生煮えのプランから起業、南氏がココナラにたどり着くまで

司会者:それでは、まず初めにココナラの南さんをお迎えしたいと思います。みなさん拍手でお迎えください。

(会場拍手)

南章行氏(以下、南):みなさんこんばんは。ココナラという会社の代表をしております、南と申します。よろしくお願いします。

簡単に自己紹介させていただくと名古屋出身の慶応出身で、最初の職歴としては住友銀行というところに5年くらいいました。そのあとアドバンテッジパートナーズという企業買収ファンドに7年半くらいいまして、そこが一番長いキャリアとなっています。

今、起業して6年半くらいです。もともと大学時代から企業再生をやりたくてそのようなキャリアを選んでいたのですが、途中で一回オックスフォードのMBAに行って、そこでいろいろ社会起業だとかに刺激を受けて、NPOをいくつか立ち上げていく中でいろいろ気付きがあって、今のココナラをやるに至りました。

ただ実は、ココナラも最初から思いついていたわけではなくて、最初は震災をきっかけにヘルスケアで起業しようぜ、と思っていました。まだプランも生煮えだったんですが、勢い余って会社を辞めてしまったんですね。

Twitterで知り合っていた友人と「一緒にやっちゃおうぜ」ということで、とりあえず会社を辞めるところから起業の準備に入ったんです。生煮えのプランだったので「ヘルスケア上手くいかんな」と思いました。

3ケ月くらいしたところで、もう一回知恵を絞って今のココナラにたどり着きました。いろいろときっかけはあったんですが、このへんはもう本筋じゃないのでさらっと飛ばします。

そのときに、こういった個人のエンパワメントをしたいというのは最初の最初から強くありました。(スライドを指して)実はこれはミッションステートメントと呼んでるものです。

僕らは一番上にビジョンがあって、それを実際にプロダクトレベルで何をやるかを落としたミッションと、それからそれに到達するためには何をすべきか、どうありたいかというバリューと呼ばれる三角形の組み合わせで作っています。

ここにはちょっと書いていないんですけど、ビジョンステートメントそのものは、ヘルスケアのときに作ったんです。そこからココナラというスキルのフリーマーケットに移ったんですが、実はその頃からぜんぜん変わらずに、チームも崩壊することなくやれたということがけっこう良かったかなと思います。

急成長するココナラには早い段階でビジョンがあった

:要は、ココナラができる前からあったビジョンをそのまま引き継いでやっているので、比較的初期の頃からちゃんとビジョンを作って上手くいったタイプの会社なんじゃないかなと思っています。ココナラは知ってる人も知らない人もいるとは思うんですが、すごくざっくり言うとメルカリのスキル版みたいなサービスです。

個人が「なになにを教えます」「アドバイスします」みたいなものをサービスとして販売できるサイトですね。(スライドを指して)ちょっと遠いから見えにくいかもしれませんけど、この画面の左側が僕が実際に売っているサービスです。「転職相談に乗りますよ」とか、そういったものを購入していただければ僕が相談に乗ったりします。

最近では「起業の相談に乗ります」というのを売っています。1時間1万円くらいでやっているんですが、けっこう売れるので、最近は「世の中意外と起業したいは人たくさんいるんだな」と思いながら相談に乗っています。

(スライドを指して)これは実際ココナラを使っている人たちの写真です。「産休中に自分のスキルを売れてうれしい」とか、右の人は超大手の電機メーカーに勤めている方で、経営企画を10年くらいやっていたんですが、副業でココナラをやっていたらそれでスイッチが入って独立しちゃいました。そういう方が出たりしています。

この女性はエンジニアなんですが、自分でランジェリーの会社を作って起業するときに、社員が雇えないので必要な機能を全部ココナラで調達しながら会社経営をやっています。そんなような人たちがいっぱい使っているサイトです。

おかげさまで副業解禁とかいろんな環境の後押しもあって、数字を入れてないいやらしいグラフなんですけど、流通高も四半期ベースでこんな感じに伸びていまして、楽しく経営をやれている、というような会社でございます。

社員のミッション・ビジョンへの共感の高さではトップクラス

:ビジョンの話なんですが、僕らの場合、最初からビジョンはしっかり作った方だと思います。きっかけは新しい社員が入ってきた段階、創業者だけじゃなく最初の社員を雇った段階で、ちょっとコミュニケーションにずれが生じるなと感じ始めたので、すぐにそこで数ケ月かけて作りました。

そのときに、実はユーザベースのビジョンをすごい参考にして作ったんですけど、そこを語り始めると30分くらい語れるので、今日はその話には触れずにやっていこうと思います。

ビジョン経営や人事制度の運用は比較的、初期の初期からかなり真面目にやっているタイプの会社なので、社員のエンゲージメントはけっこう高いという自負があります。辞める人が極端に少ないというわけではないんですけど、比較的上手くいっているのかなと思います。

ココナラの社員はどんな感じかというと、平均年齢はちょっと高めの35歳で全員中途です。男女比は、男性が倍くらい多いですが、まあまあ女性も多いような会社です。

エンゲージメントと言っていますが、僕らはアトラエがやっている、wevoxという社員のエンゲージメントスコアを計るものを毎月やりながら、どこの満足度が高くてどこが低いかを毎月チェックしながら経営をしてるんですけど、wevoxを使っている会社の中でもスコアはかなり高い方らしいんです。

アトラエの方いわく、ミッションとかビジョンへの共感がすごく高く出るのは新卒主体の会社ではよくあるらしいんですね。でも、中途社員しかいない会社では、たぶん全社の中でうちがトップクラスらしいです。

