分析チームのマネージャーたちが語る、成果を出す分析と組織作り

北川拓也氏(以下、北川):こんにちは。今日モデレーションをやるという話だったんですけど、いきなり声が潰れてまして……(笑)。ちょっと聞こえづらいかもしれませんけど、頑張りますのでよろしくお願いいたします。はじめは自己紹介かな? みなさんからかな?

樫田光氏(以下、樫田):スライド的に北川さんからですかね。

北川:ではお先に、僕の簡単な自己紹介から失礼します。北川と申します。

僕はもともと理論物理をやっている人間でして、量子コンピュータの基礎となるような技術を研究しておりました。

そのあと楽天に入社して、今はチーフデータオフィサーとして、楽天グループ全体のデータの戦略・実行をしています。

ウチのチームは最近、グローバルに展開していまして、アメリカにもグローバルデータオフィスというかたちで立ち上げて、(そこに)人がいるのと、(プロダクト)カタログ部という商品のデータをきれいにするという、すごく大変な仕事がありまして、それがフランスやインド、中国などに散らばっている感じです。

同時に電通さんとの楽天データマーケティングというジョイベン(ジョイントベンチャー)で、取締役として広告事業の立ち上げをやっております。

じゃあ次、樫田さん。

外資系コンサル、起業、ニート期間を経てメルカリへ

樫田:株式会社メルカリの樫田と申します。私はメルカリに入って今だいたい2年くらいで、データ分析チームのマネージャーをやっています。

一応マネージャーという肩書で、チームの運営の管理などをしながらも、自分ではプレイイングマネージャーを自認しておりまして、1日のうち半分くらいは自分でコードを書いたり、分析することを楽しみにして生きている人間です。

僕らのチームはプロダクトや何らかの事業の意思決定に関わるような分析、もしくはそのアウトプットをすることがミッションになっていて、自分としてもそういったところをきちんとやっていくことと、最近はマネージャーとして人材採用にもかなり力を入れています。もしいい人材がいたらぜひご紹介ください。

私は2016年にメルカリに入ったんですけど、メルカリに入る前のキャリアはけっこういろいろあったほうでして。新卒で入ったのは外資系の戦略コンサルティング会社でした。

そちらで4年くらい仕事をしたあとに、友達が「起業しようよ」と言ってきたので、「まあしてみてもいいか」と思って、とくに何も考えずにその起業に加わって、取締役をやっていました。

それで数年くらいベンチャーをやっていて、いろいろあってその会社を抜けた後に、半年くらいニートをしながら「自分がやりたいことはなんだろう?」「できることはなんだろう?」と考えました。そこで、分析というものを一度ちゃんとやってみたかったので、ちょうど30歳くらいだったんですけど、初めてPythonやSQLを勉強して。

北川:すごいっすね。

樫田:そこで初めてデータアナリストというキャリアになって、今に至るという感じです。

北川:言える範囲でいいんですけど、何があったんですかね? そのスタートアップのあとに。

樫田:まあいろいろですね(笑)。それでけっこう大変だったので、ニート期間はだいぶインドアな生活で、家からあまり出ずに過ごしました。そういう気持ちが何か自分を分析に向かわせたのかもしれないですけど(笑)。

北川:わかります。内なる気持ちね。

樫田:プライベートでは、本日この会も主催させていただいているんですけど、それとは別に「Data Analyst Meetup Tokyo」という、いろんな会社のデータアナリストの人が集まって、ワイワイする会をやっています。

今、6回くらい開催して、近く7回目を開催する予定なので、興味がある方がいたらぜひお声がけください。

一応こちら(スライド)にアカウントを書いていて、TwitterやQiita、Speaker Deckはこのアカウントネームでやっています。

本日のイベントや「Data Analyst Meetup Toyo」の情報を発信していきたいと思っているので、興味がある方がいたらぜひフォローしてください。

好きなことは、寝ることですね。「寝ることが好きだ」と言うと、よく「今まで最長で何時間くらい寝たことがあるの?」という質問があるんですけど、寝ることが好きなのと長く寝ることはぜんぜん違うことで、僕は6時間半くらいの睡眠が最高に楽しいと思っているタイプです。

北川:じゃあ、寝る前にだいたいニヤニヤしてるんですか?

樫田:してますね(笑)。最近は落語を聴きながら寝落ちするのがマイブームです。

北川:じゃあ五十嵐さん、お願いします。

グリーの分析組織は「事業部のブレインであり続ける」

五十嵐航氏(以下、五十嵐):グリーの五十嵐です。よろしくお願いいたします。私は仕事柄、頭を使わないといけないんですけど、基本的には頭を使わずに、本能の赴くままに行動するのが好きでして、旅行がけっこう好きなんですよ。

ゴールデンウイークはモロッコに行ったんですけど、マイルールとしては、現地に着くまでは往復の航空券以外は予約しないということで、とりあえず行きの飛行機の中で『地球の歩き方』を読み漁ってます(笑)。

ちょっと長くお休みをいただいて、会社の方にはご迷惑をおかけしたんですけど、砂漠に行ったり、山を登ったり、ロッククライミングをしたりして。

やっぱり思うところは、分析をしていて頭を使っていると、人間性が偏るんじゃないかなと不安になることがありまして、本能と直感を鍛えるためにそういうことが必要かなと。

北川:一瞬、僕らのことをディスりましたよね?

樫田:偏ってるって?

五十嵐:いえいえ(笑)。あとは仕事のほうで言うと、2013年からグリーに新卒入社させていただきまして、2016年からマネージャーになったので、今、2年くらいやらせていただいております。

一応分析組織のマネージャーをやってはいるんですけど、分析というのはあくまでも手段かなと思っておりまして、チームのミッションとしても「事業部のブレインであり続ける」ということを掲げているんですよ。

そういったときに、ただブレインとして「こっちだよ」と言うだけではなくて、きちんとやりきることが大事かなと思っています。なので企画をしたり、場合によっては運営のほうに入り込んでいたり、泥臭くなんでも拾って全部やりきるというポリシーでおります。

最近では、会社のブランディングをどうするのかとか。

北川:おお、どうするんですか?

