共通点は「コミュニケーション職種」の活性化

松本洋介氏(以下、松本):LiB代表の松本です。本日はよろしくお願いします。今回、第1回の「HR Knowledge CAMP」ということで開催させていただいたのですけれども、すごく豪華なお三方のゲストにお越しいただきました。

まず、労務管理のSaaSビジネスとして急拡大されているSmartHRの宮田社長、よろしくお願いします。

宮田昇始氏(以下、宮田):よろしくお願いします。宮田です。

松本:そして医療ベンチャーの雄、メドレーの加藤さんです。よろしくお願いします。

加藤恭輔氏(以下、加藤):よろしくお願いします。

松本:先日、めでたくユニコーンの名にふさわしいスケール感で上場されたメルカリの石黒さんです。よろしくお願いします。

石黒卓弥氏(以下、石黒):石黒です。よろしくお願いします。

松本:よろしくお願いします。今回は採用だけではなく、今のビジネスに大事なテーマをふまえながら、HRの話とかけあわせてお話を聞ければと思っています。

僕から簡単に補足させていただきます。少し前までの勝っているベンチャーや伸びている企業は、非常にプロダクトドリブンというか、いいサービス・いいプロダクトを作って伸ばしていくということで、エンジニアやデザイナーが主体でした。

もちろん各社のみなさん、(今でも)そのような一面があると思うんですけど、僕たちは中途採用をお手伝いしている中で、最近、非常に増えているポジションがあります。

それは何かというと、例えば、クライアントサクセスやカスタマーサポート、オンボーディングというポジションです。

要は、人のコミュニケーションや体験のサポート、顧客の育成という観点も含めたユーザーエクスペリエンスを、プロダクトだけではなく、「技術と人」の掛け算で強くしている企業が最近すごく目立っています。

僕たちは、そのような会社が選ばれたり、強いLTV(Life Time Value、顧客生産価値)、低いチャーンレート(解約率)を実現していて、勝ち残っているなと感じて、中立的に採用の動きを見ています。

今日はそのような観点でお三方にお声がけをさせていただいたので、プロダクトの強さを大前提とした上で、コミュニケーションを掛け合わせた技術と人、強いビジネスモデル、強いユーザーエクスペリエンスをどう作るのかということをお聞きしたいと思っています。

では、さっそくお聞きしたいと思います。

プロダクトの強さに加えて、人材やコミュニケーションの強みをどのように事業に組み込み、ビジネスや組織図を設計されているのか。宮田社長、いかがでしょうか。

SmartHRの解約率を改善した施策

宮田:「SmartHR」というサービスをやっている宮田です。SmartHRは、SaaSと呼ばれるビジネスで、サブスクリプション型で提供しているサービスです。

このサービスのKPIとして重要なのが解約率です。

(一般的に)SaaSのビジネスでは、月次の解約率が2パーセントを下回っていれば順調とされています。

こちらはSaaSの指標で言うと、継続利用期間が5年という計算になります。5年使ってもらえたら、マーケティングなどにも大胆にコストがかけられる、という指標が解約率2パーセントです。

では、SmartHRの解約率がどれぐらいかというと、今、0.2~0.4パーセントの間を行ったり来たりしています。

松本:すごいですね。

宮田:ありがとうございます。すごくいい数字が出ているのは、プロダクトの力もあるのですが、うちの会社にはカスタマーサクセスチームがあって、そのチームのがんばりがけっこう大きいと思っています。

サービスの初期には解約率が2パーセントを超える月も多かったのですが、それをどんどん下げていったという感じです。

どうやって下げていったかというと、カスタマーサクセスチームが、解約したお客様を訪問して、解約理由をしっかりとヒアリングして、それをどんどん潰していったり、解約の兆候があるお客様や、サービスを使いこなせているかどうかをスコアで出して、スコアが低いお客様は重点的にケアしたりして、それがビジネスのKPIにどんどん反映されているという感じです。

松本:御社のカスタマーサクセスチームのミッションはどのような言葉になるんですか?

