の20億円ぐらいの話を延々とやっていて、何が重要なのかプライオリティもつけられないし野党も何もできない。1票の格差が出てきたら、議員数を減らすべきですね。半分で十分。(あるいは)参議院は要らない。議員数を半分にするか、参議院をやめるかどっちかですね。

それがまた今、議席を足すっていう法案を通そうとしている(2018年7月、参議院議員の定数 を6つ増やす公職選挙法改正案が可決・成立した)んですからね、ふざけるにもほどがありますね。そういう人たちを我々が別に選びたいわけじゃないんだけど、選んでいるっていうことなんですね。

イノベーションの本質は、なぜ今までこれがなかったのかという「潜在需要の顕在化」ということではないだろうかと思います。難しいからできないのではなく、思いつくか思いつかないか、実行するかしないか、そういうことだと思うんですね。(社会は)どんどんスピードを上げていきますので、イノベーティブな組織でないと生き残れないということですね。

消費者自ら製品を調査比較してその価値を決める。少子高齢化や国民所得の減少による消費の価値観の変化ということによって、シェアリングビジネスとか、あるいは借りる、あるいは買ったものはすぐに売ってしまう、というメルカリみたいなことも起きますよね。当然、マーケットが変わりますから企業は急激な変化と継続的な変化を洞察して、その変化に自らを適応させないとならなくなる。

「夢中になる」ことが人間の進化に繋がる

私はイノベーションの基礎というのは好奇心だと考えています。なるべく多くの、広い分野に好奇心を広げ、そこから知見を得てくるということがクリエイティビティに繋がり、それを基礎にしてイノベーションが起きるんじゃないだろうかと思うんですね。

だから、クリエイティビティは「生まれつきの才能」や「一部の人たちが持つ特殊な才能」だとは言えないでしょう。個人の人生の中で獲得して発展させていくということです。(大切なのは)これを人事が認識することなんですね。

人間の頭脳っていうのは、個人差がほとんどないんです。だいたい20パーセントぐらいしか使わないんですからね。残り80パーセントはそのまま(使わないで)あの世に持っていく。100歳まで生きれば、25パーセントぐらいまで使うかも知れませんけど。

それではビジネスパーソンっていったい何なんだろうか。そして、学校っていうのは何なんだろうか。うちにも学校から帰ってくる孫がいるんですけどね。これ大変なことなんですね。学校から帰ってくると塾に行くんですね。それで熱中症でぶっ倒れたりします。この程度で熱中症になるなんてまあ、肉体がひ弱なわけですね。そりゃそう思う。(学校から)帰ってきて塾に行って、それでコンビニの弁当を食べていたりなんかしていたら駄目ですよね。

学校ではリーダーシップと、好奇心と、実行力を学ぶ。これは自分とか塾とかでは学べませんから、学校の中でクラブ活動をやったり、地域のスポーツクラブに入ったりすることによって学びます。それで、私は遊びが大事だと(スライドに)書いた。

なにしろ遊びが大事なんだ。なんで遊びが大事かっていうと、遊びは人間が最初に夢中になることだからです。最初は、赤ん坊のときはたぶんお母さんのおっぱいを吸うことに夢中になっていると思いますね。しかし物心ついてから子供が夢中になるのは遊ぶことなんですね。夢中になるっていうことなんです。夢中になれば、人間は進化します。

目標に向かい努力する情熱の「持続力」が評価されるべき

私はですね、ビジネスは、組織というのは個人の活躍の舞台なんだと思います。だから組織に忠誠を尽くすとか、組織を守るために自分を犠牲にするなんていう考え方はまったくの間違い。組織は舞台と考えるべきではないかと思うんですね。

ビジネスは大事です。「知識とか情報を経験によって知恵に変えて、それを行動に移すことによって富に置き換える」ことを私はビジネスと定義します。

それをやるには(スライドを指しながら)あそこに書いてある赤い横線ですね、これが私の考えた能力ですね。BQ 、ビジネスの能力というのは、(BQ=)IQ ×EQ × SQ (感性)というのが書いてある。

もう残り5分だってそこに出て参りましたから、次に行きましょう。次は革新型リーダーに共通する秘訣。入山先生も言っていますよね。クリステンセン( ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセン氏)の言葉を私が少し変えたものです。

何に対しても、なぜ、どうしてという疑問を持つこと。周囲や外界を注意深く観察すること。分野や文化の異なる人と交流すること。広義の趣味や遊びを通じてもろもろの経験を重ねること。発見やアイデアを実際に試してみること。こういうことなんですね。

ですけど、それは生まれつきの才能ではなく努力の賜物です。能力とは目標に向かって努力する情熱の持続力、持続する力。途中で諦めたりしないということを能力だと考え、人事部はそういう評価をすべきだと私は思うんですね。学校の名前だとか、偏差値だとか、そういうようなことではないんですね。そう思います。