五十嵐:仕事の設計の仕方から始まって、「そもそもブランディングで何をやりたいのか」とか、そういった話を整理してあげたり。

北川:おもしろい。グリーさんのブランディングって、ひと言でいうと何なんですか?

五十嵐:そのときの目的としては、新卒採用のためでした。今は子会社化が進んでいたりするんですけど、グリー全体のブランドをどう高めていくかとか。

北川:そういうときは、どういう分析をするんですか?

五十嵐:結局まだ分析まではやってはいないんですけど、今(グリーが)どのように見られているのかとか、アプローチとしてこういう方法があるとか、そもそも考え方としてこのように設計しなきゃいけないとか。

北川:おもしろいですね。弊社も今、FCバルサのオフィシャルパートナーになったり、ブランディングを頑張っております(笑)。ありがとうございます。

五十嵐:よろしくお願いします。

北川:じゃあ小東さん、お願いします。

DeNAの経営幹部候補生に選出されたアナリスト

小東祥氏(以下、小東):こんばんは、小東です。私は2012年に新卒でDeNAに入社しています。同期が100人くらい入社していて、けっこういろいろな事業部に異動していったり、いろいろな役割を転々とするメンバーも多いんですけど、私は入社後一貫してデータ分析の仕事をしています。

2014年までの2年間くらいは、プレイヤーとしてゲームタイトルだったり、弊社が持っているゲームのプラットフォームの分析だったり、あとは新規事業が立ち上がってきたときに、その新規事業をどうやってつくるかという相談などに乗っていました。

そのあとはマネージャーになったので、プレイイングマネージャーとしてやりつつも、直近はゲーム事業の中の分析部が40人くらいの組織になってきていて、手を動かしている時間がなくなってきたので、組織マネジメントに徹しています。

ちなみに後ろのスライドにぼんやりと出ているのが、ウチの(データ)アナリスト組織です。

樫田:これ全員(データ)アナリストってことですか?

小東:全員(データ)アナリストです。それで、私は基本的には事業に貢献するデータ分析をやりつつも、去年からDeNAで「ネクストボード」という仕組みができまして、次世代経営幹部候補生ということで、会社経営をどうしていくかということだったり、自分自身が経営者として育成されていくというか、経営目線を持つためにどういうことをするべきかを考えるというところで、去年は全社で12人くらい選出されました。

北川:今、DeNAは全部で何人くらいいるんですか?

小東:海外も含めて2,400人くらいです。

北川:2,400人の中の12人……すごい。それで執行役員も13人くらいなんですよね。ちょうど次の執行役員を集めてみたみたいな。

小東:次の執行役員とまで言えるかはわからないですが、そういうところ(ネクストボード)にも入って、分析部を、事業に対しても経営に対してもインパクトのある組織にしていきたいなというところで、頑張っています。

北川:いいですね。エース中のエースのみなさんを迎えてお話ができるのがすごい楽しみなんですけれども、ネクストボードでどんなことをしているのか少し教えてもらえますか?

小東:普通は経営幹部育成というと、すごいプログラムがあったり、勉強会があったりすると思うんですけど、まったくなくて、「何をやるべきかを含めて自分たちで考えろ」みたいな感じでした(笑)。まるっと任せるスタイルが、非常にウチらしいやり方かと思います(笑)

(会場笑)

小東:一番最初に集められて話したことが「この1年間、何する?」というところからだったんですけど、お互いにコーチングしながら、自分はどういうキャリアを形成していきたいのかとか、それに足りないものは何かとか議論しました。

あとは社内の経営会議の議長としてファシリテーションをやって、実際に今出ている経営課題に対して、自分たちでちゃんと結論を出していくということをやっています。

北川:議長をやるというのはどういうことなんですか?

小東:基本的に……これ経営会議のこと話していいのかな? 

北川:話せる範囲で(笑)。

小東:基本的には意思決定をします。経営会議に出ているメンバーの中で、喧々諤々議論をしたあとに、自分自身が議長として意思決定をしていました。

北川:非常に興味深いですね。例えば、南場(智子)さんとか、守安(功)さんに「時間ください」と言ったら、もらえる感じですか?

小東:そうですね。それで僕が意思決定したあとに、「いや〜、それはちょっと納得いかないんだけど」みたいな感じで南場と話したりとか。

北川:南場さんは「人」の人ということで有名なので、その中で育てられるというのはすごい経験ですよね。ありがとうございます。

小東:ありがとうございます。

ただのデータを価値に変えるプロセス

北川:じゃあさっそく、(事前に)いろいろ「何を話そうか?」みたいな話をしたんですけど、僕がどうしても聞きたいことをいくつか聞かせていただきたいと思います。

樫田:早くも事前に決めたプログラムにぜんぜん乗らない質問(笑)。もっとも恐れていた展開です。

(会場笑)

北川:だって、今日はデータ分析の会なわけじゃないですか。それで僕はこの言葉の中で2つわからないことがあります。「データとは何か」「分析とは何か」ということがいまいちわからないので、みなさんにぜひ教えてもらいたいなと思いまして。

「今はデータの時代だ」ということはみんな言うわけですよね。先日も國光(宏尚)さん(※株式会社gumi代表取締役社長)がFacebookで「ウォーレン・バフェットはブランドで投資してうまくいった」と。

昔の投資家というのは、ブランドという価値を理解できず、ウォーレン・バフェットだけが理解して、コカ・コーラやディズニーランドに投資して、うまくいったという話を書いたわけです。