宮田:我々の会社に限らず、カスタマーサクセスという職種のミッションは、お客様の成功なんですよね。

何か課題があってSmartHRというサービスを使ってもらっているはずなので、その課題を一緒に解決することが、カスタマーサクセスチームがやるべきことです。

そして、カスタマーサクセスチームは、お客様を成功に導く過程で、もともとあった課題を一緒に解決するということがミッションになっています。

松本:なるほど。何が起きているのかを現場にヒアリングに行き、そこで問題を特定して、事前に解約に気づくようなモニタリングの仕組みを入れて、お客様が満足して使い続ける状態の打ち手を回すチームということでよろしいでしょうか。

宮田:そうですね。あとは例えば、ソーシャルゲームのような、たくさんのデータがあって、ユーザーの動きがわかりやすいサービスだと、提供する側もやることがわかりやすいのですが、我々のようなtoBのサービスでは、定量的なデータよりも定性的な情報が大事だったりします。

これは画面を見ているだけでは出てこないので、実際にお客様のところに行って、顔を合わせて「本当はどのあたりが課題だったんですか?」ということをちゃんと聞いて、定性的な情報からサービスに問題があったらそこを改善していく、ということをやっています。

松本:なるほど。ありがとうございます。加藤さんはいかがでしょうか?

メドレーが切り開く、オンライン診療市場の可能性

加藤:実際にメドレーにもカスタマーサクセスチームがあります。うちの場合はセールスチームが受注すると、カスタマーサクセスチームが入り込んで、お客様に伴走していくというかたちをとっています。今、そのチームのメンバーがどんどん増えてきていて、事業の要になってきています。

松本:なるほど。

加藤:(メドレーが提供している)「CLINICS(クリニクス)」はオンライン診療のアプリで、ざっくり言うと、病院に行かなくても、スマートフォンやPCを通じてお医者さんの診療を受けることができるというサービスです。

法律的にも、数年前の通達で全国的にサービス提供をして問題ないことが示されたものなので、そもそもオンライン診療をどのようにやってよいのか、前例もほとんどなく手探りのような状況なので、カスタマーサクセスチームが健全な市場の構築に向けて、市場の啓蒙からやっているというところが特徴だと思います。

松本:加藤さんにお聞きしたかったんですけど、オンラインで診療を受けるという体験は、ほとんどの人がないと思います。

例えば、Airbnbのように顧客を教育していくような、(提供側が)理想とする体験をナビゲートしていく要素が必要で、そこはプロダクトだけではけっこう難しいと思っています。そのあたり、御社ならではの工夫があればお聞かせいただけますか?

加藤:まさに市場黎明期なので、そもそも使い方の成功事例がなかなかマーケットにもないという状況なんですね。なので例えば、全国のどこかでいい事例が出てきたということがあると、その事例をどんどん集めていって、他の医療機関にも積極的に共有していきます。

このような知見は他の何かを待つというより、自分たちでどんどんやっていかないと市場にも溜まっていかないものなので、そこがポイントだと思います。

松本:ありがとうございます。では、石黒さん。メルカリのプロダクトは今、うちのおかんでも使えるぐらいエクセレントだと思います。

石黒:ありがとうございます。

松本:一方、個人と個人で物を売り買いする体験というのは、メルカリのおかげで当たり前になりつつあるんですけど、相当難しかったのではないかと思っています。

僕も実際に送った靴が「サイズが違う」と怒られたことがあったんですけど、そういった時のサポート対応というか、未体験と未体験をつなぐ、プロダクトと人の攻めぎ合いのような話をぜひ聞いてみたいと思います。

メルカリ「カスタマーサービスチーム」の役割

石黒:メルカリは7月から、カスタマーサポートというチームの名前を「カスタマーサービス」に変えて、より能動的なアクションを名前にすることで、実態に合わせていくところです。

今、松本さんからいただいたお話でいうと、私たちのビジネスはいわゆるCtoCなので、お客様同士のやりとりが基本です。

メルカリがルールを作っているように見えるのですが、ルールを作っているわけではありません。基本的にルールは少なく、お客様同士で解決していただく。

そこでもしうまくいかないことや方向性を誤りそうなものがあれば、そっと手を差し伸べるようなカスタマーサービスになっています。

松本:なるほど。最初からカスタマーサービスに投資するという決め方ができたり、大きなお金が張れたりというように、コミュニケーションやオペレーションのとらえ方が違うなと思っています。メルカリの(カスタマーサービスの)設計や投資というのは、誰がどのようにリーダーシップを取って進めていかれたのでしょうか?