それくらいミッション、ビジョンへの共感が高い会社です。スコアで一番高いのがミッションビジョンへの共感、次が価値観。バリューですね。ミッションとバリューへの共感が1番と2番にくるくらい非常に高い。その次に戦略の納得感。

(スライドを指して)スコアのワーストもあえて載せていますが、実はこのあたりの指標も数値としてめちゃくちゃ悪いわけではないんです。相対的に悪いというだけなんですが、例えばミッションビジョンのスコアが低いのに、ワークライフバランスとか仕事量とか成長とか、個人に近いところの数値をどんなに上げても会社は良くならないですね。

エンゲージメントには必ず上流の概念と下流の概念があって、ミッションというのはけっこう上流で、ここを直さない限り会社のコンディションはなかなかよくできない、と理論的には言われているようです。そこを真面目にやっている会社なので、わりとハードに働いてもみんなけっこう心地よく前向きに働けていると思います。

プロダクトと個人のビジョンをきれいに合わせることが大事

:社員に匿名でアンケートを取って「どう考えてるの、このあたり」ということを聞いてみたら、ミッションビジョンへの共感をしている人が多い。

「ビジョンとプロダクトがイコールの関係にあるからすごいやりやすい」とか、面接時にビジョンへの共感度にすごく重きを置いているとか。あとは、みんな口先だけじゃなくて「実体験として会社のビジョンを体現してるのが良い」とか、そんなコメントがけっこうありました。

話すと長くなりますが、「経営者としての僕」として重視してることですが、けっこう会社によってミッションで引っ張るタイプの会社とバリューで引っ張るタイプの会社があるんですね。

ミッションドリブンの会社とバリュードリブンの会社。これは明確にあって、それからミッションドリブンとバリュードリブンが横軸だとしたら、縦軸にtoBかtoCかで、実は経営のやり方がけっこう変わってくると思っています。

ココナラのようなtoCでかつミッションドリブンの会社だとすると「戦略はトップダウンでやりやすいですよ」とか「人事制度がOKRには向いてますよ」とか、けっこう人事制度の絡みで言えることはわりとあるんですが、このあたりも本当に1セッションだと足りないくらいの深い話だったりします。

今回は軽めの話を最後にさっと話して終わろうと思うんですけども、僕のポリシーとしては、プロダクトのビジョンと社員個人のビジョンをきれいに合わせにいく、これをすごく意識してやっています。これができていると、少なくとも現場レベルの判断では、僕が別に何の指図もしなくてもみんなの判断が僕の判断と大きく変わらなくなるんですよね。

マネジメントロスがすごく少なく済んで、超楽です。そのために比較的厳格なエントリーマネジメントをやっていて、仕事ができるできないというところは重視してないわけではないんですけど、僕は面接の中で仕事の話はたぶん1-2割かそこらしか聞かないこともあるくらい。もちろんスキル面は僕の面談の前には確認はされています。なので僕は、ほとんどその人の人生を子どものころからずっと聞いていって、ココナラのミッションとその人の生き方が共鳴しているかを見る。

ココナラを知ってる知らないじゃなくて、生き方そのものが僕が作りたい社会と共鳴しているかだけをすごい見てる。そこまでやっていると、ことさら「ミッションがこうだよね」なんて言わなくても、みんなが勝手にミッションを体現します。

ということで、みんながものすごいミッションへの共感度が高い状態になるので、わりとパキッとミッションを言語化することと、それについてのエントリーマネージメントをちゃんとやることができると会社経営がとても楽になります。

バリューを浸透させたいなら理想を書いてはいけない

:それから、バリューへの共感という意味でいくと、これも匿名アンケートで聞いてみたら、「本当にオープンで焦る」などとありました。オープンで焦ると書いてあったのは、バリューステートメントの中で一番上に「オープンを当たり前に」というようなことが書いてあるので、とくにそういう言及があったんです。

「具体的な数字とかも一切末端の社員まで隠すことなく共有してるよね」とか「なんでもフラットに提案できる」とか。そういったところがすごく入社して「びっくりした」とけっこう言われます。

ミッションじゃなくてバリューのところは、これはめちゃくちゃ声を大にして言いたいです。今日一番伝えたいことが実はこれだったりするんですけど、バリューを作って失敗する会社というのはあってですね、それはバリューが浸透しない会社です。

で、なぜ浸透しないかというと、目指したい理想を書いている会社はだいたいダメです。理想を書いちゃダメなんですね。理想を書いてもぜんぜん守れないし浸透もしない。バリューについては経営陣、あるいは社長が絶対100パーセント自信をもって体現できているもの。それを書かない限り浸透しないですね。

「社長できてねーじゃん」「あの役員の人、このバリュー言ってるけどできてねーじゃん」となった瞬間に一気にしらけます。浸透しないです。逆に経営陣が絶対自信をもって体現できていれば、わざわざバリューを毎朝唱和するとか、そんなことしなくても自然と広まります。

なので、今日どうやったらミッションやバリューが浸透するか気になっている人もいると思うんですけど、目指したい理想は絶対に書かない。とにかく自信を持ってやりきれていることを書く、というのがけっこう重要なのかなと思っています。

僕らの場合、オープンを当たり前にと言っているんですけども、SlackとかでもDMとかプライベートチャネルは原則使うなと言っています。個人の人事目標も全社員にオープンにして、会社の会議室も全部ガラス張りでオープンです。オープンを当たり前にしようと言っている限りにおいてはめちゃくちゃオープンにしてるわけです。

そういうのを日常的にやってると、放っておいても浸透していくのかな、と思っています。ということで、うちココナラの発表を終わりたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:ありがとうございました。ミッションドリブンの会社、ビジョンドリブンの会社、すごくおもしろい考え方だなと聞いてて思いました。