國光さんは、「今の時代だったらこれはデータだよね」という話をされていたと。だから、データは明らかに価値のあるものだと思われているわけですけれども、みなさんに「そもそもデータの価値って何なの?」ということをズバリ言っていただきたいなと。お願いします。

五十嵐:データの価値っていうのは、やっぱりデータは直感を確かめるツールだと思っていて、ウチの会社はゲームが主要事業なので、数字からユーザーが何を考えているのかということを導いていこうとすると、暗中模索的になってしまって、なかなか答えにたどり着かないと思うんですよ。

じゃあどこからスタートするのかというと、やっぱりゲームをやり込んで、サービスを理解するというところから始まると思っています。いちユーザーとしてやり込んでいくと、「たぶんこうだろうな」と確信的に思うところがあったりするんです。

ただ、それをプロダクトのほうに持って行って、「ここはこうだから、改修しましょう」と言っても、「僕は違うと思うんですよね」と言って、その議論だけしていると平行線なんですよ。

ただ、こっちには強い味方としてデータがあるので、実際に見てみると、「やっぱり正しかったじゃないですか」ということが検証できるので、そういった自分の意見や考えを検証するためのツールだと捉えています。

北川:なるほど。ありがとうございます。

小東:けっこう五十嵐さんと考え方が近いかなと思うんですけど、やっぱりデータ単体だと意味のないものというか、ただの文字の羅列だったりすると思います。

それを何かしら人間が理解できるかたちに変えて、結果、行動が変わるというところまで行かないと、価値が生まれないのかなと。その行動を変えていくまでの一連のプロセスが分析なのかなとは思っています。

「データはお客さんの声なき声」

北川:なるほど。樫田さんは?

樫田:そうですね、ひと言でいうと、お客さんというか、使ってくださっている方の声なき声なのかなと思っていて、誰の名言か忘れたんですけど、僕の好きなエンジニアで @chibicode さん(Twitterアカウント名)という方がいて、その方が引用していたのが、Cookpadの有るエンジニアの発言で「一行のログの向こうには一人のユーザーがいる」というもので。

「ログというのは、その後ろに必ずお客さんがいて成立するものだから、ログというのはそのお客さんの声なき声だ」ということかなあと思っていて、それはけっこうデータでも同じだなと考えています。

僕はCtoCのサービスで仕事をしていますけど、お客さんと直接対話をすることは基本的にはできないわけじゃないですか。その代わりとして、データをお客さんの声なき声として読めるというのはすごいことかなと思っています。

とくにWeb系の企業でデータのすごいところというのは、お客さんが能動的に声を発信したいと思っているわけではない場合でも、声が届くじゃないですか。

例えば、ラーメン屋に行ったら、「このラーメン屋はどうでしたか?」みたいなアンケートが置いてあると思うんですけど、あれに書く人ってそんなにいないと思うんですよ。

だからお客さんの声ってけっこう届きづらいと思うんですけど、僕らの会社とかいわゆるWeb系の会社、もしくはIoTとかをやっている会社とかは、お客さんがそんなに意識していなくても、自分の声がたくさん届けられる。

その対価というか、トレードオフとして、本当に声じゃないようなノイズみたいなものとか、一挙手一投足が取れるがゆえに、必要以上のたくさんの情報が入ってきてしまっている側面はあるんですけど、基本的にまずは意味のある何らかの声だという前提で考える。

その中で、意味のあるもの・意味のないものを判別していくというのが、僕らに必要な作業だと思うので、基本的には(データは)「声」なのかな、というとらえ方が一番近いと思います。

データはマーケティングの非効率を解消できるか

北川:僕は完全に同意で、マクドナルドの昔の有名な話で、マクドナルドでみんなに「新商品は何がほしいですか?」と聞いたら、「サラダだ」と。それでサラダをつくってみたら、ぜんぜん売れませんでしたみたいな話があります。

また、馬が走っていた時代に「どんな乗り物がほしいですか?」と聞いたら、「もっと早く走る馬だ」と言ったというのがT型フォード(発明のきっかけ)の話であるんですけど、こういった革命もデータで見つけられると思いますか? 

樫田:逆に今の話で、データを使ってそのようになったというのはすごいことだと思っていて、「お客さんが言うことは実はあてにならない」と発見したわけじゃないですか。

それってやっぱりデータをちゃんと見てみないとわからないことかなと思っていて。データに関してはいろんな使い方があると思っているんですけど、僕がさっきお話ししたとおり、データを使って何らかの意思決定を支援するということを基本的な生業としていて。

そういったミッションでやっていると、ものすごく新しいものとか、誰も見たことのない発見をするというよりは、みんなが50パーセントくらい確信できるているんだけど、まだ半信半疑っていう状態の残り50パーセントを埋めてあげて、自信を持って実際に意思決定をして前に進んでもらうという仕事がけっこう多いので、僕がやっているデータ分析の中で北川さんの言うようなリープ(跳躍)を起こすというのは、さほど相性がよくないのかなという感触があります。

ただ、まさに今、僕みたいなレガシーなデータ分析のやり方ではなくて、新時代のデータサイエンスをできる人たちがそういったリープ的な発見もしてくれるんじゃないかなという期待があります。

北川:逆にほかのみなさんで、「いや、俺は発見できるよ」という人は?

(会場笑)

樫田:逆に北川さんはどういうお考えなんですか?