石黒:メルカリは2014年4月に仙台にカスタマーサービスの拠点を作っています。メルカリは2013年7月にサービスローンチを行い、1年後のまだ(ダウンロード数が)500万とか600万のときに、仙台の拠点を開設していて、今では数百人を抱える規模になりました。

当時から小泉や山田が大胆な決断をして、「仙台の採用だけでは難しくなってきたな」と感じたら、福岡の拠点を立ち上げて、「次はどの拠点を検討するか」という議論も始めている状態です。

松本:なるほど。メドレーはどうですか? 加藤さんから見て、ユーザーエクスペリエンスに強い意志のある投資はされていますか?

加藤:先ほどのカスタマーサクセスの話もそうですけれども、僕らの場合、まさに言葉のまま「プロダクトエクセレンス」と「オペレーションエクセレンス」の2つを軸に掲げて取り組んでいます。

今、組織的にもプロダクトマネージャーと事業部長が常にペアになっていて、2トップ体制でバランスを取っています。

なので、とくに医療系のサービスはそうですけれども、オペレーションとセットでUXを作っていくということを、組織としても表現していこうとしています。

松本:プロダクトマネージャーと事業部長の2トップがセットというのは、すごくおもしろいですね。

加藤:そうですね。やっぱりやっていて、そこのバランス感がすごい大事だなと感じる部分があったので、その組織体制に変えたという感じです。

松本:なるほど、「その両輪で勝つんだ」という。少し話の軸が変わるんですけど、昔、宮田さんがブログで上げていた「同じ営業でも、SaaS型営業は違う」「今後、価値がすごく高まると思う」という記事がすごく刺さって、本当におっしゃるとおりだと思いました。

御社が求めるものというか、これからプロダクトを伸ばしていくために、営業にはどのような要素が必要だと思われますか?

優秀な営業マンはプロダクトを押し売りしない

宮田:僕は、新卒でWeb制作の会社に入ったんですけど、そこでは「売れないものを売れる営業がすごい」という感じでした。「何でも売ってこい」みたいな。

僕は今、その真逆だと思っていて、「売れないものは売れなくていいです」と。それよりも顧客の課題をきちんと見極めて、開発側にフィードバックできるのが優秀な営業マンだと思っています。お客様の課題にそぐわなかったら、無理して売らなくてもいいんです。

松本:難しいですね。従来型の営業はつい売ってしまったり、説得してしまったりすると思うんですよね。御社で活躍している営業の方は、元営業ではない人もいるのでしょうか?

宮田:元営業じゃないメンバーもいます。みんな入社して最初に苦労するのが、ゴリゴリの営業スタイルで行こうとすると逆に売れないということで、苦労するメンバーが多いです。

松本:なるほど。

宮田:それで無理に売ろうとしなくなったら売れ始める、ということがけっこう多いんです。どちらかというと、我々が営業しに行く先は労務担当者の方で、営業慣れしていない方が多いんです。なので、あまりゴリゴリ行ってしまうと引いてしまいます。

あとは先ほど言ったように、うちの会社の中では解約率が重要なKPIなので、無理に売って解約されてしまったら、「●●さんの案件、毎回解約されてますね」となってしまうので、無理に売りたくないような仕組みになっています。

松本:なるほど、それはすごく上手ですね。では次のお題です。

似たプロダクトはたくさんあるし、ちょっといいなと思ったマーケットにはすぐ人が攻めてきます。本当にアイデア・企画だけでは差がつかない時代になって、ビジネスがむずかしくなったなと思います。

各社苦心されていると思うのですけれども、事業優位性を生み出すため、人によるコミュニケーションを引き出すための工夫というところで、組織の作り方、設計、登用、権限移譲などについてお聞きできればと思います。石黒さん、どうでしょうか?