日本が他国に見下されている理由とは

次は夢中力の公式というのを考えるんですね。夢中力というのは、さっき「Do get different, do different.」みたいな話をしましたけど、私はアインシュタインのE=MC² というのは人間が考えた最も美しい公式だと思っています。

私もアインシュタインぐらいのことが出来ないかなと考えた結果が、(スライドを指しながら)A=CS² なんですね。これは、能力というのは集中して努力したその二乗にイコールだと。なんか公式がよく似ていますよね。左側は私が考えました。まだ「ノーベル賞をあげる」っていう連絡が来ないんですけどね。……誰も笑いませんね。

(会場笑)

実はCS ってのはクレディセゾン(Credit Saisonの略)なんですね。だから私は、やっぱり日本の国民がみんなあのような公式を信じて集中して何かを努力をすれば、日本国民全体の能力があがり、日本の国力があがって、日本が中国とか韓国とかにバカにされないで済むと思うんですよ。

なぜバカにされるかっていうと、経済の成長力が衰えて、依存度が低下したからなんです。韓国も中国も、対日(貿易)依存度がどんどん低下していますよね。もう韓国と日本の間では7パーセントぐらいまで下がってますよね。それではもう、「別に日本なんか、なくたっていいじゃん」「あのままずっと衰退していくんだ」と見ているということですよね。衰退する国なんかは本気で相手にする必要がないんだと思われています。したがってバカにされるんです。

成功するには、夢中になれることを見つけてそれを仕事にするか、与えられた仕事に夢中になるしかない。過去の日本の企業では、与えられた仕事に夢中になるしかなかったんですね。なぜかというと選択肢がなかったからですよ。

今は違いますよね。だいたいどんな大企業でも30パーセントぐらいの人がすぐ辞めています。それで5年経つと、平均すると60パーセントぐらいの人が辞めちゃっていますからね。(それはそれで)いいんだけどもと思いますね。いよいよ時間ですね。

オープンなかたちでイノベーションを模索する

クレディセゾンがどう伸びていくかというと、企業というのは何なんだろうかというのをやるために、いろんなことをやります。

宣伝とかそういうものを電通さんとか博報堂さんに丸投げしてね、それで広告なんかを作っている時代はもう終わっちゃったんですね。自分でやらなきゃだめなんです。……残り1分しかない。

残り1分だから、次に行きます。オープンイノベーションについて、ずっとやっています。イノベーションなんか自分たちだけではできっこないですからね。いろんなかたちで、ああいう人たちと仲良くなることによって、いわゆるオープンイノベーションみたいな戦略ができあがるということになります。

グローバルには何をやっているかというと、東南アジアのベトナムの会社は資本参加してから3年しか経っていませんけど、8,000人以上の社員がそこで仕事をしております。今年は7ヶ国ぐらいで(活動を)予定しておりますので、(これからは)東南アジアがビジネスの舞台になるだろうということですね。

(スライドを指しながら)もう終わりだというので、これですね。企業というのは、こういうネットワーク、人脈・社脈を広げていくものでして、どんどん拡大していきます。そして、自分の企業の中で納まってしまうような考え方は駄目なんじゃないだろうかと思います。

去年(2017年)の9月に全従業員を正社員にしております。(正社員になりたくないという)本人の希望がない限り全員、正社員です。次はどういうことをやっているかというと、女性の比率を増やすとか、あるいはその(資料の)最後のページになりますけど、私どもの企業はヒューマニズムの風土づくりということで、言論の自由というものを大事にします。

ページの次に……。終わりですか? じゃあこれでもう終わりにしたいと思います。

(会場笑)

変わりゆく環境の中、自社を衰退させない人事戦略とは

90分かけられれば、間にいろいろおもしろい漫談とかできたんですけどね。

もうみなさま方のお子さんたちの時代では、小学校から帰ってきて、塾に行って、そこで偏差値を上げ、そこでエスカレーター式の学校に入って、その後に現在ある一流企業に行こうって言ったって、(その頃には)そういう企業はなくなりますからね。

企業の寿命は15年になっちゃいました。(定年も延びて)我々が勤めるのはこれからは最低でも45年。そうすると人生の中で3回会社を変わるというのが平均的な人生、ビジネスマン人生になると思います。否応なしにそういうことを意識した育て方をした方がいいんじゃないかなと思います。

これから2020年以降に、ものすごく社会が変わっていきます。そこで生き延びられるような社員をなるべく会社が育てること、万一会社がおかしくなっても他の企業で十分活躍できるような(優秀な)人材を作ることが、自社が衰退しないための最大の要素になるんじゃないかなと私は思います。

ちょっと時間が長くなって勝手な話をいたしました。大変失礼いたしました。

どうもご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)