北川:発見ができるか否か……逆に聞かれると困っちゃいましたね(笑)。

樫田:えぇー!?(笑)。

北川:そうですね、問題の設定の仕方によってはできると思いますね。僕自身の答えの1つとしては、まだお金に代わっていない価値を見つけるのがデータの仕事だと思っています。

もっと具体的な話をすると、会社の価値として時価総額がついているものと、本当はこのくらいの価値があるはずというものとのギャップを見つけることや「この人は(本来は)これくらいお金を貸してもいいはずなのに、今はこれくらいしか借りれないよね」とか、これも価値のギャップであると。

ウチでよくやるのは、「本当はこれくらい売れてもいいはずの商品が、これくらいしか売れていない」というギャップについて、マーケティングの非効率から出ているということを見つけることだったりするんですけど、みなさんの話を聞いていて、本質的に価値があるものをどうやってその価値たらしめるのかということを話しているのかなと感じました。

なので、みなさんの話とほぼ同じだと思うんですけど、そのような観点が、「なぜデータに価値があるのか」ということの理由なのかなと思いました。

情報処理能力で機械に劣るデータアナリストの役割

北川:せっかくなのでもう1個聞きたいのは、みなさんの中で「分析」とは何をすることなのかということです。

例えば、「ちょっと分析しておいてよ」と言われたときに、何をすることを求められているのか。もしくはみなさんの中で「何が分析で、何が分析ではない」ということがあったらぜひ聞きたいと思います。

樫田:僕はすごい簡潔に答えると、「情報量を5パーセントくらいにするトレードオフとして、わかりやすさを200倍くらいにすること」かなと思っています。

例えば、仮にAIみたいな情報処理能力の高い生物がいたときに、僕らがやっている分析ってすごく愚かな行為に見えると思うんですよね。

1,000万行とか1億行のレコードがせっかくあるのに、なぜかそれを統計量として、平均という1個の数字にするっていうめちゃくちゃな行為じゃないですか。そこで失われる情報量って、半端じゃないと思うんですよ。

分布も失われるし、最大値も失われるし、どういうユーザーがいるかという1to1の関係も失われるし。でもその代わりに、わかりやすさがものすごく増すのかなと思っていて、そこがまさにさっき話していた「意思決定」につながるのかなと思っています。

誤解を恐れずに言えば、人間ってすごい頭が悪いというか、機械に比べると情報処理能力が高いわけじゃないじゃないですか。なので、例えば弊社CEOの山田進太郎はすごい人物だと思うんですけど、彼もたぶん1億行のレコードは読めません。

その中でどうするかというと、人間でもわかりやすいように、1,000万行のデータを何らかの意味のあるかたちで、コンパクションするわけですよね。

その中で大量の意味のある情報が失われるわけですけれども、残った5パーセントの情報量プラス、ものすごくわかりやすくなったことによるデリバリーのしやすさを武器に戦うというのが、分析を使った意思決定の支援なのかなと思っています。

北川:「わかりやすくなる」というのは、「意思決定をしやすくなる」という意味ですか?

樫田:そうですね。人間がいて、(データによって)どういうことなのかを判断する。そのときの情報処理ということに関しては、人間の頭の悪さを本当に甘く見ないほうがいいと思っています。

例えば、数字が20個くらい羅列していたらもうわからないじゃないですか。でも、それを棒グラフとか折れ線グラスにしてあげると、売上が伸びたり下がったりしているということがわかる。

それは、1,000万行のデータがある状態とはぜんぜん違う1つの情報だと思っているので、人間のヒューマンフレンドリー・インターフェースとしては、そっちのほうがいいかなというのが、分析のやっていることかなと思います。

北川:おもしろい。小東さんはどうですか?

DeNAが人気タイトルを9年運用できている理由

小東:人間の頭が悪いというのは同感です。例えば、何か現象が起きたときに、結局「因果関係がよくわからないです」みたいなことを、「このようなストーリーで、このようなことが起こった」と解明することが、分析をするということなのかなと思っています。

人間は点と点を比べることはできたとしても、情報量が膨らんだときに、途端に因果関係がよくわからなくなって、ストーリーがどこかで破綻してしまうとか、行動の説明がつかなくなってしまうということがあるのかなと思っています。

そこを補完するためにデータを見てあげると、例えば弊社のゲームを挙げると、最長で9年くらい運用しているゲームがあるんですけど。

北川:ちなみに何ですか?

小東:『怪盗ロワイヤル』です。その一番最初に出したゲームだと、9年ずっと遊び続けてくださっているプレイヤーがいらっしゃいます。

その9年ずっと遊んでくださっているプレイヤーが、9年間どういう遊び方をしてくださっていたのかを鮮明に想像することはかなり難しいと思っているのですが、データを活用すれば、そのプレイヤーにとっての9年間のストーリーが読み解けてくるということがあると思います。そういうことが分析だと思いますし、おもしろいなと思っています。

北川:いいですね。おもしろい。

五十嵐:僕も人間は頭が悪いということには同感するなと思っていて、自分自身もそんなに頭がいいと思っていないんです。

ただ、頭がよすぎる人が今の自分の役割をできるかというと、できないと思っています。

どういうことかというと、新卒のけっこうデキるやつに分析をやらせると、「こういうパターンがあります」と言って、いろいろデータを出してくるんですよね。「パターンA、B、C、D、E、すべて洗い出しました」というのは、その人の頭の中では完結しているのかもしれないですけど、僕は「結局何が言いたかったのか」よくわからないんですよ。

そこの通訳というか、結局、それらを踏まえて最終的に僕でもわかるところに落とし込められているのかということをチェックするのが自分の役割だと思っていて、僕がわからないことを事業部側に持っていっても絶対にわからないだろうという確信を持っています。

なので、その人の中でだけ納得しているものを持ってきても、その人は頭がよくて全部(頭の中で)完結しているのかもしれないんですけど、僕はそんなものは先に通さないので、(そのような意味で)自分の役割を果たしているのかなと思っています。

北川:僕、五十嵐さんが大好きなんですけど(笑)、3人とも「わかりやすさ」というところに焦点を置いたのはちょっと意外でしたね。

樫田:僕も自説でしかないのかなと思ったんですけど、以前にこの3人で呑んだときも、「それわかるわ〜」みたいな話でめちゃくちゃ盛り上がったので、そこでこの会をやって、いかに(データに関して)わかりやすさが大事かということを語るイベントになるかもしれないなという企みはありました(笑)。

「わかりやすさ」=「強さ・早さ・伝わりやすさ」

北川:じゃあ、「わかりやすい」って何なんですか? 誰に説明しても理解してもらえるとか、そんな感じでいいんですかね?