メルカリが求めるのは変化への許容性

石黒:そうですね。先に言ってしまうと、組織の作り方や設計みたいなところは「答え」がないじゃないですか。

いろんなことをトライしてみるというところがあって、Twitterかブログでも書いていますけれど、スタートアップのシーンでは、変化への許容性がすごく大事になると思います。

例えば、担当のアサインが変わる、組織が変わるというときに「え? 組織変わるんですか?」と思うのと「組織が変わったんだ。でも目指すものは同じ、やることは変わらない」と思うのでは、だいぶ違うと思います。

当然、組織を変える側の説明責任も必要なんですけれども、採用選考の段階で、メンバーの変化に対する許容性はしっかり見ていく必要があると思っています。

松本:先ほど「カスタマーサポートが、カスタマーサービスという名前に変わりました」という話があったり、メルペイが始まったり、いろんな変化があるんだなと思いました。

石黒:相対比較はできないですけど、やっぱりすごく変化が多いんじゃないかなと思います。3年半で60人が1000人になっているわけですから。

なので採用の観点でいうと、ソウゾウやメルペイなど、グループカンパニーを生み出すことによって、候補者の方が(メルカリ以外に)多様なチャレンジができる見せ方をしていくというのは、常にやっていることです。

後は例えば、組織でも「内部監査」という名前の募集を出すのと、「事業コンサル」という名前の募集を出すのとでは、メッセージングがだいぶ違いますよね。

先ほどの、カスタマーサービスでいうと、小泉が持っていたコーポレート部門から、CPOの濱田が管掌するプロダクト部門に移管したのですが、これも社内に対する「もっとプロダクトに寄っていこう」という大きなメッセージだったりします。

松本:ありがとうございます。続いて、加藤さんにもお聞きしたいと思います。

弊社もお付き合いをさせていただいているんですけど、すごい採用上手というか、各社を回っていると、「メドレーさんはどうやっているの?」ってめっちゃ聞かれます。

加藤さんのFacebookは本当におもしろくて、「このような媒体を使っていて、このような媒体から月何人採れるようになった」とか、「ここをこう回したら成果が上がった」とか、 今やっている手法や採用ペースを、定期的にサマリーで上げているんですよね。

僕は今、最も採用上手な人事なんじゃないかと思っているんですけれど、マーケットリーダーとして(事業を)作っていく中で、(必要なのは)決まったことだけをやる人ではないと思います。そういう人たちを採りに行く難しい採用において、工夫されていることはありますでしょうか?

7つのブログを活用する、メドレーの採用手法

加藤:決まったことだけをやる人を取るのであれば、ずっとエージェントさんに「オペレーションをやれる人をガンガンください」とお願いして、募集要項や条件を伝えればいいと思うんですけど、おっしゃるとおり、事業を作っていく存在が欲しいんですよね。

そういう人はやっぱり企画が好きだろうなと思って、「ちゃんと企画が受け入れられるような土壌や風土があるよ」と、ブログなどの企画を通じて伝えていくことが大切かなと。メドレーとしても、王道の企画と遊びの企画、個人でやる分と設計をして、それを基に発信しています。

松本:王道・遊び・個人、具体的にどんなものがあるんですか?