樫田:実際に事業を運用していく中での「わかりやすさ」というと、「強さ」と「早さ」と「伝わりやすさ」の3つがあると思っています。

「早さ」と言っているのは、例えば、僕があるプランナーと話しているときに、ある人が「こういうことが知りたい」と言うとします。

そこで、その人のマイニングシェアがそこにある内にレスポンスできるかということがけっこう重要だと思っています。

トップレイヤーの人って忙しいので、2日後に「あの件、こうなりました」と言っても、「自分の中でこっちに決まったから」とか「もう方向性が変わったから」という感じになってくると思うんですけど、自分が30分後にレスポンスできていたら、彼らはそれに興味があっただろうし、それによって意思決定も変わっただろうにと思うと、やっぱり「早さ」は重要かなと思っています。

「強さ」と言っているのは、「○○が0.3パーセント乖離しました」というよりも、「この施策があれば売上が15億円くらい上がります」みたいな感じのほうが、数字として強いじゃないですか。そういったところが重要かなと思っています。

「伝わりやすさ」と言っているのは、グラフでいうと見やすさというテクニカルなところだったり、言葉として相手がすごく興味のあるやり方だったり、今の(「強さ」の)話と近くなりますけど、お金に興味がある人だったらお金の話が伝わりやすいと思いますし、ユーザー満足度に興味がある人だったらNPS(ネット・プロモーター・スコア=顧客ロイヤルティを数値化する指標)のほうがいいのかもしれないしという、3つの統合体が事業の中で考える「わかりやすさ」です。

五十嵐:僕が思うのは、聞いている人を同じ土俵に上げられるということだと思っていますね。例えば、この場で話をしていても、(会場の人が)何を言っているかわからないと思ったら、やっぱりわかりにくいわけじゃないですか。

とくにプロダクトの分析をするときにも、データを扱えるのは僕たちなんですよ。ただ、事業部の人に生のデータを渡して、それを整理することができるのかと言ったらできないわけです。それをやるのは我々ではあるんですけど、我々が100パーセント正しいと思って試算を出しているかというとそうではないんです。

分析を正しく解釈するところまではやる。ただ、どういう過程でこのように出したのかとか、これはどういうデータなのかという、むしろ(事業部が)怪しいと思っていることを強調するくらいの気持ちで伝えます。

それでむしろ、突っ込めるところがあったら突っ込んでほしいんです。それで最終的に正しい結論に導ければいいと思っているので、聞いている人全員を「その解釈は正しいのか」と議論できる土俵に上げることが「わかりやすさ」かなと思います。

樫田:五十嵐さん、めっちゃ頭いいですね。

(会場笑)

五十嵐:いやいや(笑)。

事業に貢献したデータ分析事例

北川:(笑)。すみません、あと10分しかないので元の話に戻ります。せっかくなので、みなさんがもっとも事業に価値をあたえたと思う分析の話を教えてもらっていいですかね?

小東:例えば、ある1つの分析をして、その結果、「売上が3倍になりました」みたいな分析が出ることはすごいカッコいいと思うんですけど、基本的にはあまりないというか、難しいかなと思っていて、本当に泥臭く細かい分析を積み上げていって、最終的に売上がすごく上がったとか、事業がよくなりましたということが現状かなと思っています。

弊社で去年、1年くらいずっと売上が上がらなかったタイトルがあるんですけど、その間に1年ずっとコツコツと小さな分析を繰り返して、その結果、1年後に売上が7〜8倍くらい上がったタイトルがあります。

北川:円にしたらいくらくらいですか?

小東:円にすると◯◯億……(笑)。まあ、それくらいの規模のタイトルになってきています。そのタイトルは僕自身も印象に残っていますし、事業に価値を与えた分析だったなと思います。

北川:それは1人ではなくチームでやったんですか?

小東:チームですね。それこそ分析メンバーだけじゃなくて、デザイナーだったり、プランナーだったり、エンジニアだったり、いろいろなメンバーを巻き込みながら、コツコツ分析を重ねました。

そのタイトルは多少ドラスティックに変えても大丈夫なフェーズだったので、スピード感を持ってチャレンジすることができました。

五十嵐:今の話はすごいなと思っていて、ウチもDeNAさんと同じくもソーシャルゲームを扱うんですけど、やっぱり1回最初に出して立ち上がらないと、そこから戻していくのはすごい大変なんですよ。

だいたい最初にインストールがガッときて、売上が上がると、そこからプロモーションもできるし、トップセールスの上位にいて人が入り続けるという好循環になると、ずっと高い売上を維持できるわけです。本当に鳴かず飛ばずになると、そのまま沈んでいってしまうというのがよくある事例なので。

北川:それでマイネットさんに売ると。

(会場笑)

五十嵐:ウチも下から這い上がってきた『消滅都市』というタイトルが1つあって。

北川:知ってる! 俺やってた。けっこうゲームやるんですよ。

五十嵐:『消滅都市』で自分の尊敬する先輩がやった事例があって、最初にCMをやるといったときに、どこに注力して改修するべきかという相談がきたんです。

結果的にやったこととしては、最初に登場するキャラクターを変えたり、あとはLevelデザインを変えるということをやったんです。

なぜそういうことをやったのかというと、世界観を売りにしているゲームで、テレビCMの中身もクールというか、暗い感じの表示でいくんです。でも、最初に出てくるキャラクターが「係長の○○です」みたいな、名刺を渡しているような感じの……。