加藤:例えば今、メドレーでは7つぐらいブログを走らせています。

その内の4つはwantedly上のフィードという機能を活用していて、他の3つに関しては独自のブログで書いているんですけど、王道のところでいうと「入社理由ブログ(「私がメドレーに入社した理由」)」があります。メンバーがなぜメドレーに来たのかということを3週間に1回くらいのペースで書いていて、今では40人以上の連載が1年半続いています。

これは僕がメドレーに転職した時に、メドレーの認知を高めるためのネタを探す中で、「メドレーのメンバーっておもしろい、人の魅力がたくさん詰まった会社だ」と思ったので、この企画で伝えていくのがいいんじゃないかということで、開始したものになります。

それ以外では、例えば、平木というエンジニアが社内のメンバーに取材してまわるブログ(メドレー平木の「気になるあの人に聞いてみた」)があり、人間味を伝えるような企画になっています。今ではスピンオフして、社外の気になる方や会社の話も聞いてみようということで動いています。

メドレーを1つの法人格として見たときに、「かっこいいメドレー」や「かわいいメドレー」があるなと思うんです。そのいろいろな要素が詰まってミックスされた人格を伝えるためには、直線的なやり方だけではない、いろんなやり方があるんだろうなと思うんですね。

なので、平日だけではなくて、土曜日にちょっと内部事情をお伝えするようなブログ(広報チームの「土曜日に読むメドレー」)を書いてみたり、使い分けの中でいろんな側面を伝えていこうとしています。

松本:法人格を一義的ではなく、多面的にチャーミングな部分や熱い部分、というかたちで分けて出していくというのはすごくいいですね。

加藤:そうですね。人の印象というのはただ目で見るだけではなく、よく耳で聞いている印象や目で見ている印象など、いろんなことがあると思うんですけど、ブログに限らずあらゆる方法を活用することで、その五感をフルに活用しながら、メドレーのことを感じ取ってもらえるようにしていきたいと考えています。

松本:もう1個だけお聞きしたいんですけど、もともとクックパッドを含めて、いろんな会社で活躍してきた加藤さんから客観的に見て、メドレーという組織の強さはどこだと定義しますか?

メドレー採用責任者が語る組織の強み

加藤:医療はみんなが手を出しづらいというか、すごく大変な領域だと思うんですよね。

プロダクトもできていないといけないし、オペレーションもちゃんとできていないといけないし、医師会や政府の方など、いろんな方のご意見を伺ったり、2年に1回の診療報酬改定に対応したり、あらゆることをすべてやりきらないと勝てない。

かつ短期思考ではなく長期思考で、20~30年、ないしはもっと長いスパンで考えないと課題解決できないというところがあります。それが目指せるような長期思考のトップマネジメントと、バリューの1つにある「凡事徹底」という、「誰にでもできるような凡事を、非凡な水準で成し遂げよう」ということをメッセージとして掲げて取り組んでいます。なので、やっぱりそこが僕らの強さかなと思っています。

松本:「凡事徹底」という言葉は素晴らしいなと思っていて、まさに玄人経営だなと思うんですけれども、一方でスタートアップはモメンタムというか、その伸びている感、来てる感、渦中の中みたいな勢いがすべてを癒している面があると思っています。

メドレーの中長期の目線や「10年かけて突破しよう」ということとは相反すると思っているんですけど、はたから見ていて、メドレーはすごくモメンタムに感じるんです。そのあたりは、どのように折り合いをつけているんですか?

加藤:医療に取り組むうえで、「凡事徹底」というバリューがあるという話をしたんですけど、実は医療の課題に長期的な視点に立って取り組んでいこうという、「未来志向」というバリューもあります。まずはちゃんと目指す未来を見据えながら、その目線で会話しようという考え方です。

短期的・中期的なところでは、今、半期で100名(採用)というかたちで、270名のチームなんですけれども。

松本:すごくないですか? 半期で100名ですよ。

加藤:去年は通期で100人ぐらいでした。今期は半期で100人ぐらいですね。事業規模の拡大に合わせて採用ペースも上がってきています。

必ずしも人が増えているからいいという話ではないんですけど、プロダクトとオペレーションの両方を洗練させるというところにコアコンピタンスがあるので、どうしても組織が大きくなっていくことで初めて課題解決できることがあると。

急拡大する組織だと、会社の動きがどんどんわからなくなってしまうという課題が出てきますが、そこは「週刊メドレー」という、毎週金曜日にメドレーであった様々なイベントや露出などについてまとめて発信するブログを活用しています。