北川:そうなんだ。俺がやったのは新しくなってからだ。

五十嵐:なので最初、「それは違いますよね」って。

北川:あの世界観で係長が出てくるんだ(笑)。

五十嵐:Levelデザインも最初は簡単すぎていて、やっぱりゲームの楽しさを考えたときに、緊張と緩和の連続とよく言われるんですけど、最初に緊張感がないとこのゲームの楽しさは感じられないと。

北川:最初、激ムズかったよ(笑)。

(会場笑)

五十嵐:いい感じの緊張感になったかなと思うんですけど(笑)、そのようなことをやって、結果的に最初のキャラクターが変わったし、CMをやるといったときに、期間がないから全部はやりきれないんですね。

だから、「1章だけきちんとLevelデザインをしましょう」と言って、2章になるとむしろ簡単になるみたいな不整合は生じてはいるんです。

ただやっぱりそこを許してまで、「フォーカスするところはどこなんだ」ということを説得しきったのがすごいなと思っていて、やっぱりそこがスタートでCMがうまくいって、好循環に入っていって、プロダクトが立ち上がっていったので、事業貢献としてもすごい大きいし、自分の中でも分析のあるべき姿なのかなと思っています。

メルカリの分析組織のミッション

北川:せっかくなので、樫田さんはゲームじゃない話でお願いします。

樫田:今けっこう真面目に、「自分がやった中で事業価値のある分析は何だろう?」と考えていたんですけど、正直わからないんですよね。2年くらいやっていて、去年は「アメリカ市場でメルカリが勝つために、どういったゴール設定をすべきか」みたいなことをやっていました。

北川:それは分析で何とかなるんですか?

樫田:ちゃんと意味のあるアウトプットを出すことはできましたね。

実際のところアメリカ市場には力を入れていて、投資もしています。その中で、事業として何をKGIに置くかはすごい大事だと思うんですけど、経営陣との1泊2日の合宿で議論しながら、分析結果を使って、その結果からトップダウンでKGIが変わったこともあります。ただ、それがすごい事業インパクトがあったのかというとわからないんですよね。

僕は今、どちらかというと日本のメルカリを担当しているんですけど、いろんなカテゴリや商材がある中で、どのカテゴリをどのように伸ばしていくべきかとか、どのくらいのスパンで伸ばしていくべきかということを分析しています。

これには関わる人がものすごく多いので、一発で何かが決まったというよりかは、資料をつくっていろんな人と話すうちに、どんどんその資料が伝播していったり、その資料のキーメッセージが他の資料に添付されたりして、ミームが段々と社内で広がってコンセンサスができたみたいなことが感じでした。

ただ、それが自分だけの力だったのかということと、事業貢献があったのかどうかということも正直わからないです。

実は僕、すごいカッコいい分析をバシッとやって、一気に何かをする、っていうよりはじわじわと流れを変えていくほうが得意かなと思っています。実際、普段はチクチクとダッシュボードの色とかを変えるのが好きだったりするんですよね。

ダッシュボードをつくったところで、何か事業が大きく変わるかというとこれまたよくわからないんですけど、それを見ている企画者が何十人もいたりして、例えばそれを毎朝、施策を打つたびに見てくれたり、それを見ながら頭をひねって考えたりしてるわけですよ。

もしくはそのダッシュボードがあることによって、「これに関しては、こういうときにこういう動きをして、こういうときに下がる」みたいなコンセンサスが形成されることによって、チーム全体が同じ方向を信じて向かえるということが事業に対しては一番大きいかなと思っていて、それを作り出せたという意味では事業貢献があったと思います。

北川:会社で使っているダッシュボードで、言える範囲でどんなダッシュボードがすごかったとかはある?

樫田:それすごい難しい質問ですね(笑)。一応いろんな仕掛けはしているつもりで、やっぱりダッシュボードは頻繁に見られてほしいというのと、見ている人のマインドをある意味操れると思っているので、例えばプランナーなどは売上が気になるとは思うんですけど、僕が「これを上げないと売上がついてこない」と思っている指標をあえて売上よりも上のほうに置いておいて、そちらのほうが大事だということをアピールしたりとか。

あとは見ている人が燃えるほうがいいと思うので、例えば、月間の売上があったときに、日時推移で毎日推移していくよりかは、積み上げでだんだん上がっていって、(目標数字に)向かっていくほうが見たくなるかなとか、1日1回更新するよりかは5分おきにリアルタイムで数字が見れるほうが接触頻度が上がると思うので、テクニカルな実装をしたりとか。

北川:1回まとめて僕らに共有してくださいよ。

樫田:北川さんのほうで何かやってくださいよ(笑)。ベストプラクティスみたいなものを発表してほしいですね。

北川:ぜひそういう回もみんなでやりましょう。

樫田:ダッシュボードには愛があります。

データ分析者になったのはなぜ? 新卒・中途それぞれの視点

北川:ちょっと時間押しちゃうんだけど、どうしても聞きたいのが、「なぜデータ分析のキャリアに進んだのか」ということです。データ分析のキャリアに進んでよかったことと後悔したことを1個ずつ。

小東:分析のキャリアに進んだ理由はつまらないんですけど、運なところがありました。僕は新卒でDeNAに入社しているということもあって、あとは(大学時代に)工学研究科で化学の研究もしていたんですね。そこから、配属されたらデータ分析でしたと。

ただ、やってみると本当におもしろくて、だから7年くらいずっと続けているんですけど、 先ほど樫田さんのダッシュボードの話もありましたけど、右肩上がりになるとすごく気持ちがよくて、その瞬間を自分で作り出せたときが「やっててよかったな」と思います。

北川:分析をしているのに経営幹部候補生の1人に選ばれるのがすごいと思うんだけど、自分で何で選ばれたと思います?