週刊メドレーを通じて随時社内的な動きを社会に発信し続けると共に、その内容をSlackなどを通じて社内にも共有していくことで、最終的には社内広報にも効果が出るという設計にしています。

松本:相乗効果で全部がうまく回っていますね。リンクアンドモチベーションの麻野(耕司)さんがおっしゃっていたのが、「モチベーションカンフル剤ではなくて、モメンタムカンフル剤だ」ということで、いかに組織がモメンタム、勢いを感じることができるか。

「うちのチーム勢いがあるな、乗っているな」と思わせるのは、「採用で新しい人が入ってくる」。もっと言うと、「すごい人が入ってきたな」ということと「発信量」の2つにすごく依存すると言っていたのですが、加藤さんのお話をお聞きして、まさにそうだなと思いました。

宮田社長はどうでしょうか? 組織設計で御社ならではの工夫や意識しているテーマ、個人的なコンセプトなどがあればお願いします。

コンセプトは「100の問題を50人で2問ずつ解く経営」

宮田:そうですね。うちの会社のコンセプトとして、「100の問題を50人で2問ずつ解く経営」と例えて言っています。

100の問題というのは何かというと、スタートアップを創業して、上場まで持っていくためには、どんなプロダクトを作るのか、どうやって売るのか、どうやって資金調達するか、という難しい問題をたくさん解いていかなければいけないのですが、社長1人で100問を解こうとすると時間もかかるし、トライ&エラーもできないので、正解から遠くなると思っています。

そこで、メンバーは今60名ぐらいなのですが、仮に50人として、50人で2問ずつ振り分けることができれば、解き終わるまでがすごく早いし、1問1問に何度もトライ&エラーできるので、正解により近くなると思っています。

そのような、みんなで課題を見つけて、みんなで解いていく経営スタイルでやっているのですが、これはいきなりやろうと思ってもできません。

それを実現するために、会社として気を付けていることが3つあります。

1つは、うちの会社のバリューを行動規範というか、判断基準においています。あとはフラットな組織を作って、若いメンバーでもいろいろ言いやすくするということがあるのですが、一番大事なのは情報をオープンにすることだと思っています。

うちの場合、会社の決定事項や口座の残高状況まで入った経営会議の議事録がオープンになっていて、誰でも見れるようになっていますし、経営会議が終わった後に全員を集まって、経営会議で議論した内容をみんなに伝えたり。

その最中も、リアルタイムで質問を集められるツールを使って、終わった後に1個1個回答していくということを毎週やっています。

松本:すごいですね。みんな参加しているんですね。

宮田:そうすると、僕ら経営陣が持っている情報とメンバーが持っている情報がほぼ同じになりますし、「どういう判断をしているのか」が伝わるので、現場レベルで大きな意思決定ができるようになってきます。

それだけではなくて、「今、KPIこんな感じです」とか、「今週の残高コーナー」といって、いくらお金が出て行って、いくら入ってきて、いくら残ってますということをやっています。

そうするとメンバーと意見がずれることがなくなります。例えば、マーケチームがお金がたくさん使えると思っていて、CFOがもうカツカツだと思っていると、お互いの判断基準がまったく合わなくなるんです。

それで、「今は残高がカツカツだけど、事業も順調だし、資金調達もできそうだから、アクセル踏み続けよう」といった判断は、同じ情報を持って、同じような意思決定のプロセスを踏んでいるから、現場レベルでどんどんできるようになるという。

松本:今、すんごいメモりたい(笑)。根っこにあるのは、社長が全部問題を解く戦い方ではなくて、50人で2問で100問解くやり方ででやるという主体性を発揮して、それぞれを引っ張り出すと。それには情報という武器が必要なので、武器をオープンにして、フラットな関係で、最低限のルールだけは守ろう、ということを整理するということですよね。

宮田:最低限のルールというか、判断基準ですね。持っている情報が同じで、判断基準が一緒だと、意思決定が似ると思っています。あとはそれを発信できるかどうかなので、発信しやすいようになるべくフラットな環境を整えることが重要だと思っています。

松本:なるほど、ありがとうございます。そろそろ時間なので、お三方に最後の質問をしたいと思います。

事業優位性のある組織を作っていくためのテーマや課題を聞かせていただけますでしょうか? 石黒さん、いかがでしょう?

名前と顔が一致しなくても「メルカリの社員だから信頼できる」

石黒:今の宮田さんの話にすごく似ているんですけど、メルカリはずっと「性善説」と言ってきて、最近新しいメンバーとカジュアルにランチを食べていると「500人とか600人とかならわかるんですけど、1000人を超えて、僕らの会社はどこまで性善説で行けるんですか?」という質問を受けるんです。

「どこまで行けるんですか?」と言われたら、二言目には「どこまで行くかはあなたがやるんです」と返すんですけど、これは当事者意識という面で大事なことだなと思っています。

どんな会社もどこかのステージで、「どこかで誰かがやってくれる」と思ってしまうシーンが必ず出てくると思うんですけど、うちで言う3つのバリュー(「Go Bold=大胆にやろう」「All for One=すべては成功のために」「Be Professional=プロフェッショナルであれ」)もそうですし、どこまでお互いを信用し続けて、みんなが性善説を体現するかというところだと思います。

事業が大きくなっていくと、どんどん見えなくなってきて、当然私も全社員の顔と名前が一致するというステージは通り過ぎてしまっているので、そうなってきたときに、知らないんだけれども、メルカリの社員だから信頼できる。ここからスタートできることがすごくキーになると思っていますし、そういう人をしっかり採用し続ける、もしくは啓蒙活動し続けるということだと思っています。

松本:ありがとうございます。加藤さん、いかがでしょう。

「もっと自分事で考えろ」の落とし穴

加藤:そうですね。組織的に2トップ制というか、プロダクトマネージャーと事業部長がいるということがありますけれども、今後はプロダクトサイドもビジネスのことをより深く理解するということとと、ビジネスサイドも、「なぜプロダクトがこうなっているのか」ということを深く理解することが重要になってくると思います。

あとは、これは会社というよりも採用や広報の領域に取り組んでいる私の中での個人的なテーマですが、もうすぐ300人の壁を超えていく中で「能動的に働きたい」と思えるような人が集まる組織をどうしたら作れるか、ということを考えています。

よく上の人ってメンバーに「もっと自分事で考えろ」って言うんですけど、実はメンバーが自分事で考えづらくなってしまう雰囲気を自らが作り出しちゃっている、というケースって一般的によくある落とし穴だと思ってるんですね。

メンバー一人一人の自発的な意欲や能動的に生きたいという感情を引き出して、そういう行動を奨励し評価していく。そういう一貫性の中で、会社としてもその雰囲気をどんどん出していくことがポイントだと考えています。

松本:ありがとうございます。最後に宮田社長、いかがでしょうか。

課題は「言語化」と「潜在的な失敗の発見」

宮田:そうですね。2つありまして、1つがマネジメント層の「うちの会社では、こういうリーダーシップ、こういうマネジメントが正しい」という言語化が必要だなと考えています。

もう1つは、おかげさまで事業も組織もけっこう順調なのですが、目に見えている部分が順調なだけで、見えていない潜在的な失敗があるんじゃないかということをすごく感じていて、この潜在的な失敗を常時発見できるような組織運営にしていかなければいけないと考えています。

後者は少しぼんやりしているんですけど、前者はやることがけっこう明確です。

うちの会社は今、60名ぐらいで、ほとんどのメンバーがたたき上げと言いますか、マネジメント経験がないまま、「会社が大きくなったのでマネジメントをやる」みたいな感じになっています。