小東:何で選ばれたか……。

北川:ちょっと南場さんと仲良かった?(笑)。

小東:なぜ選ばれたかは自分でも良くわからないですね。分析のレポートの差し出し人の名前を見て、パッと選んだのかも知れませんね。「メールが来て困ってる」って言われましたし笑

北川:それ、読んでるってことだからね。すごい。

小東:まあ、そういうことはありました。

北川:だからみなさん、トップには分析レポートを送りつけたほうがいいですよ。

(会場笑)

北川:僕も三木谷から同じことを言われています(笑)。

小東:つまるところ、選ばれた理由は自分ではわからないですね。

北川:いやでも、絶対それですよ。やっぱり南場さんは人思いだから読んでたんだと思うけど、分析って経営に対するメッセージが入るじゃないですか。「これはこうあるべきだ」みたいな。それを読み取ったんだと思いますよ。

小東:後悔したことは、自分はけっこうゲームが好きでDeNAに入ったので、ゲームをつくりたいなとは思っていたんですけど、分析って立場になるとつくれないんですよね。実は僕、「つくりたい」と言って作る側に回ったことがあるんですけど、つくりつつ分析しつつということを同時にやっている時期があって、そのタイトルがリリースする前に、プロジェクトとして止まったんですね。

つくってる立場でありつつ、自分で止めるっていうのを分析者として客観的に見て、「この事業はうまくいかないから」と判断して止めたんです。後悔ではないですが、苦しい判断でした。

北川:分析のできるプロダクトマネージャーって、まさにマリッサ・メイヤーとかのキャリアパスだと思うんですよね。Googleのサーチプロダクトマネージャーとかもまさにそうなので。それは王道だと思いますね。

五十嵐:僕も分析(担当)になったのは運が大きかったかなと思っています。というのも、新卒で入ったんですけど、それまでウチの会社に分析組織があることを知らなかったんですよ。それであとから「まあ理系の院卒だから大丈夫でしょ」ぐらいな感じでポイっと選ばれたということを聞きまして、なので自分で選んだものではなかったです。

北川:当時から高山(俊治)さんが上司?

五十嵐:そうですね。

樫田:(会場に)上司の方いらっしゃってますよ。

北川:当時、五十嵐さんはどんな人でした?

高山俊治氏:最初は本当にもうポンコツ……。

(会場笑)

北川:でも(ここまで)持ち上げてくれたんですよね?

五十嵐:そうですね。ここまでしていただいたのも、すべて高山さんのおかげです(笑)。それでよかったことだと、やっぱり会社のおいしいとこどりができるなと思っています。ウチの分析チームは僕を含めて8人くらいがやっているんですけど、全社のことを見切るには人数が圧倒的に足りないんですよ。

そうなると会社の中でも、「ここは重要だからアナリストチームを入れたほうがいい」とどんどん声がかかってくるんです。なので大きいプロジェクトが立ち上がるたびにウチのチームが入っていけて、基本的にメンバーがやっていることは全部見ることができます。

北川:ちょうど今、VTuber(事業)の分析を始めて。

五十嵐:そうですね。まさに今週キックオフして入り始めたところです。あとは自分自身が得るところも大きいなと思っていて、やっぱりおいしいとこどりするということもあるし、視座が上がるということも大きいなと思っています。小東さんが経営のところに引っ張られたというのも、そういうところがあるんじゃないかと思います。

例えば、あるプロダクトのTVCMをするといったときに、ほかの会社との協業のタイトルだった場合、当然レベシェア(レベニューシェア)でお金を抜かれたりするんですけど、「計算してみたところ、協業の体制を見直さないといけないですよね」というというところまで、分析視点から入っていけるんですよ。

それがプロダクト(部門)に配属されていたら、そこまでの視点はなかなか持てないんじゃないかなと思っていて、そのような視点を新卒のときからわりと早い視点で持てたというのが、得るところとして大きかったのかなと思います。

樫田:僕は2人とちょっと違って、中途というかたちで、明確に分析という道を選んだほうだと思っています。

自分の新卒から20代の頃というのは、ビジネスや(友人との)起業時代には営業、コンサルなどをやっていたんですけど、そのあとに「やっぱり分析系のキャリアになりたいな」と強く思ったのは、(理由が)2つあって。1つは「この時代なので、入るならIT企業でしょ」みたいなところが昔からものすごく強くあったんですね。

IT企業に入るなら経営コンサルのキャリアを生かして、経営企画や財務っていうのもなくなかったんですけど、それよりも、どうせならプロダクトに関わるところをできればやりたいなと思っていました。

でもやっぱり、30歳になってからエンジニアになる道もそんなにないかなと思っていたし、自分に向いているとも思わなかったので、自分のビジネス系のキャリアや経営的な視点を生かしつつ、何かプロダクトに関われる道はないかなと考えていて。

そんなときに、データサイエンスというキャリアの選択肢に出会って、これはビジネス系とエンジニア系の半分ずつをいいとこ取りして、かつプロダクトに関われるすごくいい職種なんじゃないかなと思いました。

起業時代も、最初は営業をやっていて、そこからコンサルをやって、けっこううまくいって売上を上げていたんですけど、いわゆるベンチャーがお金を稼ぎだすと何を考えるかというと、エンジニアを雇って、自社プロダクトをつくって、「世界を変えよう」とか思っちゃうわけですよ。

そのときに、エンジニアを雇って、自社で新しいプロダクトをつくったんですけど、僕は基本的にそのプロダクトを売る営業として活動していて、なかなかプロダクトに関われなくて、「やっぱりプロダクトに関わるほうがおもしろそうだな」「エンジニアってカッコいいな」と思ったので、そういった憧れや自分の向き不向きを考えて、この道を選んだと思っています。

北川:ありがとうございます。ちょっと時間が過ぎちゃったんですけど、せっかくなのでみなさんの中で聞きたいことがある人はいますか? じゃあ、お願いします。

経営陣にデータの価値をどう伝えるか

質問者1:お話ありがとうございます。データ分析の中で、定性面はどのように把握するのかなと。

北川:定性っていうのは人の気持ちとか?

質問者1:そうですね。感情分析です。ゲームはそのあたりがすごく大事だと思うので。

五十嵐:ウチはよくユーザーアンケートをやります。自社サービスを持っているので、そこでアンケートフォームをつくって送ったりするとサクッとできたりするので、1週間で集計までスピード感をもってできます。あとは「マクロミル」さんとかを使って、外に向かって聞いたりすることが多いです。

そのときのポイントとして思っているのは、アンケートをとるときも、仮説を立てることが大事かなと思っています。「このゲームはおもしろいですか? 良いところと悪いところを挙げてください」と言うのではなくて、「こういうふうになるだろう」と確認したいことを明確にして、それが確認できるような質問をYes or Noで聞くとけっこううまく答えがわかって、次につなげやすくすることができます。

質問者1:ありがとうございます。

質問者2:企業によってはそんなにデータの価値が高くないと思っている企業もあるんじゃないかなと思っていて、その中で、(3人の企業は)もとからデータの価値が高かったのか。あるいは(そうではない場合)、どのようにデータの重要性を経営者や事業責任者にアプローチしていったのかを樫田さんにお伺いしたいと思います。

北川:もともとデータの価値が低かったという会社はありますか?

五十嵐:低くはなかったけど、けっこう変わっていったかなと思います。

北川:メルカリはもともと高かった?

樫田:もともと低くはなかったと思います。僕らの会社はたぶん創業してから30人目くらいに1人目のデータサイエンティストを雇っています。

その人は今USのほうで働いていますけど、その人がログ設計をしっかりやっていて、それをエンジニアが共有して実装していたので、そのあたりのリテラシーはもとからあったと思っています。

あとは経営陣が、起業して、プロダクトを育てて、自分も技術がわかるという人がけっこう多いので、自分でSQLをガリガリ書ける取締役がいたり、肌感や実体験としてデータ分析の重要性をわかっている会社だったと思います。

また、僕が入った頃のデータ分析の重要度と入ってから2年間活動して、(重要度が)何も変わっていないかというと……どうなんですかね? 自分としては重要度が高まってほしいですけど、何とも言えないですね(笑)。

ただ、僕が入ったときは、僕がこよなく愛するダッシュボードをみんなが見ているという感じではなかったんですけど、今はきちんと部署やチームの人が日々ダッシュボードをにらみながら企画や運営をしているので、それは一例ですけど、社内でもデータリテラシーが上がっている部分があると思っています。そういった1個1個の活動をどのようにやっていたかというのは、ぜひ懇親会のときに捕まえてください。

質問者2:ありがとうございました。

北川:ウチは会社の数がすごく多いので、データが好きな人もいればそうではない事業部長もいるんですけど、啓蒙活動としてお願いして、グループ会社の副社長とかに全員集まってもらって、1日中データの話をする日をつくります。

初めは「(データって)どうなの?」という感じでいらっしゃるんですけど、毎回エンターテインメントを提供すると、「データってすごいね!」みたいな(笑)。

そういうことをウチは3ヶ月に1回やっていて、1年くらい経ったときには、全プレジデントがだいたい「やっぱりデータって次の未来だよね」みたいに思ってくれるようになりました。

これは(話の)規模が大きかったですけど、半信半疑でも人間関係をつくって、「30分くらいなら来てやろうかな」という感じで来ていただいて、そこで自分の渾身のプレゼンをしていると、熱意は伝わるかなと思いますけどね。ぜひ頑張ってみてください。

データ・ドリブンな組織のつくり方

質問者3:今、事業会社にいます。データはたくさんあるんですけど、活用できるツールはありません。経営のほうはデータに興味があって、しっかりやっていきたいというマインドはあるんですけど、まず何からやっていけばいいのかをお聞きできればなと思います。アナリストはいないような状況です。

小東:まずは徹底的にデータをちゃんと集められる状況をつくることかなと思います。もともと私が入社した頃は、分析環境を自前でつくらないとデータが保存できないとか分析できないというところで、そこの作業がかなり重かったと思うんですけど、直近だとクラウドのサービスとか、いろいろ手軽に使えるサービスが増えているので、そこにちゃんとデータを集約するところから始める。

その一歩として、クラウドの分析ツールを知っている人を社内で探すとか、あるいは社内の誰かが勉強するところから初めていくといいのかなと思いました。回答になってますかね?

質問者3:その一歩先が聞ければと思うんですけど、実際そのようにやろうとしていて、例えば「これを使ったらいいよ」というものがあったりしたら伺いたいなと。

小東:まずは何のデータを見たいのかということをちゃんと設計して、それを見える化するところが重要かなと思うので、弊社はけっこうBIツールを自作していたりします。

素早くデータを可視化して、「こんな感じになってるんだ! おもしろい」とか、「やってみたら変わったね」という体験を社内でつくり出していって、データ分析には価値があるという文化をつくっていくためにも、BIツールを入れようが入れまいが、最初はExcelとかでもいいと思うので、どんどん可視化して見せていくということをやるといいのかなと思います。

質問者3:わかりました。ありがとうございます。

北川:小東さんは「Timebank(タイムバンク)」とかやってないんですか?

小東:やってないですね(笑)。

北川:小東さんの時間を1時間5万円くらいで買うのが一番早い気がします(笑)。

小東:5円で大丈夫です。

樫田:本当ですか?

(会場笑)

北川:優しい。1時間きっちりとお話を聞くと、そういう話を教えてもらえるんじゃないかな。じゃあ、前半はこんな感じで終わりにしたいと思います。後半も楽しみにしてください。