あとはプロダクトに対する思いが強くて、かつ個性的なメンバーが多いので(笑)、一般的なマネジメントやリーダーシップが合わなかったりもします。

なので、「うちの会社の中ではどういうリーダーシップやマネジメントスタイルが正しいのか」という定義をしないと、リーダー陣もやり方がわかりません。

そのようなところを、リーダー陣で研修を受けたりして、「ここは伸ばしていこう」とか、「ここは捨てよう」ということを今まさに定義している最中です。

松本:ありがとうございます。これでトークセッションは終わりにさせていただきます。Q&Aの時間を設けていたのですが、時間が押してしまったので、1〜2問だけ受けたいと思います。

採用時にカルチャーフィットを見る重要性

質問者1:採用計画の根拠をどのように計算されているのか、教えていただきたいと思います。

宮田:日本では少ないんですけれども、海外には伸びているSaaSの会社がたくさんあって、「こういう指標を重視しなさい」「参考にする数値はこれがいいですよ」いうことが、とてもわかりやすく出ています。

例えば、「カスタマーサクセスはARR(年次収益)1億円につき、何人採りなさい」というところまで指標が出ています。

なので、「その一般的なSaaS企業と比べて、うちの会社の単価が安くて、対象顧客が多いから、こういう判断をしましょう」とか、「今はアクセルを踏む時期だから、良いとされている指標よりも踏み目でいきましょう」とか、そのような感じで考えています。

質問者2:人数が増えていくにあたって、どのようにビジョンの浸透をされているのか。具体的な方法があれば教えてください。

石黒:ありがとうございます。本当に300回ぐらいご質問を受ける内容なんですけれども(笑)、まず「どうやって浸透させるんですか」という考えは変えたほうがよくて、先に採用の時点でバリューマッチをしっかり見ていくことだと思います。

僕らは採用目線で「Go Boldかどうか」「All for Oneなのかどうか」「Be Professionalなのかどうか」を判断の基準にして採用活動をしています。

なので、もちろん採用が完璧ではない前提なのですが、そのバリューにフィットした人だけをまず採用します。

それで後はSlackのスタンプにする、Tシャツにする、会議室の名前にする、そういった活動を通じてメンバーがが「Go Boldにやってないじゃん」と使うぐらいまで浸透させていくという感じです。

加藤:全部同じなんですけど、うちも3つのバリューの名前の会議室があります。「凡事徹底」は、これからあらためて引き締めて行こう、というようなトーンの時に使うとか。未来のことを語る時には、ちょっとこっち(「未来志向」)に行こうか、大胆な意志決定をする時には「中央突破」にしたり……と言いつつ、最近人が増えて、使いたい会議室が抑えられていることも多々あるんですけど。

もともとメルカリさんのオフィスなので、(会議室のネームタグの)「Go Bold」を「中央突破」に変えたりしていました。全部手法として同じです。

強いて言うと、バリューを浸透させていくというのは、(メルカリさんでいうところの)「Go Boldじゃないじゃん」のように、日常会話の中やちょっとした冗談など、ことあるごとに出てくるようなワードにしていくために、言葉としての遊びのバリエーションをどれだけ作れるかどうかが大事ですね。

松本:ありがとうございます。宮田社長、いかがでしょうか。

宮田:ほぼ同じです。Slackの絵文字とか、日常的な会話で自然に使われるとか。出なかった話でいうと、うちの会社は評価制度にバリューがそのまま組み込まれているので、面接のときには求職者の方に「うちの会社は評価制度にバリューがどれだけ体現できているかを見ていて、バリューに共感できるなら給料が上がりやすいので入社してください。共感できないなら、たぶん給料が上がらないので、入社しないほうがいいですよ」と必ずお伝えしています。そこでスクリーニングもできていると思います。

あとは「嫌な体験と結びつけない」ということをかなり気を付けています。僕が昔いた会社は、朝礼でバリューを読み上げさせるということがあって、それがすごく嫌いでした。そういう嫌な経験と紐づくところに絶対にバリューは置かないようにしています。

松本:ありがとうございます。素敵なお話をここまで出し切ってくださったお三方に、盛大な拍手をお願いします。ありがとうございました

(会場拍手)